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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第56章 教国からの来訪者達

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第1072話 善意とそれ以外と

 昨日活動報告を更新しております。本編では流れもあり語れなかったルクス兄弟の裏設定を語っております。興味のある方は御一読を。

 皇都での一日を過ごしたカイト達は、その後再び飛空艇で移動してマクスウェルへと帰還していた。


「ここが、マクスウェル。かつて騎士ルクスが暮らした街だ」


 カイトはルーファウスとアリスに向けてそう述べる。


「ここが・・・」

「想像していたよりずっと・・・なんというか・・・大きいです」


 流石に二人もこれには圧倒されたらしい。大陸最大の都市というのは伊達では無かった。とは言え、いつまでも呆けてもいられない。ここは軍の管理エリアだ。カイト達なので文句は言われないが、それはそれで疑問に思われる。さっさと移動すべきだろう。ということで、カイトが踵を返した。


「まぁ、ここで呆けていても駄目だからな。案内する、付いて来てくれ」


 カイトはそう言うと、歩き始める。そうして道中幾つかの説明をしながら、冒険部ギルドホームへとたどり着いた。


「・・・」

「・・・」


 ルーファウスとアリスがぽかん、と呆けた顔になる。とは言え、それはカイトだってわかっていた。


「あはは。そうなるのもわかる。まぁ、これは色々とあってな。付喪神達が一時期ここに屯してたせいで、幽霊屋敷とか言われてたんだ。いわゆる曰く付き物件というやつだ。ま、実際幽霊に似た奴も居るが、そこは後で紹介しよう」


 カイトは呆けた顔のルーファウスとアリスを連れて、中へと入る。兎にも角にも天下の往来でぼけっと突っ立っているわけにはいかない。そもそも冒険者とて客商売だ。お客の邪魔になる場所に突っ立っていて良いわけがなかった。というわけで道中で受付のミレイやシロエを紹介しつつ、カイトは執務室へと戻ってきた。


「ただいまー」

「おかえりなさいませ」


 カイトを出迎えたのは椿だ。彼女はカイトに頼まれた仕事をしていた為、こちらで待っていてくれたのだろう。


「ここが、冒険部の上層部が常に居る執務室だ。二人の席はこちらに用意しておいた。が、席だけで何か必要な物があれば言ってくれ。用意させる」

「かたじけない」

「ありがとうございます」


 ルーファウスとアリスがカイトの申し出に頭を下げる。一応、二人の席をどこかに用意せねばならないだろう、と判断したカイトは二人の一応の裏向きの仕事――お目付け役としての仕事――まで読んだ上で執務室に用意する事にしたのであった。


「で、だ・・・ああ、彼女は椿。オレの秘書をやってくれている。流石にこの業務だし、オレが居ない事も少なくないからな。秘書の一人は必要なんだ」

「はじめまして。椿と申します」


 カイトの言葉に応じて、椿が頭を下げる。とは言え、これはルーファウスにしてもアリスにしても疑問は無かった。ルードヴィッヒにだって仕事の時は秘書官に近い補佐官はほぼ常に随行している。規模や仕事を考えれば普通だと理解出来たのであった。


「で、椿。今誰が居ない?」

「はい、現在は昨日より翔様がご不在です。陸上部の方々と組んで草原へ依頼で」

「他は?」

「魅衣様がいつも通りの訓練へ。瑞樹様はレイアの散歩へ出てくる、と先ほど。ティナ様はいつも通り研究室にて研究中と。楓様は新魔術の習得を目的としてそれに同行されました」

「そうか。ティナは楓も一緒なら、大丈夫か。ほっとくと際限なしだからな、あいつ・・・」


 カイトは椿よりの報告に一つ頷いた。流石に上層部が全員が揃って出迎えるのはルーファウスとアリスに気を遣わせかねないと考え、上層部にはいつも通りの仕事を命じておいた。なので誰かが居ないのは想定内という所だろう。そしてそれを確認してから、カイトは他の説明をする事にした。


