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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第56章 教国からの来訪者達

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第1070話 様々な思惑で

 教国より協力という名の内偵調査の任務を受けたルーファウスとアリスの二人の騎士を迎えに出向いたカイトと瞬、ソラの三名。そんな彼らは一通りの挨拶を終わらせると共に飛空艇に戻ってきていた。

 これについては何かが起きる事も無く普通に準備が整い、出発する運びとなっていた。というわけで、カイトが飛空艇の中に設けられた専用の一室に入って一段落した所で、念のために今後の予定の確認を取っていた。


「ああ、そうだ。二人は一応これから皇都に向かう事は聞いているか?」

「はい、聞いています」


 カイトの問いかけに紅茶を飲んでいたアリスが頷いた。どうやら彼女は紅茶が好きらしく、かなり興味深い様子を持っていた。


「そうか。それなら良い」


 アリスの返答にルーファウスも頷いて同意した事でカイトはなら良いか、と何も言わない事にする。単に皇都に向かうだけだ。理由とてこの船団の中心にアユルが乗る飛空艇がある事を考えればわかろうものだ。それぐらい先ごろのアユルの行動が理解出来なかった二人にだってわかる。と、そうして次の雑談に移ろうとした所で、カイトの通信機に着信が入った。


「ん? ああ、悪い。着信が入った。少々外に出てくる」


 カイトは通信機の着信が入った事を見て、一同に一言断りを入れておく。一応音漏れに注意した機能は搭載しているしこれは電話ではないが、やはりここで通信に出るのは些かマナー違反だろう。というわけで、カイトは一度甲板に出て、ヘッドセット型の魔道具で通信に応答する。


「なんだよ?」

『ふむ。ご機嫌というとことか』


 通信の相手はハイゼンベルグ公ジェイクだった。彼はカイトの声が少し上機嫌だった事で見抜いたようだ。そして実際上機嫌ではあった。


「まぁ、本家のヴァイスリッター家の方がそこまで言うほど悪くはないとわかったからな」

『ふむ・・・腐っても騎士であったか』

「その言い方は少し悪い気がするが・・・そういうことだろうな」


 カイトはハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に僅かに笑いながらその言葉に同意する。騎士たるもの清廉潔白であれ、というのは彼らの始祖ルーファウスの遺した言葉だ。それに掛けて彼らは卑劣はしないだろう。

 そして更に彼はまた先入観に惑わされるな、という言葉を遺している。そこらに二人の騎士は素直に従っているのだろう。教えとして異族との関わりは必要不可欠な程度にしているが、少なくとも狂信者達程の排他的な意思は見受けられなかった。

 これはかつて望まず揉めてしまった過去のあるカイトとしては朗報だった。やはりどうしても、心情的に本家のヴァイスリッター家には肩入れしたくなってしまうのだろう。彼だって揉めたくて揉めたわけではない。結果として、大いにこじれてしまっただけだ。


「元々、レイフォードのことは少し気にかけてたんだ。わからなくもないな、と少しだけ自省してる」

『そうか。ということは、少しはわかった事があるということか』

「と言うよりここらは爺の方がよく知ってるだろ。300年前はまだ冷戦の前だ。遺言とて少しは伝わってるんじゃないか?」

『まぁ少しは、という所じゃがな。とは言え、やはり儂の所も警戒されている故に仔細は知らん。お主の後見人じゃからな』


 カイトの言葉を認めつつ、ハイゼンベルグ公ジェイクは苦笑混じりに首を振る。ここら、やはり他国との繋がりが大きい彼はそこらの情報も少しは持っているのだろう。そこからもしかしたら、という程度の推測はしていても可怪しくはなかった。建国の英雄は伊達ではない、という事だろう。


「ま、それはそうか。オレ達の悪名には、どうしても爺の名だけは付きまとうか」

『ははは。そこはまぁ、それとして受け入れておかねばのう』


 カイトの言葉にハイゼンベルグ公ジェイクが笑う。ここらは、両者の関係性だ。そもそもカイトの政治的な後見人には彼がなっている。なにせ二つの意味での仲間の忘れ形見なのだ。故に皇国貴族でカイト達マクダウェル家と一番懇意にしているのが、ハイゼンベルグ家と言える。

 こればかりはカイト達の成り立ちから仕方がない事で、それ故に本家ヴァイスリッター家を当時率いていたレイフォードに警戒されていても仕方がないだろう。


「で? まさか電話したのはそれが理由なんて言わないだろう?」

『当たり前よ・・・どう見た?』

「どう見た、か・・・」


 主語の無い問いかけであったが、カイトには何を指しているかわかっている。言うまでもなく、アユルについて問いかけていたのだ。


「油断できそうにねぇな。いや、これは戦闘力や悪さをする、って意味じゃなくてな」

『それは分かっておるよ。とは言え、やはりそちらもその感想を抱いたか』

「そりゃぁな。お飾りの枢機卿ってわけじゃあなさそうだ」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に同意したカイトは船団の中心に居る一隻だけ趣の違う飛空艇を見る。大きさはさほどではない。戦闘力も皇国の飛空艇に比べればさしたる物ではないだろう。が、中の大使に関してだけは、話が別だった。大使として、油断が出来る相手ではなかった。


