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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第56章 教国からの来訪者達

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第1067話 二人の騎士

 ルクセリオン教国からカイト達へと増援として派遣されることになった本家ヴァイスリッター家嫡男ルーファウス・ヴァイスリッターとアリス・ヴァイスリッターの二人を出迎える為、西部の国境地帯までやってきていたカイト達。そんな彼らは送ってもらった飛空艇を降りると、一足先に合流地点である街の中心部へとやってきていた。


「ここは・・・会議場か何かか?」

「そうだ。ここは国境の街だからな。ここを中心として東を皇国が、西を教国が治めている」


 カイトは目の前にそびえ立つ少しこじんまりとした会議場を見ながらソラの問いかけに答えた。大きさとしては日本の一般的な市役所程度、という所だろう。実際にはそう言う役割も兼ねているらしい。街の性質上どうしても人としては両国間でやり取りがある為、一箇所にしておかないと書類の手続きが面倒だそうだ。

 まぁ、そう言ってもこの施設が再開したのは冷戦が終結して以降の事だ。というよりも、そもそも街が出来たのもここ数ヶ月の事だ。流石にそれ以前には人の往来は出来ず、騎士達が暮らすだけだった。この施設ももし万が一両国で何らかの話し合い――例えば捕虜交換等――が必要な場合にだけ、使われる物だったらしい。


「まぁ、とりあえず中に入ろう」


 カイトはそう言うと、施設の扉を開けて中へと入る。中に居たのは、多くが軍服を纏った軍の事務官達だ。流石に場所が場所なので文官達ではどうしても対処仕切れない状況が発生する事もあり、ここの職員は両国共に軍の兵士となっていた。

 と、そうしてカイト達が入ってきたのが東側――教国側の住人は西側から入る――の玄関だった事もあり、皇国の軍服を身に纏った事務官が彼らへと声を掛けた。

 本来こういった声かけは悩んでいたりするとされるものだが、今日はアユルが居る――と言っても一般には隠されているが――ので警備が厳重になっているのだろう。


「いらっしゃいませ。どういったご用件でしょうか」

「ああ・・・えっと、これを」

「冒険者の方でしたか。どういったご用件でしょうか?」


 カイトの提示した冒険者登録証を見て、軍の事務官が更に問いかける。と、それに対してカイトが要件を告げた。


「ギルド・『冒険部』ギルドマスターのカイト・天音です。ルクセリオン教国の教皇猊下よりの御慈悲により騎士が二人来る、という事ですので、ご挨拶に参りました」

「ああ、貴方が・・・伺っております。只今、専門の者をお呼び致しますので少々お待ち下さい」


 どうやらカイト達の事は話がきちんと通っていたらしい。応対に当たった事務官はヘッドセット型の魔道具を使って、案内らしい別の事務官へと話を通してくれた。

 そうして、ものの数分ですぐにその案内の軍の事務官がやってきた。どうやらこちらは教国側の事務官らしい。服装が教国の物だった。


「ギルドマスターのカイト・天音殿とお二人はサブマスターですね?」

「ええ」

「お待ちしておりました・・・では、こちらへ。すでにヴァイスリッター卿がお待ちです」


 教国側の事務官はそう言うと、早速カイト達の案内を始める。あまり時間は無いのだ。ゆっくりもしていられない。そうして、数分歩くとどこかの応接室へとカイト達は案内される事となった。


「中でお二人がお待ちです。私はここまでで・・・」

「ええ、ありがとうございます」


 カイトは頭を下げてその場を後にした教国側の事務官に礼を言うと、扉をノックする。


『どうぞ』


 返って来たのは、アルに似た男の声だ。とは言えこちらの方が固さがあり、芯の強そうな声だった。と、そんな声の了承を受けて、カイトは扉を開く。中に居たのは当然、ルーファウスとアリスの二人だ。そうして、カイトが挨拶する。


「はじめまして。ギルドマスターのカイト・天音だ」

「ああ、はじめまして。ルーファウス・ヴァイスリッターだ」

「はじめまして。アリス・ヴァイスリッターです」


 カイトに合わせてルーファウスとアリスが頭を下げて握手を交わす。二人は場所等の関係で騎士の鎧は身に纏っておらず、ルーファウスが白を貴重とした教国の軍服、アリスがどこかの騎士学校の制服姿だった。一応顔合わせなので正装で、という事だった。と、そうして挨拶をしてから、彼はカイトの横の瞬に気が付いた。


「ん?」

「ああ、過日は妹が無礼をしてしまったな」

「ああ、あの時の・・・」


 どうやらルーファウスもあの時の事を思い出したらしい。顔に苦笑を浮かべていた。そんなルーファウスに対して、瞬が手を差し出した。


「では、改めて・・・瞬・一条だ」

「あはは・・・妹さんは元気か?」

「ああ。相変わらず・・・いや、すまんな。出すべきではないか、と思ったんだが・・・」

「ああ、いや。流石に会えば色々と言いたくなるが、当人の居ない所では気にしない。それに教皇猊下のお言葉もある。今更、強くはいわんさ」


 瞬のはぐらかしにルーファウスが笑って首を振る。基本的に、彼は真面目なだけだ。なので別に瞬達にまで刺々しく当たるわけではないのである。


「そうか・・・どちらにしろ、すまなかったな」

「ははは。おてんばな妹には慣れているから、気にしないでくれ」

「兄さん?」

「おっと。口が滑った」


 ルーファウスはそう言って、少しだけ冗談めかした顔をする。基本的に真面目でも冗談は分かるタイプらしい。まぁ、ここは仕事ではない。なのでもしかしたら、これが彼の素なのかもしれなかった。

