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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第57章 剣士達の戦い編

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第1089話 剣士達の大会へ

 武蔵の誘いと燈火の依頼を受けて『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』という世界最大規模の武闘大会への出場を決めたカイト達は、更にアルとルーファウスの二人を一行に加えて向かう事にする。というわけで、決定の翌日。カイト達は早速移動を開始していた。


「ふぁー・・・」


 出発した冒険部一行であったが、やはり単なる遠征、それも今回は危険性皆無の遠征である事もあって今回はのんびりとしていた。しかも一日で着く距離であった事もあり、荷物は最低限だ。なのでカイトは荷馬車の上で呑気にあくびをしていた。


「空が青いのう・・・」

「ですねぇ・・・」


 師弟並んで同じように寝っ転がる武蔵が告げると、カイトもまた同じように呑気に応ずる。流石に今回は武蔵も道中のんびりとしたもので、剣士としての気は張っていなかった。と、そんな武蔵が呑気にカイトへと問いかけた。


「そういや、お主・・・今回はどの剣技で行くつもりじゃ?」

「あー・・・どうしましょ。なんも考えてないです。唐突だったんで」

「ふむ・・・まぁ、別に儂が出向いておる以上、姫の剣技以外は使えようがのう・・・」

「そうなんですよねぇ・・・いっそ新陰流でも良いかもしれないですけどねぇ・・・」

「表の陰流か・・・カウンター狙いの一点張りも良いかもしれんのう・・・あれはこちらには無い流派よ。演し物としては良いやもしれんな・・・」


 カイトの呟きに武蔵がぼんやりと応ずる。二人共、完全に気を抜いていた。しかも道中は基本安全な行路だ。冒険部の面子にしても魔物が出ても準備運動程度にしか、考えていない。


「あ、兎にも角にもお主、優勝じゃから」

「えー・・・」


 武蔵の命令にカイトが不満げな声を上げる。まぁ、カイトで優勝出来ないクラスの地方大会になると、それはもう武蔵が是が非でも出たがりかねない領域だ。というより、下手をすると乱入という可能性があり得る。そこら、彼は老人の癖に子供っぽかった。というわけで、カイトが


「はぁ・・・となると久々に先生の流派使いますかねー」

「ふむ・・・まぁ、儂の武芸だけでは演し物としてはつまらぬ様な気はせんでもないが・・・所詮は演し物。手の内を明かす必要もあるまいか」

「なんだかんだと言いつつ、所詮仕合なんぞ見世物ですからね」

「ま、そうじゃのう・・・そこら、お主の好きにいたせ。流石に師匠が皆伝を授けた弟子に試合で逐一指示を出しても可怪しかろう。神陰流ぐらいなら、儂の方で適当に言い繕ってやろう。どうせ日本の武芸なんぞ儂以外には詳細は誰もわからんのじゃからのう」

「確かに・・・じゃ、ちょいとのんびりやりつつ、猛者が居れば神陰流で行きますかね」


 カイトは武蔵の言葉に手を太陽に向けて、呑気に答えた。と、そんな二人であるが、同時に何かに気付いて顔を上げる。


「「・・・む」」

「どちらが?」

「ふむ・・・譲ろう。少し肩慣らしでもしておけ」

「あいさー」


 顔を上げたもののカイトの問いかけに再び寝転がった武蔵の言葉に、対するカイトは立ち上がる。今回、急ぎの旅では無いが冒険部で使う地竜達を使えるので移動は竜車だ。なので魔物は滅多に近寄らないのであるが、それもゼロではない。どうやら、魔物が近寄っていたようだ。


「さて・・・どう料理するかね・・・」


 カイトは飛来する鳥の様な魔物を見る。群れではないらしいので、数は一匹。しかし大きさは巨大で、ランクはBという所だろう。どうやら地竜達さえ屠れる様な魔物の縄張りが近かったらしい。と、その巨体故にすでに冒険部でも気付いていたようだ。瞬が顔を出した。


