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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第55章 ラクシア攻略戦

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第1050話 論功行賞

 ハンナの遺品を探す為に旧王城にして現帝城の各所を探し回る事になったカイトとシェリア、シェルクの三人だが、そんな中。カイトへと一つの要請が入った。それは褒美に関する事だ。


「と、言うわけだ。貴殿には是非とも受けてもらいたい」


 要請した相手は、内紛を終結させてこの国の長として正式に立ったシャリクだ。彼はこの数日の間終結した南北での紛争の事後処理を行っていたのだが、その中には武勲に関する事も入っていた。

 そしてエネフィアでは冒険者という半ば傭兵に近い存在も存在している。軍人だけではなく彼らへの報酬もここで話し合われており、その中でカイト達冒険部一同に対する褒美も話し合われていたのである。

 それがおおよそ固まったので、と冒険部上層部が呼び出されたのである。というわけで、カイト、ソラ、瞬の三名が呼び出されていた。そうして、まずシャリクは瞬へと視線を向けた。


「まずは、瞬くん。君には『神聖王勲章』の勲三等を授与してもらいたい」

「自分が、ですか?」

「ああ・・・君には『パルデシア砦攻略戦』における死神、通称グリムを食い止めた事。同戦いにおいて中央線線を一気に突破した事。南部第二の都市『パルテール』での捕虜解放の功績がある。勿論、『ラクシア』での戦闘も考慮してのことだ」


 シャリクは瞬へ向けて彼の功績を評価する。が、それに対して瞬は訝しげだった。


「捕虜解放、ですか? あれは別にそういうつもりでは・・・」

「君にそういうつもりが無くとも、結果としてあれのお陰で我々は地下水脈や地下通路の詳細な地図を入手する事が出来た。あそこは蜘蛛の巣の様な形でな。更にまぁ、実際に入った君たちはわかるだろうが、あの地下通路は先史文明の遺産でもあるんだ。色々と不明な仕掛けも多くてな。常に最新の地図がなければ、まともに侵攻なぞ出来はしないんだ。あの地図の有無こそが、先の戦闘の勝敗を分けたと言っても過言ではない」


 シャリクはため息混じりに実情を明かす。カイト達が地下大空洞を見付けた様に、あの一帯には先史文明の遺跡が残っているそうだ。正確にはその遺されていた都市部とインフラを活用する形で、街が出来たらしい。あの地下通路もその一つだ。故に、大大老も元老院も侵入される危険性を理解しつつ、破棄出来なかったそうだ。

 なお、シャリク達にも都市部についての地図はあるし、数ヶ月前の時点の地下通路の地図は存在している。だが、地下通路の地図については常に新しい物を使わねば駄目だそうだ。この数ヶ月を考えればどういう仕掛けが施されているかわからないし、地形がどう変化したかもわからない。詳細な地図無しでの侵攻は自殺行為だったらしい。


「それ故、そこらを加味した結果君には勲三等を、というわけだ。あの地図を回収出来た事は我が軍にとって最大の勝因だったと言える。この判断は妥当だと判断してくれ」

「・・・わかりました。お受けいたします」


 瞬は少し考えたものの、シャリクが妥当というのだからこれは妥当だったのだろうと理解して頷いた。そうしてそれにシャリクも頷いてから、今度はソラを見た。


「ありがとう・・・それで、ソラくん。君には同勲章の勲二等を、と」

「勲二等ですか?」


 ソラが驚いた様子で目を見開いた。瞬よりも上、この間カイトが授与されていた勲章と同格だ。10年に一度しか出ない物である。とは言え、これでは終わらない。


「ああ。それと共に新設される『神帝勲章』も授与しようという話も出ている。こちらは勲位があるわけではない名誉勲章という所だ。その第一号に、君が選ばれた」

「・・・はぁ」


 ソラはあまりの状況に頭がついて行けていなかったらしい。思わず生返事を返していた。とは言え、仕方がない。ただでさえ瞬より上の勲章を貰っておきながら、その上で新設される勲章まで授与されるのだ。呆然となるな、という方が無理があるだろう。そんなソラにシャリクが声を上げずに笑う。


