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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第56章 教国からの来訪者達

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第1082話 小さな来訪者達

 ルーファウスがルクセリオ教国枢機卿アユルの出迎えに赴いた丁度その頃。カイトはというと、アリスを今まで紹介していなかった幹部陣へと紹介していた。


「ここが、第二執務室・・・というのはこの間説明したな」

「はい」


 カイトとアリスは第二執務室こと教員達と上層部を補佐する為のマネージャー達が控えるもう一つの執務室へと来ていた。楓がお風呂に入っている為、先に灯里の方を紹介しておこうと思ったのだ。

 彼女は幹部ではないが、技術班のトップに近い立ち位置だ。更にはティナの手が加わった事により、魔道具の開発にはかなり彼女の手も入っている。魔道具は武器とは違うまた別な手段だ。紹介しておいて損はない。


「おーい、灯里さーん。居たら返事、もしくは居なくても返事しろー。あんたなら出来るだろー」

「はいよー。何か呼んだー? この通り居ますよー」


 カイトの問いかけに灯里がひらひらと手を振る。どうやら、ティナや楓と同じく彼女も今日からこちらに詰めているらしい。


「ああ、いたいた。あれが灯里さん。オレの姉代わりの人でもある。教師だけどな」

「ということで、姉代わりやってます・・・で、誰?」

「先それ聞けや」


 いぇい、とピースで応じた灯里に対して、カイトがツッコミを入れる。というわけで、改めて灯里を紹介する。


「この人がウチで技術班のトップやってる人」

「はじめまして、アリス・ヴァイスリッターです」

「ヴァイスリッター・・・アル君の妹さん?」

「そりゃルリアだ。こっちは本家のヴァイスリッター家だ」


 カイトは灯里の問いかけに対して首を振る。こちらはカイトも会ったことがないので間違えても仕方がないだろう。


「本家・・・ということは教国かー・・・ふむふむ・・・」


 アリスは灯里からの視線に、得も言われぬ何かを感じる。先程までと変わらない視線なのに、何かが違うと思ったのだ。とっさにカイトの影に隠れる様な動作をしてしまう。


「ありゃ、ごめんごめん。警戒させちゃった? 別にそこまで警戒しなくていいよー」


 灯里が笑いながら謝罪する。その瞬間、彼女の感じていた何らかの異質感も消失する。どうやら彼女は少し敏感らしい。気づく者は気付ける変化に気付いたようだ。


「いえ、こちらこそすいません。唐突に何か・・・こう、変な感じがしただけで。多分風が吹いたとかそういうのだと」


 とは言え、どうやら一瞬だった事もあり、異質感は気の所為と思ったらしい。アリスが思わず逃げる素振りを見せてしまった自分を恥じていた。そうしてしばらく三人で雑談を行うが、それも少しの間だけだ。


「そかそか。で、その様子だとまだ他に行く所あんでしょ?」

「ああ。一応、この調子でもう少し色々と回ってこようと思ってる。下の被服室とかも女の子なら用がある事もあるだろうしな」

「あ、お願いします。この間は兄があれでしたので・・・」

「じゃあ、いってらっしゃい。あまり遅くなっても駄目でしょ?」

「だな。じゃあ、今回はこの辺で」


 カイトは灯里の促しに同意すると、アリスを連れてその場を後にする。ついでなので弥生らが通常は詰めている被服室等へも行っておこうと思ったのだ。アリスも女の子。服や防具をアレンジしたくなったりした場合にお世話になる事も多いだろう。そうして、その道中で二人は灯里の事を話し合う。


「変な人でした」

「あっははは。その感想は非常に正しい。あれは未確認生物だ。彼女の周辺では何が起きても気にしないようにな」


 アリスの感想にカイトは笑って同意する。どうやら、少しの会話で不思議な印象を得たようだ。アリスは直感が強いらしい。そうして二人はしばらくそんな話をしながら歩いていき、次の被服室へとたどり着いた。


