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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第56章 教国からの来訪者達

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第1084話 閑話 ――裏の裏――

 ラエリアの戦いでの隠蔽工作と冒険者総会で提起される事になるバルフレアの提案の為の根回しを行う為やってきたフロドとソレイユ。この二人を受け入れてから少し。

 その頃になり、マクスウェルの空港には一隻の飛空艇が到着する。その飛空艇の別の出入り口から、ルーファウスは密かに飛空艇への乗り込んでいた。


「エードラム卿」

「ルーファウスか。世話を掛けるな」

「いえ、枢機卿猊下のお役に立てるのでしたら、これほどの苦労は露程にもなりません」

「そうか・・・これが?」

「はい」


 エードラムはルーファウスから提出された調査報告書を受け取る。そうして、中身を検める作業に入った。


「・・・そうか・・・なるほど。了解した」


 エードラムはルーファウスの提示した報告書から、必要な所を頭に叩き込む。


「とりあえず万が一の場合には、そちらのギルドマスターに仲介に入ってもらう事にしよう」

「それが、最良かと思われます」


 エードラムの言葉にルーファウスが同意する。まだ数日であるが、今のところ得られている伝手であればカイトが最良というのは変わらない。その理由を彼が述べる。


「どちらにも顔が利き、中立に立てるという人物は皇国にありては非常に得難い存在であると思われます。その伝手は十分に活かすべきかと」

「では、そのようにしましょう。貴方も努めて迂闊な事はせず、なるべく揉め事は起こさない様に動きなさい」

「はい」


 エードラムからの忠告にルーファウスが頷いた。兎にも角にも信頼を失うのが一番痛い。そしてカイトの伝手は得難いと彼女らは認識している。

 カイトの方にしても教国との伝手を得ておきたいというのは彼らから見ても嘘偽りのない言葉だという事はわかっている。であれば、しばらくはカイト達のやり方や方針が掴めるまでは揉めない様に動くのが肝要だろう。


「さて・・・そうなると、色々と考えねばならない事があるが・・・」


 エードラムはそれならそれで、と前置きする。とは言え、そのためにも聞いておくべき事があった。


「そう言えば。こちらで数日過ごしてみてどうだった? ああ、生活等ではなく、我々の本分の方の話で、だ」

「戦闘でしたら、問題なく。亜種等で違いがある魔物は居ますが、それ以外に大した問題となる魔物は今のところ見受けられておりません」

「そうか・・・それなら、一安心という所か」


 ルーファウスの返答にエードラムが頷いた。一応公的にはルーファウスはエードラム達と指揮系統を別にしている――所属する騎士団が違うので――が、ここではエードラムの配下にルーファウスを置いている。そしてルードヴィッヒの手前もある。相手は名家で、父親は団は違えど自分より上の騎士団長だ。気にしておくべきだと判断したらしい。


「はい。一応冒険者との協力ということで注意深く動く様にはしていますが、彼らも不相応な戦いに挑む事は無い様に心がけている様子です。幸い私の実力は上位層に位置しているらしく、多くは単独での討伐が可能と思われます」

「そうか・・・ああ、それで武器については?」

「そちらは、元々私が使っていた物を。アリスはこちらで聖別を受けた物を使う事にしたようです」

「なら、問題無いな。それについてはルーファウス卿が考える事。私からは、注意しなさい、というだけに留めておこう」

「ありがとうございます」


 エードラムのアドバイスにルーファウスは頭を下げる。やはり戦士と武器は切っては切れない関係だ。調整は可能な限りしておきたいというのが、彼らの考えである。

 とは言え、考えているのなら問題はない。そして別に弄くられて困る様な技術は搭載されていない。ルーファウスにせよアリスにせよ、所持しているのは単なる片手剣だ。


「ああ、それで・・・何か変わった事はありましたか?」

「いえ。エードラム卿が来られるまでに慣らし運転として初任務に出たという程度です。そちらについては、報告書に記載を」

「ならば、本国の者達が判断を下すか。こちらで報告する必要はない」

「ありがとうございます」

「では、報告書は受け取った。あまり長引いても怪しまれる。貴方も急いで向かいなさい」

「はい」


 ルーファウスはエードラムの指示を受けると、再び密かにその場を後にする。皇国側の監視に見られているとは思うので別に気にはしないが、それでもあまり堂々として良い事ではない。

 それにもし万が一駄目と判断すれば介入してくるだろう事はどちらもわかっている。なので二人はこの程度は良いとスルーされていると判断した。というわけでルーファウスは飛空艇を密かに出て、外で待っているエルロード達アユルの警護に就く教会系の騎士達と合流した。