「ははは。わからない様子だな」

「あ、いえ・・・すいません」


 ソラはかなり照れた様子でシャリクの言葉に頷いた。こういう状況であればカイトはわかっているのだろうが、残念ながらここで解説をしてくれる状況ではない。というわけで、シャリクが直々に解説をくれた。


「君は残った元老院を全員無事に捕縛した、という事を軽く見過ぎている様子だな。あれは十分に勲章に見合う武勲だ」

「い、いえ。ですがあれは偶然・・・」

「ああ、偶然だ。しかし、結果が全てだ。君が、捕らえた。それが全てなのだよ」


 シャリクは諭すように、ソラへと告げる。敢えて言う必要も無いが、ソラ達が捕らえられたのは偶然だ。元老院議員達がカイト達の侵攻速度を見誤った事とあの場で図らずも静かになった事で遭遇して、捕捉出来た。更にはソラと藤堂達の会話による敵兵の逃走もある。

 様々な幸運に助けられた結果が、元老院議員を全員生かして捕らえられたという結果だった。が、事実だけを捉えれば、ソラ率いる部隊が元老院を捕縛したのだ。それはしっかりと評価せねばならなかった。


「ですが・・・あれは自分一人の手柄というわけでは・・・」

「ああ、それもわかっている。だがあの時共に居た君の仲間達は全員、君が部隊を率いており、逃走を防いだのは君の機転であったと証言している。元老院を捕らえる事が出来たのは間違いなく君の勲功に違いない」


 身に余る光栄に恐れおののいているソラの反論に、シャリクは更に道理を説く。ここらは若い兵士が偶然にとてつもない武勲を立てた時には時折あることらしい。

 どう対処して良いかわからず、謙遜してなんとか自分の勲功を下げようとしまうそうだ。というわけで、その説得もまた彼の仕事だった。なので慣れている様子だった。

 なお、証言についてだが、これは論功行賞にあたり受けた物だ。何があったかを語っただけだ。なのでカイトやソラだけではなく藤堂達も多くの兵士達も受けていた。


「ですが・・・」

「ソラ、これは十分に話し合われての事だ。だから別に過分な報奨というわけでもない。言ったろ? 元老院全員を捕らえたのは大手柄だって。あいつらはこの内紛の首謀者、大罪人だ。それを捕らえる事はこの内紛の最大の目的だったわけだ。なぜこの内紛が起きたのか、というのを明らかにする為にも、捕縛出来たのは最善の結末だった。それを成し遂げたんだから、当たり前の処遇だ」


 カイトは更に渋るソラへと柔和に笑って諭す様に道理を説く。この内紛の最大の目標は3つ。大大老の征伐と元老院議員の捕縛、そしてシャマナ王女の救出だ。

 この3つの内の一つをソラが成し遂げたのだ。カイトの言う通り、当たり前の処遇と言えた。というわけでカイトからも諭されたソラは渋々という形ではあったが、それを受け入れる事にした。そんなソラを見て、シャリクが笑って頷いた。


「・・・そんな・・・もんか?」

「あはは・・・そうだな。今はまだ、君にはわからないのかもしれない。だが数年先、そうだな。我が国が元通り復興した頃には、君の名は歴史書に記される事となる。それほどの勲功なのだと思えば良い。それにもし自分だけ、と思っているのなら安心したまえ。突入部隊全員に別途勲章を授与する予定だ。あくまでも君が一段上というだけで、君だけが貰うわけではないよ」

「・・・はい」


 自分以外もきちんと勲章が貰えるのであれば、とソラはようやくシャリクからの言葉に頷いた。とは言え、ソラ自身には実感はないがこれは本当に別格扱いされても不思議のない大手柄だったのだ。彼が別格として扱われるのは仕方がない事だった。

