第1077話 カタコンベ調査任務 ――開始――
カタコンベの調査依頼を受けその事前段階となる偵察任務から作戦会議を終了させたカイト達冒険部一同。彼らは到着当日はすでに昼だった事もあり偵察と作戦会議のみを行い休息を取ると、翌日の朝から本格的な活動を開始した。
「さて、では今回の作戦内容を改めて伝達する。基本的には一チーム5人編成。潜入は一日4チーム。予備に一チーム。予備のチームは野営地で待機しつつ、本陣に控える面子と連携して万が一に備える事。天竜部隊との連携も怠るな。アル、初日はお前に任せる。編成はすでに各員に通達済みだから、それについては逐一何かを言う事はしない」
カイトはカタコンベへの突入前に、最後の全体ブリーフィングを行う。一応出発前に全体的な確認は行っているが、万が一の事もある。確認は怠らない様にすべきだろう。
「まず、今回の作戦目標はカタコンベ全域に出現しているアンデット系の魔物の討伐。掃討戦だ。その後、おそらくその元凶になっていると思しき大本を断つべく最下層にて戦闘を行う。その際、通路や横穴に崩落があればそれも報告してくれ」
カイトは最後の確認として、今回の作戦内容を一同へ改めて通達する。一応今回のメインの依頼は調査依頼だが、それに付随して内部の魔物の掃討戦と通路で崩落している箇所があればその報告も含まれている。
カイト達が任務を終えた後には軍が補佐しながら修繕の為の業者や学者達が入る事になっており、今回の依頼内容にはそのための事前調査も含まれていたのだ。
「その上で注意事項は各々の隊長に聞いておく事。あと、狭いから武器を振るう場合は気を付けてな。で、弓道部は赤羽根先輩から習ったと思うが、鳴弦の儀を適時使用して万が一に備える事。アンデット系の奴の中には普通に呪殺を常用してくる奴も居るからな・・・では、出発」
カイトは最後に呪い対策を改めて説明すると、一同に先んじてカタコンベの中へと入っていく。今度は身を隠す必要も無い――螺旋の内周上の魔物も討伐しなければならない為――ので、普通に歩ける。そうして、しばらく内周部を歩けば最初の横穴へとたどり着いた。
「ソラ、気を付けてな。ルーファウスも頼んだ」
「おう」
「ああ」
ソラとルーファウスは今回、同じ組み合わせでの行動だ。本家と分家の差はあるが、ソラも一応は同じヴァイスリッター流だ。そこらで連携が取れると判断したのである。
ルーファウスにしても見知らずの流派よりも少しでも似通っている流派の方が戦い易いだろう。更にそこに由利の支援も入れたので、連携が満足に取れないでも問題は無いはずだと判断した。
そうして、そこでソラ達と別れたカイト達残る面子は更に下へと進んでいく。と、少し歩いた所で、再び横穴にたどり着いた。そこでは翔率いる部隊と別れる事となる。
「翔、そちらは頼む」
「はい。先輩もお気をつけて」
瞬の言葉に翔は激励を返すと、そのまま横穴へと突入していく。基本的に今回の突入順は各チームの力量で判断している。ルーファウスが先になったのは、単純に彼がまだこちらでの慣れていないからだ。連携の不足を不安視していたのである。
ソラと由利のフォローを入れるとしても、やはりどうしても不安は残る。そうして、次に横穴に突入する事になったのは、瞬の部隊だ。
「先輩、気を付けてな。特に先輩の場合、高火力で殲滅という事も多い。崩落させるのだけは、本当に注意すること」
「ああ。一応、<<雷炎武>>な壱式までにしておく。それに、即時発動なら学んできた」
「そうした方が良いだろうな」
カイトは瞬の言葉に頷くと、彼も彼に与えられた横穴へと入っていく。横穴の数は全部で20個。長さはそこまでではないが崩落の調査や印を付けたりの作業も必要となる。勿論、魔物が大量に居れば休息を取ったりしつつ進まなければならないだろう。
なので所要時間は横穴一つにつきおよそ2時間程を想定していた。一日に二回横穴の調査を行うとして、一日に8箇所、全てを調査するのなら3日は必要というわけだ。
「良し・・・じゃあ、オレ達も進む事にしよう」
カイトはそう言うと、残る面子の行動を促す。こちらにはアリスも含まれており、彼女がカイトの真後ろを歩いていた。同じく連携の不足は不安だが、ソラや瞬では上手く行かない可能性はある。が、カイトならば力量的に不足はないし、アリスを補佐に専念させられる。ここに含めたのは妥当な判断だった。
