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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第57章 剣士達の戦い編

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第1109話 強襲と強奪

 『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の予選大会の決勝戦の最中に起きた大会参加者への殺人事件。それの調査に協力する事になったカイトはとりあえず武蔵、クオンの両名と別れて一通りの調査を行うと、昼飯を食べる為に合流する事になっていた。


「と、いうわけでこっちも一人って所」

「なるほどな。お前の場合は武名が鳴り響きすぎてたわけか」


 クルクルとパスタを巻きながらクオンがカイトの問いかけに答えた。問われていたのは、喧嘩を売ってきた奴が居たかどうか、という話である。どうやらあちらも喧嘩を売ってきた相手は居たようだ。カイトがそうである様に、クオンにも有名税は付き纏う。当然だろう。そしてそうなると当然、こちらにもあった。


「儂とこは三人じゃから、豊作豊作」

「ちぇー」


 楽しげな武蔵に対してクオンが不満げに口を尖らせる。せっかく喧嘩を売られるのを楽しみに来たというのに、お目当ては来ないし雑魚が喧嘩を売ってくるしその雑魚にしても殆ど目を向ける必要もないわ、である意味踏んだり蹴ったりだった。唯一彼女がこの街に来て得れた収穫は、カイトとの戦いに先約を入れる事が出来た、という所だろう。


「あむ・・・はぁ・・・早く出てこないかなー、辻斬り」

「辻斬りじゃねぇっての」


 クオンの言葉にカイトがため息を吐いた。今のところ辻斬りというよりも喧嘩の結果の不慮の事故だ。勝手に辻斬り扱いはいただけない。


「まー、でもこの様子だともう出てっ行っちゃたかなー」

「かもなぁ・・・」


 カイトはため息混じりに首を振る。一応彼らも探してはいるが、彼ら以外にも噂を聞きつけた武芸者達が大挙して探しているというのだ。それで見つからないのであればよほど巧妙に逃れているか、もうすでにこの街には居ないか、だ。

 一応近隣の街でも出入りのチェックは厳重にしているが、流石に顔貌がわからない段階ではそこまで厳重なチェックは掛けられない。更には隣の領土まで出ると、よほどの重罪にならない限りは滅多な事では強力な追手はかからない。支配する貴族が違えば法律が若干変わってくるからだ。

 一応お尋ね者には出来るが、どこまで効力を及ぼせるかは究極的には事件次第という所になってくるだろう。逃げるのなら早い方が良いというのも正解である。そして流石に一人殺した程度ではそこまで厳しく追求は出来ない。エネフィアだからこその事情だった。


「まぁ、どれだけ遅くとも明日一杯探して見つからなけりゃ、この街には居ないと思った方が良いだろ。武芸者が大挙して探しているのに二日掛けて見つからねぇとは、思わねぇな」

「あー、残念」


 カイトの言葉にクオンは本当に残念そうな顔を見せる。逃がした魚は大きかった、ということなのだろう。とは言え、幸運な事に――そして彼女以外には不幸な事に――事件はまだ、終わっていなかった。


「「「ん?」」」


 三人が同時に顔を上げる。何か強烈な力の奔流とでも言うべき何かを感じたのだ。


「感じたか?」

「ええ・・・んー・・・でも安易に動くわけにも・・・」


 武蔵の問いかけにカイトは眉を顰める。戦いに関連する気配だとは思うのだが、これが自分達が探している気配なのかはわからない。更に言うと街には警察に相当する者達や軍の兵士達も居るわけで、自分たちが目撃していたのならまだしも勝手に動くわけにはいかなかった。そしてそれは全員がわかっているわけで、なのでクオンがパスタを巻きながら告げる。


「気にしないでいいでしょ。先にご飯ご飯。冷めちゃうと料理人に失礼よ」

「まぁ、それもそうか」

「うむ、道理じゃな」


 カイトはクオンの言葉に同意すると、自分も頼んだパスタに手を伸ばす。彼の頼んだパスタはカルボナーラ。冷めるとあまりよろしくない。それに街の警吏や兵士の仕事を奪う事でもある。頼まれれば力を貸すべきなのであって、頼まれもしないのに首を突っ込むべきではなかった。