「えっと、それであっちの黒髪の女の子が桜。ソラ達と同じくサブマスターで、今回のオレの代役を務めてもらっていた」


 カイトの紹介に合わせて、桜が小さく会釈する。どうやら、どこかと通話の真っ最中らしい。メモを片手に何か真剣に話し合っていた。後に聞けば、少々カイトに頼まれたとある物の調達で少しトラブルが出ていたらしい。そうしてカイトが視線を走らせて、気まずそうにしていた少女と目があった。


「で・・・ああ、あっちはどうやら知ってそうだな」

「あ、あはは・・・こ、この間はすいませんでした・・・」


 非常に照れた様子で謝罪したのは凛だ。アルも仕事なのでこちらに待機していたらしい。が、それ故ルーファウスと出会ったわけであった。その一方、ルーファウスはと言うと笑ってそれを許した。


「いや、構わん。まぁ、道中も話していたんだが、驚く程そっくりだったからな」

「この兄の頭であればスパスパ叩いても問題ないかと。外も中も頭が固いのが取り柄ですので」

「おいおい・・・」


 アリスの言葉にルーファウスが少し不満げな視線を向ける。が、流石にまだ親しい間柄ではないので、凛がそれに僅かに笑うだけで何かを言う事はなかった。今はそれで良いのだろう。というわけで、カイトが次に話を向けようとして、見慣れた少女が一人足りていなかった事に気付いた。


「で、これ以外に・・・あれ? 由利は?」

「・・・そう言えば・・・おそらくナナミ様と共にどこかへお出かけされているのかと。少し前にナナミさんが来られておりましたので」


 カイトの問いかけに椿がそう言えば、と思い出す。基本的に活動は各個人の自由だ。よほどの事情が無い限り、執務室に居なければならないわけではない。


「そうか・・・まぁ、大方飯でも作りに行ったか」

「食べに、ではないのか?」

「これこれ」


 ルーファウスの問いかけにカイトはソラを指差す。それに、ソラがかなり恥ずかしげだった。


「二人はこいつと付き合ってるから。で、料理が得意なんだよ。大方、久しぶりに作ってあげようとでも言う事なんだろう」

「・・・おう。出掛けしなにそう言われてる・・・」


 ソラは真っ赤になりながら、カイトの推測を認める。どうやら、正解だったようだ。初々しくて良い事だ、とカイトはそれを笑って、更に続ける事にする。


「その由利って女の子に、さっきオレが言った女の子達、更に男一人が加わってここの上層部と言われる面子だ。基本として部活や生徒会が中心なのは、元々学校だったからと思ってくれ。それでここに居るのなら常日頃には関わるのはこの面子になると覚えておいてくれ。ああ、それと今出ている男は瞬の補佐官、副官となる。彼らは基本的には一緒に揃って行動している事が多くなるから、もし何か用事があったとしてらそこを覚えておいてくれ」


 カイトは一通りの人員の説明を終える。その一方のルーファウスとアリスは揃って頷いていた。そうして、一通り説明を終えたのでカイトは総括を行う事にした。


「で、依頼の受け方はさっき言ったとおり、下の受付で受領手続きをする。人員については必要に応じて受付で募るか、当分の間はオレ達に声を掛けてくれればこちらで集めよう。それ以外に個人で行けると思えば個人で受けても構わない」

「ふむ」

「はい」

「良し・・・で、依頼書の見方については先に教えた通りだ。基本的に一応冒険部では受けられない依頼は持ってこない様にユニオン側に頼んでいるから持っては来ないと思うが、討伐対象がわかっている場合はそれに注意する事。間違いや手違いで送られてくる事もあるからな」


 カイトは更に続けて、依頼を受ける際の注意点を伝えていく。ここら、アル達とは違い冒険者として活動した事のない二人だ。戦士としての実力は高いが、そこらの冒険者としての基礎知識は皆無なのである。


