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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第57章 剣士達の戦い編

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第1086話 剣士達

 己の中に眠るかつての力を使いこなす為にカイトの助言を受けつつ修行を行っていた瞬であるが、それは一時間ほどで一段落つける事になった。いくら戦わないといえども、<<原初の魂(オリジン)>>の使用だ。使うだけで平常時の数倍の速度で魔力は消費するからだ。こまめに休憩を取るのが、肝要だった。


「ふぅ・・・こんな所か」


 瞬は少しだけ意識して、呼び出していた豊久の力を眠らせる。それに合わせて、彼の鎧姿が来た時の着物姿へと変わる。


「うん、そんな所だろ。動きを見るに、流派はタイ捨流。カタカナでタイと書いて、タイ捨流だな。漢字は当て嵌めない。これは開祖である丸目蔵人の考え方に由来する」

「示現流じゃないのか」

「ああ。示現流は時代が少々遅い・・・どうやら、そこらはまだ記憶の奥底に埋もれている様子だな」


 カイトは瞬の発言から、彼が己の剣技について思い出せていない事を把握する。示現流が興隆したのは、戦国時代末期。丁度島津豊久と同年代の剣術家東郷 重位(とうごう ちょうい)という男が開祖だ。それ故、同時代に活躍した豊久が使いこなす事は出来なかっただろう。


「ああ、そのようだ・・・にしても、あまり疲れないんだな、これは」


 瞬は意外そうに今の自分の倦怠感について言及する。比較しているのは、自分の使う<<雷炎武(らいえんぶ)>>の事だ。非常に効率が良いと感じたのである。


「ああ、まぁな。過去世からバックアップを貰っているからだろうが・・・そこの詳しい所はオレもいまいち把握はしていない」

「ああ、なるほど・・・そう言えばそんな事を言っていたか・・・」


 瞬はふと、あの魂の奥底での豊久との会話を思い出す。確かに、あそこには莫大な魔力が眠っていた。それのバックアップがあるという事なのだろう。わからないではなかった。というわけで、それに納得した瞬は脱線した話を本題に戻す事にした。


「にしても・・・タイ捨流? というのだったか。それはどういう物なんだ。聞いたことはあるが、鹿児島といえばやはり薩摩の示現流としか思い浮かばなくてな・・・」

「タイ捨流・・・流派の流れとしては、新陰流の流れを汲む剣術だな。先も言ったが、示現流よりも少し古い」

「新陰流は有名だな。確か兼続の奴が神陰流だったと言っていた」

「なにせ上泉信綱だからな。藤堂先輩は確か、そこの門弟という話だったか。江戸時代に柳生宗家から皆伝を貰った一人が興した道場の跡取り、という話だな」


 カイトは瞬の言葉に頷く。彼は更にその秘奥とされている神陰流を学んでいるが、敢えて言えばこれもまた新陰流の流れを汲んでいる――正確には逆だが――とも言える。単に当人が同名異字の流派を作っていただけだ。


「そもそも、竹刀を作ったのが信綱公だ。故に剣道を嗜む者であれば、一度は耳にする名だろう。ガチで剣聖と言える方がいらっしゃるとすれば、それはこの信綱公だけだ・・・いや、話がズレたな。タイ捨流はその新陰流を学んだ丸目蔵人、丸目 長恵(まるめ ながよし)という男が独自に改良を加えた剣技だ」

「ふむ・・・」


 瞬はカイトの解説を真剣に聞く。ユリィの時と同じく、こういう過去世に関わる解説は外側から過去世の己の記憶や技術を取り出す為の取っ掛かりになってくれる。文武両道とは言うがこれもまた、力を得る為の修行の一環であった。


「まぁ、オレも流派が違うから詳しい事はわからんが・・・体術等を併用する実戦的な戦い方だ、という事は信綱公より聞いている。同時にオレの兄弟子の一人でもあるからな」

「・・・ん? そう言えば信綱は剣神だと言っていたな?」

「ああ。剣術、もしくは剣士の神様だな。剣士全ての極みに立たれているお方だ」


 瞬の問いかけにカイトが頷いた。カイトは地球で信綱の弟子となっており、彼の正体についても聞いていた。そこの時の事については少し彼らに語っており、それを瞬も覚えていたのである。


