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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第55章 ラクシア攻略戦

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第1051話 終結 ――今度こそ――

 シャリクより勲章授与の要請を受けたカイト達だが、それからはあっという間に時間は流れていった。まぁ、スーツの仕立ては必要無かったのは良かったが、その代わりに必要な書類にサインしたり各所から来るお偉いさんとの会談を行ったり、とかなり忙しかった。その中の一人に、彼もいた。


「おーう、お疲れー」

「ん? ああ、お前か。おーっす、西部での調略ご苦労さん」

「なんだ、気付いてやがったのか」


 カイトの労いにバルフレアが笑う。今回、バルフレア達は立場の関係で表立って関われてはいなかった。いなかったが、それは表立っての話だ。裏からならなんとでも出来た。所詮ここらは政治と一緒。二枚舌をいくつも使うのが、基本的な話である。

 そしてその彼が行っていたのが、西部地方にある己の影響力を行使して南部の大穀倉地帯を欠いた事で糧食に欠くシャリク達へと食料物資等の細かな所の支援を行っていたのである。

 当たり前だが補給線の破壊は軍事行動において基礎中の基礎だ。ただでさえ糧食に事欠く北部軍にとって、補給線の確保は何よりも重要だった。彼らが密かに補給部隊の護衛を引き受ける事で、シャリク達は安心して今まで戦えていたのであった。縁の下の力持ちと言って良い。それを考えれば、彼らの功績もバカにできない物だった。


「中央への食糧支援・・・といえば良いが結局は北部軍への供給にもなるからな」

「物は言いよう、方便とも言うか」

「あはははは!」


 カイトの指摘にバルフレアがご機嫌に笑う。当たり前だが南部軍とて中央や北部へ送られる食料を見過ごすわけがない。が、これは軍事物資であると同時にほぼほぼ軍に無関係な市民達の食料も含まれているのだ。そしてその中には、バルフレア達も含まれている。彼らは軍属ではないし、紛争では中立を貫いている。故にバルフレア達は自分達の食料を守る名目で、補給部隊を支援出来たのであった。

 流石に自分達の食料を守っているだけだ、と言われては誰も文句は言い難い。そこで文句を言えば今度は彼らが公然と参戦出来る理由になってしまう。南部軍は一部に軍事物資が含まれている事を理解しつつも、見過ごすしか手は無かったのであった。


「まぁ・・・これで俺が生まれてからずっと蔓延ってたあいつらもくたばったか」

「最長老と言われたジュシュウで公的記録によればざっと1400年か・・・龍族や神族の超古株共を除けばエネフィアで一番長生きしている奴らだったな」

「今まで長いこと放置せざるを得なかった・・・カイト、改めてユニオンマスターとして称賛を述べさせて貰う。見事だった」

「ま、ルクスとかも腹に据えかねてたからな。オレはオレの私怨を晴らさせて貰っただけだ」


 バルフレアの称賛にカイトは肩をすくめる。今回、彼だけはほぼ私怨による参戦だ。義理や人情ではない。なのでそこに関してはどこまでもストイックだった。


「で? ユニオンマスターとしちゃこれからどうするんだ?」

「復興支援の申し出があった。そっちで手を貸しつつ、今度の総会に備える」

「総会か・・・無事開催できそうか?」

「出来る」


 カイトの問いかけにバルフレアが笑って断言する。総会はユニオンの総会だ。早ければ年に一度行われる事になっている物で、今年は丁度その開催の年になっていた。カイト達も当然、呼ばれている。そうして、現在の状況をバルフレアが告げた。


「今年は八大ギルド全部が揃う事になるし、多分過半数のギルドが参加するだろうな」

「当たり前、か」

「当たり前だ」


 カイトの言葉にバルフレアも同意する。つい数ヶ月前に、カイト達最大の敵である『死魔将(しましょう)』が復活したのだ。どこのギルドだって情報が欲しいし、ユニオンだって引き締めを行いたいだろう。

 これがわからない奴らがギルドを率いれるわけがない。それがわからず率いているのなら、率いているギルドを壊滅させかねない。ならば、今回ばかりは率先して参加する事になるだろうとバルフレアもカイトも読んだのであった。


「ああ、すでに多分連絡行ってると思うがこっちからはシア・・・レイシア皇女が特使として総会に参加する」

「聞いてるし知ってた。連絡が来た時点で全部終わらせておいた」

「さすが」


 カイトはバルフレアの返答に笑う。彼は全ての冒険者の中で最優と呼ばれる冒険者だ。伊達にカイトと同じく規格外の証であるランクEXを得ていない。この程度が読めないわけがなかった。そしてそれなら、カイトが何かを言う必要はない。必要な事は理解しているからだ。


