表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第57章 剣士達の戦い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1128/3943

第1110話 もう一人の襲撃者

 『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の予選大会の最中に起きた事件をきっかけとして起きた事件は、相手方の警察署への襲撃という形で犯人達との戦いに発展していた。

 と、そこで何らかの物体を警察署から強奪した襲撃犯の一人を追撃していたカイトであるが、その一人に追い付かんと加速したその瞬間に、彼を斬撃が襲いかかった。


「っ!」


 カイトは機先を制する様に放たれた斬撃に目を見開く。勿論、これはどう考えてもカイトから逃げる襲撃犯の攻撃ではない。

 ここまで見事なタイミングで斬撃を放てるのであれば、そもそもカイトから全速力で逃げる必要なぞない。もっと早い段階で機先を制してカイト達の目を眩ませ、追われる事もなく逃げられている。


「ちぃ!」


 カイトは放たれた斬撃に対して、即座に身を屈める事で回避する。そしてその次の瞬間、彼の頭上を斬撃が通り過ぎていった。と、その一方、逃走していた襲撃犯の方は顔に安堵を浮かべて停止していた。


「せ、先生! 来てくれたんですか!」

「馬鹿者。さっさと逃げぬか」


 カイトの前に立ち塞がったのは、フードを目深にかぶった男だ。彼が楽しげに笑いながら、刀を構えてカイトの前に唐突に立ち塞がっていたのである。一見すれば昨日襲撃してきた男と一緒に見えるが、これは明らかにカイトが遭遇した剣士とは別人だった。

 というのも、まず第一に声音が違う。似てはいたが、決して同一人物ではない。声の質についても同じく似ていたがやはり直に聞けば違うと分かる。最大の差は、雰囲気だ。彼の根底には楽しげな雰囲気があったが、昨日のケンカ相手の根底には真面目そうな雰囲気があった。

 どうやら、襲撃犯とあの剣士は別という事だったのだろう。そうして、男に言われた襲撃犯の一人はその言葉に素直に従う事にしたらしく、カイトへと背を向けた。


「あ、は、はい。頼みます」

「っと・・・逃がすと思ってんのか?」


 逃げようとした襲撃犯に対して、カイトは即座に双銃を抜き放って魔弾を投射する。その抜き打ちの速度と連射力は物凄い物で、先生と呼ばれた剣士が防いだにも関わらず襲撃犯の足元に着弾していた。足元なのはクオンにも言ったが、これは捕物であって討伐ではない。二人共、生け捕りが前提だ。


「っ」

「ほう・・・中々、見事。全て切り捨てるつもりでやったのだが・・・」

「そりゃ、どうも。あいにくこっちも仕事で来てるんでね。逃げられちゃぁ、困るのよ」


 剣士の賞賛に対してカイトが右手の魔銃を刀へと入れ替えて剣士に対応し、残る左手の魔銃を荷物を担ぐ襲撃犯に照準を合わせながら告げる。

 剣士の力量はかなりのものだが、それでも彼の出力を考えれば片手で戦えないわけではない。左手で襲撃犯の動きを牽制しつつ、剣士と戦うつもりだった。そうして、両者の間で闘気が高まっていく。


「おもしろき剣士よ。あれほど剣士でありながら、奇妙な戦い方をしようとする」

「あいにく、お師匠様・・・信綱公からお前は剣士ではなく混色の戦士となれ、と言われててね。こういう風に戦う事を許されてるのさ。お前は自由に戦うのが一番良いってな」

「ほう・・・」


 カイトの言葉に剣士が僅かな興味を覗かせる。どうやら、信綱の事を聞き及んでいたようだ。まぁ、武蔵が常々己の憧れにして最強の剣士と語っているのだ。彼程の剣士であれば、その存在を知っていても不思議はなかった。

 が、そうして両者共に意識をお互いに割いてしまったのが、悪かったようだ。剣士はカイトに興味を抱いて背後への注意が疎かになった所為で、カイトは剣士に意識の大半を割いていた所為で、襲撃犯の空いた手の動きに気付けなかった。


「・・・今だ!」

「なんだ!?」

「何!?」


 カイトと共に、剣士が慌てて後ろを振り向く。その瞬間、二人の目には何か黒い宝玉が上空へと投げ放たれる瞬間が見えた。それに驚いたのは、カイトだ。その黒い宝玉には見覚えがあったのだ。