 と、そんな彼はまだ一人だけ自己紹介をしてもらっていなかった事を思い出して、その一人であるソラへと視線を向けた。


「ああ、っと。それで、君は・・・」

「あ、ソラ・天城だ。よろしく」

「ああ、よろしく頼む」


 ソラの差し出した右手をルーファウスが握る。とりあえず、これで全員の顔合わせが終わった事になる。そうして口を開いたのは、ルーファウスだった。と言っても述べられたのは単なる社交辞令だ。


「今日はわざわざ来てくれてありがとう。まさかギルドマスターとサブマスターに出迎えられるとは思っていなかった」

「あはは。気にしないでくれ。丁度大きな遠征を終わらせた所だったからな。一番予定が空いていたんだ」

「あれか・・・話には聞いている。素晴らしい戦いぶりだった、と。それについては見倣わせて貰おう」

「いや・・・あれは預言者殿の策略と偶然が大きい。なにせ一番始めのきっかけが単に敵の攻撃に耐えかねて、突撃するしかなくなった、という情けない事情だからな」

「そうなのか」


 カイトが笑ってどこか情けなさを見せたのに対して、ルーファウスが興味深げに相槌を打つ。そうして、しばらくの間はそう言う色々な事を話し合う事になる。これから少しの間とは言え一緒にやっていこうというのだ。雑談の一つも出来ねば駄目だろう。と、そんな雑談の最中に、ふとソラが気になってとある事を問いかける。


「・・・なぁ、そう言えば聞きたかったんだけど・・・」

「なんだ?」

「・・・いや、俺達も一応、異族の血は引いてるわけなんだけどさ・・・それ、良いのか?」


 ソラが問いかけたことは、彼らからすればもっともな事だ。特に瞬なぞかなり血が目覚めていると言っても良い。平然と話しているが、それで良いのか、と思ったのだ。とは言え、それにルーファウスが笑って頷いた。


「ああ、それか。いや、聞いたが君たちはそももそ、どこまで前に遡るという話だろう。この世界に暮らしていれば、おおよそ異族の血を受けていない者は居ないだろう。勿論、それも我々ヴァイスリッター家の様に数十代ならば、という話では可能にはなるだろうがな。新たに我々の門徒に加わった者であれば、普通に数代前は異族であった、という者も少なくない。流石にどの程度まで気にするか、という程度で気にはしないさ。まぁ、勿論、マクダウェル家と向こうのヴァイスリッター家に色々と思わないではないが・・・その程度だ」


 ルーファウスとてこの世界の道理や常識は知っている。ならば、当然だが血に異族の物が混じっている事はわかっている。というよりも、カイトが遺した遺伝子学等の話からそこらを彼らも否が応でも理解せざるを得なかったのだ。

 というわけで、そこに関しては個々人で是々非々に、という事で対処しているらしい。気にしない奴はハーフでも気にしないらしいし、気にする者では10代前でも気にする。本当に各個人の考えに任せているらしかった。


「ふーん・・・」


 そんなもんなのか、とソラが意外感を滲ませながら頷いた。やはり彼としても皇国に居る関係で、そこらの実態はやはり見えなかったのだ。なので狂信的な話ばかり聞いていて、それが一般的に思えたのである。ここらは、地球でも変わらない事だろう。

 カイト達も情報が入ってこない――特に東の果てである事も相まって――勘違いし易いが、そこばかりは仕方がない事だったのだろう。実際には、完全に異族が駄目と動いているわけではなかった。

 まぁ、それでも冷戦になったのは、数百年前の教皇と先代が超強硬派だった事が原因という所なのだろう。そこらは皇国や他国からしてみれば、教皇ユナルが穏健派の教皇で良かった、と考えて良いだろう。

 ここらは教皇の意向が大きいからだ。教皇が良しと言えば良いし、悪いと言えば悪い。ある意味、言い方は悪いが独裁者にも彼は近いのだ。教皇が穏健派なら民にも穏健派が自然、多くなるのであった。


「なるほど・・・」


 そんなルーファウスの言葉に、カイトは意外と自分が考えている程狂信的な思想ではないのだな、と意外な感慨を受けていた。皇国と教国の軋轢の一因にあの聖剣達が関わっているので、本家も相当な強硬派かと思っていたのである。

 そもそも前から意外だったのはルードヴィッヒだ。それはこの間の和平よりも前、エルロード達からの報告の時点で思っていた。彼はかなりの穏健派だと言われているし、実際そういう印象をカイトも受けた。