「カイト! どうする!」

「どうする、ねぇ・・・とりあえずそのまま走らせ続けろ!」


 瞬の問いかけにカイトは即座に指示を与える。と、その間にもすでに攻撃が仕掛けられており、鳥型の巨大な魔物はその巨体に見合わぬ素早さでそれを回避していた。曲りなりにもランクBという事なのだろう。瞬なら命中させられるが、どうするか思案中という所だった。そんな巨体に似合わぬ軽やかな回避を見て、武蔵が笑いながらどこからともなく取り出した団子を頬張った。


「まるでツバメじゃな」

「呑気ですねぇ・・・」

「お主がどうにかせい、と言うたじゃろ。であれば、師はただ呑気に構えるのみよ」

「はいはい・・・にしてもツバメ、ねぇ・・・」


 カイトは軽やかな動きでこちらの攻撃を回避しつつ距離を詰める魔物を見る。ツバメというには些か色がくすんでいるしそもそも黒色一色なのであるが、確かにこの軽やかさはツバメにも似ている。並み居る剣戟をひらりと躱し、ある種優雅にも見える飛翔だった。


「なら、これだな」


 カイトはツバメという言葉に触発されたらしい。どうやって料理するか決めたようだ。ツバメを切るには最適の剣技が、彼の手の中にはあった。


「っ!」


 一瞬、カイトから強大な圧力が放出される。それは巨鳥の様な魔物を射抜くと、その動きを一瞬だが停止させた。


「別に必要ないじゃろうに」


 そんなカイトへ対して、武蔵が呑気に告げる。何をするか理解していたらしい。それ故、動きを止める必要なぞ無いとわかっていたのである。


「曰く、<<燕返し(つばめがえし)>>は防いではならぬ」


 武蔵が告げる。それに合わせて、カイトが流れる様な動きで大太刀を鞘から抜き放つ。


「曰く、<<燕返し(つばめがえし)>>は避けてはならぬ」


 再び、武蔵が告げる。それに合わせて、カイトは一瞬だけ脇構えと呼ばれる型――切っ先を後ろに下げた構え方――へ移行する。脇構えは竹刀の長さが規定されている剣道では滅多に使われないが、長さが規定されていない真剣では非常に有効だ。故にカイトは普通に使う。そうして脇構えで構えたカイトは一拍だけ、溜めを作る。秘剣を使う為に呼吸を整えていたのだ。


「曰く、<<燕返し(つばめがえし)>>は打たせてはならぬ」


 武蔵は己の生涯の好敵手と言われる剣士の魔剣を、そう語る。そして、それと同時。カイトから発せられる圧力が一瞬だけ猛烈に膨れ上がり、しかしその次の瞬間。彼は身体から力を抜いて魔物へと背を向けて、そのまま鞘へと大太刀を納刀した。


「秘剣・・・<<燕返し(つばめがえし)>>」


 ちんっ、と澄んだ音が響くと同時に、まるで粉微塵になる様に魔物が吹き飛んで消え去った。それを見て、武蔵が最後に最も大切な事を告げる。


「曰く、<<燕返し(つばめがえし)>>から逃れた者はただ一人。その男の名を、宮本武蔵という」

「最後に自分の宣伝いれんでくださいよ。まぁ、合ってるんですけど」

「かかかかか!」


 カイトのツッコミに武蔵が大笑いする。と、そんな大笑いする武蔵に対して、カイトが呆れ返った。


「と言うか、今のあれはもう打たせてはならないレベル超越してるでしょ」

「儂が破った所為でな」

「ほんとに」


 武蔵の言葉にカイトは呆れを滲ませる。今使った<<燕返し(つばめがえし)>>は旭姫が日本で拵えた物を、今の技量で発展させただけの物だった。だがそれでさえ、魔物が灰燼と化した。これでまだ、完成形ではないのである。

 実は武蔵はこれをかつての巌流島の戦いにて打ち破っている。かつて彼らは八百長だと言っていたが、そんなわけはない。確かに殺し合いはしなかったが、それでも真っ当な戦いではあったらしい。

 そこで旭姫が己の生涯最後の剣技として放ったのが、この<<燕返し(つばめがえし)>>――勿論、技量は当時の物だが――なのであった。それが破られたが故、姫として生きる事を受け入れたのである。