「良し。こんな物かな。部屋については、そっちの依頼通り個室にしている。と言っても隣り合った部屋だ。連絡は簡単に取れると思って良い」

「わかった。そちらもまた案内してもらえるか?」

「ああ。それはしよう」


 ルーファウスの言葉にカイトは頷く。部屋については流石に同室はしないらしい。と、そうしてそれを言ってから、カイトが思い出した様に告げる。


「ああ、そう言えばそれで一つ。オレは一応ギルドマスターとしての体裁があるから、最上階を使っている。もし業務終了後に何かがあればそちらに来てくれ。最上階だから迷う事は無いはずだ」

「わかった。そうさせてもらう」

「良し・・・とりあえずこれより先は部屋を案内してからにするか。また、付いて来てくれ」


 カイトはそう言うと、再び移動を開始する。彼らの部屋を先にしなかったのは、移動の道中に執務室があったからだ。そうしてたどり着いたのは、客間として使っていた一角だ。そこの一室を彼らに使ってもらう事にしたのである。


「ここが、そうだ・・・っと、掃除中か? 入れるか?」

「ん?」

「え?」


 カイトの言葉に中に誰かが居るのか、と二人も扉の中を覗く。が、そこには誰もおらず、二人はただただ首を傾げるだけだった。


「・・・誰も居ない様子だが」

「ん、ん」


 カイトはルーファウスの問いかけに部屋の隅を指し示す。そこには、幾つかの小さな人影があった。言うまでもなく、付喪神達であった。


「・・・は?」

「・・・かわいい」

「あはは・・・来る時に説明した付喪神だ。その生成りに近い奴だな。まだ言葉はしゃべれないが、感情表現は豊富だ」


 アリスの感想にカイトが笑いながら、彼らについての説明を行う。その彼らはカイトに手を差し出して、ハイタッチをしていた。相変わらず、好かれているらしい。


「っと、もし入ってほしくはないというのであれば、部屋の入り口にある札をドアノブに掛けておけ。基本的に掃除は彼らがやってくれる・・・勿論、部屋が散らかってない限りは、だけどな。よほど気に入られるとそこらもしてくれる」

「そうか・・・にしてもここまで多いのは初めて見たな・・・」


 ルーファウスが驚いた様子で付喪神達を見る。が、敵意等は感じない。そうして、そんな彼が少しだけルクセリオ教での付喪神達の扱われ方ついて語ってくれた。誤解が無い様に、と思ったのだろう。


「付喪神は我が国では幸運を呼ぶ小さき者として受け入れられているんだ。まさか、こんな所で出会えるとは・・・」

「そうなのか」

「ええ・・・付喪神というのは、持ち主達がその物を大切にし続けた証。物を大切に使うのは私達の宗教では基本の事です。清貧の教え、という所でしょうか。その証である付喪神はその持ち主が物を大切にしていた、という事で、教えをきちんと守り続けていた事の証でもあるわけです・・・触って大丈夫ですか?」


 おずおずとアリスがカイトへと問いかける。が、その目は付喪神達から離れていなかった。どうやら事実として付喪神はほぼ例外的に教国でも異族――と見做して良いかは不明だが――としては普遍的に受け入れられているのだろう。


「一応はな。が、怯えたら止めておけよ。ついでに、見たら分かるだろうがあまり力は入れないようにな」

「はい」


 アリスが応じた態度を見ながら、カイトとルーファウスは僅かに苦笑し合う。なお、流れでこのままこの部屋はアリスが使う事になったらしい。というわけで、カイトは隣の部屋へとルーファウスを案内する。


「こっちも出ている間に掃除される事はあるが、片付けられたくない物なんかはそれを示しておくか、看板を掛けておけ」

「わかった」

「ああ・・・まぁ、後は迷惑にならない程度には好きに使ってくれ。とりあえず荷解きの時間が必要だろう。終わったら二人でさっきの執務室に」

「わかった。では、少しの間だけ失礼する」


 カイトの言葉にルーファウスが頭を下げ、荷物を床に置く。それを背に、カイトはその場を後にして一度執務室へと戻る。と言っても別に何かがあるのではなく、普通に仕事というだけだ。


