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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第57章 剣士達の戦い編

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第1090話 武闘大会

 『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』という中津国で開催される世界最大の武闘大会へのシード枠獲得の為、マクダウェル領のとある街にて行われる事になった武闘大会に参加する事になったカイト達冒険部剣士勢と瞬。

 彼らは街に着くととりあえずの歓迎を受ける事になったのであるが、その時に中津国から来た監督の大会役員の一人から直々に大会の概要が説明される事となった。


「さて・・・皆さん、はじめまして。この街にて大会の実行委員のまとめ役なぞを担っております日輪(ひのわ)と申します」


 カイト達の前で、着物姿の和風美人が頭を下げる。今回中津国からやってきた大会の監督役の一人らしい。役職としては中津国では燈火の部下だそうだ。文官と言うところだろう。一応不正防止の為に武官も同行しているそうだが、こういう説明は彼女に預ける事になっていたらしい。


「日輪、ねぇ・・・」


 カイトは『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の説明から入る事にしたらしい和風美人を見ながら、密かにため息を吐く。艶やかな黒髪が印象的な、お淑やかな和服美人。そう言う印象を受けるが、彼にはため息しか出せなかった。とは言え、そんな彼の呆れを他所に話は始まっていた。


「『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』はすでに1000年以上続く世界的な祭典です。世界で一番強い武芸者は誰か・・・それを決める戦いと言えるでしょう」


 日輪は一同へと『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の意義を伝える。それ故本来ならば槍と剣以外にも様々な武器種を認めるべきなのであるが、そこは仕方がないと言うべきだろう。

 雑多な大会も良いと言えば良いが、それでは武器の有利不利でカイトの様な存在が有利になってしまう。故に、ある程度の限定はしていた様だ。


「それで、大会のルールですが・・・基本的には、『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』に準じたルールで行われます。それ故、得物を持ち武芸を披露していただけるのであれば、他のルールは無用とさせて頂いております。時間無制限の一本勝負。勝敗は相手を参ったと言わせるか、完璧に一太刀浴びせるか。ただし、あまりに逃げを打つ様であれば、戦意喪失と見做し失格とさせて頂く事もございますのでお気をつけなさいませ」


 日輪は一同へ向けて、改めてルールを明言する。そして勿論、ルール無用と言ってもある程度のルールはあった。


「また、ルールは無用と申しましても殺しは御法度。これは仕合であって、死合ではございませぬ。それだけは大会のルールとして、定めさせて頂いております。それ以外でしたら大会外での無作法、例えば人質を取ったり八百長を持ちかけたりを除けば、だまし討や砂かけ、不意打ち等一般には卑怯と申される事も許容範囲内、とさせて頂いております」


 鈴の鳴る様な声で、日輪はかなり物騒な事を明言する。まぁ、言ってしまえば限りなく実戦に近い、と言う訳だ。


「今年の本大会・・・いえ、この場合はこの街で行われる大会ですが、それでおよそ300人の参加者が見込まれます。参加者は皆様で例えるのであればそれこそランクはSの冒険者から、下は未だ何ら名を持たない無名の者まで様々。が、無名なれど容易いとは思いなさいますな。誰も彼もが、腕に覚えの有る武芸者ばかり。数名の優勝者はこの大会で名乗りを上げ、歴史に名を残されております・・・ゆめ、名も無き相手と油断なさいませぬよう」


 日輪は一応、カイト達へと忠告を送る。そして、それはそうだろう。無名だから、と油断出来る訳が無い。カイトは無名から最強にたどり着いている。

 それに大半の英雄と呼ばれる奴は神の子や何処かの国の王族でもない限り、無名から始まっているのだ。この世界最大の祭典から名を馳せた武芸者は少なくなかった。無名だから、と油断出来る要素は一切無かった。


「ああ、本大会の日程を申しておりませんでした。大会の日程は明後日より延べ二日。朝は8時から、夕刻は逢魔が刻まで。皆様は夜闇に紛れても戦えますでしょうが、客はそうも言ってはいられません。故に、逢魔が刻を最後の仕合とさせて頂きます。本戦は雨天続行なのでありますが、予選は皆様が体調を崩さぬ様雨天の場合は翌日に延期という形を取らせて頂きます」


