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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第56章 教国からの来訪者達

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第1073話 騎士達と共に

 ルーファウスとアリスの二人を冒険部ギルドホームへと案内したカイトは、荷解きを行う間に椿に頼んでおいた仕事から選別した依頼であるカタコンベの調査依頼の用意を進めていた。と、そんな彼の所に、アユルの護衛を終えたアルが帰還する。


「たっだいまー。疲れたー」

「おーう、お疲れ。今日は軍務はこれで終わりか?」


 流石に総本山の枢機卿の警護任務は緊張したのだろう。アルが肉体的ではなく精神的に疲れた様子で執務室のソファへとぐったりと腰掛けた。と、そんな彼はその後、カイトの質問に笑って頷いた。


「うん、当分は軍務は無いはずだよ」

「アルー」

「おっと。ただいま」

「うん、おかえり」


 帰還したアルの上に凛が腰掛ける。ここ数日ご無沙汰だったのでイチャイチャしたい、という事なのだろう。それに仲が良くて善き哉、とカイトは笑うだけだ。


「ははは・・・先輩はそんな事しなくて良いのか?」

「・・・いや、流石にウチは・・・っと、そう言えばリィルは?」

「あ、リィルさんでしたら下の修練場で武蔵さん相手に訓練を」

「ああ、そうか。あいつらしいな・・・すまん、天道」


 瞬は桜の返答に感謝を示す。武蔵は武芸百般を極めている。当然、槍もその一つだ。まだまだ未熟なりィルが教えを受けていても不思議はないだろう。と、そんな桜はカイトからの視線に気付いた。


「いえ・・・なんですか?」

「来てくれないかな、という催促?」

「・・・えっと・・・」


 いたずらっぽく笑うカイトに桜は耳まで真っ赤にして、かなりの悩みを見せる。素直に言えば、凛の様にイチャイチャしたい。したいが、ここでこれをやれと言われて出来るか、というと残念ながらお嬢様である彼女には厳しいらしい。と、そんな所に少女が一人、口を挟んだ。


「あら、でしたら私が頂いてしまいましょうかしら」

「あ、瑞樹ちゃん」

「ああ、瑞樹。おかえり」

「ただいま戻りましたわ」


 カイトの言葉に瑞樹が笑って頷く。どうやらレイアの散歩から帰って来たらしい。が、横には日向と伊勢も一緒だった。


「日向、伊勢・・・お前らも一緒に行っていたのか?」

「はい、一緒に」

「ん」


 日向はカイトの言葉に頷くと、そのままととととと、と走ってカイトの側まで駆け寄って仔竜化してその膝の上に乗ると、早々に寝息を立て始めた。


「あら」

「やれやれ・・・桜、残念ながら先着が入ったみたいだな」

「あはは」


 カイトの言葉に桜は僅かに残念そうな顔をするが、これはこれでほのぼのとした一幕だ。流石に彼女も小動物の席をぶんどるような事はしない。というわけで、カイトは寝息を立て始めた日向と己に寄り添う様におすわりする伊勢を横に、しばらく次の仕事への準備を行う事にする。


「ふむ・・・規模が大きいな。準備は・・・ああ、そうだ。瑞樹、桜。今度の任務、同行を頼めるか?」

「次ですか? 何の依頼です?」


 カイトの問いかけに桜が問いかける。カイトが何らかの仕事を計画している事は彼女も見ていた。とは言え、電話の真っ最中だったのでソラとカイトの会話は聞いていなかった。


「カタコンベの調査任務・・・と言っても桜には本陣での総指揮任務、という所だけどな」

「ああ、そういう・・・」


 そう言えばそんな依頼が入ったと言っていたな、と桜が思い出す。どうやらその場に同席していたらしい。規模がそこそこ大きい上に地下の探索で困難が起こるかもしれない為、ミレイからの提起を受けてカイトに相談した方が良いだろう、という結論を下したのが彼女だった。


「わかりました。じゃあ、こっちも用意に取り掛かります」

「ああ。頼む」

「それで、私は何を?」

「ああ、瑞樹は竜騎士部隊を率いて本陣の護衛と万が一の対策を頼みたい」


 カイトは瑞樹の問いかけに答える。こちらは本陣を設営しての作業になるので本陣の護衛が必要となる。その為に竜騎士部隊を使おうという判断だった。と、まぁそれはわかったわけであるが、万が一の対策に竜騎士部隊、というのが分からなかった。


