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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第57章 剣士達の戦い編

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第1103話 望まぬ結末

 『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の予選大会の決勝戦。それに歩を進めていたカイトは、決勝の相手となった謎の大鎧の人物と戦っていた。

 が、それは偶然か必然かカイトの使った神陰流(しんかげりゅう)の奥義の一つ<<全一同体(ぜんいつどうたい)>>という力により、仕切り直しとなっていた。


「ふぅ・・・」


 カイトは猛る気持ちを鎮めるべく、一度深呼吸を行う。武蔵も言っていたが、心が(はや)れば三角形を乱す事になるのだ。戦うのであれば、平常心が重要だった。


『・・・』


 それに対して大鎧の方は大剣を両手で持ち、切っ先を下にしていた。おそらくこちらも猛る心を鎮める為の行動だったのだろう。もしかしたら藤堂の試合開始前の正眼の構えと同じく、プリショット・ルーティンだったのかもしれない。


(どうしたものかな・・・)


 カイトは精神を鎮めながら、大鎧の攻略法を考える。だから、聖職者の系統に属する戦士とは戦い難いのだ。おそらくあの瞬間、一瞬だけではあるがトランス状態に近い状態なっていたのだろう。

 そして一度至れたのだ。きっかけさえあれば、大鎧はまたそこに至る事が出来るだろう。つまり、最早流れを読む事は不可能になった、と言ってよかった。


(流れを読める者同士での戦いは、もはや精神勝負。流れを引き寄せるなぞということは不可能・・・だったな)


 カイトは己の師の言葉を思い出す。厳密には大鎧は流れを読んでいるわけではないが、明鏡止水の境地いさえ立てばカイトの流れに乗る事は可能だ。そしてカイトが油断出来ない相手と悟った以上、ここからはより一層明鏡止水の境地を心がける事だろう。手に負えない状況だと言える。


(にしても・・・)


 カイトは己の手が決まらない事を受けて、大鎧の状況を伺う。一方の大鎧もおそらく、カイトの動きを伺っていたのだろう。そうして、僅かな停滞の中。カイトは本当に僅かな感動を覚えていた。


「本当に、綺麗なもんだ」


 カイトからの口から思わず、言葉が漏れ出る。それは本当に心の底から漏れ出たもので、一切の邪心の無い素直な感嘆の言葉だった。


『っ・・・』


 一瞬、大鎧の気配にゆらぎが生ずる。カイトとしては何かよくわからないゆらぎであったが、それは言い表せば賞賛や感嘆に対する照れの様な感じだった。そうして、カイトは言ってしまった物は仕方がない、と素直な感情を述べる事にした。


「なんだ。誰にも言われた事がなかったか? 本当にあんたの気配は綺麗だ。剣心一如、と日本では言ってな。正しい修行をすれば正しい心が宿る、という考え方だ。本当にあんたの気配は綺麗としか言いようが無い。まるで何かを祈る様に、あんたは戦っている・・・非常に美しい太刀筋だった」


 カイトは素直に大鎧を賞賛する。闘気はあるが、それでさえここまで静謐な気配なのだ。それはまるで何かに対して祈りを捧げているかの様であり、カイトの見立てた神官系の戦士という考えはより一層強くなっていた。


「まぁ、こっからはオレの持論だが・・・心が綺麗な奴は自ずと姿形も綺麗になるもんだ。顔貌の美醜とは他にしてな。顔貌だけではなく風格や気配を含めた存在そのものが、綺麗になっていく。さぞ、あんたは綺麗な顔なんだろうよ」

『あの・・・そちらも。その、綺麗だと思う。その・・・顔を含めて』

「あっははは! ありがとよ」


 かなりの照れがあった様子であるが、大鎧はカイトの言葉に則って賞賛の言葉を返す。どうやらこういうやり取りは慣れていないらしい。それにカイトは笑って感謝を示す。

 一応、彼も己の正しいと思う道を進んできたつもりだ。そしてカイトの言葉に則ってそう述べたのであれば、大鎧にはカイトの剣に邪悪な物が無いと思ったという事なのだろう。剣士同士として、剣を交えて分かる物があったようだ。


