第1079話 リッチ・キング討伐戦 ――戦闘――
カタコンベの調査依頼を受けてカタコンベに来ていたカイト達冒険部一同だが、その調査も後は残す所最奥に潜んでいた『死霊の王』の討伐のみとなっていた。
そうしてその最奥へ一人突入して『死霊の王』をカタコンベの大穴の底へと引っ張り出す事に成功したカイトは、即座に己もカタコンベの大穴へと取って返していた。
「たっだいま! 桜、まだ大丈夫だな!」
「はい!」
「良し! ならもう大丈夫だ! リリースしろ!」
カイトは『死霊の王』を魔糸で拘束していた桜へ向けて指示を出す。流石に桜の力量では幾ら龍族の力を加えた所で『死霊の王』を拘束していられる時間はそこまで長くはない。下手に引きちぎられて反動を受けるよりも、ここでリリースした方が遥かに良かった。そうして、その指示を受けて桜が『死霊の王』を拘束していた魔糸を消滅させる。
「よっしゃ・・・じゃあ、いっちょやったりますか」
カイトは拘束を解かれた『死霊の王』へと向き直る。どうやら『死霊の王』は拘束したのがカイトだと思っているらしく、完全にカイトを敵と見定めていた。桜が狙われても厄介なのでこれはこれで良かった。
「援護します」
「頼む」
『死霊の王』との交戦を開始したのを見たアリスがカイトの支援に入る。と言っても彼女がやるのは『死霊の王』が潜んでいた横穴から出てくる側近達の始末だ。
「桜さんは横穴から来るだろう側近達を拘束してください。拘束させ出来れば、私が消滅させます」
「お願いします」
アリスの申し出を受けて、桜が横穴から出てくる側近達を拘束すべく魔糸を操り始める。今回は支援の手もある為、薙刀を使う必要は無い。なので魔糸を操る事に集中出来た。そんな二人を横目に、カイトは『死霊の王』へと集中する。
「さて・・・」
カイトは『死霊の王』の姿を改めてしっかりと把握する。見た目は、単にどこか法衣に似たボロを着て王冠に似たサークレットを身に着けた『骸骨兵』だ。武器は黒色の宝玉が取り付けられた杖。一見すると『骸骨兵』の魔術師版か、亜種にしか見えない。が、侮るなかれ。力量は『骸骨兵』とは遥かに桁違いだ。
「・・・」
カイトの見ている前でカタカタカタ、と『死霊の王』が骨を鳴らす。それを受けて、『死霊の王』の周囲に青白い炎が生み出される。
「来るか」
カイトは生み出される無数の青白い炎に集中する。一気に突撃して仕留める事は出来るが、大穴には自分以外の冒険部のメンバーも多い。下手に討伐して呪いを周囲にまき散らかされるのが一番困る。
そうなるとまた『ポートランド・エメリア』の奥底へ向かわねばならないのだ。幸い今では瑞樹を筆頭に冒険部にも大剣士が居るので人員には困らないが、それでも拘束される日数は馬鹿にならない。それにあの首飾りは一度に一つしか入手出来ないので何度も入る羽目になるだろう。危険性も相応に高い。そんな面倒はごめんだった。
「はっ!」
カイトは投げつけられた青白い炎を刀で切り裂く。基本的に『死霊の王』は魔術で戦う魔術師的な魔物だ。こちらが間合いを詰めない限りは、強いてあちらから近寄る事はない。
「こんなんじゃあ、無駄だぜ」
カイトは余裕を滲ませながら、何度も投げかけられる青白い炎の玉を切り捨てていく。近接戦がメインの彼がこちらから近寄らないのは、ある行動を誘発しているのである。
「お前お得意の火の玉投げはオレにゃ効かねぇな。これで終わりか?」
カイトは笑いながら、『死霊の王』を挑発する。『死霊の王』はそこそこ賢い。中には挑発されている事を察する事が出来る個体が居るぐらいだ。やって損はない。そしてどうやら、この個体は挑発の意味は理解出来なくても挑発されている事が分かる個体ではあったらしい。更に大量の青白い炎の玉を生み出した。
「おいおい、無駄だっつってんだろ?」
カイトは挑発を滲ませながら、投じられる無数の青白い炎の玉を余裕で切り裂いていく。この攻撃では駄目だ、と奴に理解してもらわねばならないのだ。
「おい、どうした? ほら、来いよ」
