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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第57章 剣士達の戦い編

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第1105話 クオン・出る

 当たり前の話であるが。『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』とは世界一の武闘大会であり、各国の軍関係者さえ注目している有名な戦いだ。そして各国から道楽者達や武芸者達がその戦いの観戦の為にやってくる。そしてどうしても命懸けの戦いの多いエネフィアである以上、武芸に興味を持つ者は地球とは比較にならない程に多い。

 であれば、仕合を観戦したいものの時間・金銭・何らかの用意の為に観戦出来ない者は出てくるだろう。となると、ここ300年でカイトが考案したマスコミ各社の出番となるわけだ。人が見たいと思う映像を提供するのが彼らの役割となるのは、地球もエネフィアも大差がない。

 流石に衛星通信網があるわけではないので世界各国の映像を、というわけにはいかないが、ある程度、例えばその国だけだったり、一つの場所の近辺であれば映像は届けられる。

 とは言え、カイト達の出場した大会はあくまでも予選大会。地方大会の一つだ。地球で言う所の地上波で放映される事はない。が、それでも一定数の視聴率は稼げるわけなので、放送しないのも損だ。というわけで、謂わば衛星放送の様な有料チャンネルに限定して、放映されていた。


「・・・」


 となると当然、彼女はその映像を見るに決まっている。最強の剣士と謳われ、ある種の想い人が出るというのだ。興味を持たないはずがない。が、そんな彼女の機嫌は現在、放送開始前より急転直下に真っ逆さまに不機嫌だ。不機嫌を通り越して、誰も近寄れない程に激怒していた。


「あ、あー・・・ね、姉様?」

「・・・」


 アイシャの問いかけに鬼の様な気配を出すクオンは無言だった。かなり本気の剣姫モードに入っていた。おそらくこれに入ったのは、300年前のカイトとの激闘以来初だろう。

 それほどに、彼女は激怒していた。思わずアイシャが内々の呼び方に変わるぐらいには、怯えているのだ。その怒りの程は誰でも見ればわかる様子だった。


「・・・見てない」


 クオンが小声でその原因を告げる。


「・・・私、見てないわ、あれ」


 クオンが最早アイシャさえも気圧される程の怒気を纏いながら、そう呟いた。彼女はカイトの神陰流(しんかげりゅう)を知らなかった。故に、激怒していた。

 いや、ある意味、嫉妬していたと言える。例え映像越しであろうと、彼女にはあれが優れた剣術であり、カイトの切り札に属する手札だと見抜けていたのである。


「行ってくる。当分帰らないと思っといて」

「は、はい・・・」


 今のクオンは止められない。ああまで自分の想い人が隠している札を見せたのだ。嫉妬しないはずがない。自らにも見せていない流派を、どこの誰だかしらない相手に見せたのだ。喧嘩を売りに行かねばならない、と思うのは自然な事だった。そうして、クオンが猛烈なスピードでカイト達の居る街へと向かう事になるのだった。




 というわけでホテルへ帰り着く直前のカイトであるが、その眼前には剣姫モードのクオンが立ちふさがり、彼を問答無用に街の外へと連れ出していた。


「どういうわけ?」

「何が!?」


 まぁ、カイトからしてみれば当然であるが、クオンの怒っている理由なぞ全くわからない。唐突に自分の前に立ちふさがったかと思えば、怒っていたのだ。基本女性を怒らせる事の多い彼であるが、それでもこれは理不尽にも程があった。


「私・・・見てないんだけど」

「何が」


 今にも斬りかからんばかりの血の猛りを見せるクオンの言葉に、カイトが問いかける。何がなんだかさっぱりだ。


「あの剣技。神陰流(しんかげりゅう)・・・私、見てない」

「そら、使ってないからな」


 クオンの問いかけにカイトは平然と認める。当たり前だ。あれはカイトからしてみればまだ未完成の剣技。クオン相手になぞ使えるわけがない。

 彼女と大鎧を比べれば、という前提の話になればカイトは即座に断言する。比べるのもおこがましい、と。故に未完成の剣技を使い危機に陥るより使い慣れ完成された物を使うのが普通だろう。使うわけが無かった。