「で、万が一というのは?」

「蓋をこじ開ける、って言う冒険者の言葉がある」

「蓋をこじ開ける?」


 カイトの言葉に瑞樹が首を傾げる。聞いたことの無い言葉だった。


「基本的にカタコンベに出るアンデッド系の魔物は日光に弱い。逆に闇夜の中だと強いから、夜の調査は行わないのはそのためだな」

「まぁ、それは常識ですわね」

「ああ。だから、蓋をこじ開けるのさ・・・蓋、つまりは上の天井を天竜の<<竜の伊吹(ドラゴン・ブレス)>>で吹き飛ばしてな」

「そ、それはまた・・・なんと言いますか罰当たりですわね」


 カイトの言葉を聞いた瑞樹は半笑いだ。それで良いのか、と思ったようだ。確かに、それはカイトも思わないではない。思わないではないが、命あっての物種という言葉もある。


「そりゃ、な。だが命には変えられんし、勿論後できちんと修復もする。万が一の場合だけだ。とは言え、カタコンベやそういうアンデッド系の魔物が出る所で天井を吹き飛ばしたり敢えて外に誘導したりするのは冒険者の常道だ」

「軍でも同じように万が一に備えて天竜か飛空艇を一隻待機させておくのはよくやるね。勿論、修復はするけど」


 カイトの言葉に応ずる様に、アルもカイトの作戦が一般的であると語る。と、それであれば、と瑞樹も頷いた。


「では、今後もありそうですわね。同行させて貰いましょう」

「ああ、そうしてくれ。まぁ、一発天井をぶち抜けばそれで十分だから、二~三体の輪番制で頼む」


 カイトは瑞樹に更に指示を与える。ここらは負担にならない様にしてもらえれば良いだけだ。と、そんな形で幾つかのやり取りをしていると、どうやら荷解きを終えたらしいルーファウスとアリスが執務室へとやってきた。が、ルーファウスは入ってきて早々に顔を顰めた。


「失礼する・・・何をやっている?」

「いや、別に・・・普通に恋人とイチャイチャしてるだけだけど」


 しかめっ面のルーファウスの問いかけにアルが見たままを答える。


「それはわかっているが・・・いや、敢えては言うまい」

「仕事終わったんだからこれぐらい許してよ。頭固いなぁ・・・」


 呆れ100%のルーファウスに対して、アルがため息と共に首を振る。が、それにルーファウスが怒った。


「そういうことではない! 曲がりなりにもヴァイスリッター家であれば公共の場でそういうことをするな!」

「うっ・・・」


 流石にアルも家の名と公共の場であるという事を出されて思わず反論は言い淀む。と、そんな彼に対してルーファウスはカイトへと問いかけた。


「カイト殿。なぜこれを見過ごしているんだ?」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


 ルーファウスの問いかけであったが、それは冒険部上層部に奇妙な沈黙を生じさせる。まぁ、わかっている奴らにとっては非常に当たり前であるが、そんな沈黙にルーファウスは首を傾げるばかりだ。とは言え、流石に毒気は抜かれたらしい。


「・・・む? どうした?」

「あ、あはははは・・・」


 視線を向けられた桜が頬を赤らめ、視線を逸らす。まぁ、彼女とて時折カイトの申し出に応ずる事はある。自分の事を棚に上げた発言になるのは彼女とてわかっていた。


「なんなんだ?」

「・・・わ、私が一番何も言えませんわね・・・」


 次いで視線を向けられた瑞樹――桜から一番近かった為――も半笑いでそっぽを向く。桜はまだお嬢様としての威厳というかプライドがあるらしくあまりしないのだが、逆に押せ押せな瑞樹はよくカイトの誘いに乗るわけだ。言えるはずもない。


「・・・?」


 最早困惑が極まったルーファウスはそのまま流れで、しかし今度は説明を求める様にソラへと視線を向ける。それに、彼は笑ってカイトを指差した。


「あっはははは。ほれ、カイトの方見ればわかんだろ」

「いや、わからないから聞いているんだが」


 ソラの言葉にルーファウスはあまりにも道理な問いかけを行う。それでわからないからこそ、問いかけているのだ。で、そのカイトはというと椅子を回転させて窓の外を見ながら呑気に紅茶を飲んでいた。


「椿。今日も紅茶が美味いな」

「ありがとうございます。少々良い銘柄が手に入りましたので、入れ方にも少しこだわりを」

「そうか。何時も助かってるよ」

「ありがとうございます。御主人様のお世話が、私の仕事ですから」


 カイトは晴天の青空を見上げながら、椿の差し出してくれる紅茶を飲み日向を撫ぜていた。が、決してルーファウスと視線を合わそうとはしない。とは言え、いつまでもそのままでは話が進まない。なので、カイトが観念した。と、同時にアリスがおおよそを理解したらしい。