「なぜそんな人の剣技が源流となり、改良されているんだ?」

「良いところに気付いたな」


 瞬の問いかけにカイトが頷いた。それは疑問といえば、疑問になる事だ。剣神にして、剣聖と言われるほどの剣豪だ。そしてカイトでさえ、未だに剣術では勝てる見込みが一切無いと断言するほどの剣士である。そんな剣士が残した剣術なら、もっと改良の余地が無い様に思えたのだ。何故ここまで多種多様に発展を遂げていたのか、と少し疑問だったのだ。


「新陰流は謂わば、祖となり得るだけの剣技だった。それは確かにそうとも言える。少し話は変わるが、実は今新陰流といえば、それは柳生新陰流を指す事が多い」

「柳生新陰流・・・聞いた事はあるな。兼続が言っていたか。両者は同じ物ではないのか?」

「厳密には違う・・・とのことだ。最も己の剣技に近い物へと彼は新陰流の相続を認めた。それが、柳生新陰流だ。いわゆる今で言う所の石舟斎殿に与えられたという允可状(いんかじょう)の事だな」


 カイトは瞬へと更に古い剣技を語る。そうして、それを語った彼は更に続ける事にした。


「新陰流の特徴は攻めと守りを一体にした無形・・・有名な後の先を取る、というやつだ。活人剣というのは本来、人を活かす剣。相手を動かして勝つ為の武芸なわけだ。人を生かす為ではない。まー、後を継いだ宗矩殿がそう説いた所為で生かす方に考えられる事が多いし、それも間違いではない、と信綱公も仰られている。なので間違いではないんだろう」

「ふむ・・・だと言うのに、タイ捨流はその、なんというかものすごい攻撃的なんだな・・・待つ事が無いというか・・・」

「そうだな。体術だの蹴り技だのなんだのと一つの考えに囚われない戦い方だ。が、これはやはりタイ捨流の考え方に由来している。(たい)とすれば待つを捨てる、という事だ」


 カイトの語りを聞きながら、瞬はどこか感慨深げに頷いていた。活人剣の新陰流が改良され、より実戦的で攻撃的なタイ捨流へと生まれ変わる。そこに何がどうあったのか、と少し興味は湧く内容だった。

 と、そんな話をしてなんとか瞬の記憶を呼び起こそうとしていた二人であったが、そんな所に噂をすればなんとやら、とばかりにこの話題にうってつけな藤堂が降りてきた。


「ああ、話し声がすると思えば・・・やはりまだこちらに居たのか」

「ん? ああ、兼続か。どうした?」


 どうやらカイトか自分のどちらかを探していたらしいと理解した瞬が問いかける。


「こちらに来られた武蔵先生が天音をお探しになられていたんだ。どこに居るのか、と」

「ということは、オレか・・・やれやれ。先輩。この話はまた今度。とりあえず今日はこれで終わっておくしかないだろう」

「そうだな。わかった、色々と世話になった」

「ああ。藤堂先輩。こちらはもう終わりましたので、一緒に行きます。先生は?」


 カイトと瞬は揃って立ち上がると、カイトの方は武蔵の居所へと移動する事にする。そもそも今まで人が来なかったのは単に偶然だ。全員が数ヶ月に渡る修行を一段落させた事でこの地下修練場を使う様な本格的な修行をする者は一時的に減っているし、外の修練場はかなり空いている。なので瞬の様な特殊な事例はまだしも、天気が良い日は外で修行をする者が多かっただけであった。


「玄関にいらっしゃるよ。先に行って、見付かったと行ってくる」

「わかりました。伝令、ありがとうございました」


 カイトは階段の踊り場で踵を返した藤堂の背に礼を述べる。どうやら玄関に来て、剣道部を集めてカイトを探させていたという事なのだろう。というわけで、カイトは道中という事もあり風呂に入る云々よりも先に武蔵に顔を見せておく事にする。