 とは言え、それは佐々木小次郎という、おそらく剣の才能としては極点にある者の絶技と言うに相応しい剣技だった。そしてそれ故、武蔵も己の好敵手の剣技に僅かな畏怖を滲ませる。


「ま、あれは今ではもはや儂でも打たせてはならぬと思う。あれは打たれれば負けよ。完全な<<燕返し(つばめがえし)>>を打つには幾許かの条件があろうが・・・それ故、打たれれば終わりであろうな」

「あれはねぇ・・・」


 カイトも使い手として、<<燕返し(つばめがえし)>>の恐ろしさに同意する。今はまだ日本で開発された<<燕返し(つばめがえし)>>を使っていればこそ、なんとかなる領域だ。これがもしこちらに来て至った緋天の領域に達すれば、もはや防ぐ事は不可能だろう。そんな剣技だった。

 そうして、そんなここには居ない剣士の事を語り合いながら、二人は再び寝っ転がってぼんやりと過ごす事にするのだった。




 さて、それからしばらく。カイトは相変わらず武蔵と並んで寝転がっていた。男二人が酒盛りも出来ず並べばこんなものだろう。と、そうして再び武蔵が口を開く。


「にしても・・・わざわざ秘剣を使うほどの相手では無かったじゃろうに」

「ちょいと血が滾っているんでしょうねー」

「ふむ・・・それは仕方がなし」


 カイトの返答に武蔵は仕方がない、と同意する。彼とて武芸者。まだ見ぬ剣士と戦えるとあっては心躍らぬわけがない。それが喩え最早この世界では並び立つ者は殆ど居ない彼らであっても、変わらない。

 格下の相手だろうと彼らからすれば見たことのない相手。何をしてくるかわからない相手ということだ。楽しくないわけがない。


「とは言え、よ。お主にそれを、儂の秘剣を使わせられるだけの相手が居れば良いがのう」

「そりゃ、わっかんないですよー? 世界は広い。それこそ信綱公とて卜伝殿が現れるとは思っても見なかったんだ。もしかしてもしかすると、という事があるかもしれませんよ?」

「かかか。そりゃ、面白い。そして確かに道理ではあろうな。うむうむ、いっそ儂も出場しようかのう」


 カイトの言葉に武蔵が楽しげにそう述べる。そして、その言葉とほぼ同時に二人は顔を上げた。こんな話をしたのには、理由があった。街がもう近かったのである。


「立ち昇っておるのう」

「まったく・・・どいつもこいつも武芸者ってのは・・・」

「かかか。良いことではないか。剣士を前に猛る。剣士の性よ」


 二人の視線の先には、そこそこの大きさの街があった。人気はかなり多く、しかも荒々しい者が多い。


「さて・・・どこまでの猛者がおるかのう。冒険者は旅人故、時に化物が紛れ込む。どいつもこいつも喧嘩を売りまくっとるのう・・・」

「先生? 流石に誰も見えない時点から自分から喧嘩売りまくりはやめましょーぜ。あんたこっち来た時点で内面は60歳超えたガチの老人なんっすから・・・」


 老人には似合わぬ獰猛な顔で武蔵が刃を鳴らす。とは言え、カイトとてわからないではない。流石、武芸者達の祭典だ。誰も彼もがまだ見ぬ強敵に気圧されんと、そして己の武芸を誇る様にギラギラとした闘気を放っていた。


「かかかかか! これは良き闘気。どうやら、今年は大いに当たり年じゃ。剣士がこれで猛らねばなんという不格好よ。血肉は若返り、心持ちはかつてへと立ち戻る。これで猛らねば儂は死んだも同然よ」

「やれやれ・・・ホントに出る気じゃねーだろうな、この爺・・・どこが爺なのやら」


 武蔵の楽しげな言葉を聞きながら、カイトが呆れ返る。流石に武蔵がこの戦いに出るのは、彼が何より嘆いていた若い芽を潰す行為だ。流石にカイトとしても認められない。そして、武蔵もそうはしない。


