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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第56章 教国からの来訪者達

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第1069話 大使の力量

 教国から何らかの思惑で派遣されてきたルーファウスとアリスの二人と合流する為に皇国の西部は国境地帯へとやってきていたカイト達であったが、二人と合流して大使である枢機卿アユルの思惑により彼女との知己を得る事となる。が、その結果思いの外時間が経過した為、カイト達はそのまま応接室に戻る事はせず、ルーファウスとアリスの入国と出国検査を受けて飛空艇へと戻る事にしていた。



「・・・」

「・・・」


 二人の似た少年が、そんな入国審査の合間に対峙していた。いや、対峙という程に刺々しいというだけで、そこまで険悪なわけではない。

 まぁ、これは現状を考えれば誰だかはわかるだろう。ルーファウスとアルである。アルはエルロード率いるハイゼンベルグ公ジェイクの護衛部隊の一人として来ていたわけだが、それ故入国審査手続きを待つ間にルーファウスと出会ったわけであった。そうして、先に口を開いたのはルーファウスであった。


「・・・はぁ。やめだ。祖先の遺言もなく、教皇猊下よりあまり貴様と揉めるなよ、と言われている。ここで揉めては猊下と枢機卿の顔に泥を塗ってしまう」

「それは良かったよ。流石にここで大喧嘩、なんて僕もご先祖様の顔に泥を塗るし、ハイゼンベルグ公の顔にも泥を塗っちゃうからね」


 ため息と呆れと共に敵意を収めたルーファウスに対して、同じく敵意を収めたアルが笑顔――ただし氷のような、という修飾語が付くが――で同意する。

 と、そんな二人を見て呆れながらそろそろ仲介に入るか、と思っていたカイトが苦笑して口を挟んだ。二人だけだとまた何が起きるかわからない。今回は偶然、どちらも止まっただけだ。


「あはは。そりゃ良かった・・・ルーファウスは聞いているだろうが、一応アルも冒険部で活動している。間違ってもホームの玄関で大喧嘩はやめてくれよ」

「あはは、わかっているよ」

「騎士はそんな事はしない」


 カイトの言葉にアルは笑いながら、ルーファウスは呆れながら明言する。とは言え、それも何時までやら、というのがカイトの考えだ。

 まぁ、そこらはカイト達が注意すれば良い事だろう。それに幸いルーファウスには妹のアリスも居る。そこらを考えれば、そこまで無理はしないだろう。


「さて・・・アル。こちらは先に戻っているぞ。どうせそっちもすぐに出発するんだろう?」

「うん。こっちも一応は並行して出発出来るようには整えているからね。その準備が整えば、アユル卿達を連れてこっちも空港だよ」

「そうか。じゃあ、まぁ、また後でな」


 カイトはアルの言葉に頷くと、入国審査が丁度終わった事もありそこでアルと一度別れる事にする。そうしてカイト達は一足先に飛空艇に戻る事となるわけだが、飛空艇の与えられたエリアに戻って早々に唐突に道中でずっと考え事をしていたソラが声を上げた。


「あ、そうか! わかった!」

「・・・びっくりしました」

「あ、ごめんごめん」


 偶然ソラの横を歩いていたアリスが驚いた様に目を見開いていた。とは言え、それほどに唐突だったのだ。無理もない。と、そんな彼女がついでなのでソラへと問いかける。


「・・・で、何がいきなりわかった、なんですか?」

「ああ、ほら。カイトがさっきアユルさんが呼んだ理由、考えてみろって言ってただろ? それ考えてた」

「・・・意外と真面目なんだな」

「どういうことだよ!?」


 ソラの発言に驚いた様子を見せたルーファウスにソラが怒鳴る。まぁ、先程まで話していた中で、ソラは少しお調子者な印象を受けていたらしい。まさか真面目に考えているとは思ってもいなかったらしい。