「あ、次のピザ来た。いや、ピッツァか」

「お、ここ当たりかも?」

「んー、チーズがとろける」


 カイトとクオンは店員によって運ばれてきた二つのピッツァを半分に分け合って食べる。別にバカップルとかではなくどちらも楽しみたいという理由である。


「あいっかわらずよう食うのう、お主ら」

「まぁ、燃費悪くないですけど多少食いだめしとかないと万が一でキツイんで」

「そういうこと。私達それこそ三日三晩とかごはん抜きで戦う事あるからねー。食べれる時に食べて魔力でエネルギー貯蔵しとかないと」

「相変わらずお主ら、そこだけは狂っとるのう・・・」


 流石にそこまではしていないらしい武蔵が二人の返答にため息を吐いた。食える時に食っておけ、というのは武蔵の教えにもあるが、それでもここまではやらない。

 と言うより、三日三晩も戦い続けというのは如何に彼でもごめんらしい。基本自由人に近い彼は腹が減ったら戦いは終わり、という事も多い。勿論、万が一に備えてエネルギーは貯めているがそれは万が一の為であって、カイト達の様に常にそこまではしないのであった。


「でも、ここのマジで美味いっすよ」

「む、そうか。では儂も一切れ頂いておこう」


 武蔵はカイトから差し出されたピッツァの一切れを食べる。どうやら美味しかったらしく、三人はそのまま和気あいあいと食事を続けるわけなのだが、どうやら騒動の方は三人を放置しておく事は無かったらしい。


「・・・あー、お呼び出しか」

「の、ようじゃのう。流石に飯ぐらいはのんびり食わせて欲しいんじゃが・・・飯時の襲撃なんぞ戦略の基礎じゃからのう・・・」

「うー・・・次のピッツァ・・・私のピッツァ・・・」


 戦闘狂でありながら健啖家でもあるクオンが悲しげに釜の中でいい匂いを漂わせるピッツァを見つめる。戦いたい。だが、同時にピッツァも惜しいらしい。匂いからして、後一分で出来上がりという所だった。


「すんませーん! そのピッツァお持ち帰りで! ってか、とりあえず何か台においてくださーい!」

「へ?」

「居た! ミヤモト様!」


 カイトの言葉に店の店員が首を傾げたとほぼ同時。店内に重武装の兵士二人が駆け込んでくる。目的は言わずもがな、救援要請であった。カイト達はすっかり忘れていたのだが、カイト達の通信機と街の警察の通信機はリンクしていなかったのだ。そもそも頼む事は出来なかったのである。

 というわけで、彼らも地道に探すしかなかったのであった。とは言え、カイト達も万が一に備えて周囲の確認をし易い様に大通りに面した店で食事を取っていた。なので即座に見付けられたようだ。


「あー・・・あ、あとちょっと! あとちょっとだけ待って! この匂い、分かるでしょ!? もう出来上がるの! 焼き立て! ピッツァ! チーズが美味しくなくなっちゃう!」

「いえ、そう言う場合ではなく! 警察署が襲撃を受けています! 下手人はおそらく昨日の殺人事件の犯人かと思われます! 急ぎ、救援を!」


 クオンの悲痛な叫びに対して兵士が非常に切羽詰まった様子で申し出る。どうやら、事は急を要するようだ。というわけで、カイトが口を開いた。幸いパスタはすでに全部食べていて、全員で後もう一枚ピッツァを頼んで食べるか、という程度だった。


「お前先行って来い。ピッツァはオレが保存して届けてやる」

「ホント! じゃあ、さっさと行って終わらせてくる!」


 クオンはカイトの言葉に椅子を蹴っ飛ばして立ち上がる。そうして言うやいなや即座に店を後にする。カイトの保存は大精霊の力が加わった保存だ。出来たてで保存されるのである。なら、迷いは無かった。さっさと片付けて出来たてのピッツァを頂くだけである。