「ふぅん・・・で、それをこんな所で使ったわけ?」

「正体バレるわけにいかないし、藤堂先輩が柳生新陰流やぎゅうしんかげりゅうだったからな。まぁ、更に上の領域に立つ者として、ってやつだ」

「ふーん・・・」


 クオンは一応、カイトの説明に納得する。確かにこれは筋が通っている。カイトは神陰流(しんかげりゅう)を使ったが、それはそうしなけれはあの大会で勝ち残れないと判断したからだ。これは些か語弊があるが、大凡としてはそれで良い。

 自らの正体を隠しつつ燈火の依頼を達成するのであれば、これしかないのだ。依頼を受けての事であるが故に、彼に非難される謂れは一切ない。


「じゃあ・・・私にも見せなさいよ、あれ」


 すぅ、とクオンが刀を構える。彼女も、刀使いだ。純白の剣姫。服装こそお嬢様だが、今の彼女は正真正銘、カイトの前でしか見せない剣姫クオンの本当の姿だった。


「いやいやいやいやいや! ちょい待ち! お前が怒ってる理由はわかった! わかったが、それ故に弁明だけはさせてくれ!」


 カイトは大慌てで両手を振ってクオンを制止する。そもそも、本気のクオンは彼をして裸足で逃げ出すと言わしめる相手だ。しかも本気の状態の彼女となぞ戦いたくはない。一度やって、その恐ろしさは嫌というほど理解していたのだ。二度となぞ御免こうむる。


「・・・もし納得できなければ問答無用だから」

「はいはい・・・」


 クオンが腰だめの姿勢のまま了承したのを受けて、カイトがほっとため息を吐いた。とりあえずこれで、一難去ったらしい。


「お前相手には使えないんだよ、あれ」

「・・・どういうこと?」

「未完成。あれ、まだ未完成なんだよ。お前相手に使える程万能じゃあねぇよ」


 カイトは僅かな悔しさを滲ませながら、クオンへと正直に明言する。そこに一切の嘘はない。クオンは優れた武芸者だ。ここまで怒気を放っていながら、その佇まいと気配にゆらぎは一切ない。

 ここまで怒気を発していながら、その『呼吸』には一切のゆらぎがないのだ。明鏡止水でないにも関わらず、である。どれほどの才能と修練があればそんな事が可能なのか。カイトには理解できない領域だった。

 これでカイトがクオンの『呼吸』を把握しようとするのなら、とてつもなく長い時間が必要となるだろう。そしてそんな時間を与えてくれる程、クオンも甘くない。

 彼女が一度でも剣姫モードになれば、一切の甘さも油断も無くなる。相手が何かをしてくるのがわかっていてそれをさせてくれる様な剣士ではないのだ。そこらを、カイトは彼女へと丁寧に語っていく。


「というわけ。お前の『呼吸』なんぞ今のオレで読めるかよ。あれはある種修行の一環だ。それとも、意味のないのに使えって? そんときゃお前怒るだろ。で、お前の呼吸乱すとか・・・ヤッた後に戦えってか? それもお前、怒んだろ。ピロートーク優先しろーって。一回それで激怒して魔物の群れ壊滅させてんだろ。それも並じゃなくてランクAクラスの群れを一撃で壊滅ってな具合なのをな」

「・・・」


 クオンはカイトの目をしっかりと見据え、彼からの言葉の真偽を考える。そして、少しして答えは出たらしい。答えを出した。


「じゃあ、許す」


 ニコニコと笑ってクオンが怒気を雲散霧消させる。カイトの言葉に一切の嘘はなかった。そして彼の顔に浮かんでいた悔しさから、彼の神陰流(しんかげりゅう)が未完成であることは彼女には良くわかった。それに、カイトが安堵した。


「ふぅ・・・」

「うーん・・・強いのも考えものかも」

「そういうことだ。お前相手に使える程、あれは簡単な武芸じゃあない。お前だってだから、こっちに来たんだろ? あれは並大抵の修行で得られる力じゃあねぇよ。信綱公だから教えられる剣技で、こっちに来てる間は覚えたことを完璧にするだけで進歩はお休みだ。少なくとも、オレがもう一回帰るまでお前相手にこれを使えることはねぇよ」


 相変わらずのお嬢様モードへ移行したクオンに対して、カイトがため息混じりに断言する。一応彼とてなんとか極めようとしているが、それだっておそらく10年先とかの話だし、信綱もそう断言している。