「さて・・・」
カイトは通路にひしめいていた『骸骨兵』を切って捨てて、自分達が潜入する為の横穴へと到達する。
「じゃあ、行くか。アリス。初任務に近いが、オレの側から離れない様に」
「はい」
カイトの言葉にアリスが応ずる。こちらはカイトを先頭にして、『2-1-2』のフォーメーションだ。アリスが居る為、背後を取られる可能性を考慮して後衛を厚くしたのである。勿論、前線が強いという事もある。というわけで、そのもう一人の前線である藤堂へとカイトが声を掛けた。
「藤堂先輩。オレは状況を見て魔銃も使いますから、そちらは存分にスペースを使ってください」
「ああ、助かるよ。じゃあ、行こうか」
カイトの言葉に藤堂が頷いた。こちらは更に後衛には赤羽根がおり、万が一の場合にはこの間カイトより習った鳴弦の儀を行って呪いを散らしてやるつもりだった。アリスの抗魔力と合わせれば、おそらく居るだろうと推測される『死霊の王』の呪いでも無ければ対処可能だろう。そうして、一同は横穴へと潜入する事となる。
「・・・精神衛生上良くないな、これは・・・」
藤堂は左右の壁に安置されているのか放置されているのかわからない髑髏を見ながら、僅かに顔を顰める。やはり髑髏という物はそこにあるだけで気が滅入るようだ。髑髏をいう物は否が応でも死を連想させるのだから仕方がないのだろう。
「あはは。まぁ、これだけはどうしてもね。お墓ですから・・・」
「ああ、分かっちゃいるけど・・・ん」
「・・・気づきましたか?」
「ああ。敵だね」
カイトの言葉に応ずる様に、藤堂が刀に手を掛ける。基本的に今回の潜入では定期的に弓道部の面子が鳴弦の儀を行い周囲の状況をチェックする事になっており、返って来た音に違和感があったのだ。近くに魔物が居る証だった。一方、そんな二人の様子を見てアリスが驚いていた。
「そんなので分かるんですか?」
「ああ。まぁ、一般的なやり方じゃあないけどな。使い方次第じゃ、こういう風に使える。赤羽根先輩。もう一回、今度は少し強めに」
「わかった」
カイトの指示を受けて、最後尾を進む赤羽根が鳴弦の儀を行う。そうして返ってきた反応で、カイト達はおおよその距離を割り出した。
「この通路の先、か。相手は気付いていない・・・奇襲、行けるか」
「息を潜めよう」
カイトの言葉を聞いて、藤堂が小声で足音を潜める。そうして、十字路の曲がり角に差し掛かった所で、カイト達は一度立ち止まる。この先のどこかに、敵が居るはずだった。
「・・・見付けた・・・『骸骨剣士』か・・・」
カイトは偵察用の魔道具で通路の先を見て、そこに魔物が居る事を見つけ出す。どうやら、幸いにしてこちらに背を向けているらしい。なら、考えるのは奇襲する事だ。
「・・・アリス。確かヴァイスリッター流の魔術を使えるな?」
「はい、一通りは」
「拘束は?」
「出来ます」
「良し・・・少しこっちへ」
カイトはアリスの返答に頷くと、アリスを自分の所に招き寄せる。そうして行動に出る前にカイトは作戦を伝えた。
「赤羽根先輩。オレと藤堂先輩で突撃しますので、先輩は弓で支援を。アリスは魔術で不意打ちして敵の動きを阻害。藤堂先輩はオレと合わせて突撃で。木更津は万が一に備えて待機」
「わかった」
カイトの言葉に全員がうなずき合う。そうして、更にカイトは行動を起こす。
「・・・」
カイトは無言で、十字路の中心に向けて何らかの魔術を展開すると、アリスの手を引いて通路の逆側へと一気に移動する。
「今のは?」
移動した先でアリスが問いかける。魔物達はカイト達が移動したにも関わらず、全く気付いた様子がなかったのだ。
「幻術だ。まぁ、軽い奴な。単に物音と一瞬だけ姿を隠す為の物だ。こういう場合には便利だ」
カイトはアリスを連れて藤堂達とは逆側の壁に張り付くと、十字路を挟んで藤堂達と頷いて合図を取り合う。そうして、カイトと藤堂が同時に通路に飛び込み、それとワンテンポ遅れて赤羽根とアリスが躍り出る。
「拘束せよ、<<雷光の縛>>」