「なら、何か言う必要はないな」

「わかってる。こちらでも共同歩調を取る為に取り次ぎはする」

「すまん・・・って、オレが言う事でもないか」

「あはははは!」


 何故か感謝を示したカイトに対して、バルフレアが笑う。そうしてこの後もしばらくの間、冒険部に関するユニオンからの対応等を含めて二人は話し合う事になるのだった。




 それから、更にしばらく。そんな事をしていれば瞬く間に時間は流れて、あっという間にカイト達は週末を迎えていた。というわけで、カイト達は控室に待機していた。

 控室と言っても控室に向かう為の控室、という所だ。ギルドに与えられた集合場所、と言えるかもしれない。ここで最後の準備をしてくれ、という意味で与えられた部屋だった。


「で、結局お前は『七星勲章(しちせいくんしょう)』とやらも貰う事になったわけ?」

「どうにも今回で丁度7個目らしい。まぁ、今まで50回近くはラエリアにも来てたからな。そこそこ魔物とバトってりゃそうなるらしい」


 ソラの問いかけにカイトが肩をすくめる。彼も数えていなかったのだが、どうやら丁度その回数に合致していたそうだ。帰りに受け取っておいてくれ、と先程シャリクから要請を受けていた。


「と言ってもそっちは貰うのは後だ。流石に一度の戦いで七個目の証を貰うのは可怪しいからな」

「そりゃそうか・・・そういや、帰国って何時になるわけ?」

「明後日の朝一番に出発。予定通りなら、向こうの二日後には到着の予定だ。そっち、少しの間は任せるぞ」

「わかってるよ」


 カイトの指示にソラが頷いた。今回、帰国に際しカイトはハンナが持っていた個人所有の飛空艇を受領する事になっていた。些か急いだ感はあるものの、なんとか手続きは終えられたらしい。今回の帰国でそのまま引き取ってくれ、との事であった。

 と、それらの事を話し合った所では話は次の授与式へと向かい、一つソラが疑問をどこか茶化す様でおっかなびっくりという具合に問いかけた。


「・・・なぁ、カイト」

「んぁ?」

「まさか・・・またなんか紛争勃発とかねぇよ・・・な?」

「あっははは。まっさかー。そりゃねぇだろ・・・うん、無いと思う」


 カイトは笑いながら襲撃は無いだろうと推測を立てる。現状、この授与式を狙う組織はほぼ居ないと断言して良い。個人であれば居るかもしれないが、とりあえず組織としては皆無だ。であれば、安心して良いはずだった。が、一つだけ残っていた。それは相も変わらずカイト達を翻弄し続ける奴らだった。


「後は・・・あの『死魔将(バカども)』ぐらいだが・・・多分、無い」

「マジで?」

「多分・・・奴らは多分、何らかの時間稼ぎをしたかっただけだろう。だったら、ここで戦力の浪費と情報を得られる事を厭って襲撃はしないはずだ・・・問題は、ここを狙う為の準備だった場合だがな」


 カイトは顔を顰めながらソラの問いかけに答える。一応、ここでは無いとカイトは判断したし、レヴィも無いだろう、とその判断を支持した。バルフレアやカリン達も同意見だ。が、それの裏を掻いてくる可能性は無いではないのだ。それが、『死魔将(しましょう)』の恐ろしさだった。


「まぁ・・・多分安心だろうと思う。現状、バルフレアとかも居るしな。十分耐えきれるだけの戦力は整ってる」


 カイトは一応、太鼓判を押しておく。これ以上は情報が足りなさ過ぎる。敵の動きもほとんど掴めないのだ。彼らでしっかりとした確証を出せないのは仕方がなかった。そしてそこらはソラもわかったらしい。なのでそれで納得しておく事にした。


「そっか・・・にしても、勲章かー・・・うわっ、今更無茶苦茶緊張してきた・・・」

「ははは。まぁ、ランクBになれば勲章を授けられる事も出てくる。運が良ければ、慣れるさ」

「慣れたくねー」


 ソラはため息混じりに半目で告げる。とは言え、ランクBからは冒険者でも一人前と言われる領域。看板を背負っているわけでもある。活動を考えれば勲章を貰う事は十分にあり得たし、ランクAともなれば五人に一人はどこかの勲章を持っている――勿論国だけとは限らないが――とも言われている。

 その上のランクSとなると昇格したてでもなければ確実に勲章は持っているというのが、現在の冒険者の風潮だ。そう言う意味ではソラや瞬が決して珍しいわけではない。


「ま、そう言うな。勲章は謂わば努力の結果の一つが形として現れただけだ。であれば、必然今後もでかい戦いに参加すれば貰う事は多くなってくる。ゲームのレアドロップと一緒だ。運が良ければ貰えるし、貢献度が高くても貰える可能性が高くなる。そんなもんだ」

