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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第57章 剣士達の戦い編

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第1093話 予選大会 ――開幕――

 『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の予選大会へと参加したカイト達冒険部一同。そんな一同であったが、今回は武蔵からの命により各個人が独自に動く事を余儀なくされていた。

 というわけで、カイトもまた個人で動いていたが、控室に入っても誰も見ないというわけではない。最近滅法避けられている少女の事を僅かに観察していた。


「・・・動きに固さは・・・無いな」


 カイトが気にしていたのはやはり暦だ。が、どうやら動きに迷いがあったり、刃に迷いが生まれている様子はなかった。そこだけは、安心という所だろう。


「先輩は・・・なんとか、か。流石に暴れたそうにはしている様子だが・・・とりあえずはそれを抑えきれなければ、未来はない」


 次にカイトは瞬を見て、わずかに苦笑を浮かべる。やはり戦国乱世の世を生きた『もののふ』という所なのだろう。血の疼きというか、魂の疼きを抑えるのに精一杯の様子だった。

 とは言え、それを使いこなすのが今回の目的だ。自分でなんとかしてもらわねばならないだろう。勿論、この状況ではまともには戦えない。暦との勝負も見えている。

 が、それでも良い。というより、勝てては駄目だ。勝てるということは即ち、豊久の力が表に強くでてしまっているということだ。抑えきれていないという事の証明と言っても良いだろう。今回、彼はどうにかして負けねばならなかった、と言っても良かった。


「さて・・・」


 カイトはとりあえずめぼしい面子の状況を確認すると、次に最終決定が成されたトーナメント表を再度確認する。


「オレは青の17番、と・・・」


 『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の予選大会はトーナメント形式で行われ、4つのブロックに別れて戦いが行われる。この各ブロックの勝利者達にはこの時点で大会の賞金及び副賞であるシード枠が与えられる事となる。

 更にその後の総合優勝を決める準決勝からはそれぞれの優勝者が戦う事になるわけであるが、この場合カイトが戦う事になるだろうというのは赤ブロックの優勝者だ。アル達が属する白ブロックであれば、黒ブロックの優勝者だ。つまり、大鎧というわけである。


「・・・聖域の主と戦えるのであれば、決勝戦だけか」


 カイトはこの大会で最も強いと目される相手と戦う状況を推測する。カイトとしては嬉しい事に、どうやら最強の相手とは最後に戦えるようだ。そうして、カイトは大鎧に勝つ為の必須条件を口にした。


「どこまで力を抑制して戦えるか、に勝利の鍵がかかっているな・・・」


 カイトは周囲を少しだけ観察して、大鎧以外の武芸者達を確認する。何人かは、確実に猛者と言える使い手が居た。そしてこの相手の何人かは、確実に自分と同じブロックに名を刻んでいるだろう。その相手と如何にして良い意味で手を抜きながら戦うか。それが、優勝するには肝要だ。

 特に今回、カイトは自分の戦い方と言える『スタイル・チェンジ』も武器のスイッチも使えない。刀一つで勝ち残らねばならないのだ。ラストに強敵が控えている以上、なるべくスタミナと手札は温存すべきだろう。


「厄介だなぁ・・・」


 カイトは口で厄介と言いながら、顔に獰猛な笑みが浮かぶのを止められなかった。楽しくて仕方がない。彼も武芸者である以上、血のざわめきだけは抑えようがなかった。

 と、そうして血の猛りを抑えるカイトであったが、その後すぐに大会の実行委員が現れた。彼は手にメガホンの様な魔道具を持っており、選手達に向けて口を開いた。


「ではこれから大会を開始します! これ以後、大会終了まで敗北した選手以外の各ブロックの会場への往来は禁止となります! 勿論、遠視等による魔術での覗き見も厳禁! 発覚次第失格処分とさせていただきます! もし他ブロックの選手に御用の場合は、今ここでお済ませください! では、準備が整った方から各ブロックの試合会場へと移動してください!」


 大会の実行委員が声を張り上げて、最後に注意事項の再度の説明と移動を促す。この大会はなるべく事前情報無し――大会外での偵察等は有りだが――で戦う事を強いている。故に、選手が空き時間を利用して別ブロックの選手の戦い方を手に入れる事は禁止されていたのである。

 というわけでカイトは青ブロック以外の戦いには関与出来ないし、学園のトーナメントの様に観戦も不可能だ。後は、個々の実力を信じるしかなかった。


「さて・・・行くか」


 カイトは誰とも言葉を交わす事なく、歩き始める。すでに至る所で張り詰めるような空気が蔓延しており、誰かに話しかけられる空気ではなかった。

 そして残念ながら、青ブロックに彼と親しい相手は藤堂ぐらいなもので他には殆ど居ない。そして藤堂にしても、こんな場で話しかけるべき相手でもない。というわけで、ほぼ無言で青ブロックの試合会場へとカイトはたどり着く。


