第100話 新たな兆し
記念すべき第100話だからといって、何か記念をやる気はないです。嘘です。
多分、明日(5月31日)夜~明後日(6月1日)中に手動で桜の閑話を第5章の最後に入れます。手動なので見つけたら偶然出てたらラッキー程度に。多分、31日の夜には出来てると思います。遅れたらすいません。
会長室での相談を終え、諸々の相談をしながら職員室へ向かった5人は丁度席で書類仕事をしていた2年A組の担任雨宮を発見する。そうして、桜が雨宮へと話しかけた。
「雨宮先生。少しよろしいでしょうか。」
「ん?ああ、天道か。それと天音と何時ものおチビさんか。そっちは、3年の一条と……報道部の一文字だったか?」
「はい。そうですよ。」
真琴はあまり雨宮と面識が無いらしく、言葉遣いが少し丁寧であった。そうして、珍しい組み合わせに雨宮も少しだけ訝しむが、とりあえずこの面子で雑談じゃないだろうと思い、理由を問い掛けた。
「珍しい組み合わせだが……何かあったか?」
「ええ、この間の会議で出た指揮系統を一本化する、というお話ですが……」
「何かいい案でもでたか?」
「はい。今少しお時間を頂いても?」
予想以上の早さでアイデアを持ってきてくれた桜に驚きつつも、雨宮は途中だった書類を急いで書き終え、更には席を離れる旨の書き置きを残しておく。
「ちょっと待て……ああ、これでいい。少し場所を変えるか。確か……応接室が空いていたはずだな。そこでいいか?」
「はい。」
そうして一同は応接室へと移動したのであった。
「なるほどな。今ある組織じゃなくて、部活として新組織を立ち上げる、か。」
「いいんじゃないかな。でも、カイト。よく引き受ける気になったね。」
応接室へと移動し全てを説明し終わった所で、雨宮とアルが意見を言う。6人で応接室へ向かおうとした所で、職員室から出ようとしたアルを発見。カイトがキャプチャーしてついでに意見を聞いていたのである。
アルとリィルは父親達が復帰したことでかなり時間に余裕ができていたので、比較的自由に学内を行動していたのだ。名目上は見回りだが、幸い生徒たちと年の近い二人は人柄も良いことから、密かに生徒たちだけが知る情報等を入手する役目を果たしているのである。まあ、今日は職員達から相談を受けていたらしいのだが。
「引き受けたくは……いえ、是非、やらせて頂きます。」
かなり意外そうなアルに、カイトが引き受けたくはなかった、と言おうとして桜がにこり、アルカイックスマイルを浮かべる。その手には真琴から預かったデジカメが取り出されていた。そして、それを見たアルがデジカメが何かはわからなかったが、きちんと主の事情を把握した。
「あはは、大変だね。僕みたいにきちんとしとかないと……」
アルはカイトに少しだけ顔を寄せて笑い掛ける。今のところアルは一回を除いて、女性問題で弱みを握られる様なヘマはしていない。
カイトとてこれが諸侯との兼ね合いならば、決してこの様なヘマはしなかっただろうが、今回ばかりは油断があった。まあ、それだけ桜を信頼しているとも言えるだろう。
「お前は祖先を見習え。」
笑うアルに対して、カイトが何処か憮然とした表情で告げる。アルの女好きは趣味、ルクスの女好きは情報収集の為の演技を含んでいるのである。まあ、実際には街の酒場などでもかなり社交的なアルは冒険者達やそういった者と付き合いのある女性から情報を入手してくるので、多少はお目こぼしがなされているのだが。
「それを言われると痛いんだけどねぇ。」
そうして、幾人もの女性の頭を悩ませる主と、同僚の頭痛の種である騎士が声を上げて笑う。それを見た一条と真琴、雨宮がわけが分からない、という顔をしていた。
「どういうこと?」
真琴の問い掛けに、カイトとアルが二人して苦笑する。
「ああ、いや、気にするな。」
「うん。世間話だよ……でも、変な女には引っかからないでね。一応僕も家臣の一人なんだから、そこら辺は注意させてもらうよ?」
そうして再び額を突き合わせて小声で話し合う二人。これはアルも言えることなのだが、一家臣、それも嫡男でないアルと君主のカイトでは全てが違う。なのでアルのこの言い分は自分の事を棚に上げているように思えるが、実は尤もな意見なのである。