「ま、儂も行ってくるかのう」

「あ、お願いします! では、急いで!」


 同じく立ち上がった武蔵にあまりのクオンの行動の速さに唖然となっていた兵士も気を取り直して、その後に続く。そもそもカイトは単なる武蔵の弟子としか思われていない為、居ても居なくても良いのである。というわけで、一人残ったカイトは混乱する店内を歩いて釜の前まで移動する。


「大変ですね、お客さんも・・・」

「あはは。いえ、本当に」

「あ、お持ち帰り料金の方は結構です。その代わり、街をお願いします・・・これ、餞別です。終わったら食べてください」

「どうも。あ、釣り銭結構。ドタバタさせちまったからな」


 カイトはピッツァを調理していた女性店員の心付けを有難く頂いておく事にして、食べた食事の代金を置いていく。多少色を付けていたのは、迷惑料というわけである。

 まぁ、その代わり少しお土産としてちょっとしたお菓子を包んでくれていたので、結局はとんとんだったのかもしれない。なお、実際には昨日の戦いで出来たカイトのファンだったりするのであるが、それは知らない事である。


「さて・・・楽しいお食事を邪魔してくれた無粋者の面を拝みに行こうじゃねぇか」


 カイトは後でクオンに文句を言われない様に時乃に頼んでピッツァを完全に保存しながら、店員から貰ったラスクを齧る。手軽につまめるお菓子として売られていた洋菓子だった。そうしてカイトは一足飛びに街を駆け抜けて、警察署前の広場までたどり着いた。


「っと、こりゃひでぇな・・・」


 たどり着いた警察署前の広場だが、物凄い有様だった。どうやら敵が放ったらしい式神に似た物体が溢れかえっており、警察や兵士達と乱戦状態になっている様子だった。

 とは言え、一体一体の戦闘力はさほど高いわけではないらしく、数で手をこまねいている様子である。弱い故に人的被害は出ないが、同時に数故に若干の苦戦は免れない様子だった。


「ふむ・・・こんな小細工をするということは、敵は寡兵か。少数精鋭による本陣への強襲・・・目的は何だ?」


 カイトは無闇矢鱈に突っ込む事はせず、少し離れた所から状況を判断する事にする。突き進むのなら武蔵とクオンがやってくれている。であれば、自分は頭を使うべきだった。


「クオンは・・・署内で戦闘中か。先生は・・・大広場で敵が外に出ない様に奮戦中、と・・・お、大鎧も来てるのか。ふーん、女性が多い・・・ってか、あそこ女だけか? 意外といい趣味してんのな・・・カリンと気が合いそう?」


 カイトは全体の状況を見極める。どうやら当初の予定通りクオンが腕利きと戦い、武蔵が露払いをする事にしていたらしい。武蔵は兵法家としての知識を活かして、なるべく犠牲を生まない様に兵士達を指揮している様子だった。兵法家としての宮本武蔵の面目躍如、という所だろう。

 更にどうやら増援に大鎧率いる冒険者集団も来ていたらしく、武蔵と協力して戦っていた様子である。これなら、大広場は大丈夫だし敵が街の住人達に危害を加える事も無いだろう。


「ふむ・・・中のは腕利きか。それも相当な・・・追っかけてた犯人と見て良いだろうな、こいつは」


 カイトは状況が大丈夫である事を見て取ると、即座に気配を読んでクオンの状況を見定める。彼女が即座に押しきれない所を見ると、相当な相手と考えて良いだろう。とは言え、これには条件があった。


「おい、クオン。外に引っ張り出すの手伝おうか?」

『あ、大丈夫大丈夫。結構手練だけど余裕だから。ご飯、目一杯食べちゃったから太らない様に運動しないと』

「食べてすぐに動くと逆に危険らしいぞ? 一時間ぐらい時間を置くと効果的だそうです」

『嘘!?』

「多分。いや、知らんけど・・・まぁ、とは言え余裕か。あまり警察署を破壊しない様にな。修繕費だって限りあるんだし、警察署がボロボロだと街の住人が不安になる。あ、後殺すなよ? そいつはデッド・オア・アライブじゃないからな」