「わーっとるよ。ここで潰せば儂の望み云々ではなく、武芸者として情けない。が、のう・・・カイト、わからぬか?」

「わかるから、こうやって呆れてるんでしょ?」

「む・・・かかか。巣立っても儂の弟子、という事か」


 カイトの言葉に武蔵が一本取られた様に笑う。カイトの顔はいつも通りに見えるのだが、敢えて言えばどこか獲物を見定める狩人の様な色が見え隠れしていた。カイトもまた、武蔵と同じ事に気付いていたのである。


「先生・・・ガチで優勝発言撤回してくんないっすか?」

「ならん。こうなれば是が非でも優勝せい。その代わり、大半の武芸を使ってもよかろう。存分にやれ。後始末は儂がしてやろう」

「うーっす」


 カイトは武蔵の許可に、今までの心構えを一転させる。今までは燈火の為に協力する、という程度のある種の演し物に近い心構えだったが、ここからは本気の剣士としての心構えに変えたのだ。そうして、その理由を武蔵が告げた。


「化物がおるのう・・・まだ芽じゃが、後には儂らに匹敵する化物に成りかねん芽がある。これでまだ、芽吹いた所程度か。こりゃ、相当な戦いになりそうじゃ」

「相当な、化物ですね・・・こりゃ、クオン連れてこなくてよかった。あいつなら、速攻喧嘩売りに行ってる領域だ」


 カイトは武蔵の言葉に応ずる様に、街に渦巻く闘気が尋常ならざる事を見て取っていた。この街に渦巻いていた闘気は明らかにかなりヤバイ領域の『剣豪(化物)』の芽が紛れ込んだ闘気だった。

 武蔵が、そしてカイトが興奮するのも無理はない。下手に戦えば、それこそカイトさえ容易く負かせるかもしれない化物が、この街に入っていたのである。まだ芽だが、スペックを落として腕一つで戦う仕合になれば油断できそうになかった。


「・・・で、カイトよ。お主、人に言うとりながら喧嘩売りまくりではないか」

「オレは若いから良いんっすよ。現在進行系でも先生が死んだとされる年齢の半分以下なんで」

「む・・・そう言われてはなんにも言えんのう」


 カイトの返答に武蔵は何も言えない。死した時点で60余歳の武蔵――しかも追加で600歳以上――が猛っているのだ。三十路前のカイトが猛っても不思議はない。


「しょうがない。これは本当にしょうがない」

「うむ、仕方がない。これは本当に仕方がない」


 師弟は揃って楽しげに、獰猛な剣士の笑みを浮かべ合う。どうしても血が滾るのだけは、仕方がない。そしてこの街に渦巻く闘気がここまでギラギラしているのも、仕方がない。これは剣士の性なのだ。剣士の性が、まだ見ぬ強敵を前にして血を疼かせていた。


「さて・・・降りるとするかのう」


 武蔵はそう言うのに合わせて、竜車がゆっくりと速度を落としていく。そうして止まった所には、街のお偉方と大会の実行委員、中津国から大会の監督に来ていた役員が立っていた。武蔵を呼んだのは彼らなのだから、理由なぞ敢えて語る必要もない。


「ミヤモト殿。お待ちしておりました」

「うむ。どうやら、今年は大当たりな様子じゃのう。今から楽しみじゃ」

「その様子で。誰も彼もがギラギラとしております」


 街のお偉方が笑顔で武蔵の言葉に応ずる。彼らは戦士ではないが、やはり長い間この大会を見てきたからだろう。今年は違う、というのが感覚的にわかったらしい。


「それで、彼らが先生のお弟子さんですか?」

「うむ・・・そこまで正式な弟子とは言えんがのう。まぁ、話は聞いておろう?」

「はい。こういう事が良いかはわかりませんが、良い目玉になってくれました」

「かかか。ま、それは良かろう。宿等は?」

「手配させて頂いております」


 武蔵の問いかけに街のお偉方が頷いた。そこらの手配は今回彼らに任せていた為、カイト達は何もしていなかった。


「では、皆様もこちらへ」


 街のお偉方がカイト達へと告げる。そうして、カイト達は『天覇繚乱祭(てんはりょうらんさい)』の予選大会にも近い武闘大会の行われる会場へと乗り込む事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1090話『ルール説明』

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