「わかっている。桜にせよ、誰にせよ気に入った女にしか手は出していな……いや、待て。オレは決して自分から積極的に手を出しているわけではないぞ。」
何度も言われ慣れているカイトは、自分がふと言った言葉に自分で違和感を覚えて、即座に修正する。そして二人は言いたいことを言い終えたので、距離を離した。
「まあ、それはいいんだが……ひとつ頼みがある。先の一件から、即応性に優れたパーティを編成して欲しい、というのがあの後職員だけの会議で提案されてな。丁度アルフォンスさんとも相談していた所なんだ。」
全てを聞き終え、どうするかは別として、この場に居る桜と瞬は共に冒険者達のトップだ。だから、雨宮はとりあえず決定を伝えておく事にしたのである。
「即応部隊、ですか?構いませんが……今の人数と実力だとそこまで高位の魔物には対処出来ませんよ?」
少しだけ困った様な顔で、カイトが告げる。カイトとて即応部隊について考えてはいたが、まだ少し先の話しであった。
「ああ、それは俺達教職員も理解している。後、編成はお前らに一任する。アルフォンスさんと相談して考えてくれ。」
アルの父のエルロードかリィルの父のブラスと相談する方がいいかもしれない、カイトはそう考えた。
「わかりました。編成が決まり次第、報告させていただきます。」
「すまないな。何もしてやれなくて。」
雨宮が済まなそうにそう言う。学生たちにのみ危険な目に合わせてしまっている教師陣に共通する認識であった。そうして、すまなさそうに言う雨宮に、カイトが苦笑して頭を振った。
「いえ、その分先生方には公爵家との手筈を整えて頂いていますので……」
「それぐらいしか出来ないからな。……お前らにはいいか。最近公爵家がやっているという魔導学園との交流をしよう、という話しが出ていてな。もしかしたらお前達にも話が来るかもしれん。今のところ俺が引率に就くが、頼んだぞ。」
雨宮が言うのは事実で、カイトにもすでに報告が上がっていた。聞く所によるとどうやら天桜学園側からの申し出らしかった。報告を受けたカイト達は戦う力を持たない生徒達にもこの世界との交流をもってもらったほうがいいだろう、ということで、公爵家の家臣団に可能かどうかを試算させているところである。
「それは楽しみですね。分かりました。その際は引き受けさせていただきましょう。」
とは言え、何処か嬉しそうな気配を発するユリィを前に、カイトは否定をする気は起きない。恐らく、このまま通過させるだろう。そうして、カイトが頷いたのを見て、雨宮が本題に戻る。
「ああ、助かる。それで、部活だったな……人数はどうするんだ?」
「取り敢えずは自分のパーティと。」
「私のパーティ。」
「それと自分のパーティから志願者を募り、何人か見繕おうかな、と。」
三人が続けて言う。道中での話し合いで瞬、桜、カイトのパーティから参加者を募るつもりであった。
「うん、まずは志願制でいいんじゃないかな。」
カイトが決定して、なおかつ特段反対する部分が無かったアルは賛意を示す。そうして、アルが賛意を示したのを見て、雨宮が頷いた。
「まあ、実際に動けるかどうかは、次の会議になるが……大した問題が無いなら、それでいいだろう。残った面子はどうするんだ?」
そうして、雨宮が更に突っ込んだ質問をして、カイトが答えた。
「当分は残った面子で簡易な依頼を受けさせればいいかと。」
「わかった。申請書はあとで渡そう。新しい部活の設立は何人か知っているな?」
「ええ、確か7人以上ですよね。」
「まあ、生徒会長に聞くのもアホらしいか。残りのメンバーについてはお前らで集めろよ。」
一応尋ねた雨宮だが、生徒会長の桜や部活連合の総トップである瞬が新部活設立の条件を知らないとは思っていなかったので、言うだけ言って全部投げ捨てる。それを聞いたカイトは、あてがあったので笑って頷いた。
「はい。適当にあたってみます。」
「参加者にあてはあるのか?」
雨宮がそう言った瞬間に応接室のドアが勢い良く開かれた。
「話は聞かせて貰ったぁ!私も参加します!」
「凛!どうしてお前がここにいる!というか、お前はダメだ!」
「いやぁ、お兄ちゃんが何か真剣な顔して応接室に入っていったから、気になって。」