『はーい』


 クオンはまだまだ余裕といった所だ。カイトの問いかけにお嬢様モードを挟みつつ戦っていた。ああ見えて彼女は色々と考えている女だ。なるべく街の住人達を怖がらせない様に戦う術は知っている。故に、警察署にあまりダメージを与えない様に戦っていたのである。

 署内に入り込まれていた時点で、討伐に些か時間が掛かるのは仕方がなかったというべきなのだろう。そして、ここから一つわかった事がある。


「ま、これなら一安心という所か」


 クオンがこの配慮が出来る以上、敵は『死魔将(しましょう)』ではない、という事でもあるのだ。彼女とて切り捨てるべきは弁えている。彼らが出れば、一切の配慮は捨てる。カイトとしては一安心といった所だ。


「よし、それなら」


 カイトは己が為すべき事を決めると、大広場へと降り立った。敵が何を目的にしているかはわからないが、捕らえて聞き出せば良いだけの話だ。


「先生!」

「おお、カイトか! って、見とっただけじゃな!」

「はい! 支援します!」

「うむ! お主は双銃で遠距離から支援せい! 幸い今のところ押し込む必要は無い! ピッツァの所為で出遅れたようじゃのう! ヤバそうな奴を助けてやれ!」

「あいさー!」


 カイトの言葉に武蔵が笑いながら指示を与える。まぁ、何が目的かわからないという所は変わらない。であれば、警戒はすべきだろう。そして、これが正解だった。カイトが支援に入って少しした所で、署内で一人戦うクオンから連絡が入った。


『カイト! どうにも襲撃犯、もう一人いたみたい! どっかから何かを奪って出ていった! って、今署内の人が言ってる!』

「りょーかい! 強奪目的の襲撃ね!」


 カイトとしては――それどころか全員からしても――予想外であったが、この襲撃はどうやら何らかの強奪が目的だったらしい。予想外だったのは、そうなると殺人事件を起こした意図が掴めないからだ。

 そのせいでカイト達が残る事になり、襲撃は一気に失敗の公算が高まった。とは言え、それも後で聞き出せば良い話である。なので、カイトは支援を切り上げる事にする。


「さって、何時出てくる・・・?」


 カイトは入り乱れる気配を読みながら、もう一人の襲撃の犯人を探す。おそらく署内に気付かれずに潜り込んでいる事から、密偵(スカウト)盗賊(シーフ)の様な役柄に思われる。であれば、騒動を利用して密かに出て来るはずだ。


「見っけ!」

「何ぃ!? あいつは・・・なんであいつが!? 拙い!」


 警察署から出てくるなりカイトに見付かった事に顔を隠した男が大いに驚いた。が、行動には迷いがなく、一目散に逃げ出した。もしここで犯人に誤算があったとするのなら、カイトがピッツァの為だけに後から来てしまった事だろう。

 彼が一人出遅れた所為でこの事件には関わらない、と思ってしまった様子だった。監視はしていたが昼食真っ最中だった為、彼は残ると思ったのである。しかも武蔵が万が一に備えさせていたとは、思わなかったようだ。脇目も振らずに全速力でカイトから逃げていた。


「おぉおぉ、逃げる逃げる。あんな重そうな荷物抱えて良くやるよ」


 カイトが楽しげに、脇目も振らずに猛ダッシュする襲撃犯を笑う。どうやら強奪した物は結構な大きさで、人一人が入れそうな袋だった。それを彼は肩から担いでいた。どうやら腕はあまりないらしく、カイトからすれば余裕としか言いようがなかった。

 おそらく腕利きは彼が雇った用心棒という所なのだろう。確かにこの大きさの物を強奪するのであれば、彼の腕であれば用心棒は雇いたい所だろう。


「さて、さっさと捕まえちまいますかね」


 カイトは余裕の顔で少し後ろを走りながら、そろそろ捕まえるか、と速度を上げる事にする。が、その次の瞬間。まるでその機先を制する様に彼の目の前へと斬撃が襲い掛かってくる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1110話『もう一人の襲撃者』

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