カイトは刀を地面に突き刺すと、両手でぱんぱん、と手拍子を鳴らして更にカム・オンのポーズで『死霊の王』を挑発する。
「さぁ、来いよ」
カイトは刀を突き刺したまま、笑いながら挑発を重ねる。それに、ついに『死霊の王』は青白い炎を目に宿らせて炎を生み出す以外の行動に出た。
「来た」
カイトは別の行動を起こすべく行動に出た『死霊の王』を見て、ほくそ笑む。青白い炎が燃え盛ると、『死霊の王』の周囲に10体程度の『骸骨兵』が生み出される。
が、それは『骸骨兵』とは違い、がらんどうの目の部分に『死霊の王』と同じ青い炎が目に宿っていた。『死霊の王』の力で強化された個体だった。『骸骨兵』の亜種に分類される『骸骨守護兵』と呼ばれる個体だった。
「アリス、桜!」
カイトは『骸骨守護兵』が生み出されたのを受けて、即座に桜とアリスへと指示を送る。この個体を出してくるのを、カイトは狙っていたのである。
「桜さん」
「はい!」
桜はアリスの要請を受けて彼女の指し示す『骸骨守護兵』へ向けて魔糸を投じる。やることは先程までと何ら変わらない。桜が拘束して、アリスが切り捨てるのである。とは言え、今度は同時に現れた数が数だ。彼女ら二人だけでは、心許ない。
「貰った!」
「アルフォンス! 油断はするなよ!」
「あのねぇ! こっちは僕の地元だよ! 慣れてるって! そっちこそ慣れないって失敗しないでよ!」
というわけで、瞬、ルーファウス、アルの三人が『骸骨守護兵』へと一気に攻撃を仕掛ける。そうして、彼らが半数程度の『骸骨守護兵』を強引に『死霊の王』から引き離す。
「良し!」
カイトは一気に半数程度にまで減った『死霊の王』の陣営へ向けて、一気に突っ込んでいく。『骸骨守護兵』を強化しているのは『死霊の王』だ。そして生み出したのも、『死霊の王』である。
『骸骨守護兵』を生み出した『死霊の王』は一時的に力が減少する為、この状態で討伐してもあまり広範囲には呪いを撒き散らせないのだ。こうすることで、更に安全かつ確実に討伐出来るのである。
「はぁ!」
敵陣へと一気に突っ込んだカイトは問答無用に『死霊の王』へと斬撃を叩き込む。が、幾ら力を減少させたからといって素体はランクBも上位の魔物だ。まだそれでもランクBの実力があった。故にカイトの攻撃を青白い炎で受け流す。
「そっちか!」
青白い炎を纏って滑る様に移動した『死霊の王』を見て、カイトは更に斬撃を叩き込む。が、これもまた青白い炎によって受け流された。
まぁ、それは良い。力を使えば使う程、『死霊の王』が最後に放つ呪いの効果範囲は減少していくのだ。使わせれば使わせるだけ、カイトにとって有利になってくれるのである。
と、カイトの攻撃を再度受け流した『死霊の王』であるが、そんな『死霊の王』の青白い炎が唐突に5つに分裂する。
「分身か」
青白い炎はある程度の距離にまでなると、その内側に『死霊の王』の幻影を生み出させる。見た目は『死霊の王』と相違無く、一見すると見分けはつかない。戦闘中ではかなり見分けにくいだろう。が、カイトからしてみれば別にどうという事もない程度の分身だ。
「蒼天一流・<<陽炎>>」
分身には、分身を。カイトは己も5体の分身を生み出して、各々を『死霊の王』の分身へと差し向ける。そうして分身同士が戦い始めると同時に、己は刀を異空間へと収めると篭手を腕に装着して一気に『死霊の王』の本体へと肉薄する。
「おらよ!」
『死霊の王』へと肉薄したカイトはその眼前で一度屈むと、そのまま回転するように身を捩った上に全身をバネにして打ち上げる様に『死霊の王』を上空へと吹き飛ばす。
「さて」
大きく打ち上げられた『死霊の王』へ向けて、地面に着地したカイトがクルクルと双銃を両手で弄びながらそれを構える。もうこうなれば、後はこちらの一方的な攻撃を叩き込むだけだ。
「終焉だ」
カイトは連続して魔銃の引き金を引いて、無数の魔弾を『死霊の王』へと叩き込んでいく。それは最初は青白い炎に阻まれて『死霊の王』の本体には届かなかったが、確実に青白い炎を吹き飛ばしていく。そしてものの数秒で、青白い炎は完全に消し飛ばされ、無防備の『死霊の王』の本体が曝け出される。