「椿。例の件についてはどうなっている?」

「そちらについてはご指示通りに」

「これか・・・」

「ああ、御主人様。ミレイ様とあの後話したのですが、件の依頼について御主人様の指示と関連性がありましたので、そちらに共に」

「ああ、これか」


 カイトは自分が手にしていた依頼書から少し視線をずらして、椿が別に置いておいてくれた依頼書を見る。どうやら偶然にもカイトの目的の物と同じ系統の依頼だったらしい。というわけで、まず彼は手にしていた依頼書を一読して、そちらを手に取った。


「ふむ・・・で、これがその依頼か・・・」


 カイトは手に取った依頼書の表面を見て、僅かに眉を動かした。討伐系の依頼を受けるつもりだったが、こちらの方が良いかもしれないと思ったのだ。


「カタコンベの調査依頼か」

「はい。かつて御主人様が行かれた所かと」

「ということは・・・あれか」


 カイトは椿の言葉でおおよその場所と依頼内容を思い出す。と、そんなカイトに対して、席に着いて溜まっていた書類を片付けていたソラが問いかけた。


「カタコンベ?」

「ああ、カタコンベ・・・知らないか?」

「いや、そりゃ知ってるよ。あるのか?」

「ああ、そういうことか。ああ、幾つかな。と言っても残念ながら、オレも詳細は知らんが・・・」


 カイトはソラの問いかけを聞いて、その疑問を理解した。カタコンベとは地下墓所の事だ。が、基本的にマクダウェル領では陽のあたる場所に墓を設けて、そこに埋葬されている。なのでカイトは設けていない。

 場所が有り余っているので地下に埋葬する必要なぞ無いし、地球でのカタコンベの当初の理由であった教会の地下の聖なる土地に埋葬を、という必要もない。ソラにもカタコンベがあるとは思えなかったのだ。


「オレの前の代の領主の時代の物だ。と言っても今はオレの方針もあり閉鎖されているがな。管理が面倒過ぎるからな」

「ああ、なるほど・・・お前の前にも領主、居たんだよな」

「ああ。度重なる敗走の上に烈武帝陛下の最後の戦いでも敗走して早々に皇都に逃げてきて、後を継いだばかりだったウィルの親父さんが珍しくブチ切れして失脚したらしい。ウィル曰く、あれは葬儀後すぐだったという状況が悪かったらしいが・・・」


 カイトはソラの質問に頷いて、苦笑混じりに少しだけ詳細を語る。ここらはカイトの事が大きくあまり語られないが、どうやらあまり勇猛果敢ではない貴族だったらしい。

 度重なる敗走と名誉挽回の最後の機会さえ逃げ帰った挙句、時の皇帝はそこで戦死しているのだ。時の皇帝の死の八つ当たりや敗走も仕方がない側面はあったものの、優柔不断と評されるウィルの父も流石に激怒したそうだ。

 なぜ我が父は貴様の領地で討ち死にしているのにその領主たる貴様が共に死ななかったのだ、と言って貴族の地位を剥奪したらしい。とは言え、その後戦後処理の中であれは仕方がなかっただろう、というウィルの執り成しを受けて子供に貴族の地位の格下げと改易の上でお家再興となり、今は子孫が南方の僻地を治めているそうだ。


「ま、というわけで詳しい事は知らん。あるという事を知っているだけだ。引き継ぎの資料なんぞ無いからな・・・うん、討伐系よりこれが一番良いか。最下層に良い敵が居る可能性がある。椿、部隊を率いてこの依頼を受ける。予定の調整を頼めるか?」

「かしこまりました。日程はいかほどで?」

「明後日より3日程調査で、今週末には帰還する。まぁ、さほど遠くはない場所だし、よく持ち込まれる依頼だ。問題も起き得ないだろう。もしこちらに何かあればオレが日向に乗って帰還する」

「かしこまりました。調整しておきます」


 カイトの言葉に椿が腰を折って、早速調整に入る。そうして、カイトもその予定に向けて調整を開始しながら、ルーファウスとアリスが荷解きを終えるのを待つ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1073話『騎士達と共に』

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