「何!?」


 カイトの驚きの声が響く。が、それをかき消さん程に大きな音が鳴り響いた。それは魔力が収束する音ならざる音だった。


「お前、どこでそれを」

「ばっかものがぁああああ!」


 カイトの問いかけを遮って、剣士の大喝が周囲に響き渡った。その音量たるや、カイトの大声をかき消さん程の音ならざる音さえかき消す程だった。どうやら相当激怒していたらしい。本当に思わず、といった具合に襲撃犯を思いっきりぶん殴っていた。それに、思わず敵であるはずのカイトの方が思わず呆気にとられた。


「・・・はい?」

「お主、こんな所で何を仕出かす! ここには無辜の民も居るのだぞ!」

「え、あ、え?」


 どうやら、殴られた襲撃犯も何がなんだかさっぱりらしい。まぁ、彼としては逃げる為に最善を尽くしたというのに、味方である筈の剣士から怒鳴られているのだ。ある意味では理不尽にも程があっただろう。が、そんな剣士であるが、怒ってはいたものの為すべき事は忘れていなかった。


「さっさと立ち、ここから逃げよ!」

「え、あ、は、はい! あ、あの・・・先生は・・・?」

「儂はここでお主の後始末をつける! さっさと行け! コヤツも足止めしながらになる! お主に構ってはいられん!」


 剣士は相当に激怒しながらも、襲撃犯へと逃げる様に促す。それに、襲撃犯は殴られた衝撃で手放していた荷物を急いで回収すると剣士からも逃げる様に大慌てで脱兎の如くに逃げ出した。それを背に、剣士は鞘へと刀を仕舞う。


「・・・すまぬ。まことに勝手で申し訳ないが、あれの後始末に協力して貰いたい。このような事をしでかしておいて信じられぬとは思うが、儂としても無辜の民に被害が出るのは望まぬ。どうか、ここは儂の顔を立ててはもらえまいか」


 剣士はカイトを前にして刀を脇に置いて土下座で願い出る。顔は見えなかったもののそれは非常に真摯な声で、一切の嘘偽りの気持ちは無かった。一切の邪念なく、巻き込まれてしまうだろう民衆達の事しか考えていない。その訴えかけに、カイトはようやく忘れた我を取り戻した。

 が、それで出せたのは気の抜けたため息だけだ。勿論、ここまで無防備な相手だ。そして相手は敵だ。容赦なく斬る事も出来た。そして戦略としては、それが正しい事だろう。

 だが、この言葉には一切の嘘が無いと同じ剣士だからこそ、分かってしまった。故に、できなかった。そんな事をしてしまえば剣士の恥だ。敵に背中を見せる以上の恥とも言える。幾らそれが最善だからとて、出来るわけがなかった。


「・・・はぁ。しょうがないか・・・」


 幸か不幸か、剣士の行動で完全に虚を突かれてしまった。そのお陰で襲撃犯は魔物を無視しなければ追えないぐらい遠くまで逃げられていた。しかも現状ではこれから現れるだろう魔物に対しては、カイトとこの剣士ぐらいしか戦える者は居ない。

 もしここでカイトを追えば、剣士もカイトを追うだろう。彼とて優先すべき事がわかっているからこそ、自分が残り襲撃犯を逃したのだ。となると、あとに残されるのはこの黒い宝玉から生まれるだろう魔物だけだ。放置すれば、甚大な被害が生まれる事になる。逃げた襲撃犯は諦めるしかなかった。


「わかった。承ろう」

「かたじけない」


 完全に呆れ果てたカイトの了承に対して、再度深々とフードを目深にかぶった剣士が頭を下げる。どうやら、彼その人は性質として善良な様だ。何らかの事情があって協力しているだけ、と考えられた。そうして、立ち上がった剣士は大きく息を吸い込んで、声を上げた。


「街の者共よ! 儂の声が聞こえておるのであれば、今すぐ逃げよ! 魔物が現れる! 大急ぎで周囲の者達を連れて避難せよ!」

「彼の言っている事は本当だ! オレは昨日の大会で決勝を戦った天音カイトという者だ! ミヤモト先生の弟子だ! 師の名に賭けてオレが保証する! 早く逃げろ! 魔物はオレ達がなんとかする!」


 幸い、先程の剣士の大喝でカイト達がここに居る事は周囲の者達がこちらに注意を向けていて、黒い宝玉が浮かび上がっている事に気付いていた。そして更に武蔵の弟子という言葉が効いていた。