 信綱いわく石舟斎や宗矩ら新陰流(しんかげりゅう)の後継者たる柳生本家の者達でさえ、『(まろばし)』への適性の所為――それでも常人を遥かに上回るにも関わらず――で一生涯を掛けてついぞ完成させられなかったというのだ。現代で極められる可能性がある者――カイトを除けば――は皆無とさえ断言している。

 ただその『(まろばし)』の才能と適性に優れているだけの彼であるが、それでも極めるのであればこれぐらいの時間は必要だろう、と信綱より言われていた。これでも、彼としてはかなり早い見込みとして伝えていたぐらいだ。


「よし・・・その代わり、一つ約束して」

「んだよ」

「もしその信綱とか言うお師匠様から皆伝か印可が与えられた時、まず一番に私と仕合すること」

「やれやれ・・・はいよ、お姫様。でも10年とかそんぐらい先だぞ?」

「300年待ったのに、今更?」


 クオンがカイトの言葉に笑う。しかもその300年は本当に帰って来るかわからない300年だったのだ。それが終わるとわかっている10年を待つぐらいどうということはなかった。それどころか20年でも30年でも待つだろう。とは言え、そんな彼女はふと思い出す。


「あ・・・でも子供とか考えないといけないから早い内にね」

「やれやれ・・・天の王様は辛いねぇ・・・」


 クオンの言葉にカイトがため息を吐いた。彼は、天将をも上回る天の王。その最大の役目は統率ではなく、<<八天将(はつてんしょう)>>筆頭にして最強たるクオンと子を為すことだ。

 そしてクオンもアイシャも団長と副団長を継いだ時から己の身を武芸の頂きに捧げる覚悟であり、カイトとの間に子を為す事には賛成しているのであった。

 幸いカイトは良い奴だしクオンもこういう性格である事もあり相性は良い。問題は、クオンとアイシャが長寿故に子を為しにくいというぐらいだ。が、これもカイトも長寿なので問題はないと言える。と、そんなクオンであるが、一つ意を決した様に頷いた。


「さて・・・じゃあ、そうなると」

「ん?」

「ごめん。我慢出来ない。物凄い発散するつもりで来てたのよ」

「・・・まじですか・・・オレ、むちゃくちゃ疲れてんのに・・・」


 ずいっ、とクオンがカイトの腕を引っ張る。そうして、カイトはそのままどこか遠くへと再び引きずられていく事になるのだった。




 さて、それから数時間。カイトとクオンは一緒に行動していた。いたが、流石にいつまでも帰らないのは問題だろう、とホテルへと帰還していた。


「で、クオン。お主がおるわけか」

「そういうこと」

「カカカカカ! まぁ、丁度良かったではないか」

「丁度良かった?」


 武蔵の言葉にクオンが首を傾げる。実のところ、彼女はカイトが決勝戦を行っている途中から堪えきれなくなりこちらに来ていたのだ。なので決勝の顛末を知らないのである。

 敢えて見る必要もない、という事でもあった。あの戦いはあのまま進めばカイトの勝ち。彼女には、その流れが見えていたのであった。と、いうわけでその後に起きた無粋な話をカイトと武蔵の二人が語る。


「なるほど・・・うん。それは良い腕ね」


 どうやらクオンも被害者の事は知っていたようだ。彼女は『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の常連に近い。例え出場していなくても招待枠としてシードが与えられる存在だ。

 なお、出場するのは面白い相手――今年の大鎧の様な相手――が居た場合のみで、無闇に優勝を掻っ攫う様な事はしない。出れば、優勝はほぼ確定だ。

 ほぼなのは武蔵や旭姫、アイシャが同時に出る事も多いからだ。そうなると、流石に彼女でもくじ運次第では負けが見えるのであった。勿論、他も然りである。というわけで、そんなクオンが明言する。


「わかった。じゃあ、捕物に私も参戦しましょ」

「そりゃありがたい。剣姫クオンが来たとなりゃ、街の警吏の奴らも安心してくれるだろう。街の奴らもな」


 カイトは楽しげにクオンの申し出を非常にありがたい様子で受け入れる。そうして、カイトは街の警吏の者達にクオンが来た事、犯人の捕縛に協力してくれるということを伝える事にして、一同は新たにクオンを仲間に加えて休む事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。クオン、参戦。

 次回予告:第1106話『捜査開始』

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