「先生、こんにちは。今日はどういったご用件で?」

「こんにちは」


 玄関で座ってお茶を飲んでいた武蔵へとカイトと瞬――出て来た所で出会った為――が挨拶を述べる。と、その声で武蔵もカイト達に気付いた。


「おお、来おったか。む、瞬の小僧も一緒か。そりゃ、丁度よい」

「自分もですか?」

「うむ、お主も丁度良いとふと思うた」


 首を傾げる瞬の問いかけに武蔵が笑って頷いた。どうやら、偶然ではあったが瞬も関わる様な案件だったらしい。とは言え、立ち話はなんだろう。なので、武蔵が応接用の椅子を勧めて話を始める。


「ま、とりあえず座れ。修練中であったか?」

「いえ、丁度終わったのでタイ捨流の講釈をしていた所でした」

「タイ捨流? 肥前で盛んになったという丸目殿のあれか?」

「ええ、それです。少々故があり、彼にそれの講釈を」

「ふむ・・・む、まぁ、それは良いわ」


 武蔵は少しだけ裏を探ろうとした様子だが、どうせここでカイトが語らなかったのは話が脱線するからだろう、と気付いたらしい。そもそも彼らがそれを終わらせた理由は自分が来たからだ。であれば、本題に入ってやるのが筋だろう。


「実はの。少々剣道部を連れてちょっとした遠征に出たいと思うてな」

「遠征ですか? なぜ今更?」

「かかか・・・これを見てみい」


 武蔵はそう言うと、懐から一枚の紙を取り出してカイトへと差し出した。それは折り畳まれており、表面は見えなかった。


「これは?」

「開いてみ?」


 武蔵は楽しげにカイトへと開く様に命ずる。というわけで、カイトは折り畳まれたそれを開いてみる。と、流れで横から覗けた瞬が、その紙にデカデカと書かれていた内容を口にした。


「・・・武闘大会?」

「正確にはちと違う」

「剣士・槍使い限定の武闘大会・・・ああ、これに剣道部を出したいと」

「うむ、理解が早くて助かるのう。魔術禁止の武闘大会は非常に珍しい。純粋に剣術を鍛えるのであれば、これほどの場はあるまい」


 武蔵はカイトの答えに笑って頷いた。剣道部は言うまでもなく、剣士達の集まりだ。そして今は武蔵の下で修行を積んでいる。であれば、稽古としては実践派に近い武蔵が他流派の剣士達と戦わせたいと考えないはずがなかった。そうして、そんな武蔵は瞬を見た。


「でよ。ついでなのでお主もどうだ、と思うてな。血が騒がぬか?」

「それで、自分ですか。そうですね、ぜひとも参加したいと思います」

「あ、ちょい待ち」


 すごい興味深げに武蔵の申し出を快諾した瞬に対して、カイトが待ったを掛ける。というのも、これは瞬にとっても有用な場だと思ったからだ。


「ん? どうした?」

「先輩・・・それ、剣士として参加しろ。<<鬼島津(おにしまづ)>>は使わなくて良い」

「<<鬼島津(おにしまづ)>>を使わずに?」

「なんじゃ、その縁起悪いと言うか嫌な名は」


 カイトの意図が理解できず困惑する瞬に対して、当然の様に鬼島津の名を知る武蔵が微妙に嫌そうな顔で問いかける。関ヶ原に参加している武蔵だ。当然、島津一門の戦いっぷりは話に聞く所だ。

 彼は黒田官兵衛の息子、黒田長政の下で戦っていたので所属は東軍だ。その武名を知らないはずがなかった。というわけで、少しだけ武蔵へとカイトは瞬の過去世を語る。


「なるほど。前世はあの島津豊久であったか」

「ご存知なのですか?」

「知らぬはずがあるまい。そもそも、儂は東軍として関ヶ原にも参加した。あの徳川への果敢な突撃は儂も恐れ慄いた。あれは、儂にも出来ぬ所業よな。いや、もしやするとあの時代の儂なら、出来たやもしれんがな。今はもはや無理な所業よ」


 武蔵は瞬の問いかけに豊久への称賛を楽しげに送る。楽しげなのは勿論、理由があった。それを彼は口にする。


「こういうことがあるから、生きるのはやめられん。そうかそうか。まさか島津の若武者の生まれ変わりがここにおるとは・・・」


 武蔵は楽しげに、そして感慨深げに何度も頷く。あの時は敵と味方に分かれて戦い、今はその生まれ変わりとこのように語り合う。長く生きている者だけが得られる特権だろう。それを楽しんでいた。