「さて、んで次。ここがこの間も紹介したが被服室だ。再度になるが主には防具の修繕をしてくれてる。と言っても出来るのは軽鎧までだけどな」

「ふむふむ・・・」

「もし服をアレンジしたりデザインしたり、コーディネートに困ったら相談すると良い。軽鎧までなら、デザインから考案してくれる。重鎧になると流石にウチじゃあ手に負えないから専門家に任せるけどな。あ、あと冶金もやってないから、そこは注意な」

「そうなんですか」


 どうやらアリスも女の子ということで服飾には興味があるようだ。外目で見ても分かるぐらいには興味深げだった。ここらは前回の時にはルーファウスは殆ど興味なさそう――そもそも彼は真面目なので装飾に興味がない――だったので軽く流したが、やはりアリスは気になっていたらしい。そうして、被服室の中に入る直前。カイトはそこら辺を駆け回っていた子どもたちに見付かった。


「あー! お兄ちゃんみっけ!」

「っと! あっぶないなー。タックルは禁止だ、っつったろ?」

「えへへー」


 駆け寄ってきてタックル紛いに抱きついてきた子供の一人に、カイトが笑って注意を促す。まだカイトに一直線で道中に誰も居なかったから良いが、誰か居たらぶつかっていた。勿論、それぐらいの分別はあるだろう年齢なので問題は少ないだろう。


「遊ぼ!」

「というか、遊べ!」

「おい、誰だ命令した奴」


 命令形だった子供にカイトがツッコミを入れる。とは言え、残念ながら遊んでやれる状況ではないのだ。というわけで、カイトはとりあえず子供の一人の頭をなでながら仕方がない、と首を振った。


「悪い。実は今、新しく入ってきた女の子の案内中でな。また、後でな」

「えー」

「お兄ちゃん、いっつもそう言ってるー」

「いっつも女の子と一緒じゃん」

「女誑しー」

「誑しー」

「おい、待てや、こら! 風評被害の原因、てめぇらか!」

「「「きゃー! 食べられるー!」」」


 カイトが怒ったのを見て、子供達が蜘蛛の子を散らすように散っていく。出来れば誰がそんな女誑しなぞという言葉を教え込んだかを聞いて、更にはじっくりとお話をしておく必要があった。

 と、言うわけなのだが、それも少しで子供達はやはり子供達というわけでカイトの所に集まってくる。が、その前にカイトは念話で助力を申し出ていた。


「シロエ、悪いけどよろしくなー」

「はーい。じゃあ、女誑しのお兄さんは女の子と遊んでくるので、皆は毒牙に掛からない内に行きましょー!」

「「「は-い!」」」

「て、犯人はてめぇか!」

「「「きゃー!」」」


 犯人が分かった事でカイトが怒声を上げるが、それに楽しげにシロエ率いる子供達が逃げていく。向かう先は上のバーカウンターだ。

 あそこにはお酒以外にも冒険部で使い切れなかった果物を使ったフルーツジュースが提供されており、それを飲ませてやる事にしたのだ。もう秋口だが、まだ暑い日も多い。今日は丁度その暑い日だったので、喜んで彼女について行った、というわけである。というわけで、逃げていった子供達を見送りながら、カイトは半分笑いながら説明を再開する。


「はぁ・・・ま、こういうふうに日中で特に休日になると子供たちが遊びに来る事も多い」

「びっくりしました」

「懐かれるとああなるが、基本は見知らぬ奴には駆け寄らん。そこらは、対処は自分の好きにしとけ。が、あまり素っ気なくはしないでくれよ」

「はぁ・・・あの、それで二人はついていかなくて良いのですか?」


 カイトの忠告と言うかアドバイスを受け取ったアリスが、更にカイトへと問いかける。それに、カイトが後ろを振り向いた。どうやら二人まだ残っていたと思ったのだ。そして確かに、見た目子供の二人が残っていた。