「さて・・・そうなってくると、やっぱその綺麗な面を拝みてぇってのがオレの素直な気持ちだ。あんたが男とか女とかそんなのは関係ねぇ。ただ、そこまで綺麗な心を持つ奴の面を拝みてぇってだけだ」


 カイトは再度、闘気を漲らせる。話している内に自分の気持ちを見出したのだ。この大鎧の中に潜む人物の正体を見極めてやる、と。

 ここまで綺麗な心の持ち主なのだ。素直に一人の人として、正体を見てみたかった。もう燈火からの依頼もこの大会の勝敗もどうでも良くなった。ただ、この大鎧の正体が知りたい。そんな少年の様な気持ちしかなかった。


『・・・』


 大鎧はカイトの賞賛にどこかむず痒い様な気配を出しながらも、カイトの闘気の膨れ上がりを感じて気を引き締める。そうして、急速に雑念が消えていく。明鏡止水に入ったのだ。

 別にカイトとて大鎧が明鏡止水に入るのを邪魔したかったわけではない。偶然口をついて出た言葉がこのような結果をもたらしただけだ。故に、止める事もない。いや、止めたくなかった。武芸者として、万全でぶつかってきて欲しかった。


「まぁ、さっきも言った手前格好が付かねぇし、更に言うと未完成の技を実戦で使うな、って言ってる手前情けねぇんだが・・・」


 カイトはかなり照れくさそうに大鎧へと告げる。が、今度の闘気の増大っぷりは先程の比ではなく、勇者の勇者としての風格が滲んでいた。


「一分。それで、終わらせようや。今度は残念ながら、本気で一分しか出来ないから一分なんでな」

『っ・・・』


 カイトから放たれる圧力に、大鎧は思わず気圧される。この言葉は嘘ではない、とわかったのだ。そして今度こそ正真正銘全力を出してくる、と理解したのである。


『・・・来い』


 大鎧が覚悟を決めて、カイトを待ち構える。相手が終わらせると言っているのだ。つまり、攻めて来る事に他ならない。そして先程の一幕で、カイトに攻め込めば負けると理解していた。故に、攻め込めない。

 先程流れが掴めたのは、それはカイトが攻め込む側だから、というのを理解していたのである。そうして、完璧に用意を整えた大鎧に対して、カイトも準備を整えていた。


「・・・我、蒼天と緋天を駆け抜け神域へと至らん」


 カイトはそう謳い上げる。それは己の武芸の道のりを言っていた。ある種の自己暗示の様な物、という所なのだろう。まだカイトがこれについては実戦段階でさえないという言葉が正しいと理解出来る。

 そうしてカイトから放たれていた闘気が一気に彼の身体へと収束していき完全に彼の身体の内側へと凝縮され、彼の手を通して幾重にも折り重なり、剣を包み込んだ。それはまるで、刀が彼の身体と完全に一体化したかのような錯覚を大鎧へと与えていた。


「・・・神陰流(しんかげりゅう)奥義・・・」


 この瞬間。大鎧にはたった1秒にも満たない時間がまるで永遠にも感じられた。ある種の神々しささえあった。おそらくこの剣技こそが究極と呼べる剣技なのだろう、と直感で理解出来るほどだった。


「<<剣心一体(けんしんいったい)>>」


 カイトが口決を唱えると同時。何かが起きて大鎧は一瞬で勝てない、と理解する。この奥義は使わせるべきではなかったのだ、と剣士としての本能が悟ったのだ。そうして、獰猛さと静謐さを兼ね備えたカイトが口を開いた。


「これはまだ一分しか使えなくてな。一分耐えきれば、そちらの勝ち。その間に仕留めきれれば、オレの勝ち。その鎧の内側の綺麗な姿を見せてくれや」


 カイトの言葉に大鎧は一切の感情を露わにしない。そんな事が出来る余力がなかった。これは観客達にはわからない感覚だ。相対する者だからこそ、そして曲がりなりにも格が違うとカイトや武蔵をして言わしめたからこそ、わかるのだ。そんな領域だった。


「さぁ、行くぜ」


 カイトが何らかの構えを取る。そうして、大鎧に向けて一歩を踏み出した。その踏み込み速度は今までとは桁違いで、それどころか先の超速と比べてさえ圧倒的な速さだった。が、その次の瞬間。お互いに全く別の力によって、戦いを止める事になった。