「あれは見事な策よ。げにあそこで徳川の本陣へと切り込む策を取れねば、おそらく島津の御大将もあそこで討ち死にしておったであろうな。勝ち戦ほど、人は死にに行けぬ生き物よ。儂でさえ、薩摩武士の胆力には思わず二の足を踏む。それほどの者達の死力よ。死中に活在り。死兵を相手に勝利を得た兵は突っ込めぬ。なぜ勝てる戦で死なねばならぬのか、とな。あの壮絶な切込みこそ、島津の御大将が生き残った理由であろう」


 武蔵は己が見た関ヶ原の一幕に対して敵として、そして帥として絶賛を評価とする。と、そんな評を聞いたからだろう。唐突に、瞬の腰に刀が現れた。


「っ・・・」


 非常に獰猛かつ牙を剥いた笑みを見て、武蔵が瞬が豊久に乗っ取られた事を悟る。前世のあくが強過ぎると、こういう事が起こり得る。瞬はそう言う意味でも、まだまだコントロールが出来ていなかった。

 豊久は瞬の見たとおり、我が強い。己への絶賛に耐えきれなかったのだろう。そしてそれは武蔵も理解出来ていた。故に、己の名を告げる。


「儂は新免武蔵・・・島津豊久と見受けるが如何に」

「然りよ・・・すまんが、俺はおんしを知らんぞ」

「かかか。構わぬ構わぬ。儂は貴殿が初陣の年に生まれた小童よ。それに、そのような事はどうでもよかろう。先程から、喧嘩を売っておるのじゃからのう」


 武蔵と瞬の皮をかぶった豊久は獰猛な笑みで笑い合う。が、それをそのまま放置出来るわけがないし、するわけもなかった。


「おらよっと」


 すぱんすぱん、と二つ分の乾いた音が響いた。音の発生源はハリセンで、叩いたのは勿論カイトである。こんな所で獰猛な戦士の闘気を発せないで欲しかった。


「こちとら客商売やってんだよ。玄関口の応接スペースでバカみたいに馬鹿でかい闘気を放出してんじゃねぇ」

「す、すまん・・・売られた喧嘩でしかも相手が島津となれば血が騒いだわ」

「お、織田ん総大将・・・この身体は借り物ぞ・・・」


 武蔵は場所を弁えるべきだったと頭を擦りながら謝罪して、一方の豊久は瞬の身体である事を告げて抗議の声を上げる。が、そんな抗議の声に対して、カイトは一切合切切って捨てた。


「だからだろうが。そいつはウチのサブマスだ。それが玄関口で子供みたいに馬鹿でかい闘気放ってたらウチの評判に差し障るわ」

「す、すまぬ・・・」


 カイトの圧力に豊久が押し負ける。というわけで、彼はこれ以上叩かれてはたまらないと奥に引っ込む事にしたようだ。そうして、瞬が目を瞬かせる。


「・・・びっくりした・・・」

「先輩。あんたはもうちょい、自我を強く持った方が良いな。その修業も含めて、この大会には剣士として参加しておけ。この戦いであんたが学ぶのは、自我を強く保つ事。豊久の意識に飲まれぬよう、そして剣技だけで戦うんだ。先輩なら、本戦に槍で出ても問題無い。ここは練習と考えておけ」

「あ、ああ。わかった」


 カイトの指南を瞬は受け入れる。流石にああいう風に勝手に出てこられて己の意思に関係なく動かれるのは彼も困る。であれば、そちらの面での修行も大切だろう。

 というわけで、瞬はカイト達に同行して、己の中に眠る豊久の人格に己を乗っ取られない為の修行として、剣道部の遠征に同行する事となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。補足ですが剣士・槍使い限定というわけですが、それ以外の例えば格闘大会の様な部門もあります。ここでは武蔵が出したのが単にそれだけの話だ、とお考えを。

 次回予告:第1087話『剣士達の戦いへ』

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