 とは言え、それは大抵の初見の者がソラに対して得る印象だ。彼はやればできる子なのであって、裏返せばやらなければ出来ないのである。こちらが素なので仕方がない。


「いや、すまない。つい本音・・・ではなくえっと・・・」

「いいよ、別に・・・」


 ルーファウスの即座の謝罪にソラは呆れつつ、少し不満げに首を振る。と、そうしてソラの納得を得られた事で、そのままルーファウスが問いかけた。実は彼もわかっていなかったので、素直に疑問だったのだ。


「で、どうしてなんだ? すまないが、俺もわからないんだ」

「えっと・・・良いのか?」


 ソラはカイトへと自らの考えを開陳して良いか問いかける。ここらはカイトに許可を得るのが最適だというのを彼は理解していた。


「ああ、良いぞ。答え合わせをしてやるよ」

「おっし・・・」


 ソラはカイトの許可を受けて、一度椅子に座る。そうして全員が座った所で、彼の考えを話し始めた。


「えっと・・・もしかして、アユルさんの挨拶って俺達を呼び寄せる為の方便だったんじゃないか?」

「正解だ。さて、その意図は?」

「俺達にあの挨拶に参加してもらう為・・・じゃないのか?」

「それも正解だ」


 カイトは続いたソラの推測に頷いた。ここまでは、良い。それぐらいは誰でもわかる。が、ここからが、アユルの油断の無さというか、枢機卿という高位の者の凄さだった。というわけで、カイトは更に突っ込んだ所を問いかける事にした。


「さて・・・では、その上での話だ。なぜ、オレ達に参加して貰いたかったんだ?」

「えっと・・・多分、だけど。挨拶の後じゃあ駄目なんじゃないか、って所から推測してみた」


 ソラは言いながら、カイトの反応を伺う。そうして、彼の笑みを見て推測を続ける事にした。


「あの場でハイゼンベルグ公に何か要らない事をされない為に、じゃないか? 俺達が居れば少なくとも滅多な事で攻撃はしない、だろ? 一応非武装中立つってもエルロードさんは武装してたし、あっちの女の騎士さんも武装はしてた。それに対してハイゼンベルグ公は建国の英雄。多分、並以上の強さがあるはず。下手すりゃエルロードさん以上なんじゃないか?」

「正解だ。ハイゼンベルグ公の力量は実のところ物凄く強い。冒険者で表せばランクは遜色なくSと言える。伊達に二つの大戦を現役で生き抜いていない。更には、時の皇帝の指南役でもあった。弱いわけがないな」


 心の中でそしてオレのな、と呟いたカイトはソラの推測を認める。ハイゼンベルグ公ジェイクは今でこそ自らで剣を取らなくなったが、それでも何時か来るべき時に備えて往年の力量は衰えていないと見て良いだろう。カイト自身、彼が強い事、そして往年の力量はそのままである事を把握している。

 彼はあの皇都が攻められた絶体絶命の戦いで前線に立ち、カイトが来るまで絶望的な状況の皇都をウィルと二人で持ちこたえさせたのだ。そんな彼が弱いはずがない。単なる聖職者であるアユルとは天と地の差があると断言して良い力量だろう。

 そんな中でもし万が一でもアユルが逃げたいのであれば、これはカイト達の助力が必要不可欠だ。ルーファウスとアリスだけでは心許ない。ルーファウスも強いが、彼はせいぜいランクA程度。

 なにより、致命的なまでにハイゼンベルグ公ジェイクとエルロードに対して実戦経験が足りていない。アリスに至ってはまだ学生。実戦経験は皆無と言える。足手まといが良い所だ。

 となると残る実力者はエードラムだけであるが、彼女ではおそらく龍化したハイゼンベルグ公ジェイクを一人で相手にするのは無理だろう。というより、彼女が十人ぐらいいないと無理だ。どう考えても彼女らには万が一に備えた手が足りないのだ。そこを、ソラは理解したのであった。が、まだもう少し欲しい所だったので、カイトが更に続ける。


