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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第55章 ラクシア攻略戦

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第1055話 浮遊大陸

 ラエリアでの内紛を終わらせ帰国の途についていたカイト達はエンテシア皇国へと向かう最中、偶然にも浮遊大陸に遭遇する。そうして物珍しさに驚いていたソラ達と共に甲板に居たカイト達であったが、そこに浮遊大陸へと向かうという連絡が入ってきた。とは言え、これは珍しい偶然ではなく、普通に考えればわかる事ではあった。


「浮遊大陸へ向かうのか?」

「ああ、あっちと一緒に行った方が安全だろ?」

「まぁな」


 艦橋に入ったカイトの問いかけにカリンが逆に問いかける。そしてその言葉には、カイトも同意する。浮遊大陸にはティアが居るし、天族は揃って医学への見識が深い。更には神族もあそこに暮らしている。

 であれば、馬鹿みたいに単独で大陸間を飛行するよりも浮遊大陸に飛空艇を載せてもらった方が遥かに安全かつ確実だろう。事故等も起こらない。


「にしても、浮遊大陸か・・・」


 カイトは僅かに苦笑する。ここにある事が偶然とは思い難い。であれば、答えは一つだ。万が一の場合に備えて、ティアがここに移動させておいたのだろう。大方ティナからの依頼を受けての事だろう。


「久しいな、あの眺めも」


 カイトは遠くに見える浮遊大陸を見てどこか目を輝かせる。空飛ぶ大地の上には山があり川があり、森もある。勿論、人の暮らす集落も存在している。まさに、剣と魔法の世界。その代名詞の様相だった。


「やっぱもう一度あそこ冒険したいなー・・・」

「お、出た出た。カイトの冒険癖」

「やっぱ楽しそうだろ?」


 カリンの茶化す様な言葉にカイトが笑う。流石に今は立場上表には出さないが、こういった未知の存在を前にするとやはり心が疼くらしい。昔はちょっとそこまでという感じで出かけられたが、流石に公爵となってからは無理だった。


「ま、そう言っても浮遊大陸は勝手知ったる人の家状態だからそこまでじゃあないんだけどな」

「ここをそう言えんのはあんたぐらいなもんだろ」

「伊達にウチの爺の生まれ故郷ってわけじゃないな。それに、オレは神族とのつながりも深い。そこらでどうしてもよく行くからな」

「いや、そもそもどこにあるか見つかんないんだってば・・・」


 カイトの返答にカリンは半ば苦笑気味だった。彼女の言う通り、浮遊大陸は常に移動し続けている為見つからないのである。それをひょいひょいと見つけ出すカイトがおかしかった。まぁ、実際の所は大精霊達は把握しているのでそこから聞いているだけだ。見付けられて当然なのである。


「あはは。ま、そこらは色々と・・・と、そりゃ良いわ。どこに停泊させんだよ、これ」

「空港、出来てるからそこ」

「あー・・・そういや前に行った時んなこと言われた様な気もすんな・・・」


 カイトはカリンの返答にそう言えば浮遊大陸にも空港があったような、と曖昧な記憶を手繰り寄せる。あったようにも思うし、無かったようにも思える。

 そもそも用事があったのは奥地の神族の居る所だったので、天族の暮らす集落のあたりはあまり確認していなかった。とは言え、そんな考えは即座に切り捨てた。理由は非常に簡単だ。


「ま、見りゃわかるか」

「そりゃ、これから行くからね・・・ま、後1時間もすれば到着するよ。好きにしときな」

「そうするわ・・・じゃなー」


 カイトはカリンに手を上げて、艦橋を後にする。そうして、彼は少しの間時間を潰す事にしたのだった。




 というわけで、およそ一時間後。カイト達は浮遊大陸の上に立っていた。


「うおぉおおお・・・マジで浮いてるよ・・・」


 ソラがどこか感極まった様子で周囲を見回す。ここは、地上からはるか上空の雲の上だ。そこに大地が浮かんでいるのである。と、興奮したソラが目を見開きながらカイトへと問いかけた。


「なぁ、これどんぐらいの大きさなんだ?」

「ん? これか・・・正確な長さは聞いてないんだが・・・ざっとオレの見た所だと1000キロぐらい、って所かな」

「い、1000キロ・・・」


 ソラが頬を引き攣らせる。とてつもない大きさだった。これはおおよそ東京を中心として日本の本州全部と九州、北海道の大半がすっぽりと入る大きさだ。簡単に考えれば、日本が丸々浮いている様な感じだった。それでも大陸として見れば小さいだろうが、そもそも浮遊大陸を大陸と考えるのもなんだろう。兎にも角にも、とてつもなく巨大な空飛ぶ大地だった。