「ふむ・・・」


 カイトは仕合の会場を観察する。戦場となるのは、一辺50メートルほどの正方形の領域だ。この周囲は結界に覆われている為、攻撃が外に飛び出たり試合会場の外に出て脱落という事はない。逃走は出来ない様になっていた。

 それが、一つのブロックにつき二つある。計八仕合が同時に行われるのである。人数が人数だ。同時に幾つも行うのは当然であった。


「さて・・・」


 カイトは椅子に腰掛けると、とりあえず自分の順番までゆっくりとすることにする。同時に二組の武芸者達が仕合を行う形だ。なのでカイトは第5仕合という所である。一方の藤堂は第3仕合で順当に行けば、カイトとは第三回戦で戦う事になっていた。


「では、番号札青の1番から4番の方は前にお進みください! 青の1番、2番の方は右のバトルフィールドへ! 青の3番、4番の方は左へお願いします!」


 大会の実行委員の一人が声を張り上げて、該当する武芸者達に呼びかける。それを受けて、すでに立っていた4人の武芸者達が試合会場へと入っていく。


「並、というところか」


 カイトの横の腰掛けた武芸者がそう呟いた。そして、カイトもその見立てに賛成したい所だ。この4人の武芸者の力量は並程度という所。腕試しに参加したという所だろう。

 敢えていうのであれば、冒険者としての実力はCという所だろう。実戦ではない仕合でどこまで通用するかは未知数であるが、数ヶ月の修行を経た藤堂であればどの相手でも下せる力量であった。そうして、カイト達が武芸者達の力量を測っている間にいつの間にか仕合開始の準備が整っていたようだ。


「仕合、始め!」


 会場の直ぐ側に立った実行委員が開始を告げる。彼がこの仕合の立会人、もしくは審判の様な立ち位置で、中津国から派遣されてきた者だった。

 基本的に仕合の立ち会いは中津国の担当者が行う事で、公平性を担保していたのである。そうして、その開始の合図と共に両者が同時に地面を蹴った。それに、カイトは僅かに首を振って嘆きを見せた。


「まぁ・・・見る必要はなさそうか」


 カイトは小声でそう呟いた。これは仕合だ。礼さえも出来ていない未熟者。腕としてはそこそこであるが、心技体が整っていない。見るに値しない武芸と言えた。というわけで、カイトは少しだけ嘆息しながらも目を閉じて、高ぶる気を鎮める事にする。


「・・・」


 カイトが考えるのは、この仕合の事ではない。いや、正確にはこの仕合の事であるが、考えるのは大鎧を身に纏う聖域の主の事だ。間違いなく、この大会で最強の敵はあの大鎧だろう。その攻略法を見つけ出さねばならなかった。


(あの大剣・・・かなり使い込まれていた・・・大鎧もかなりの使い込みかと思ったが・・・)


 カイトは少しだけ訝しむ。大剣にはかなり使い込まれた跡があり、この使い手が相当な激戦を越えた猛者である事が察せられた。

 あれが大鎧の背にまるでそこにあるのが自然な如くに馴染んでいた事を考えれば、この大剣は誰かから受け継いだ物ではなく大鎧こそがこの大剣を愛用している者であると断言して良いだろう。もし受け継いだとしても、長い間使ってきた事が察せられる。

 だが、ここでカイトが気になったのはその大鎧の事だ。大鎧が身に纏う大鎧ははっきりと言ってしまえば、そこまで激戦を繰り広げた形跡が見当たらない。これは違和感だ。


(大鎧は後で仕立てたのか? あの傷の刻まれた様子からみて、あれを装備する事にしたのはここ数ヶ月の事と断言して良い。それに対して、大剣は数年以上の月日を掛けて刻み込まれている。下手をすると数百年単位で使い込まれた可能性もあるな・・・どこかの由緒ある名剣。既視感はその所為か?)


 カイトはこの大鎧が大鎧を身にまとったのがごく最近である事を読み取っていた。つまり、大鎧はなんらかの理由があってあの特徴的な大鎧を身に纏う事にしたと考えて良い。その理由を、カイトは推測する。


(怪我・・・は無いな。あいつの動きに淀みはなかった。顔を隠す意味・・・仮面で十分だろうな。大鎧そのものに特殊な力が存在する・・・大会の趣旨から外れる為禁止されている・・・)


 カイトは己で意見を述べて、己で否定していく。考えられる事は無いのだ。であれば、消去法で答えを探るしかなかった。


(ふむ・・・)