「おまたせした」

「ああ、来たな。枢機卿猊下のご様子は?」

「お元気である、と伺っている」

「そうか」


 エルロードはルーファウスの返答に頷いた。ここで聞いているのは、前もって通信で話した事だ。先程のエードラムとの会話ではない。そうして、それからすぐにアユル達が飛空艇から降りてきた。


「アユル様。お待ちしておりました」

「はい。出迎え、ありがとうございます」


 エルロードの出迎えにアユルが笑顔で頷いた。そうして、一同は揃ってアユルがしばらくの間滞在する事となる新たに設置された教国の大使公邸へと移動する事になるのだった。




 一方、その頃。アユルの父教皇ユナルの下へと、一人の男が挨拶にやってきていた。と言ってもこれは皇国の使者というわけではなく、教国のある騎士団の騎士団長だった。


「おぉ、帰ったか。待っておったぞ」

「教皇猊下」


 男は教皇ユナルの前で膝をつく。その男はかなり大柄で、ルードヴィッヒよりもかなり若い。二十代中頃という所だろう。

 まぁ、それでも無愛想な顔立ち等が相まって、実年齢より些か年上には見られそうな顔立ちだ。が、体躯はおそらくその顔立ちよりも遥かに若々しい力強さがあった。纏めてみれば、年相応に見れるだろう。


「世話を掛けたな。あちらはどうであったか」

「あちらは相も変わらず見るに堪えない有様です」

「そうかそうか。すまんな、名家の生まれであるお前にあのような地への赴任なぞ・・・」

「教皇猊下のお申し付けでありますれば、我ら騎士はどこへなりとも赴きましょう」


 柔和な教皇ユナルの問いかけに騎士団長はそう答えた。が、それはどこか事務的というか、信徒であれば内包しているであろう教皇に対する畏敬の念という物がいまいち感じられない。

 いや、誤解のない様に言えば騎士団長の言葉には勿論畏敬の念はあるのだが、それは教皇に対してであって教皇ユナルに対しての畏敬の念ではない様に思えた。


「して・・・かの件はどうなっておるか」

「かの件ですか。かの件に関してはとりあえず遠からずには、と。が、再度申し上げますが、どういう結果になるかはわかりません」

「そうかそうか。いや、それはわかっていた事だ。が、さすがは天才と言われただけの事はある。これだけの日数で終わらせられるか」


 教皇ユナルは上機嫌に己の騎士団長の言葉に深く頷いた。そんな彼に対して、騎士団長は少しだけ、苦言を呈した。


「ありがたきお言葉。ですが・・・出来れば今後はこのような事は無い様にお願いしたい。隊の者達にも研究者達にも多大な負荷を掛けてしまいました」

「ははは。いや、すまぬすまぬ。突発でこのような仕事を任せたのは儂も申し訳ないと思うておるよ」


 教皇ユナルは笑いながら騎士団長の苦言に素直に謝罪を行う。どうやら、この騎士団長が文句を言いたくなるのも無理はない様な作業を任せていたらしい。故にその抗議も当然の事だろうと受け入れていたようだ。


「して・・・あちらについてはどうなっておるか」

「・・・少々、都合が付けられるやもしれません。予定よりも大幅な短縮が認められるかもしれません」

「ほう。まことか」


 教皇ユナルは騎士団長の言葉に目を見開いた。どうやら、彼の想定を上回ったらしい。


「はい。多少ですが・・・早ければ今冬にでも」

「そうか。季節一つ分早められるか。良いことだ。それはお主に任せよう」


 教皇ユナルは何らかの事を騎士団長に一任する事を明言する。そうして、それを明言した彼は、更に問いかけた。


「それで。これからはどうするつもりだ?」

「とりあえずは研究棟へと顔を出し、こちらで可能な限りの解析を行うつもりです」

「やはり自分で確認する事を好むか」

「実験は現場で直に確認するのが、何より肝要かと思いますので」


 騎士団長は教皇ユナルの茶化す様な言葉にそう告げると、ニコリとも笑わずにその場を後にする。そうして、彼の去った後。同席していたライフが口を開いた。


「・・・あれを信頼してよろしいのですか?」

「信頼? 信頼なぞしておらんよ」


 先程までの柔和な笑顔はどこへやら、教皇ユナルは一転冷酷な顔でそう断言する。それは鼻で笑うようでもあり、まるで吐いて捨てるかの様でさえあった。が、しかし、と彼は告げる。