そう言って入ってきたのは快活そうな少女である。彼女は照れながら、兄の質問に答えた。後ろからはソラ達カイトのパーティメンバーが。カイトはかなり早い段階からこの事に気付いており、彼らが参加の意思を示していたので、あてがあると言ったのである。
「俺たちは休憩がてらにうろついてたらカイトが入っていくのが見えてな。悪いとは思ってたんだけど、こっちの……誰だっけ?」
「一条 凛です。天城先輩、先輩の頭は鳥ですか?」
「ぐっはぁ!」
年下の少女からそう言われて精神的なダメージを受けて大げさに膝をつくソラ。尚、表すならorz、演技である。まあ、凛の方は若干の本気が入っていたが。
「うんうん。珍しい組み合わせだったから……つい。で、偶然居合わせた一条さんが立ち聞きし始めたから、私達も気になって……」
珍しいとはカイトと瞬が一緒に居ることである。この二人は顔を合わせれば話しぐらいはするが、一緒に居ることは珍しかった。
「凛ちゃん、それに魅衣ちゃん達も……」
「で、お前らはどうするんだ?」
「ああ、ウチは全員参加でいいだろ?」
既にカイトの正体を知るソラ達は、気付かれていた事を別段驚かない。そうして、ソラが後ろに居た他の面子へ確認を取る。全員に異論が出なかったので、カイトのパーティは全員参加が確定した。と、そこで由利がここにいない人物に気付いた。
「ティナちゃんはどうするのー?」
「ティナは強制だ。あいつの錬金技術には少しの間世話になる。」
今日は休日であったので、今日も今日とてティナは公爵邸に引っ込んでいたのである。本当ならば、腕の良い鍛冶職人が欲しい所だ、そう考えるカイトだが、こちらにはあてが無かった。
いくら天才と言われるティナとて、武器作りが専門では無い。剣や盾といった武具ではどうしても専門の職人には一段劣る武器しか作れなかったが、それでも並以上の品質の武器は作れる為、彼女の援助は是が非でも欲しいのであった。
「ミストルティンはそんなことも出来るようになっているのか……」
ティナが錬金術を使える事を初めて聞いた雨宮が、少しだけ羨ましそうにそう零した。
「ええ、まだ手習い程度ですが……っと、じゃあ、決まったらまた教えるから、もういいぞ。」
「おう、頼んだ。俺たちはまた鍛錬に戻るぜ。」
カイトに言われ、とりあえずは要件が終わったソラ達は再度鍛錬に戻っていった。そうして、それを見送ったカイトは、桜と瞬の所の状況を問い掛ける事にした。
「あまり根を詰めすぎるなよ……で、桜と先輩のところはどの程度参加が見込める?」
「俺のパーティは全員……いや、俺のところは参加させないでいいか?」
「ああ、そうしてくれ。」
カイトも一条の提案に同意する。即座に肯定したカイトだが、これに雨宮が首を傾げた。
「何故だ?お前達のパーティは学園でも強い奴が所属してるだろう?即応部隊を考えれば、出来る限り多いほうがいいんじゃないのか?」
「一条先輩以外の面子には一旦他のパーティの援護へ回っていただこうかと。いきなり学園トップクラスの面子が全員学園支援活動にまわるのも問題でしょう。桜、お前のパーティの未参加者にも同じように頼む。」
「わかりました。では、楓ちゃんにそういった方々の纏め役をお任せしましょうか?」
桜の問い掛けは既に念頭にあった物なので、カイトは再び即座に答えた。
「頼む。楓には桜の補佐を任せたい。その訓練の一環と伝えてくれ。先輩のパーティか知り合いに先輩の補佐が出来る方は?」
「……陸上の副部長か、運動部連合の副会頭だな。こっちは俺からあたってみよう。」
「その方と楓の二人で残った面子を統括させてくれ。」
「わかった。」
そうして、カイトは必要と思われる事を矢継ぎ早に指示していく。それを見た真琴と雨宮が唖然としていた。
「そっちの一条さんは参加でいいのか?」
「はい。」
「だからダメだと言ってるだろう……お前はまだ弱い。」
瞬が頑なに否定し、凛の方は頑なに参加を希望する。これまで短い話し合いだったのだが、この押し問答がそれなりに繰り返されていた。兄としてはできれば妹にはできるだけ安全な所に居て欲しい心情であったのだ。と、言うのも瞬としては、凛が冒険者をやっていること自体いい顔をしていなかった。が、妹は妹で、兄を手伝いたい心情なのであった。それを察した瞬は、妥協点として、桜に頼み込んで桜のパーティに入れてもらったのである。
「む?じゃあ、戦ってみる?」