「兄ぃ!」

「にぃ!」


 どこからどう見ても子供の二人が正反対の手を上げてカイトへと挨拶する。が、一方のカイトは大いに目を丸くしていた。言うまでもなく、ハーフリング族最強の弓兵であるフロドとソレイユの二人であった。


「フロド!? ソレイユ!? なんで居んの!?」

「えへへー・・・来ちゃった」

「いや、その恋人が密かに彼氏の家に来た様な感じで言うな」


 どこかいたずらっぽい顔でまるで初心な恋人がするかの様な表情を作りながら告げたソレイユに対して、カイトがため息混じりにツッコミを入れる。そう言う話ではない。来ちゃった、で来て良い場所ではなかったし、タイミングでもない。


「あの、この子達は?」

「フロドとソレイユの二人だ。<<森の小人フォレスト・スピリット>>の弓兵兄妹は知っているか?」

「この二人が?」


 アリスも流石にフロドとソレイユの名は知っていたようだ。常には無表情に近い彼女が目を見開いて驚いていた。


「ああ。この間のラエリアの戦いで一緒になってな。彼らが参戦する為の方便として、協力していた」


 カイトはアリスへ向けて、表向きの理由を告げる。ここらレヴィの取った嘘を有難く流用させてもらう事にしていた。そしてここらの裏方で起きていた事は、教国も把握していた。アリスは知らないだけで、ルーファウスはしっかりと把握していた。


「・・・? ではなぜここに?」

「森を通れるからね、僕らは」

「ということで、歩いて来ました!」


 フロドの言葉を引き継いで、ソレイユが元気に方法を告げる。が、それに一層困惑したのはアリスだ。歩いて来た、とはどういうことかと思ったのだ。ここらは、やはりまだ学校に居る立場という所も大きいのだろう。まだ知らない事は多かったようだ。というわけで、カイトは少しだけ簡単に教える事にする。


「ハイ・エルフ達の空間を通ったんだろう。で、二人はわざわざどうしたんだ?」

「にぃにお手紙持ってきたよ」


 ソレイユはそう言うと、横に掛けていたカバンから一通の手紙を取り出した。それは彼ら<<森の小人フォレスト・スピリット>>からの手紙だった。


「手紙? 誰からだ?」

「おねぇからだよ」

「八大のご意見番、八大唯一の良心、学芸会の風紀委員長殿から?」

「そだよー」


 ソレイユがカイトの言葉に頷いた。それにカイトも封筒を受け取って裏を見てみると、そこには確かに二人の所属するギルドのギルドマスターの使う蜜蝋で封がされていた。本物と見て良いだろう。おねぇ、というのはギルドマスターの事だった。フロドの姉代わりになっていたので、そう呼んでいたのである。

 この二人が持ってきて本物でないはずがないだろう。カイトへの伝令となると、彼女らが抜擢されるのが常なのだ。この二人がギルドの仕事でカイトの所に来たとするのなら、手紙を持ってきたのが一番あり得る理由だった。そしてこのタイミングだ。訳あり、と見て良いだろう。


「わかった。今見る必要は?」

「無いよー。どうせ色々あるだろうから仕事が終わった時にでも、って」

「で、僕らはこっちにしばらく居て協力しろって」

「お前らが?」


 カイトはフロドの申し出に目を見開く。が、そうではないだろうな、と即座に気付いた。伝令に二人も必要がない。しばらく居ろと言う場合には大抵ソレイユだけになるのだ。

 フロドも大概カイトと仲が良いが、来歴からカイト達――達なのでユリィらも含む――とより仲が良いのはソレイユの方だ。故に滞在になると彼女単独が多かった。もし万が一何かがあっても彼女は指揮も出来る。当然の抜擢だった。そしてそこにフロドが居る場合は大抵、何か裏があるのであった。