「であるが、信用はしておる。あれは信頼には足りぬ男であるが、信用には足りる男だ。少なくとも、この国であれ以上の騎士はおるまいな」

「・・・それは、事実でしょうが・・・」


 ライフは歯の奥に何かが詰まった様な微妙な言い方をする。それに、教皇ユナルもため息混じりで頷いた。


「危惧しておることはわかっておる。であるが、あれが関わってから一気に研究が加速した事は事実。そしてあれは賢い故に、迂闊には動けん。動きも見せん」

「では、彼も信頼されていない事はわかっていると?」

「で、あろうな。おそらく意図的に実験が進んでおらん様に偽装しておったと見るべきよ。いや、進んでおらんかったのは事実。嘘であったのはもっと効率の良いやり方を把握し、理解しつつやらなかったという所であろうな。密かな抵抗という所であろう。彼奴がもっと愚かであれば、この国に愛なぞ無ければ、全世界に儂とこの国の暗部を暴露して諸共に滅ぼせば良いだけの話であるのに」


 教皇ユナルは騎士団長の報告の嘘を見抜いていた。そしてその上で、多大な嘲笑を乗せて笑っていた。


「なるほど・・・あれはこの国は裏切れぬ、と」

「そういうことよ。儂も、この国が好きじゃからの」

「お戯れを、陛下」

「ははは。うむ、許せ」


 ライフと教皇ユナルは二人、誰も知らぬ場故に笑い合う。が、それも少しだけだ。即座に本題に戻った。


「まぁ、雑談はこの程度にしておきまして・・・それで、彼は我らに対する何かの目処が立てられたと?」

「ふむ・・・それはわからぬ。もしやすると、誰かが何らかの拍子に見つけ出したのやもしれん。それは報告書にあるであろう。報告書に、嘘は無いからな」


 ライフの言葉に教皇ユナルが言外に報告書の精査を命ずる。何があったか知らねばならないのだ。が、なぜ嘘は無いと断言出来るかが、ライフにはわからなかった。


「なぜ報告書に嘘は無いと?」

「見破られるからよ。嘘は何時か見破られる。であれば、嘘を記さねば良い。が、記さねば記さぬでそれは見破られよう。真実のみを記し、ただ天才故に出来る抵抗を行う。それだけで遅延はさせられよう」

「・・・なるほど。慧眼、御見逸れしました」


 教皇ユナルの解説にライフが頭を下げて称賛を露わにする。そうしてそんな彼は教皇ユナルへと問いかけた。


「して・・・どちらを優先的に進めさせましょう」

「ふぅむ・・・」


 教皇ユナルは問いかけに悩みを見せる。どちらも、重要な案件だ。騎士団長に任せるのが最適と判断される案件であるが、やはりどちらも優先という事は不可能だ。彼は一人。出来る事は限られている。

 更には下手に同時に進ませると、それを逆手に時間稼ぎをされる可能性もある。優先順位は決めておく必要があった。


「・・・うむ。であれば、決まっておろうな」

「左様ですか。では、こちらを」

「うむ・・・」


 教皇ユナルは手渡された魔道具を起動して、何らかの指示を各所へと与えていく。そうして、それが終わった頃。ライフが再び口を開いた。


「なぜあちらを? 逆かと思ったのですが・・・」

「こうしておけば、時間を稼げよう。今我らに必要なのは時間。何をするにしても時間は稼がねばならん。そうであれば、こちらが優先というわけよ」

「なるほど・・・陛下ご自身の為にも、時間が必要と」

「うむ・・・その為にも、こちらは有益と見た。そこから応用も出来よう」

「かしこまりました」


 ライフは教皇ユナルの指示に頷いて、自分もその意向に沿うように動けるように思考を巡らせる。と、そんな彼はふと時計に目を落として、ある事に気付いた。


「ああ、そうだ。ご息女がそろそろ勇者カイトの治める地にお着きになられた頃では?」

「うむ? そう言えばどんな時間か」


 ライフのどこか楽しげな問いかけに教皇ユナルもそう言えば、と時計を見る。時差の関係で確かにそろそろマクスウェルに到着している時刻だと思ったのだ。と、それを思い出して、二人は自分達が打っているまた別の策略を思い出す。


「ヴァイスリッターの二人はどう動くか・・・」

「ああ、そう言えば・・・その件もありましたか」

「まぁ、あれはなるようにしかならんか」

「かと。そちらについては何も教えておりませんからね」


 教皇ユナルの言葉にライフがそう告げる。その二人の様子は先程よりも遥かに興味は薄そうだった。なせば良し。なせねども良し。どうでも良いという感じだった。そうして、そんな二人はしばらくの間、様々な策略についての会話を行う事となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。明日からは新章突入です。

 次回予告:第1085話『過去と今を混じえて』

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