 カイト当人も昨日の大会で放送されており、武蔵の弟子である事は知れ渡っている。故に、その言葉を誰もが信じて一目散に逃げ出した。


「これで、よし」

「かたじけない」


 カイトの協力に剣士が再び頭を下げる。それに、カイトはため息を吐いた。


「なんであんたみたいなのがあんなのに協力してんだか・・・」


 心の底から、カイトは疑問しか浮かばない。その立ち振舞いや風格、剣の腕たるや、カイトでさえ敬える程の剣士だ。だというのに、こんな事をしている理由がわからなかった。それに、剣士は少しだけ申し訳なさそうに口を開いた。


「・・・のっぴきならぬ事情がある。我らの命に関わる事だ。故に、今しばらくは耐えねばならぬ」

「・・・なんだったら、協力するが?」

「それには及ばぬ。これは、我らの事である故。そして別な恩義もある故、お主に協力はしてもらえぬ」

「それで事件起こされる身としちゃ、有難くないんだがねぇ・・・」


 カイトは剣士の僅かに楽しげな言葉にため息を吐いた。どうやら、悪い事とはわかっているらしい。そしてあの黒い宝玉を知っていたというのだ。それがどういう事情なのかはわからないが、少なくとももう彼と襲撃犯を結びつけた相手は分かっていた。


「まぁ、流石にあんたはここでは斬れん。帰ったらあの道化野郎に言っといてくれ。ぶん殴るって。あんたも、何時か一発ぶん殴るからな」

「かかかかか! あいわかった。安々とは殴られてはやらぬが、出来るのならやってみせい。言伝も承ろう」


 どうやら正解だったようだ。剣士は笑いながらカイトの言葉をしっかりと胸に刻む。そうして、二人は並んで刀を構えた。相手は勿論、黒い宝玉から現れた一匹の魔物だ。


「さて・・・」

「鬼が出るか蛇が出るか・・・」


 カイトは何時魔物が現れても良い様に黒い宝玉を注視する。この黒い宝玉をカイトは切ろうとは思っていない。おそらくカイト以上に詳細を知っているだろう剣士も切ろうとしていない。それで、カイトは自分達の推測が正しいと理解した。


(やはり黒い奴は内部に歪みを生んでいるか、歪みを保存している類か)


 カイトは黒い宝玉を注視しながら、剣士の動きを注目する。これはティナから上げられていた推測の一つだった。

 かつての大陸間会議で使われた紅い宝玉は周囲の世界を歪める事で魔物を生んでいた。そこから、カイトの持ち帰ったデータからティナ達『無冠の部隊(ノーオーダーズ)』の作戦司令部が推測を立てていたのである。そしてそれ故、カイトは対処を考えていた。


(ならば、斬っては駄目だ。歪みが周囲に拡散される。こちらは二人。数が出られると守りきれなくなる。一匹の強大な魔物を相手にする方が遥かに良い。建物も人も守りやすい)


 カイトは呼吸を整えながら、推測と考察を固めていく。素直にこの剣士とここで協力出来たのは戦略的にも良かった。この黒い宝玉の正体に近づける。彼が出る行動一つで、本来は得られない情報が得られるのだ。それは即ち、明日の犠牲を減らせるという事でもある。


『・・・ティナ。聞こえてるか?』

『うむ。聞こえとるよ』


 カイトは密かに連絡を入れておいたティナが答えた。どんな魔物が生まれるかは不明だ。剣士に注意しながら戦えるとは限らない。故に、ティナに連絡を入れておいたのだ。それに、彼女が見た方がカイトが見るよりも遥かに正確だ。


「・・・」


 カイトは一度だけ、わずかに黒い宝玉から視線を外す。そこにはクーが飛んでいる鳥たちに紛れて飛んでいた。これなら、安心だろう。


『後は任せる』

『わかった。あれらにも注意しておこう・・・なんであれば逃げた男にも対処するが?』

『いや、それはやめとこうぜ。多分、そっちは手出しされたくないはずだ』

『ま、そうじゃのう。あれの手が加わっておるということは、まだ触られたくないはずじゃ。こんな余らの本拠地の近くで暴れられるのは非常に困る。大パニックが避けられん・・・が、側には控えさせておるから安心はせい』

『サンキュ』


 カイトはティナの采配に感謝を述べる。どうやらカイトから連絡を受け取った時点で、『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の何人かを密かに出発させていたようだ。更にはこの距離だ。フロドとソレイユがマクスウェルのギルドホームから狙撃の準備を整えている事だろう。


「さて・・・じゃあ、やることにしますかね」


 カイトは収束がある程度まで収まった黒い宝玉を見て、気合を入れ直す。後顧の憂いは無い。後は、出て来た魔物をたたっ斬るだけだ。そうして、カイトは謎の剣士と共に現れる魔物へと戦いを挑む事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1111話『顔を立てる』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