 最後に日輪はこれはうっかり、という具合で一同に日程を明言する。明らかに演技の様相があったので、このうっかりはわざとと見て良いだろう。


「以上が、大会の主要なルールとなります・・・何かご質問はございますか?」

「『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の日程は?」


 日輪の問いかけに藤堂が問いかける。これは『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の為の予選でもある。であれば、それに向けて調整などもしなければならないだろう。確かに、聞いておくべき事だった。が、これに日輪が僅かに困った顔をする。


「それについては、秋の中旬から下旬と」

「定まってはいないのですか?」


 藤堂は僅かな驚きを抱きながら更に問いかける。驚いたのは大会までかなりの日数があったからだ。今は秋の2月。中旬から下旬という事であれば、およそ7月から12月までの何処かということだ。

 おおよそ地球で半年程度の時間が空く事になると言って良いだろう。確かに、予選が今である事を考えれば、長いだろう。そんな彼の表情に浮かんだ困惑を、日輪は見て取っていた。


「申し訳ありません。大会の予選は世界中で行われる事になっております。それ故、各地での調整もございましてエンテシア皇国にお住みの皆様方にはおまたせしてしまう事になってしまうのです。特に今年はルクセリオン教国も参加の意向を示してくださっておりまして、少々日程に余裕を持たせております」

「『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の予選大会はここが一番始めなんだ。そこから、ぐるりとエネフィア全土を一周する事になるからね」

「ああ、そう言う・・・」


 アルの補足に、藤堂が納得する。中津国と一番近い国は、と言うとエンテシア皇国に他ならない。そして大会を全世界で一斉に、と言うのは情報通信技術がまだ発達していないエネフィアでは厳しいものがある。大会役員達の移動や各地での調整等を考えれば、確かにそれ位は必要なのかもしれなかった。そうして、更に日輪がその解説を引き継いだ。


「ありがとうございます。その通りなのでございます。更には大会に参加する人数等を把握し、そこから観客数等を鑑みて本国での用意を整える必要もあるのです。その結果、大会の日程は大きく余裕を持たせて頂いております」

「そうですか。わかりました、ありがとうございます」


 続いた日輪の解説に、藤堂が頭を下げる。地球と同じに考えていた、と自省していた様子であった。エネフィアで世界大会を開くのであれば、それ相応に準備が必要なのであった。


「はい・・・他にはございますでしょうか?」

「シード枠の内訳は?」


 日輪の問いかけにカイトが問いかける。今回、彼はこのシード枠を手にする為にここに来たのだ。得られないとは思っていないが、それでも目標は知っておくべきだろう。


「大会の準決勝まで残られたお四方に賞品として一つずつ。残り一枠は本大会の実行委員と我々の協議により、エンテシア皇国出身者に対して与える事になる見込みです」

「そうですか・・・わかりました」


 カイトは日輪の解説を受けて、最低でも準決勝までの進出を決める。日輪は彼らの前で敢えて『エンテシア皇国出身者に対して』と明言したのだ。つまり、地元枠と言っても良い。

 母数の多さや他国からの来訪者達の数を考えて、万が一エンテシア皇国出身者が誰一人残らなかった場合に備えていたのだろう。これにカイト達は入らぬと見て良いだろう。であれば彼は必然、賞品の四枠に入り込まねばならないという事だ。


「他には・・・ございませんね。では、私は失礼いたします」


 日輪は一度全員を見回して誰にも疑問が無い事を確認すると、一礼してその場を後にする。そうして日輪が去った後。武蔵が一同へと明言する。


「うむ。これで大会の概要はわかったな? では、明後日に備えて本日より自由にいたせ。儂は何も言わぬ。どの様に休むも好きにいたせ。そしてカイトよ。お主も何も言うてはならん。これよりお主らは剣客として、対等に立つ。ギルドマスターとしての立場も、学園生としての立場もここでは忘れよ」

「わかりました」


 武蔵の命にカイトは深々と頭を下げる。それが師匠よりの命令だというのであれば、彼には聞くしかない。であれば、後は本当に何も言わず任せるしかないだろう。

 と言う訳で、その後はカイトの指示もなく一同は三々五々に散って行く。と、そうして全員が去った後。残ったのはカイトと武蔵だけだ。


「・・・はぁ」

「苦々しいため息じゃのう」


 武蔵が楽しげに笑う。このカイトの深い溜息の原因は彼は理解していたのである。


「どうしますかねー、これマジで」

「うむ、それのう・・・まさかまだ続いておったとは儂も思うておらんかった」


 カイトの言葉に武蔵もため息を吐く。さて、この二人が何を話し合っていたかと言うと、簡単である。今回、カイトは剣道部の部員達を中心としてやって来た訳だ。

 であれば、カイトの後ろを付いて来ていそうな少女も居るはずなのである。それが居ないのなら、理由があった。相も変わらず避けられていたと言う訳であった。とは言え、今は実は前とは事情が違う。