「・・・が、出来ればその前も合わせて考えられれば、更に最良だったな」

「その前?」


 カイトの言葉にソラが首を傾げる。答えは合っていたが、まだ少しだけ必要なピースが足りていない。


「彼女の目的は二つ。一つは、お前も言った通り皇国が要らない事をしてこない様に掣肘する為だ。勿論、してこないだろう事はわかっているだろうけどな。それはそれ、これはこれ、だ。オレの実力は彼女も知っているだろうし、勿論ハイゼンベルグ公も知っている。おそらくオレがエルロードさんよりも強いだろう、と推測しただろう。であればエードラムさん、オレ達を合わせれば自分が逃げられるだけの時間は稼げる」


 カイトはソラよりも更に詳しくアユルの思惑を語る。そして、そのために必要となる最後のピースを彼が語った。


「その為に重要なのが、その前だ。オレはその前になんと言った?」

「えっと・・・」


 カイトの指摘にソラが己の記憶を呼び起こす。そうして考えるのは、挨拶に関する会話だ。が、そこは関係がないだろう、とこの場の彼は判断する。ここに違和感が無いのだ。そうして記憶を辿って、彼は理解した。


「あ、そっか・・・中立、ってのか・・・」

「そうだ。あの部屋が盗聴されていないはずがない。あの言葉を引き出すまで、教国側の出迎えの騎士達は敢えてハイゼンベルグ公を通さず待っていたというのがオレの推測だな」

「だが、どうしてそれがわかる?」


 カイトの推測に対して、己も考えていたルーファウスが問いかける。横のアリスにしても興味深げな表情で、気になっている様子だった。それに、カイトは300年前に拵えた懐中時計を取り出して答えた。


「時間、だよ。あの時、気付けば挨拶の間にハイゼンベルグ公があそこに到着している時間になっていた。そしておそらく、彼らが少し早めに到着しただろう事は想像に難くはない。遅れないのは最低限の礼儀だからな。とは言え、そこに教国の騎士達が出迎えただろう事も想像に難くない。なら、彼らが話を長引かせて遅らせる事も、逆に早々に切り上げて早める事も可能だ。時間の調整はどうにでもなる」


 なるほど、とルーファウスとアリスの兄妹が同じ顔で頷いていた。ここら、兄妹らしいと分かる一幕だった。それにカイトは少し笑いながら、更に解説を続ける事とする。


「とは言え、あの会話が終わってからだとオレ達がその場を去る可能性は無くはない。であれば、どうすべきか。あの発言を引き出した直後に、ハイゼンベルグ公には来てもらうのが最適だ。ベストは同席だな」

「なぜだ?」

「中立を宣言したから、だよ。もし皇国側が敵対的な行動を取ったとしても、カイトはほら、さっきの言葉があるからどちらにも肩入れは出来ない。でも、中立故に敵対的な行動を取れば助力を願い出る事は可能なんだ。こちらは敵対的な行動をしていないのに攻撃された、ってな」


 ルーファウスの疑問にソラがカイトに代わって答えた。やはり説明さえ受けていれば理解は出来るのだろう。それにカイトも頷いてから、更に解説を続ける事にした。


「そうだ。オレが中立であると宣言する。それがあれば、もし万が一何かがあったとしても彼女はオレへ助力を求められる。オレもそして、関わらざるを得ない。それは中立では無くなるからな。勿論、それは逆も然りな諸刃の剣だ。が、これは自分が弱い立場で何もしないと言っているようなものだ。そしてこの発言は、また別の所に繋がる。それは彼女が来てからだな」


 カイトはあの場での己の発言を鑑みて、そう告げる。あの時点で彼は呼び出された時点で負けだったのだ。これを避けたければそもそも呼び出しに応じなければよかったのだが、流石にこれは難しいだろう。