『ふぅむ・・・人質として寄越すぐらいじゃから、腕前はそこそこかと思うたが・・・曲りなりにも枢機卿、というわけか』

「しゃーないさ。ウチがこないだまで冷戦してたのは事実。情報がほとんど入ってこなかったのも事実だ。お陰で先代含めて数代の教皇と枢機卿に関しちゃ未だに姿形も不明、ってのも少なくないだろ?」

『それは、そうじゃのう・・・』


 ハイゼンベルグ公ジェイクはカイトの言葉に同意する様に頷いた。実際、ここら痛い所で異族を排斥していた風潮から皇国はいまいち教国については知らない事が多い。現にカイトとて本家ヴァイスリッター家については見誤っていた、と自省している。ここに来て、それがかなり悪い状態で響いていた。なので、カイトの言葉にも苦味があった。


「まぁ、とは言え・・・アユル枢機卿はかなり注意深い性格と言えるだろうな」

『じゃろう。まさかお主らが同席させられるとは思うとらんかった。信頼はするが、同時に警戒もする。常道であるが、これが出来る者は少ない』

「だな・・・豪胆さも持ち合わせている。厄介か」


 カイトとハイゼンベルグ公ジェイクは揃ってアユルへと称賛を以って評価とする。ハイゼンベルグ公ジェイクも、カイト達が居る事は想定外だったのだ。おそらく何かがあった事は掴めていたが、その何かはわからなかった。それを聞く為に、一段落したここで連絡を入れた、という事であった。


『で、何があってあのような流れになった?』

「ああ、それか・・・」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの求めを受けて、カイトがあの場であった事を報告しておく。別に隠す必要も無いし、アユル達とてカイトが隠してくれるとは露程にも思っていないだろう。

 それに彼女らとて流れはわからないまでもカイト達が居る理由をハイゼンベルグ公ジェイクが理解するだろう事は理解しているだろう。なら、語られた所で問題もない。どちらもこの程度当たり前として駆使してくる手練手管だからだ。


『なるほどのう・・・ふむ、いや、見事と言うておこう』

「だな・・・まさかオレの一言だけで二つも効果を得るとは思わなかった。素直に、上を行かれたと認めよう」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの再度の絶賛にカイトも同意する。カイトとしてはマクダウェル領での中立を貫く事はある意味彼としての責務でもあった為、当然の事と言えた。なのでこれ自体は彼が明言せねばならない事だ。

 何より、彼には教国の中央研究所跡の問題がある。その為に中立の明言は必須条件と言えるのだ。それを、彼女は見越していたのだろう。


『とは言え、仕方がなしではあるか』

「ああ。仕方がない。それに、どちらにせよ警戒は自然な事だし、そして別にオレとしちゃ言質を取られて拙い事はない。立場上、中立の宣言なぞ当たり前だからな」

『それはそうじゃろう。お主らは中立を貫ける身じゃろう。勿論、表向きというだけであるが』

「まぁな」


 カイトはハイゼンベルグ公ジェイクの物言いにくすり、と笑う。これは事実だ。表向きはそうだが、皇国から受けた恩に報いる形でなら肩入れは可能だ。

 アユルの危惧する道理にそぐわぬ行為であれば中立になれるだけで、それ以外ならば肩入れしても大丈夫なのだ。所詮、そこらも政治であった。勿論、彼女とてそれは理解しての行動だ。それがわからないとはカイト達は毛ほども思っていない。


「で、納得はしてもらえたか?」

『うむ、よかろう。そしてこれはこれで良い情報であった、とも思える』

「さよか・・・で、オレはどうすりゃ良い?」

『好きに動け。お主は好きに動くのが一番自然よ・・・が、あまり滅多な事はすべきではないであろうな』

「そりゃ、確かに。と言ってもウチは繋がりから基地に出入りしていても不思議がない、っちゃあ無いんだが・・・」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉を認めつつ、カイトは困った様にため息を吐いた。すでにカイト達が『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』と関わりがあるのはマクスウェル中で知られている事だ。隠す必要なぞ無いし、それどころかここで繋がりを断っても逆に街の全体から怪しまれる。

 そしてカイトは『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』を率いる仕事もある。これは流石にどちらが重要かを考えれば、簡単に答えは出るだろう。カイト無しで『死魔将(しましょう)』には勝てるわけがない。それが、明白な答えである。


「面倒だな・・・あまり高度な使い魔は作りたく無いんだが・・・」


 カイトは地球で高度な使い魔を動かしている関係で、あまりやりたい方法ではないらしい。というよりも、この本人と見まごうばかりの使い魔の製造には非常に手間と時間が掛かるらしい。

 カイトも地球転移の時点から準備出来たから良いのであって、もし少しでも遅れていれば間に合わなかった可能性さえあったそうだ。これについては彼の地球での活動もあり一概には言えないが、それ相応に拘束される事は事実なのだろう。今度はそうなるとなぜそんな物を作る必要が、と疑問に思われる事は明白だ。やるべきではないだろう。