 そうしてそこに同意を得た後、今度はカイトへと話を向ける。とは言え、こちらはギルドとしての事もある。なのでその話も含んでいた。


「さて・・・ギルドマスター・カイト。君の論功を語る前に、ギルド・冒険部全体へを」

「はい」

「まずは先にも言った通り、突入部隊全員に共通して与えられる勲章が君たち全員に付与される。これについての詳細は・・・改めて言う必要も無いだろう。君は第一号。そして友人が第二号のあれだ」

「あはは・・・わかりました」


 シャリクの言葉にカイトは頷いた。かつてカイトが来た折りに貰った勲章と同じ物をくれるというのだろう。ソラ達が貰った『神聖王勲章』が日本の『大勲位菊花大綬章』やアメリカの『名誉勲章』――感覚的には後者が近い――だとするのなら、こちらは軍が独自に与えている物だった。

 形としてはアメリカ軍の『レジオン・オブ・メリット』か『殊勲十字章』という所だ。強固な敵本陣に突入してそれを制圧せしめた事を表彰し、という様な感じだろう。


「『蒼星騎士勲章そうせいきしんくんしょう』、もしくは『ブルースターメダル』と呼ばれる物だ。これについては君達にも等しく授与される事となる」

「謹んで、お受けいたします」


 カイトはシャリクの言葉に受諾の意向を示した。『蒼星騎士勲章そうせいきしんくんしょう』とはかつてカイト達がこの国で活躍した際、特別な勲章として新設された物だった。

 騎士が入っているのはルクスもこの戦いで活躍していたからだ。そこらを考慮してブルースター――ルクスは当時『星光の騎士』と呼ばれていた為――と呼ばれるらしい。第一号がカイトで、第二号が彼だった。


「君はこれでこの勲章を貰うのは幾つ目だ?」

「さぁ・・・盗賊や厄災種(やくさいしゅ)の討伐等でも付随して貰ったりしていましたので・・・クズハかアウラに聞けば即座に数が返ってくるんでしょうが、居ませんからね」


 シャリクの冗談めかした言葉にカイトは半笑いで首を振る。勇者カイトだ。それこそ各国からの勲章だけで大きな旗や衣服を作れるぐらには貰っていたのである。数えていられなかった。

 なお、『蒼星騎士勲章そうせいきしんくんしょう』は一つの戦いにおける軍功に対して授けられる物なので、戦い続ければ一人が何度も貰う事はあり得るらしい。カイトも何度も貰っていたようだ。とは言え、そんな事を聞きたくてこんな冗談を言ったわけではない。勿論の理由があった。


「もし七度超えていれば、『七星勲章(しちせいくんしょう)』もになるのだが・・・」

「あー・・・すいません。多分超えてないと思うんですが・・・色々と貰ってたので数はいまいち・・・」

「ふむ・・・わかった。古い資料だが密かに探させよう。これは君が去った後に出来た勲章でな」

「はぁ・・・ですが、なぜ七星で?」


 カイトはシャリクの言葉に頷きつつ、その数を訝しむ。主に勇者カイト御一行と言われる面子の総勢は六人だ。勇者カイト以下相棒のユリィ、騎士ルクス、軍師ウィルこと皇子ウィスタリアス、戦士バランタイン、魔王ティナの六人である。他のクズハやアウラ、ルシア達は戦闘面でのメインメンバーとは言い得ない為、含まれないのが一般的だ。他にも武蔵らも同行していたが、こちらは協力者でメインメンバーとは言い難い。

 とは言え、どちらにせよここにもしアウラらが入ったとしても数は合わない。そんな疑問を受けたシャリクが調査の手はずを整えている片手間に説明をくれた。


「ああ・・・君たちは全員で六人だったな?」

「ええ。部隊を数えなけりゃ、と言う話ですが」

「その七人目に相応しい、というだけの話だ。最後の一つの星は自分自身、というわけだ」

「なるほど・・・私が貰えば逆に被りが発生してしまいますけどね」

「ははは。そう言ってくれるな。隠しているのは君の理由だろう」


 カイトの冗談にシャリクが笑う。そうしている内に手はずは整ったらしく、再び論功行賞の結果に入った。


「良し・・・では改めて君たちにはこの『蒼星騎士勲章そうせいきしんくんしょう』も付与される。こちらについては授与式等は行わず、報酬と共に引き渡す事になる。そこは理解して欲しい」