「ま、そう言っても住んでるのは天族と神族、その神使達だけだ。だから土地は有り余ってる」

「へー・・・」

「神使? なんだい、それは」


 カイトの言葉に藤堂が問いかける。どうやら、神使という単語に耳慣れないのだろう。いや、古武術を学ぶ彼が知らないはずは無いと思うのだが、この場合の神使というのはどういう存在なのか、という所だろう。


「神様の御使い、という所です。従者とかそう言うのですね。んー、わかりやすく言うと西洋のカインの子イーノック、エノク書を記したエノクとも呼ばれる男ですね。彼は神に召し抱えられ大天使メタトロンとなった、という話ですから。彼が一番、神使を分かりやすく表しているかと」

「・・・す、すまない。西洋のそう言う話にはあまり詳しくはないんだ」

「あらら・・・えっと、だったら・・・誰だろ・・・関羽とか張飛とかは・・・あー・・・あれ演技だと神様となったとかになるから駄目か・・・あ、伏見稲荷のお稲荷さんって所です」

「ああ、それならわかる。つまり、お狐さまという所か」

「そういうことですね。この場合後天的に、なので厳密には違うのですが基本的には地球のそれと同じと考えて良いですよ」

「そうか、ありがとう」

「はい」


 藤堂の理解にカイトが頷いた。とりあえず、この認識で良い。なのでその理解さえあればここでは問題無いのだ。


「さて・・・にしても相変わらずのんびりな・・・」


 カイトは本当にのどかな、としか言い様のない浮遊大陸の現状に苦笑する。外は『死魔将(しましょう)』達の復活だなんだと騒がしいにもかかわらず、ここは何時ものんびりとしていた。と、そんなカイトにソラが問いかけた。


「で、来たは良いけどどうするんだ?」

「どうするって何が?」

「いや・・・何するのさ、ここで」

「何もしないぞ? 帰ってる途中に同じ所目指してる奴らが居たから一緒に向かうかってだけで」


 カイトは笑って目的なぞ無い事を明言する。そもそも、ここには偶然来ただけだ。目的なぞあろうはずもなかった。


「ってことは完全にフリーなのか?」

「フリーだな。帰るまでにちょっと立ち寄った、と言うところだ」

「・・・なぁ、これどっか行って良いのか?」

「んー・・・」


 ソラのワクワクした様子での問いかけに、カイトは少しだけ空を見上げて考える。基本的に、ここの魔物はあまり強くはない。強くても出てきた瞬間に奥に引っ込んでいる神族や神使、それの眷属である戦士達が現れて消し飛ばされる。危険は皆無と言える。ティナが預けられたのもわかる環境なのだ。ここは、非常に良い環境なのであった。


「そうだなぁ・・・あの山の上、見えるか?」


 カイトは浮遊大陸で一番高い山を指差す。それに、ソラがそちらを見た。


「ん?・・・お城・・・っぽいのがあるな」

「ああ。あそこ、ティアの居城。魔王ユスティーナの実家でもある」

「・・・え? 実家って魔族領のお城じゃねぇの?」


 ソラが驚いた様子でカイトへと問いかける。魔族領に魔王城がある事は常識として誰でも知っている。そこが家だと思っていたのだ。


「あはは。まさか・・・本来、王城ってのは公的な機関だ。個人宅にはならん。だから、あっちが個人宅になるわけだ。お城なのは目を瞑れ」

「お、おう・・・」


 ソラは驚きつつもカイトの言葉に頷いた。確かに、そう言われればそうだと思ったのだ。お城というのはいわゆる、市役所なんかと一緒だ。流石に規模から個人宅になるカイトの公爵邸はそんな要素は無いが、皇都の皇城には普通に書類を提出する為の受付も存在している。他にも必要なら公的機関の書類もそちらで受け付けている。公的な施設と考えて良いだろう。


「あれを超えない範囲だったら、好きにしたら良いんじゃないか? あ、でもその前に一応里長に話聞いてからな」

「そりゃそうか」


 カイトの明言にソラもそれはそうだ、と少し気が急いたと照れた様に同意する。一応、ここでは彼らはよそ者だ。まず何をするにしても、挨拶からだろう。そうして、彼らは一度天族達の暮らす里へと向かう事にするのだった。




 というわけで、天族の里にやってきたカイト達だが、カイトを除いた全員が目を見開く事になった。というのも全員が背中に翼を持ち、さも平然と飛んでいたからだ。


「うぉー・・・全員普通に飛んでる・・・」

「そりゃ、天族だからな。アウラだって普通に飛んでるだろ」


 感動した様なソラに対して、カイトが笑いながらそもそもの事を告げる。外界で天族は非常に少ない。多くはこの里に引っ込んでいるし、外になると定住しているのはほぼほぼ皆無だ。誰もが――冒険部以外を含めても――ほとんど天族といえばアウラとミースを思い浮かべる程だった。それ故、普通に飛んでいる姿に感動を覚えたのだろう。


