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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第56章 教国からの来訪者達

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第1076話 作戦会議 ――膝屈する乙女――

 カタコンベの調査任務を受けたカイト達一同は、カタコンベへと到着すると偵察を行っていた。それを終えたカイト達偵察部隊は、桜達に設営を行ってもらっていた野営地へと帰還する。


「終わったみたいだな」

「はい・・・そちらはどうでした?」


 野営地に設営された臨時の本陣でカイト達を待っていた桜が問いかける。なお、本陣と言っても単なる大型のテントだ。よくある戦記物での野営地を思えばちょうどよい。所詮は一時的な場所だ。地図等の資料を置ければそれでよかった。


「ああ、おそらく大物が居るだろうな。底の方に大物の側近らしい奴が居た」

「ということは、釣り出してやらないと駄目ってことか」

「だろうな」


 ソラの推測にカイトが頷いた。彼は地図を見て己なりの攻略方法を考えており、万が一通路の奥に大物が潜んでいた場合の事も考えていた様子であった。


「さて・・・ソラ、地図出してるよな」

「ああ」

「机の中心に。丁度全員揃ってるしこのまま作戦会議だ」


 カイトはそう言うと、自分の椅子を創り出して上層部の内今回連れてきた面子を集める。


「さて・・・敵はおそらく最下層の最奥に潜んでいると思われる。基本的にはこの討伐が今回の依頼の最終目的になるだろう」

「敵の推測とか出来てるのか?」


 作戦会議を始めたカイトに対して、ソラが問いかける。地図は渡された全員が頭に叩き込んでいるし、どこを攻めるか、というのも予め決めている。なのでここで話し合うべきは、大物対策と細かな変更点だけだ。


「んー・・・おそらく、だがネクロマンス系を使いこなす奴だな。『死霊の王(リッチ・キング)』の系統だと思う。奴が居ると付近のアンデット系の魔物が生まれるのが早くなる事が多くてな。と言っても冒険者の感覚って奴なんだが・・・」


 カイトは己の推測を語る。倒したばかりなのに、背後に魔物が生まれていたのだ。であれば、何時もよりも遥かに出現速度が上昇していると見て良いだろう。その影響として考えられるのが、かつてメル達が戦ったとされる魔物の系統だった。


「となると、ちょいと厄介な事になるんだよな・・・」

「厄介?」

「メルの時の事を覚えてるか?」

「いや、詳しい事は知らない。と言うか、あの時は・・・ほら、色々とあったから・・・」


 カイトの問いかけにソラが僅かな苦笑を滲ませる。あの時と前後して起きたのが、アウラの帰還と『ポートランド・エメリア』での大乱戦だ。

 が、それ故にソラはそれら二つの事が印象的過ぎて、メルの依頼内容――正確にはその裏事情――をほとんど覚えていなかった。そしてそれは全員が似たり寄ったりだった。


「あー・・・そう言えばそうか。まぁ、『死霊の王(リッチ・キング)』はランクBの魔物で、結構な強さのある奴だ・・・が、特徴的なのは・・・」

「死ぬ瞬間、だね」


 カイトの言葉を引き継いで、アルが答えを述べる。その通りである。あの時、メル達は最後の最後に油断して呪いを食らったのだ。


「そうだ。奴は死ぬ瞬間、イタチの最後っ屁で呪いを放つ」

「「「あー・・・」」」


 そう言えばそう言っていたな、と全員が思い出す。とは言え、そうなると何か対策を取らねばならないだろう。というわけで、瞬が問いかけた。こういう特殊な行動に出る魔物が出て来るのが、ランクBからの魔物の特徴だろう。


「対策はどうすれば良いんだ?」

「基本的には抗魔防御を高めて一気に跳ね返すか専用の道具を持ち込むか、なんだが・・・まぁ、今回はオレが戦うのがベストだろう。アル、お前はまだ呪い返しとかは出来ないんだったな?」

「残念ながら、あれは・・・ねぇ。ちょっと才能の有無がダイレクトに響いてくるから。僕は残念ながら適性は皆無に近いよ」


 アルは僅かに苦笑混じりに自分では無理である事を明言する。呪い返し、というのは呪いを術者に返す術の事だ。日本風に言えば人を呪わば穴二つ、という理論を応用しているらしい。