「それがねぇ・・・実は魅衣とかにも助力を頼んだんですが・・・いや、マジ駄目でした」

「やれやれ・・・ふぅむ。どうするかのう・・・」


 カイトと武蔵は揃って暦をどうするかを考える。一応、彼女の剣に迷いは出ていない。どうやらカイトを忌避するなどの事は無く、そう言う面での迷いは晴れたらしい。

 だが、暦がどう言う結論を出したかはカイトもわからないが、彼女の出した結論は己をカイト周辺から遠ざけると言うものだった。故にカイトが頼める相手では暦に取り付く島も無いのである。結果、夏の終わりの修行開始より殆ど話せずじまいであった。何かがあって変化したとは思うのだが、その何かがわからないのだ。彼女の周囲に探りも入れてみたが、どうやら誰にも何も語っていないらしい。


「・・・何か考えられんのか? お主の事じゃ。こう言う事は幾度か経験していそうなものなんじゃがのう」

「まぁ、あるっちゃあるんですが・・・」


 武蔵の問いかけにカイトが僅かな苦味を滲ませる。経験の有無で言われれば、こう言う風な唐突な態度の変化も経験していると言える。言えるが、残念ながらここでどうしようもない事情があったのである。


「実は昔はローデリアさんに相談してまして・・・彼女、昔は色々とあったらしいのでそう言った色恋沙汰の悩みをよく聞いてくださってたんですよ」

「む・・・それはあの御老輩か? 酒場の奥方の母君の・・・」

「ええ・・・そのローデリアさんです」

「それは・・・致し方がないのう」


 カイトの苦味を滲ませた返答に武蔵も苦味を滲ませる。武蔵が苦味を滲ませ御老輩と言うのだ。考えなくてもわかろうものであるがそれは300年前の時点での話であり、すでに死去していたのであった。

 ちなみに言えば冒険部が愛用している西町の酒場の初代店主の奥さんだったそうである。そこらで世話になっていた為、カイトが日本料理を教えていたらしい。愚痴を聞いてもらったりしていたそうだ。


「はい・・・オレが地球に帰った翌年にぽっくりと老衰で逝っちまったらしいですからね。最後はまるでこれで心配事は無くなったかの様に笑っていた、とユリィが」

「ふぅむ・・・とは言え、あのままでは些か見るに耐えん。剣で語り合える様な輩でも無いからのう・・・」


 武蔵は現在の暦を僅かに危惧していた様だ。確かにまだ大丈夫な領域らしいのであるが、一歩間違えばどう言う不測の事態が起きるかわからないらしい。

 一応自棄になり見境なしに男に走らぬ様に剣道部の女子勢には注意させているが、それもどこまで何とか出来るやら、と言う話だ。早急に対策は立てねばならなかった。


「しゃーないのう。ここは一つ、大会でなんとか近づけるかやってみるしかあるまい」

「確率、むちゃくちゃ低いですよ。てか、出来ますかね。ここらで男が近づいて面倒な事になりかねない、ってのがオレの経験から来る答えなんですが」

「わーっとるわ、んなもん。が、今の儂らに出来る事はそれ位しかあるまい」

「そうなんですよねぇ・・・」


 武蔵の言葉にカイトは再度、深い溜息を吐いた。どうにかしたいのであるが、どうにか出来ないのが現状だ。かつて桜にもカイトが言ったが、こちらが避けられていてはどうしようもないのである。


「はぁ・・・最悪、キリエにでも頼んでみるか・・・」


 カイトは己に近くなく、それでいて同年代となるとキリエ位しか思い浮かばなかった様だ。彼女も結構サバサバした性格だ。そして学校は違えども生徒会長でもある。

 そう言う相談を受けた事位はあるかもしれなかった。であれば、何とか取り付く島位は見付けられるかもしれないと思った様だ。そうして、カイトと武蔵は暦への対処を考えながら、その場を後にするのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1091話『ある種の聖域』

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