「あ、綾崎先輩、藤堂先輩。自分たちは一度里長に挨拶に行ってきますから、その間の統率はお願いします」

「ああ、わかった」


 カイトの言葉に綾崎が頷いた。とりあえず何をするにしてもまずは挨拶をせねばならないだろう。というわけで、カイトはソラと瞬を連れて里長の所にまで挨拶に行く事にする。連れていくのが二人なのはあまり大勢で押しかけても迷惑なので、というわけだ。そうして歩き始めた道中で、瞬が問いかけた。


「で、どこにあるんだ?」

「ほら、あれ。ど真ん中の建物」


 カイトは里の中心にある一つの大きな建物を指差した。建物の形状としてはさほど珍しい所はない。強いて言えば扉が普通より大きいぐらいだろう。とは言えそれも天族達の羽根の事を考えれば、別に不思議はなかった。が、そんな様子に何処かソラが残念そうだった。何処か見慣れた感じだったからだ。


「なんか建物としては普通だよな」

「ああ、そりゃ爺さんが関わってるからな。基本的な建築にはエンテシア皇国の様相がある」

「そうなのか?」

「爺さん、一応こっちとは何度かやり取りしてるんだよ。で、その折にあっちの様式を取り入れた建築が流行ったらしい。それからこういう感じ、だそうだ」


 カイトは己も周囲の建物を見ながら答えた。一応作り直されたりしている建物は多いが、それでも見慣れた建物も多かった。と言うか中にはカイトの事を知っている者もかなり多く、普通に手を振ってくれていたりした。そんな事をしながら歩いていると、すぐに里長の家へと到着する。そうして、ソラが問いかけた。


「で、どうすんだ? 呼び鈴とか無いっぽいけど」

「鍵、普通に持ってるよ。変わって無ければだけど」

「なして?」

「いや、ここウチの爺さまの実家だし。ウチの爺さま弟で出てったけどここで育ってるわけだし。普通に実家の鍵持ってるでしょ」


 カイトはソラの問いかけに平然と鍵を取り出すと扉にそれをはめ込む。それで良いのか、とソラ達は思うのだが、カイトがこうも平然としている所を見るとこれで良いのだろう。

 なお、一応先にユリィが来ているはずなので、カイトが来る事も向こうは承知しているはずである。なので問題無いという判断だった。


「お、開いた開いた・・・こんちはー。ミーシャさん、オレ来ましたー」


 カイトは扉を開くなり、平然と声を上げる。どうにもカイトはアウラを連れてここには何度も来ているらしく、本当に平然と入っていった。それに、瞬とソラは一度顔を見合わせた。


「・・・どうする?」

「どうするったって・・・入るしかない・・・でしょ」

「そうだよな・・・仕方がない。お邪魔します」

「お邪魔しまーす・・・」


 瞬が入った後、ソラが覚悟を決めて扉をくぐる。やはり中も皇国の様式とさほど変わらず、真新しい様子は無かった。とは言え、そもそも彼らは勘違いしているが公爵邸にはアウラも居るわけだ。

 というわけで、公爵邸はアウラの規格にも合致するように設計されているのである。となれば違いが出るはずがなかった。

 と、その中では一人のミースに似た妙齢の美女が笑顔で出迎えてくれた。見た目はミースを更に大人にした様な感じで、明らかに血縁者と分かる顔立ちだった。見た目は若いが母親のミーシャだった。


「ああ、来たわね。いらっしゃーい」

「お久しぶりです、ミーシャさん」

「はい、久しぶり。アウラ、見付かったって?」

「はい。今度連れてきますよ。爺さんの墓に引きこもってたらしくて・・・」


 ミーシャの言葉にカイトは笑いながら最後に会った時から起きた事についてを語る。カイトが最後にここに来たのはアウラが見つかる前だ。なので本当に久しぶりだった。


「あらあら、あの子ったら」

「あはは・・・にしてもここは本当に変わらないですね」

「まぁねぇ・・・あ、そうだ。お客様が来られてるのよ。ちょっと待っててね」

「あ、すいません、唐突に訪れて・・・」

「良いの良いの、貴方も知り合いだから」


 ミーシャは笑いながら一度だけ奥に引っ込んだ。客というのだから大方ティアか、と思ったカイトであるが、そうして来た一人のメイド服姿の美女に、カイトは目がこぼれ落ちんばかりに驚きを露わにする事になった。


「お久しぶりです、カイトさん」

「サフィールさん!? おいでだったんですか!? 何時こちらに!?」

「誰?」

「さぁ・・・」


 驚きを露わにしたカイトに対して、ソラと瞬は二人で首をかしげる。サフィールと呼ばれた美女は年齢はおよそ20代半ばという所だ。が、メイド服であるにも関わらずカイトが敬語という事はよほどの相手なのだろう。そうして、カイトは思わぬ偶然により、サフィールという女性との再会を果たす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1056話『もう一人の王妃』

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