「・・・なるほど。意外ですがすごいですね」

「・・・わかったのか?」

「はい。そして兄がすいません、頭が固くて・・・そこは、ご容赦を」

「???」


 アリスの謝罪にルーファウスが首を傾げる。言っている意味が理解出来なかった。まぁ、ここらは騎士といえども曲がりなりにも年頃の乙女という事だろう。人間関係を一瞬で把握したようだ。


「すまん。そういう所なんだ、ウチは」

「いえ、少し憧れます。騎士学校だとあまりそういうの、無かったですから。兄のようなのが沢山居て・・・」

「・・・???」


 ルーファウスは二人のやり取りが理解出来ず、首を傾げる。と、そんな彼に今度はアルがため息を吐いて問いかけた。


「朴念仁って言われない?」

「どういう意味だ?」


 アルの問いかけにルーファウスは少しむっとした様子で問いかける。が、これはそのままの意味でしかない。これで気付かないのだからよほどの朴念仁だろう。瞬やリィルとタメを張れるだろう。


「はいはい。とりあえず今は置いておこう。喧嘩するなら、後で外でやれ。とりあえず今は二人に教えないといけない事も多いからな。今日中に終わらせとかないと明日からが面倒だ」

「申し訳ない」

「あ、ごめんごめん」


 苦笑混じりのカイトの言葉に二人は即座に気を取り直す。そもそもルーファウスもアリスもここには呼ばれて来ているのだ。ここで喧嘩しては無駄な時間を過ごすだけだ。


「さて、それでさっきの続きに入る前に二人には少し頼みたい事があるんだが・・・良いか?」

「なんだ?」

「丁度依頼が入っていてな。連携を慣らす為も含めて、二人にも同行を頼みたい。あ、アル。お前も頼む。出来ればリィルも一緒に、なんだがそちらはまた後で言うつもりなんだが・・・」

「ん、わかった。話は聞いてたから僕は僕で用意しておくよ。あ、姉さんの方には僕の方から言っとこうか?」

「頼んだ」


 アルの返答にカイトは一つ頷くと、今度はルーファウスとアリスへと事情を説明する。


「と、いうわけだ」

「なるほど。それは丁度良かった。実はここ数日飛空艇の中で満足に鍛錬が出来ていなくてな。是非とも一つ手頃な依頼はないか、と問いたかった所なんだ」

「そうか。それなら渡りに船か。是非とも頼む。アリスも頼めるか?」

「はい、わかりました」


 カイトの求めにルーファウスもアリスも快諾する。ここら、騎士である彼らからしてみれば元来はアンデッド系の魔物というのは主敵と言える。宗教というのは迷える者を教え導き、救う為の物だ。死者に属する魔物は彼らからしてみれば許容出来ない存在と言える。

 そして同時に、ルクセリオ教に属する騎士にとって最も相性の良い敵でもあった。カイトがルーファウスやアルに頼んだのも、それがあるからだ。どちらも不思議には思わなかった。


「ま、それは頼む」

「ああ・・・それで、今日は何をすれば良い。仕事は明後日から、なんだろう?」


 カイトに対してルーファウスが問いかける。基本的にはルードヴィッヒよりこちらでの事はこちらの指示に従う様に、と言われている。


「ああ、それか。それについては、今日は一日案内だけだ。流石に職場を知らねば仕事にならないだろう?」

「それはそうだな。わかった。では、引き続き頼む」

「ああ・・・じゃあ、付いて来てくれ」


 カイトはそう言うと書類仕事を切り上げて二人の案内を再開すべく立ち上がる。と、その間際、僅かに桜へと視線を送り、その桜も小さく笑って頷いた。そうして執務室を出て、アリスが問いかけた。


「次はどちらに?」

「この下のもう一つの執務室だ。何か書類仕事で困った事があれば、そちらに相談する事になっている。上は客が来たり依頼人が来たり、であまりそう言う場所には出来ないからな」

「なるほど。道理だ」


 カイトの言葉にルーファウスは得心が行った様に頷く。彼は真面目故に一つ一つをしっかりと学ぶつもりなようだ。そうして、しばらくの間カイトは昼を挟んでギルドホームの各所を案内していく。それで適度に時間を潰すつもりだった。


「さて、では、最後の案内だ」

「・・・執務室の様だが?」

「ああ、ここで良いのさ」


 カイトはそう言うと、ルーファウスとアリスを執務室の中へと案内する。そうして、そこでささやかだが、二人の歓迎会が開かれる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1074話『カタコンベ』

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