「じゃあな!」
カイトはそう言うと、更に勢いを増して魔弾を叩き込む。それは無防備な『死霊の王』の本体へと殺到して、一瞬で『死霊の王』の本体を完全に消し飛ばした。
「終わったな」
『死霊の王』を完全に討伐すると、カイトはクルクルと魔銃を操って見得を切る。これで、あと残るのは雑魚だけだ。
『死霊の王』の生み出した『骸骨守護兵』は『死霊の王』の力で強化されているだけだ。それが喪われた以上、単なる『骸骨兵』と大差が無い。カイトどころか冒険部上層部やルーファウスにアリスが居なかろうと勝てる程度でしかなかった。
「『死霊の王』の討伐は終わった! 残るは雑魚だけだ! 一気に押し切れ!」
『死霊の王』の討伐を終えたカイトが号令を下す。彼の言う通り、雑魚しか残っていない以上一気に押し切れば良いだけだ。
「「「おぉおおお!」」」
カイトの号令に合わせて、冒険部一同が鬨の声を上げて一気に討伐速度を上げる。そうして、カイトも残る雑魚の討伐に参戦して、およそ20分後には全ての残る魔物達の討伐を終えるのだった。
20分後。カイト達はおおよそ残っていた魔物の討伐を終えると、一息吐きつつ外で待つソラへと連絡を入れていた。
「ああ、ソラ。こっちの討伐は終わった。そっちはどうだ?」
『ああ、問題は起きてない。って事はこっちの警戒態勢は解いて大丈夫か?』
「ああ、そうしてくれ。竜騎士部隊はもう引き上げて良いだろうな」
『わかった。瑞樹ちゃんにはそう言っておく』
カイトからの指示を受けて、ソラは瑞樹へとそう伝達する。瑞樹達竜騎士部隊にとってみれば、ここからマクスウェルまでの距離はさほど大した距離ではない。竜騎士レースの時には時速300キロ以上の速度で移動していたのだ。そんな速度で飛ばさなくても3時間もあれば、マクスウェルへと帰還出来る。そしてカイト達もここで撤収の用意を整えて、明日の朝一番には撤退だ。
天竜達はどうせ飛んで移動する事になることを考えれば、別に馬車で一緒に移動する必要はない。一足先に帰って即応部隊として万が一に備えて貰った方が良かった。そもそも来る時も別行動だったので、問題はないだろう。
「ふぅ・・・一応、後はどこかで魔物のリスポーンが無いか調査して、こっちも帰還かな」
カイトはソラとの応答を終えると、そう呟いた。と言ってもこの作業は普通に鳴弦の儀を行って調査するだけだ。すでに結界を展開している以上、もし湧いたとしても少数だ。万が一は軍に任せられる。気付けば対応しようという程度でしかなかった。
「っと、アリス。初の格上相手の戦いだっただろうが、見事だった。その腕ならなんとかやっていけるだろう」
「ありがとうございます」
カイトの称賛にアリスが嬉しそうに――相変わらず表情にはあまり変化が無いが――礼を述べる。カイトは横目にしか見れていないが、それでも桜の支援さえあれば『死霊の王』の側近達に対して有効的な一撃を与えられていた。
やはり流石は騎士の名門ヴァイスリッター家という所だろう。ルーファウスも然りで十分にやっていけそうだった。そうして、カイトはアリスが大丈夫な事を確認すると、密かに呟いた。
「これで、手札は揃ったな。後は頃合いを選ぶだけ、か」
カイトは今回の裏の密かな目的が達成された事に内心でほくそ笑む。そもそも、今回の依頼を受けた理由は表向きは冒険部が適任であったから、だがカイトには別の思惑もあった。
それは依頼を受けた時点で達成されていた様な物だが、これでより完璧に達成出来るだろう。後は無理なく話をする為にタイミングを見計らうだけだ。
そうしてカイトは内心でほくそ笑みながら、小休止を入れた冒険部と共に最後の確認を終えて、翌朝にはマクスウェルへと帰還する事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1080話『報告』