「いえ。それで十分です」

「すまんな。さて、それで次に君だが・・・こちらは『神聖王勲章』の勲一等を授与する事になるだろう。君は先のソラくんへの例に照らし合わせても、シャマナの確保と大大老の征伐を成し遂げた。更には敵主力をユリシア殿と二人で抑えきった。妥当な話で、軍も執務官達も一様に賛同を示した。内定通知と捉えてくれて構わん」

「謹んでお受けいたします」


 カイトは自らへの勲章を妥当と理解していた為、即座に頭を下げる。あれだけやったのだ。授けられない方が可怪しい。

 そしてこれだけではない事は明白だ。二つの戦いのどちらもでカイトは中核として活躍したのだ。他にも様々な勲章を与えなければならなかった。


「他にも先にソラくんへと授与する事になった『神帝勲章』に加えて、幾つか授与させるべきでは、という話が出ている。こちらについては決定次第通達させて貰う。難しいのは勲位の所でな。君たちの出立間際まで話し合う事になるが、そこは申し訳なく思う」

「いえ、ありがとうございます」

「ああ。それで、君とカリン殿の二人には授与式で私から・・・ああ、すまないな。再び授与式を行う事を通達するのを忘れていた」


 シャリクはそう言うと、側に控えていた従者に命じて一つの書類を持ってこさせる。それは合同授与式の様な物の通知書だった。あれだけ大きな戦いだったのだ。英雄達に向けて勲章を授けるのは一種の必須行事でもあった。なので今回も行われるということである。

 勿論、そこらはカイト達も把握しているので驚きはないし、授与式に参列してから帰国するというのは全員理解している。カリン達は言わずもがなだ。彼女らも参加してから帰国の予定だった。なので日程についても問題はなかった。


「今のところ定まっている『神聖王勲章』の授与式は今週末に行う事になっている。そこに君たちのギルドはカリン殿の率いるギルドの横で参列してくれ。詳細については追って連絡しよう」

「わかりました」


 カイトは手渡された書類を手にしながら、シャリクの言葉に頷いた。それを受けて、シャリクが続けた。


「ああ。それで君とカリン殿は揃って『神聖王勲章』の勲一等を授与する事になっている。故に代表として、君とカリン殿に頼んだ」

「ありがとうございます」


 カイトはシャリクの言葉に頷いた。どうやら、カリンも『神聖王勲章』の勲一等を授与される事になったようだ。彼女もあの二つの戦闘で複数名のランクS冒険者を食い止めたり、カイトが囮になる傍らで敵陣に切り込んだり、と中核の一人だった。そして突入部隊の総指揮は彼女が取っていたし、あの超巨大魔導砲を破壊したのは彼女だ。これもまた、当然の処遇と言えただろう。勿論、彼女もこれ以外にも複数の勲章が授与される予定だった。

 他にも勲一等ではないが、ランクS冒険者のジュリエットとカイトとは接点の無かった一人については『神聖王勲章』の勲二等に加えて複数の勲章が授与される事になる見込みだ、というのは後に聞いた話である。

 なお、当然全軍の指揮を行っていたレヴィも授与される事になっている。ここらの武勲に関しては時の運の要素が大きいため、並み居るランクSの冒険者達よりカイトが上に来たのは偶然として誰もが捉えていた。


「いや、こちらこそ君達の様な戦士に勲章を授けられて光栄だ。良し・・・では、これでおおよそ伝えるべきことは伝えたな。では、もう戻ってくれて構わん」

「ありがとうございます・・・良し、戻るぞ」


 カイトはシャリクの許可を得て、彼の所を後にする事にした。そうして、彼らは大急ぎで帰国の準備とは別に授与式に向けての準備も並列して行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1051話『授与式』

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