「ふむ・・・ルーファウスは?」

「残念ながら、俺も皆無だ。が、アリスが確かその分野にも才能があったはず・・・だよな?」

「あ、はい。一応呪い返しは習得しています。と言っても実戦では使った事がないので流石にどこまで通用するか、レベルですが・・・」


 ルーファウスからの問いかけにアリスが頷く。あまりさほど持ち合わせる者の多くはない適性ではあるのだが、どうやらアリスにはその数少ない適性があったらしい。


「ふむ・・・わかった。ということは呪いに対する抗魔力はかなり高いと見て?」

「はい、それはかなり高いと計測されています」

「そうか・・・良し。なら、アリス。悪いがオレのフォローを頼む。と言っても最前線で戦うのはオレだ。露払いを任せる」

「わかりました・・・ですが、カイトさんは大丈夫なのですか?」


 カイトの指示に頷いたアリスがカイトへと問いかける。彼女らはカイトの正体を知らないし、そもそもまだカイトと知り合って少ししか経過していない。どんな力を持ち合わせているかまだ把握していないのだ。


「ああ、オレは一応除霊師の能力もあってな。そこらで呪いに対する耐性は高い」

「それは・・・非常に稀な才能だな。我が国でもどれだけの術者が居るか・・・」


 ルーファウスが驚いた様に目を見開く。宗教国家で霊的な存在に対しての能力が長けた人物が多い教国でも、退魔師と言えるだけの実力を持つ者は数少ない。と、そうして驚いた彼であったが、ふと思い直した様に顎に手を当てる


「いや・・・そう言えば勇者の師である小次郎も弱くではあるが退魔師の力を持っていると言っていたか・・・日本人には比較的に多いのかもしれないか・・・」

「・・・おーい、ルーファウス。戻ってこーい」

「っと、すまない。珍しい能力だったのでな。とは言え、貴殿らには多いのか?」

「いや、今のところ使えるのはオレぐらいだ。偶然、持っていただけだ」


 ルーファウスの問いかけに今のところ発露しているのは自分だけであるとカイトが明言する。とは言え、厳密にはそうとは言えない。発露しているのがカイトだけで、実は持っていそうな者は居たのだ。


「まぁ、そう言っても・・・桜、お前も大物討伐戦の時には前線に出てくれ」

「私、ですか?」

「ああ。桜にも適性があるからな」

「は、はぁ・・・」


 驚いた様に桜がカイトの指示に頷く。実は彼女も知らない事だったのだが、桜にもカイトと同じく退魔師としての能力がある可能性があったのだ。というわけで、彼は口では語れないので念話を飛ばした。


『桜姫、彼女はかなり強い除霊師の力があってな。まぁ、日本の脈を一手に引き受けているお方だ。不思議のある事じゃあない。龍脈や地脈を通って、死者の魂は星の内部に運ばれる。それを操れるということは即ち、魂に影響を出せるという事だ。彼女はそう言う意味でいえば、一級の除霊師でもあるわけだ。その直系の子孫で、同じく桜花龍である桜にもそれは備わっていると見て良いだろう』

『ああ、そういう・・・』


 カイトの説明に桜が納得して小さく頷いた。確かにこれは道理と見て良いだろう。ここまで力の性質が似通っているのなら、祖先の桜姫程とは言わずとも他の者よりも遥かに高い適性があるはずだ。無防備な者が近づくよりも遥かに良いだろう。


「良し・・・ということで、大物討伐戦の時にはソラ、お前が変わりに本陣に詰めてくれ。最接近して戦うお前は奴とは特に相性が悪い。せめて先輩の様なヒット・アンド・アウェイでもないと呪いに直撃してしまう。流石に、何日も苦しみたくはないだろ?」

「そりゃヤダな・・・わかった。じゃあ、最後の討伐戦には参加しない方向で良いんだな?」

「ああ。で、さっき言ったが先輩や他の奴は基本的にオレ達の露払いで周囲の敵の討伐を頼む。お供を引き連れてくるだろうからな」

「ああ、わかった」


 カイトの言葉に瞬が頷いた。ここらは持っているか持っていないか微妙な所だ。源頼光を祖とする瞬なら持っていない可能性は無いではないが、それがどこまでかはまだ断言は出来ない。なので彼も含めて、支援してもらった方が良いだろうという判断だった。


「良し・・・とりあえずこれで大物の討伐については問題無いな。一応、その他の注意点としては見た限り撤退時に大慌てで横穴の外に出ようとしない限りはそれで良い。間違っても大穴に落ちるとかいうバカはしない様に注意する事」


 カイトは大物討伐についての作戦会議を終えると、次いで細々とした調査についての注意点を告げる。と言っても注意すべき所は大穴に落ちる事だけだ。

 大穴に落ちて大物を刺激して、横穴の魔物と共に大乱戦になるのだけは困る。流石に無数のアンデッド系の魔物と大物とその取り巻きを同時に相手にするのは得策とは言えないだろう。とは言え、それも考えていないわけではない。というわけで、カイトが更に続けた。


「もし万が一落ちてしまった場合には、即座に壁を蹴って上に登る事。大物に鉢合わせた場合は即座に離脱、出来ない場合は即座に救援を。大穴は広い様に見えて事実広い、反響する声は届く。声を上げろ。その時点で撤退は不可能と判断して、本陣は天竜部隊に連絡を送って蓋を開けさせろ」