「そんなもんかねぇ・・・」


 ソラは半分わかった様な半分わからない様な顔でため息を吐いた。まぁ、ここらはまだ勲章に馴染みがない日本人という感覚が抜け切らないのだ。仕方がなくはあった。そんな話をしていると、どうやら時間が来たらしい。帝城の職員がカイト達の所へとやってきた。


「皆様、準備の方はお出来でしょうか」

「・・・ええ、整っています」


 カイトは一同の顔を見回して上級生組全員が頷いたのを受けて、職員へと頷いた。それを受けて、職員がうなずき返して案内を行う。


「では、ついていらしてください」

「わかりました・・・全員、移動だ」


 カイトはそう言うと己も立ち上がって移動を開始する。そうして案内された部屋には多くの冒険者達がいたのだが、その中でも一つだけ、異質な集団が存在していた。それはオッドアイの着物姿のお姫様を中心とした美女達の集団だった。


「・・・なんだ、ありゃあ・・・」

「なんだ、って・・・」


 呆気にとられたソラの呟きにカイトが目を丸くする。


「どう見たってカリン達だろ?」

「へ?」


 カイトの発言にソラが目を丸くする。全くそうは見えなかったのだ。どこかの武家のお嬢様とその世話係達。そうとしか言い得なかった。と、そんなカリン達らしき集団がこちらへとやってきた。


「おーう。お前らも来たか。遅かったな」

「おーっす」

「・・・」


 お嬢様の口から出てくるカリンの声に、ソラの頭は混乱に陥る。どうしても合致しないらしい。が、声はどこからどう聞いてもカリンの物だ。鳩が豆鉄砲を食ったよう、というのがよく分かる顔だった。一方のカイトは平然と片手を挙げて挨拶をしていた。


「相変わらず見違えるな、その姿だと」

「本家から人来ちゃってさー。どうにも芙蓉から本家に伝わったらしくて使者来ちゃったよ」


 カリンが何時もの彼女の表情で顔を顰める。どうやら、本家である榊原家の使者が来てしまったのだろう。そもそも芙蓉はお目付け役という話だ。であれば、ここまでの大事になれば伝わっていても不思議はないだろう。なので勲章に際して正式な服装で臨む様に、と言われたらしかった。


「良いよなぁ、そっち楽で」

「あっははは。いつもいつでもこの服装だからな。常在戦場。冒険者故にここじゃあフル武装が許可されてるしな」


 カイトはカリンの羨ましそうな顔に笑いながら、自分達の服装を見る。今回は以前のシャーナの時とは違い、大規模な戦闘による勲章の授与だ。それ故軍人であれば軍の軍服――もしくは士官用の制服――になるし、冒険者であれば各々が最上となる武装で授与式に参列するのがある種のマナーだった。勿論、戦闘行為は厳禁である。


「はぁ・・・私もいつもの格好したい」

「いいじゃん、似合ってるぞ」

「うるせぃ」


 カリンはカイトの茶化す様な言葉に口を尖らせる。ここら、嬉しそうにしないあたり彼女も慣れていたし、人柄も出ていた。


「それで、今は?」

「先にバリー達軍人の授与をして、私らだとさ」

「当然か」


 カリンからの返答にカイトは当たり前か、と思い少しだけ気を抜く事にする。カイト達は冒険者、ラエリアに属していない。それに対してバリー達は元冒険者とは言え正規軍人だ。扱いには差が出て来る。

 なので先に正規軍人を終わらせて、という事なのだろう。それが終われば、カイト達の番だ。と、その話をしていたからか、今度は式典用の服装の職員がやってきた。


「カリン・アルカナム様、カイト・アマネ様。おいででしたら、こちらまでおいでください」

「だってさ」

「わかってるよ」


 カイトの言葉にカリンが同意する様に滅多にない凛とした表情で歩き始める。それに、カイトは冒険部の事をソラにあずけて横に続く事にした。そんな二人が来た事を見て、職員が口を開いた。


「ありがとうございます。お二人に先頭に立っていただき、入場して頂きます。後は所定のラインにて他の皆様はお待ちいただき、お二人は前に進み、陛下より勲章を頂いてください」


 時間が無い為か、最後の確認は簡素な物だった。すでにここらはこの数日の間に打ち合わせを終えている。問題は無かった。そうして、カイトは再びラエリアでの勲章の授与式に参加する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1052『授与式・再び』

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