『そこらはお主の采配に任せる、と陛下は仰っておられる。お主の采配にせい。とりあえずバレねばそれで良い』

「あいあい」


 カイトはハイゼンベルグ公ジェイクからの伝言を受け取って、通信を解除する。これでとりあえず話し合っておくべき事は話し合えた。何か気になる事では無かったが、アユルが油断ならない相手だ、という認識を共有出来たのは良かっただろう。


「さて・・・残る問題は、あの馬鹿野郎どもだけか・・・」


 カイトは甲板の手すりを背もたれにして、大空を見上げる。考えるのは、『死魔将(しましょう)』達の事だ。何を考えているかは、全くわからない。わからないが、この世界の何処かで暗躍している事だけは事実だろう。


「教国が裏切るのであれば、それはそれで良し。裏切らなくても、それはそれで良し」


 カイトはとりあえずわかっている事を口にしてみる。とりあえず、教国が裏切った場合の準備については進んでいる。そちらについてはよほど想定外の事態が無ければ大怪我にはならない予想だ。なので、これは置いておける。


「後は、エリアスの遺体か・・・何が目的であれを回収したか・・・教国という話だったが・・・」


 教国であれば、気になるのはかつて『死魔将(しましょう)』達に堕族にされてしまった彼の事だ。一応、道化師いわく教国が密かに隠匿している、との事だ。アユルがそれを知っているか否かは気になる所である。どうにかして聞いてみる必要はあるだろう。


「・・・マクスウェルに到着して状況が落ち着き次第、一度切り出してみるか」


 カイトは己の中でどうすれば一番違和感が無く話を進めれるかを想定してみて、それが可能であると判断する。今すぐに出来るわけではないが、冒険者という立場を使えば手は無いではない。

 そして、ルーファウス達が居る事でカイトが挨拶に訪れても不思議の無い状況には出来ている。これは彼の想定していない幸運ではあったが、利用しない手は無かった。


「・・・良し。そうと決まれば、即座に連絡だな」


 カイトは次の己の動きを決めると、即座に然るべき場所に連絡を入れる事にする。と言ってもそれは椿に、だ。彼女に少々調べて貰いたい事が出来たのだ。


「ああ、オレだ。椿、居るか?」

『御主人様。なんでしょうか』

「ああ、少し調べて貰いたい事が出来たんだが・・・その前に一応何か変わりはないか聞いておこう」

『かしこまりました』


 カイトの申し出を受けた椿は桜主導の下動いている冒険部のとりあえずの動きを報告する。とは言え、やはり一日二日程度では何か変わった事が起きるではなく、ほぼほぼ平常通りだそうだ。


『概ね、普段通りと言える状況かと。幸い修行が一段落しておりますので、全体的なパワーアップのお陰か今のところ危なげない活動が出来ている様子です』

「そうか。それは良かった。数ヶ月が無駄になっていないようだな」


 とりあえずカイトは現状に満足しておく。カイト達のラエリア行き以降でランクBが増えたという事はないが、これ以上はまだ高望みだろう。

 活動日数から考えればカイト達を除いてランクB相当をそれなりに抱えている時点でかなり異例と言って良い。とは言え、勿論これだって期せずして『無冠の部隊(ノー・オーダーズ)』の再結成とそれの協力が得られればこそだ。からくりはある。と、そんなぱっと見れば順風満帆なわけなのだが、決して問題が起きていないわけではなかった。


『ただ・・・一つ問題が』

「なんだ?」

『少々厄介な魔物と言いますか、依頼が持ち込まれておりまして・・・おそらく御主人様主導で無ければ対処は出来ないかと。ミレイ様より、そうご報告が』

「またか・・・裏方の仕事になりそうか?」

『いえ、そこまでは。密かに片付けるのでしたら、ユリシア様と弥生様にトス致しましょうか?』

「ふむ・・・いや、急ぎで無ければ帰ってから依頼書を見て考えよう。急ぎか?」

『いえ、急ぎというわけではない様子です』


 カイトは椿の報告にそれなら、と頷いた。どうにせよカイトが判断しなければならない問題だ。ここで人伝で判断して、彼女らに何かがあれば困るのはカイトだ。この状況でブチ切れなぞ起こしたくない以上、帰ってしっかりと判断すべきだろう。


「そうか。なら、帰ってから判断しよう・・・それで、椿。お前に調べて貰いたい事だが、ギルドに寄せられる討伐依頼の中で死霊系の魔物の討伐依頼が入ってるか調べてくれ。こちらも帰り次第報告を受ける」

『かしこまりました。死霊系の魔物の討伐依頼ですね?』

「ああ。死霊系だ。ランクは上でB程度であれば良い。下でも数が居れば別に構わん。直近の話題となり得る敵が欲しい」

『かしこまりました』

「頼む。ではな」


 カイトは椿の返事を聞いて、通信を解除する。いつまでも話し込んでいても不審に思われる。手短に済ませておくつもりだった。そうして、カイトは通信機をポケットに仕舞うと、そのまま再びカイト達に与えられた部屋へと戻っていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1071話『話』

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