カイト達の横をアリスの放った雷の如き力が通り過ぎる。それはカイト達に気付いて振り向こうとしていた魔物たちの動きを拘束する。それは数や力を抑えている――他の魔物の気付かれない様にする為――関係でわずか数瞬しか効果は無いが、カイト達二人からすれば十分な数瞬だった。
「上出来だ・・・<<掌底杭>>!」
カイトはアリスの力で封殺された魔物達の一体の髑髏を引っ掴むと、それに直接魔力で作り出した杭を叩き込む。基本的に、こういった骸骨型の魔物は人体と同じく頭部が弱点だ。頭を砕いてやれば大抵は叩き殺せるのである。そして砕くのであれば、斬撃より打撃だ。
なのでカイトはそのまま残る胴体を蹴っ飛ばして粉微塵にすると、次いで回し蹴りを他の魔物に叩き込む。が、これで顔面を狙い打つのではなく、一箇所に纏めたかっただけだ。
「ふんっ!」
敵を一箇所に纏めたカイトはそのまま、腰を落とした正拳突きを連続で集めた魔物の髑髏へと叩き込んで打ち砕く。幸い敵は全て拘束されている為、防御どころか身動き一つ取れる事はなかった。
「はぁー・・・」
「・・・これで、全部かな」
残心とばかりに深く息を吐いたカイトに対して、同じく刀を納刀して僅かに残心した藤堂が呟いた。そうして、残心を終えたカイトが姿勢を整えるとアリスへと視線を向けて頷いた。
「上出来だな。さすが、教国の騎士という所か」
「ありがとうございます」
カイトの称賛にアリスが礼を言う。表情はあまり嬉しそうには見えなかったが、どこか嬉しそうな雰囲気はあった。
「良し。出来る限りはこれからはこの組み合わせで戦う事にしよう」
カイトは今の戦い方に手応えを感じ、これを基本として戦う事にする。後は状況に応じてカイトが魔銃で支援を行い赤羽根が鳴弦の儀で他の敵が近寄らない様にしつつ剣道部二人が前線で、等変えていけば良いだろう。そうして、再びカイト達は調査を開始する。
「ふむ・・・ここは少し崩落の危険性があるな・・・」
カイトは崩落の危険性がある所は地図にその印を刻んでおく。そして後で揃った時に情報を統合して、マクダウェル公爵軍に提出すれば良い。と、そんなある意味地味といえば地味な作業をするカイトに対して、手持ち無沙汰なアリスが問いかけた。
「皆さんは何時もこんな事をされているんですか?」
「んー・・・まぁ、そんな所。と言っても調査はオレ達の活動目的にも関係してくるからな。地味だが、手は抜けんさ」
カイトは崩落しそうな天井の状況を魔術で調査しながら、その情報を地図に刻んでいく。別にここまでする必要は実は無いのだが、彼の言った通りこういった作業が何時か役に立つのだ。練習と思ってやっておくつもりだった。なので勿論、他の所でも同じ様に入念に情報を得て、地図に記していた。
「・・・そうまでして、帰りたいんですか?」
「ん? ああ、帰りたいか否か、か・・・さぁ、オレはどうなんだろうなぁ・・・」
アリスの問いかけにカイトは相変わらず調査をしながら答える。話半分だったからか、本音が漏れていた。と、そんな本音を図らずも聞いたからだろう。
「え?」
「存外、こっちの生活も悪くない。まぁ、そう言っても選択は今じゃあない。出来る様になるかもわからないなら、その時までのんびりやるさ。それに、その選択肢を得る為に、こうやって頑張っているんだからな」
カイトはそう言って笑う。と、そんなカイトにアリスが何かを言おうとする前に、赤羽根が告げた。
「天音。反射してきた波に反応がある。多分、敵が近づいている。進行方向からだ」
「なら、この程度にしておく方が良いか・・・わかりました。じゃあ、先に進んで簡易の結界を展開出来る様にしておきましょう」
赤羽根の報告を聞いたカイトは調査を切り上げる。今回の作戦目標は、先に進んでミナド村で使ったのと似た効力を持つ魔道具を設置する事だ。魔物が頻繁に出現しては整備も何も無い。そうならない為に、ある程度は魔物の出現を抑えてやる必要があるのである。
「ああ、じゃあ、移動だな」
「ええ・・・アリス、行くぞ」
「あ、はい」
カイトの言葉を受けて、アリスが気を取り直す。そうして、彼らは更に奥へと調査を続けていく事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1078話『リッチ・キング討伐戦』