「・・・お前、また何かやったな」

「・・・」


 カイトの言葉にフロドの笑顔が完全に固まる。図星らしい。それに、ソレイユが肩を竦めた。


「にぃにぃねぇー・・・まーた女の子引っ掛けて帰ってきたのがおねぇにバレちゃったの。何度も連れ帰っちゃ駄目、って言われてるのににぃにぃったらぜんっぜん覚えないんだもん」

「だろうなー・・・で、しばらく罰と言うか怒られんの怖いからこっちで匿ってくれ、と。まーたカンカンに怒らせたな、お前・・・」

「・・・あははー」


 フロドはカイトとソレイユの言葉に笑うだけだ。どうやら、カイトの引き継いだ言葉まで正確にそれを言い当てていたらしい。と、いうわけでそんな彼は一転不満げに口を尖らせた。


「良いじゃん、別にかわいい女の子連れ込んだってさー。キチンとしてることはしてるんだしー。と言うか、仲良くなったんだから良いでしょー。無理矢理は僕の趣味じゃないしー」

「はぁ・・・頼むから、こっちで無闇矢鱈に女の子連れ込むとかは無しだぞ。勿論、ウチの奴に手を出すのも禁止」

「気を付けまーす」


 カイトの忠告にフロドが笑って手を挙げる。連れ込むなと言わないあたり、相変わらず身内には甘いカイトであった。


「で、兄ぃ。この子だーれ?」

「本家ヴァイスリッターの子でアリスだ。ウチに出向してきてる。道案内中」


 フロドの興味津々な問いかけにカイトがアリスを紹介する。とは言え、噂ぐらいは彼らも聞いていたらしく、即座に納得していた。


「ああ、君が・・・まぁ、いっか。兄ぃ、それなら僕らも一緒に行くー」

「行くー」

「やれやれ・・・」


 カイトは相変わらず楽しげな二人に対して、アリスに視線で問いかける。そのアリスはと言うと二人の勢いに押されてぽかん、としていた。話も半分以上聞いていなかった。


「二人も一緒に、という話だが、大丈夫か?」

「え、あ、はぁ・・・」


 とりあえずアリスは頷くしかなかったらしい。何が、と思って気付けばこの状態だ。仕方がないのかもしれない。が、冒険者でも上と関わり始めると、こんなものである。慣れてもらわねばならないだろう。

 というわけで、アリスの許可を得た一同は揃って歩き始める。と、そういうわけなのだが、フロドの事は噂には聞いているらしくアリスが警戒していた。


「あはは・・・まぁ、こういっちゃあなんだが、警戒するだけ無駄だぞ?」

「・・・?」


 女好きで知られるフロドだ。故に警戒していたアリスであるが、それ故にカイトの言葉に首を傾げる。そんなカイトの視線を受けて、フロドが首を傾げた。


「どしたの?」

「あー・・・うん。こいつ、ストライク・ゾーンがまぁ・・・」

「にぃにぃのストライク・ゾーンじゃないよね、アリスちゃん。もっと色気が無いと」

「いたっ! なんで!?」


 ソレイユの言葉にムッと来たらしいアリスによって、フロドが頭を叩かれる。そう、実のところフロドのストライク・ゾーンは――見た目として――10歳近く年上だ。おおよそ外見年齢としては20代以上という所である。明らかにミドルティーンかつ少女らしいアリスは対象外だった。


「・・・何かムカッと来ました」

「なんで!? 君、ストライク・ゾーンじゃないのに! あいたぁ!」

「「やれやれ」」


 再び殴られて、フロドが蹲る。これは彼が悪いだろう。勿論、一方のアリスはムッとしたままだ。やはり彼女も女の子。幾ら異族相手とは言え、女として見られないのは何か嫌らしい。そうして、そんな感じで一同は再びギルドホームの把握を再開する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。フロドとソレイユも一時加盟。

 次回予告:第1083話『隠蔽工作』

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