「はぁ?俺とお前が?勝負になるはずがないだろ?前のトーナメントでも二回戦敗退だったじゃないか。」
「お兄ちゃんだって、天音先輩に負けたくせに。」
密かに気にしている事を言われた瞬が頬を引き攣らせた。まだこの時はカイトの正体を知らなかった為、次こそはとリベンジに燃えていたのであった。
「……いいだろう。現実を見せてやる。表に出ろ!」
「乗った!」
そうして外に出ようとする一条兄妹。どうやら、兄妹揃って熱くなりやすいタイプであるようだ。しかし、勝手にヒートアップした二人を、即座にカイトが止めに入る。そうして響く、スパンッ、という快音二つ。カイトが両手にハリセンを創り出し、二人の頭を叩いたのである。
「ダメに決まっているだろう。練習用の武具は今は公爵家に返却されているぞ……それに、先輩。心配なら目に入るところに置いておけばいいだけだろう。今回創設する部は別に危険な事を専門にやるわけじゃない。即応部隊に配属しなければいいだけの話だ。」
「天音先輩は話が早くて助かります。私も別に危険な橋を渡るつもりはありません。」
一応、カイトは先輩なので部活生の凛としても敬語を心掛けたようだ。彼女はカイトの言葉を肯定する。それにカイトも外向きの年下の女の子向けの笑みと口調に変わる。
「それで大丈夫だよ。即応部隊は一応待機メンバーで構成するつもりだけど、実力が無い、と判断したら、例えお兄さんの救出でも連れていけないけど、それでもいいか?」
「……はい。」
少し考えた凛だが、最終的にそれで納得したらしく了承する。まあ、妥協点が示された以上、これ以上粘って参加自体が取りやめになっても困ると判断したのだろう。カイトは聡い娘だ、凛についてそう評価した。
「先輩もこれでいいでしょう?」
凛は自分がわがままを言って逆に足手まといとなることを疎んだのだった。
「……ああ。」
そうして、凛が納得したため、まだ不承不承といった感じではあったが、なんとか瞬も納得した。
「で、アル。悪いがエルロードさんとブラスさんに相談できるか?できればお前とリィルにも部活に協力してもらいたい。」
「わかった。聞いてみるよ。」
カイトの命では聞くまでもないが、体面上あえてそう言うアル。アルは即座に通信用の魔導具を取り出して、二人と連絡を取り始めた。
「真琴先輩は今回発足される部の宣伝をお願いしてもいいですか?」
「あ、なるほど。それが私に頼みたいことなんだ。いいよー、広報部の仕事だしね。」
その間にカイトは更に追加で必要となる事を指示していく。
「今はこんな所でいいでしょう。……どうしました?」
そうしてカイトはひと通り指示を出し終え、後は部室と人員集めだけとなり、一息つこうとしたカイト。ふと他の面子の顔を見ると、桜とアル、ユリィを除く面子が唖然としていた。
「いや、お前、慣れすぎてないか?」
雨宮の発言を切っ掛けに、4人が疑問をぶつけてくる。全員頬が引き攣っていた。
「天音先輩、年齢偽装してません?10歳ぐらい。」
雨宮は自身と比べても高い指揮能力に驚き、凛は明らかに自分の一つ上と思えない判断力と知識に唖然となったのである。そうして、そんな唖然となる二人に対して、呆然となった真琴が頷いた。
「そうだよね……この間もふつーに裏取引持ちかけてきたし……」
「何?……それもあの軍略書のおかげか?」
「まあ、そんなところです。それで受付場所、というか部室はどうする?」
少し本気になりすぎたか、と反省するカイトは、とりあえずは間違ってはいない瞬の言葉を曖昧に肯定しておいて、話を逸らす。
「あ、それなら確か……」
そう言って桜が持って来た資料をめくる。目当てのページに辿り着いたらしくその書いてある文章を読み込んでいく。
「ああ、ありました。料理部と手芸部が合併したことで、手芸部の部室が空きました。そこが使えそうですね。他にも幾つか使えそうな場所がありますから、後でリストアップします。」
「頼む。後は人員だけか。こっちは後だな。何か問題がなければ、取り敢えずは解散でいいだろう。」
そうして他に問題提起がなかったので、この日はそれで解散となった。尚、この日の午後に行われた会議でこの議題が承認され、カイトが説明に奔走する事になったことは、横に置いておく。
お読み頂き有難う御座いました。