 今回はアユルの策がカイトを上回っていたというよりも、立場的にどうしようもなかったと言わざるを得ないだろう。勿論、それでアユルが油断ならない相手という評価が変わるわけではない。彼女の判断で行われている以上、彼女の動きが素晴らしかった事に相違はないのである。


「どういうことだ?」

「彼女らがオレと関わる事の理由になるから、だ。彼女は意図も簡単にマクスウェルでのコネを一つ手に入れたわけだ」


 ルーファウスの問いかけにカイトが笑いながら明言する。そうして、そんな彼が問いかけた。


「オレは中立を宣言した・・・だが、皇国の民は?」

「・・・そうか、中立に立ってくれる者は少ないのか」

「そうだ。皇国の民達は中立には立ってくれていない。彼らは少し前まで敵だったんだ。彼女は少し前まで敵地だった場所に行く事となるわけだ。その中で中立を貫いてくれるという発言がどれだけ重要かは、流石に二人にもわからないだろうな」


 カイトはようやく理解したルーファウスに対して、これがマクスウェル到着後を睨んだ動きであった事を明言する。そうして、彼は最後を述べる。


「エードラムさんがオレに感謝を述べて、そしてオレが油断ならない、と言ったのはそのためだ。オレ達に強引に両国の話し合いに参加させたのは、そう言う意図があったわけだ」

「優しそうな顔ですげぇな、マジで・・・」

「あはは。そうでないと枢機卿にはなれない、って事だろう」


 僅かな尊敬を滲ませるソラの言葉にカイトも笑って同意する。これは素直な感想だった。少々カイトも油断していた事は否めないだろうが、アユルも策略家としては十分に見事と言える。そしてそんな解説を受けてしきりに頷いていたアリスがようやく口を開いた。


「なるほど、そう言う事だったのですか・・・父さんの言葉は正しかったようですね、兄さん」

「ああ・・・はぁ。父上も本当に真面目にやってくれれば、素晴らしい騎士なんだが・・・」


 ソラとは違いやはり信徒であるからかアユルへと多大な尊敬を浮かべつつ、ルーファウスが――口調には呆れが滲んでいたが――父の見立てを素直に称賛する。どうやら、何らかの思惑があった事は事実らしい。

 と、そんな二人へと瞬が問いかけた。ここら、裏の思惑に左右されず率直に問いかけられるのは瞬の良さだろう。愚直さ、とも言えるかもしれない。


「どういうことだ?」

「ん、ああ・・・実は父より一つの言いつけを言われていてな」


 ルーファウスはそう言うと少し恥ずかしげに頬を掻く。ここらは語るべきか語らぬべきか、と考えて彼は語らないのは無礼だろう、と語る事にした。


「父より、カイト殿のギルド運営の手腕を盗んでこい、と言われたんだ。同じ年でギルドを運営している者から、その見識を学べ、とな。俺もゆくはヴァイスリッター家を率いる事になる。その修業だ、と」

「それは・・・少々持ち上げすぎだ」

「いや・・・素直に、感服した。見事な見識だ。是非とも学ばせて貰いたい」


 ルーファウスはカイトへと素直に頭を下げて教えを請う。やはり真面目なだけで、基本的に彼は排他的とは言えないらしい。爽やかな好青年、というのが元来の彼なのだろう。ヴァイスリッター家との軋轢さえ無ければ、本来はアルとも仲良くやっていけるのだろう。

 まぁ、その原因となるその軋轢が深いだけだ。これは今までの来歴を考えれば特段不思議な事はないだろう。こればかりは、時間が解決するしかなかった。


「あはは・・・まぁ、教えられる事は無いと思うが、見て学ぶ分には自由だ。そこについては好きにしてくれ」

「そうさせて貰う」


 流石に照れくさかったらしく僅かに頬を赤らめていたカイトの言葉にルーファウスが頷いて再度頭を下げる。そうして、そんなこんなで出発までの間の時間を彼らは潰す事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1070話『様々な思惑で』

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