 カイトは少しだけ、見えぬ敵に眉を顰める。見た目は重要なファクターだ。外見で判断してはならない、と人は言うが外見も重要なファクターである事には違いがない。

 体躯が大きく重武装であればパワーファイターであると推測出来るし、カイトの様な体躯と装備であればスピードファイターである事が推測される。重要なファクターだ。勿論、それがブラフの可能性もある。そこは要注意だ。


(・・・であれば・・・)


 カイトは幾つもの可能性を切って捨てて、幾つかの可能性に絞り込む。


(一つは、どうしても身体を晒せぬ理由がある。どこかの貴族である場合だな)


 カイトはまずひとつ目の理由を考察する。この場合、大鎧を身に纏って出場したのは家の事情と言える。もしくは周囲が出るなら怪我をしないように、とこれを条件として出した事も考えられる。

 そしてあの聖域の主でもある。あの程度のハンディキャップであれば、普通なら問題なく優勝出来るだろう。よしんば腕利きが紛れ込んでいてもくじ運に恵まれない限りは、シード枠は確定だ。当人も問題ないと受け入れた可能性は無くはない。


(もう一つは、手を抜いているか、だな・・・)


 カイトはもう一つの理由を考察する。この場合、大鎧は単なる手抜き、この程度は余裕だという余裕の表れと見て良い。もしくは、敢えて己を追い込む為の枷に近い物と考えて良いだろう。


(この場合は・・・)


 カイトは一瞬だけ、気配を獰猛な物へと変貌させる。この場合だけは、カイトも文句がある。彼とて武芸者だ。容赦をされて喜ばしい事であるはずがない。であれば、だ。


(見極めてやるか・・・)


 カイトはこの大会を本気で優勝を目指す事にする。大鎧がどういう事情なのかは知らないし、知る由もない。ないが、お家の事情等でないのなら、本気にさせてやるだけだ。と、そうして改めて目を見開いたところで、どうやら第一仕合は終わっていたようだ。次の仕合が始まろうとしていた。


「青の番号札5番から8番の方は前にお進みください!」


 声に従って、藤堂が前へと歩いていく。その歩みに淀みはなく、揺るぎもない。やはり仕合という形式が良かったのだろう。彼からしてみればこれは慣れ親しんだ土俵の上だ。どこか懐かしさを感じていて、そして足取りは軽やかでさえあった。


「・・・負けは・・・なさそうだな」


 カイトは安堵を滲ませる。今の藤堂には心技体の全てが揃っている。格上も格上すぎれば勝ち目は無いが、それでもこの様子ならランクBクラスの実力者だろうと勝ち得るだろう。同格相手程度であれば、負ける可能性はゼロと断言してよかった。


「右、柳生新陰流やぎゅうしんかげりゅう藤堂 兼続! 左、エクスレイン流 ベイン・ウードニア!・・・仕合、始め!」


 大会の実行委員がそう告げる。それに合わせて、藤堂はまるでこれが剣道の仕合であるかの様に正眼の構えで一礼する。が、それを隙と見て取った相手選手が、その隙に地面を蹴っていた。


「駄目だな」


 カイトが呟いた。相手選手の一撃は戦術としては正しいかもしれないが、心技体の心を欠いた一撃だった。僅かに焦りが見え隠れしていた。見たところ藤堂と相手選手の力量にさほどの差はない。それ故、焦りが出て気が逸ったという事なのだろう。武蔵が来た、ということで緊張していたのかもしれない。そこは、カイトにはわからない。

 それに対して元々藤堂は日本で有数の剣士だったのだ。そこに魔術が加わっただけで、才能と力量についてはさほど変わっていない。剣士としての才能であれば、カイトをも上回っているだろう。瞬の槍の才能と同格か、少し下とみなせる。


「・・・」


 藤堂は突撃してきた武芸者に対して、一切の驚きは浮かべなかった。まぁ、見ていたのだから当然だ。精神を研ぎ澄ませた彼にとって、その一挙手一投足はまるで止まって見えた事だろう。


「ふっ」

「「「おぉおおお」」」


 会場に居た武芸者達――そして仕合を見ていた観客達も――が一斉に感嘆の声を上げる。藤堂は突進してきた相手選手をわずかに軸をズラして回避すると、そのまますれ違いざまに流れる様に刀で横薙ぎに一閃。一撃で勝敗を決めていたのである。


「心技体の整い具合が違ったか」


 カイトは小声で両者の差をそう結論付ける。結局、それが答えだ。相手選手と藤堂は心技体の内、『技』は同程度、『体』は相手が少し上という所だった。が、精神面、つまりは『心』が大きく違っていた。そこが、勝負を分けたのである。


「妥当な結果か」


 カイトは藤堂の勝利を喜ぶ事もなく、再び瞑想に入る。そうして彼は己の仕合まで、逸る己の気持ちを鎮める事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1094話『本格的な戦いへ』

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