「ん? どうした?」

「いや・・・本家のヴァイスリッター家の口からそう言う言葉が出るのが意外だったからな」

「あはは・・・それか。ああ、よく言われるし、学校でも初めて会った奴にはよく言われた」


 ヴァイスリッター家同士の軋轢というのはエネフィアであれば誰でも知っている話だ。故にカイトでなくても絶対にその先入観がある。カイトとてその先入観に囚われていたぐらいだ。それが、普通なのである。が、それにルーファウスが笑って否定した。


「まぁ・・・ここだけの話にしてくれるか?」

「ああ」

「レイフォード様の遺言とは別に、彼の日記のような物は幾つも残されていてな。もう一つのヴァイスリッター家に対して思う所があったのは確かだが・・・その感情も裏切られた、という想いが強いのだろうと思う」

「・・・」


 カイトはかつてを生きた者として、そしてそのレイフォードの兄の親友として、その弟が遺していたという話を聞く。その顔は非常に神妙なものだった。当たり前だが、そんな事彼は聞けた事がないのだ。

 彼は、ルクスの親友だ。教えてくれるはずもないし、そもそも大揉めしてしばらくで地球に帰還したのだ。ここらは300年後にして初めて聞けた事だった。


「なぜ教えてくれなかったのか、か?」

「おそらく。何ら相談も無しに出奔した事をひどく恨んでおられた。勿論、幼馴染であったルシアが異族の血を引いていながら、それを知りながら兄の許嫁になっていた事もあるのだろう。彼女が騙していた、とも思っていた節がある」

「・・・」


 カイトはかつての騎士の子孫の言葉に、それはそうか、と思った。カイト達はなぜルシアが血統を隠していたかを知っている。かつて彼らは共に旅をしたのだ。その中で、カイトが聞いていないはずがなかった。だから、別に不思議はなかった。

 が、思い直せばそれを彼は知らないのだ。教国から出奔したルクスとルシアは二度と、故国の地を踏んでいない。カイトも会えなかった事もあり、語れてはいない。手紙も受け取っては貰えなかった。

 勿論、どこかで彼とてルシア達の心境を理解していたのだろう。だからこそ子孫達にはマクダウェル家への罵詈雑言を遺言で遺しつつも、致命的なまでに異族を排斥する様に子孫達がなっていないのだ。

 が、それとこれとは話が別だ。裏切られた事は事実で、そして彼にとっては何も語られなかったのは真実でもある。そのせめぎあいの結果が、現状と言えた。と、そんな別の角度からの見方での言及に、カイトはこれは己の落ち度だったと改めて気付かされた。時が解決する、と思った彼らの不明だったと言って良いだろう。


「真実と事実は違う、か・・・どうやら、オレの目が曇っていたか」

「・・・どうした?」

「いや・・・なに。こちらはこちらのヴァイスリッター家があるからな。どうしてもオレ達が聞く話はそこらの美談だ。国や見方が変わればそう言う考え方もある、と思わされただけだ。すまない、これはこちらの落ち度だった。知らず、皇国の考え方に染まっていたらしい」

「・・・いや、誰もが思う事だ。仕方がない事だったのだろう」


 ルーファウスはカイトの謝罪に僅かに驚きながらもその謝罪を受け入れる。そして素直に、彼はカイトの事を信じられる、と思ったらしい。そんな事を言える奴は滅多にいない。それが出来た奴は素直に、信頼出来ると彼は思ったのだ。そして、そんなルーファウスに対してカイトが頭を下げた。


「そう言って貰えればありがたい。そしておそらく、君たちの事は多くの皇国の民がそう見るだろう。本家ヴァイスリッター家は・・・まぁ、こう言ってはなんだが、あの二人の話においては邪魔する者として受け止められているからな」

「それもある種の事実ではある。二人の仲を裂いたのは、確かに我がヴァイスリッター家と教義だ。それは、事実だ」


 ルーファウスはカイトの言葉にそれもまた事実である、と頷いた。これは、事実だ。二人の愛の側面から見れば、それを認めなかったのだ。が、それも正しくはある。己の愛に生きたか、己の教義に生きたか。その違いでしかないのだ。そしてだからこそ、とカイトは明言する。


「ああ・・・だが、それで君たちが判断されるべきではない。だから、オレもなるべく便宜を図ろう。君の言葉に嘘はない。おそらくヴァイスリッター家そのものが、そうなのだろう」

「ありがとう」


 カイトの言葉に今度はルーファウスが感謝を示す。彼自身は、実はその程度ならなんとかなると思っていた。彼とて正騎士として幾度も苦難に望んでいる。異教徒と呼ばれる者達の所に行った事もある。謂れなき非難を受けた事もある。

 が、妹は違う。これが正規の任務としては初の仕事だ。しかも本来は任務なぞ与えられないような立場なのだ。そんな風に言われない様にしてやりたい、というのは兄として普通の考えだった。

 そうして、そんな形で少しだけ真面目な話になってしまったが、その後もしばらくの間、雑談は続く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1068話『使節団』

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