「まぁ、そんな事が無い方が良いのでしょうけどもね」

「そうだな。今回、瑞樹達は仕事をしない方が良い仕事だ。何事も無ければ、そちらの方が良いんだ」


 笑った瑞樹の言葉にカイトも笑って同意する。これは万が一の場合だ。その場合は天竜達も突入して、一気に乱戦だ。そうならない方が良いのは当然であった。


「良し。では、以上だ。後は全員明日に備えて休憩する事。今日もそこそこ移動したからな。その疲れを取って、明日に備えてくれ」


 カイトは一通りの注意事項を上層部とルーファウスのアリス二人に伝達すると、全員に作戦会議の閉会を告げる。これは本当に偵察の結果を全員に通知して、必要な作戦の修正を掛ける為の作業だ。なのでこの程度で十分だった。そうして、カイト達はそのまま休憩に入る事にするのだった。




 と、そうして休憩に入る事にしたのだが、早々にアリスが非常に不満げというか、複雑な表情を浮かべていた。それはお風呂の中での事だった。


「釈然としません」

「何がですの?」


 アリスの唐突な発言に横の瑞樹が首を傾げる。本当に唐突だった。が、こう言いたくなるのは、冒険部に来た女性ならば一度は経験する事だった。偶然上層部はそう言った不平不満を漏らす少女に初めて会っただけで、大抵の者達はそれを把握していた。


「・・・こんなお風呂を携帯するギルドがあるなんて・・・皆さんは名家の生まれと聞いてはいましたが、こういう所にもこだわるんですね」


 アリスはお風呂のお湯を掬い、非常に幸せそうに腕に掛ける。最近収支が安定してきた事でお風呂は複数人が入れる様な大型の物に変わり、入浴剤まで入れられていた。なにげに入浴剤にもこだわっており、かなり良い物を使っていた。

 なお、お風呂が大型の物に変わったのはこちらは入浴の時間短縮という冒険者として至極真っ当な理由だ。カイトの趣味云々ではない。通常は置く場所に困る大型の物だが、こういう大規模な遠征隊を出す場合だと必然として野営地も大きくなる。使えるのであった。


「・・・いえ、あの、その・・・」


 桜は非常に言い難そうに視線を泳がせる。というのも、冒険部ならば誰もが知っている事があるからだ。そして、誰もが一度は通る道だった。


「どうしました?」

「・・・お風呂、カイトくんの趣味です。入浴剤は私達が選んでいますが・・・」

「基本的に、予算は青天井で選ばせて貰ってますわよね・・・彼も入りますから・・・」

「・・・」


 アリスは無言で絶句して、次いで、絶望する。女としての重要な所が叩き折られた様な気がするらしい。そうして、しばらくしてノロノロと復帰したアリスが問いかけた。


「・・・彼、まさか中身女の方とか言わないですよね? そんな女性騎士垂涎のご理解、教国の上級騎士で何人がしてくださるか・・・兄なぞ絶対予算の無駄、と言って切り捨てますよ」

「「あ、あはははは・・・」」


 憮然としたアリスの発言に桜と瑞樹は頬を引き攣らせ視線を泳がせつつ、乾いた笑いを上げる。なにげに、カイトは女子力が高かった。それをアリスが指摘する。


「料理スキル完備、お風呂欠かさない・・・なんですか。これで洗濯まで出来たらお嫁に貰って良いですか。婿養子入れますよ。彼一人で教国の女性騎士を壊滅させられますよ。私は滅びました」


 どんよりした具合でアリスが二人へと不満にも似た称賛を述べる。普通は旅の最中ではお風呂に入りたくとも水浴びが行えるだけでも御の字だ。それは教国の騎士達であっても変わらない。

 教国の騎士とて根っこは普通の人なのだ。女性ならば、当然だろう。彼女らだってお風呂に入りたくても、予算の無駄と言われて入れないのだ。

 明言しておくとギルドでお風呂を完備している所なぞ皆無と言っても良いだろう。それどころか、旅の最中ならばお風呂に入らないという集団は多い。相変わらずお風呂に入浴剤まで完備するというカイトが可怪しいだけである。


「「あははは」」


 アリスの冗談めかした言葉に、桜と瑞樹は笑う。どうやら、お人形さんに近い印象は見た目だけできちんと感情表現はしてくれるらしい。愛らしい見た目と相まって気後れしそうな――そもそも桜達もそうなので気にしないが――美少女だが、女の子らしい所もかなり多かった。そうして、そんなアリスと共に、桜と瑞樹はお風呂に入りしっかりと身体を休める事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1077話『カタコンベ調査任務』

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