「『っ!』」


 だんっ、と地面を蹴ったはずのカイトと、それを決死の意思で受け止めようとした大鎧の二人が同時に気配を変える。そうして今までとは別種の警戒感を浮かべ、同時に同じ方向を向いた。


「・・・わかったか?」

『・・・』


 カイトの言葉に大鎧も無言で応ずる。その気配は静謐だが、どこか今までとは別種の真剣さを滲ませていた。そうして、二人は同時にお互いに対して放っていた闘気を収束させた。戦える状況では無くなったのだ。


「ちっ・・・邪魔が入ったな。残念だが、これで終いだ」

『・・・』


 カイトの言葉に大鎧は再度無言で応ずる。が、それに観客達は困惑するだけだ。外の言葉が聞こえない様に、内側の会話は外では聞こえないのだ。

 そして困惑していたのは、観客達だけではない。大会の実行委員達もまた、唐突に何故か戦いをやめた二人に困惑していた。彼らもどんなやり取りが行われたかわからないのである。とは言え、その為の立会人でもあった。そうして、即座に立会人がやってきた。


「どうしました?」

「邪魔が入った」

「はい?」


 立会人が困惑する。この戦いの場には二人以外には誰も入っていない。二人以外に入ったのはこの立会人だけで、その彼にしても戦いの場のすぐ外に立っていた。決して、誰も一度たりとも会場に触ってはいない。が、それは正しい。全く別の所で起きていた事だからだ。


「・・・外。何らかの戦いが起きて、誰かが殺されたな。片方はかなりの使い手だ。そしてもう一方は・・・」


 カイトは説明を求めた立会人に事情の詳細を伝える。そうして、一度言葉を切った彼は、残りの言葉をはっきりと口にした。


「超級の使い手だ。もう一方の使い手も決して弱くはなかった。こちらはおそらく大会の参加者と見て良い。が、それが圧倒的な差で敗北した。戦っていられる場合じゃあ、無いな。少し借りるぞ」

「あ、ちょっと!」


 カイトは立会人の付けていたヘッドセット型の魔道具を強奪紛いに借りると、即座に外へと連絡を取る。この結界の外と内で連絡が取り合えるのはこの魔道具だけだ。これ以外に手はなかった。


「先生。聞こますか?」

『ああ、うむ・・・残念じゃのう』


 カイトの言葉を受けた武蔵が非常に無念そうに応ずる。どうやら、彼も感じたようだ。


『一瞬じゃったのう。相手は物凄い猛者じゃ・・・少し待っておれ』


 どうやら、武蔵が大会の実行委員達に何が起きたかを説明してくれるようだ。が、そんな必要はなかった。段々と観客達にざわめきが広がっていっていたのだ。もしかしたら、獣人が濃密な、それこそ誰かが死んだとしか思えない程に濃密な血の匂いに気付いたのかもしれない。と、その一方でカイトは無闇に動くわけにはいかない、と借り受けたヘッドセットを立会人へと投げ返す。


「ほらよ」

「あ、はぁ・・・」

「やれやれ・・・とんだ邪魔が入ったもんだ」


 カイトは状況の推移を見守りながら、そう愚痴る。流石に近くで殺しを行われて平然と戦えるほど、彼らも異常な精神を持ち合わせてはいない。こうなってはもう今日の仕合続行は不可能だろう。

 少なくとも、状況が分かるまでは戦えない。殺しだ。もしこれが何らかの敵の攻撃なら、と考えるとまともに戦えるはずがなかった。


「はい・・・はい・・・はい・・・」


 カイトと大鎧が状況の推移を待つ一方、立会人は外の実行委員と話していた。そうして、どうやら結論が出たようだ。


「申し訳ありません。お二人のおっしゃられる通り、外で事件が、と・・・仕合はここで一時中断、という形を取らせて頂きたいのですが・・・」

「オレは了承だ」

『・・・こちらも同意する・・・』


 カイトと大鎧は揃って大会側の申し出を受け入れる。そもそも勝手に中断していたのだ。文句なぞあろうはずがない。そうしてカイトと大鎧の戦いは望まぬ形で、終了することとなるのだった。

お読み頂きありがとうございました。この決着はまたの機会に持ち越しです。

 次回予告:第1104話『大会の裏で』

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