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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第55章 ラクシア攻略戦

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第1048話 凱旋 ――帝都ラエリア――

 クーデターを成功させ帝位を得たシャリクへと反旗を翻していた南部地方を中心とした一連の騒動。それはカイト達が大大老の征伐と元老院議員の捕縛、傀儡とされて操られていたシャマナの救出を為し得た事により、遂に終止符を打たれた。

 そうして捕縛した元老院議員達と討ち取った大大老達の首、救助されたシャマナを連れて、カイト達はシャリクの乗る旗艦へと遂に帰って来る事になった。


「よくやった!」

「見事だった!」


 そんなカイト達を出迎えたのは、無数の歓声と万雷の拍手だった。ここに居るのは大半がシャリクの理念に賛同して最初期からクーデターに参加していた軍人だ。耐え忍んだ日々は長く、この日を何日も夢に見ていたのだ。

 国を腐らせていた千年の悪徳に終止符を打ったカイト達は彼らからしてみれば、なんら遜色なく本当の英雄だった。そうしてそんな軍人達の最前列には、シャリクその人が立って拍手して出迎えていた。


「よくやってくれた」


 シャリクは自ら歩み寄ると、カイトへと手を差し出す。本来はあり得ぬ程の厚遇だが、今回カイト達が成し遂げた事を考えれば無理もない事だったのだろう。それに、カイトは大大老達の首を収めた箱を床に置いて、その手を握る。


「ありがとうございます」

「まさか、君達が元老院の捕縛までしてしまうとはな。私の予想では大大老の征伐までと思っていたが・・・」

「偶然にも、謁見の間にたどり着いた所で彼らと鉢合わせたのです。おそらく内部に入り込まれた事を知り、謁見の間に来ようとした所だったのでしょう」

「そうか・・・だが、運も実力の内という。やはり君たちが見事だったということだろう」


 シャリクはカイトの謙遜に賛辞を述べる。そうして次にソラを見て、彼へと手を差し出した。


「ソラくん。君もよくやってくれた」

「あ、っと・・・」

「ああ、いや。君たちは戦場から帰って来たばかりだ。篭手は外さなくて大丈夫だ」


 ソラは大慌てで篭手を外そうとしたのだが、シャリクが笑ってそれを制止する。この程度をこの場の英雄達に認められぬ器量が無いわけがなかった。

 とは言え、ソラは謝罪して少し待ってもらい、大慌てで篭手を外した。流石に彼も血に塗れた篭手で王の手を汚すわけには、と思ったようだ。それでも彼の手そのものも若干血で汚れていた――一応、拭いはした――が、その程度は元軍人である以上気にするシャリクでもなかった。


「いえ・・・すいません・・・ありがとうございます」

「ああ・・・元老院議員を全員生かして捕らえる事が出来たのは間違いなく、君の手柄だ」

「ありがとうございます。でも多分、自分ひとりだと無理だったと」

「そうだな・・・君たちもよくやってくれた。間違いなく、君たち全員の手柄だ」


 シャリクはソラの言葉を受けて後ろに居た瞬達へと労いの言葉を送る。それに、全員が頭を下げた。そうして彼は英雄達への労いを終わらせた後、その後ろに連行されてきた元老院議員達を見た。


「陛下。元老院議員5名を連れてまいりました」

「ああ」


 シャリクは元老院議員が現れた事で静まり返った場の中で、静かに口を開いた。


「・・・元老院議員達よ。余は、今この場で貴殿らを殺す事も出来る。貴殿らはわかっている限りでも我が国の法を二桁以上違反している。選挙についても贈賄罪等幾つもの不正が確認され、すでに捕縛済みの元老院議員達もそれを裁判にて証言している。元老院以前に国民の代表たる議員である資格もなかろう」


 シャリクは改めて、元老院議員達の罪状を詳らかにする。これに元老院議員達は何か言い返せる事は無かった。全てが事実だし、そもそも証拠も共犯者達も大半が押さえられているのだ。出来るはずもない。そんな彼らに対して、シャリクは更に続けた。


「だが貴殿らは曲がりなりにも我の愛する民達が選んだ議員であり、そして我が国の民でもある。故に我が臣下である大大老達とは違い、裁判を受ける権利を保証しよう。もちろん、黙秘権も保証する。故にもし貴殿らに僅かにでも良心が残っているのであれば、裁判で全てを告白してくれ。罪状がそれで変わるわけではないし、罰が軽減されるわけでもない。が、貴殿らとて元は国の為を想う者達であったはずだ。貴殿らの晩節を汚す事のない事を、余は切に願う・・・連れて行け」


 シャリクは最後に元老院議員達に対して思いの丈を語る。それに元老院議員達が何を思ったのかは、彼ら以外には誰もわからない。ただ少しでも心に響いてくれれば、と思うだけだ。

 そうして彼らが旗艦の中でも最も厳重な警備が敷かれているエリアへと移送されていくのを確認した後、シャリクが宣言する。


「これで、このラエリアに巣食っていた膿は全て出た! 私についてきてくれた憂国の兵士達よ! 護国の英雄達よ! 今この時を以って、内戦の終結を宣言する!」

「「「おぉおおおお!」」」


 シャリクの宣言を聞いて、鬨の声が旗艦のドック内に響き渡る。これは正式な内戦の終結宣言ではないが、それでも終わった事には変わりがない。そうして、この数日後。彼らは戦闘で荒れたラクシアを守る兵士達を残して、帝都ラエリアへと凱旋する事にするのだった。




 カイト達がラクシア攻略作戦を終わらせておよそ4日。カイト達はついに、帝都ラエリアへと帰り着いた。


「終わったな」


 カイトは冒険部へと特別に与えられた旗艦の個室の窓から帝都を見下ろしながら、一人ようやく終わった事に安堵のため息を吐いた。失った物は大きかった。この国もこの国に住まう者達も自分達も、だ。だが、これでまた明日から歩いていけるだろう。


「ハンナさん。全部、終わりましたよ。何時か、シャーナ様がここに帰って来る事が出来るでしょう」


 カイトは空を見上げて、この戦いで命を落とした女性を思い出す。運命に翻弄され、最後は自らが選んだ主の為に命を賭した勇敢な女性だった。素直に、カイトは敬意を表していた。

 と、そんな感慨に浸るカイトの部屋に、ノックの音が響いた。そうして入ってきたのは、軍の女性士官だった。


「カイト・天音様。そろそろ到着のお時間ですが、ご準備の程はいかがでしょうか」

「ええ、いつでも」

「かしこまりました。では、またお呼びにあがります」


 軍の女性士官はカイトの返答に頷くと、再び部屋を後にする。王自らが出征して、ついに内紛が終結したのだ。そうである以上凱旋パレードを行い民達に王の無事を知らせ、兵士達の生還と英雄の存在を示すのがエネフィアでの通例だった。

 そのパレードにカイト達も参加する様にシャリクより要請されていたのである。彼らは大大老達を征伐し元老院を捕縛した立役者。要請というよりも冒険者への依頼に近かった。


「・・・さて、と」


 カイトは立ち上がって、前を向く。いつまでも喪った者を嘆いてもいられない。生きているのなら、生きている者として為すべきことを成さねばならなかった。そんな彼の背後から、一人の女性の声が響いた。それに、カイトは振り向く事はしなかった。振り返る必要なぞないからだ。


『・・・カイト様。ありがとうございました』

「・・・いや、それより悪かったな。世話を掛けた。それと、ありがとう。お陰で最後の覚悟が固まったよ。オレは、今のままじゃ駄目なんだな」

『いえ・・・では、シャーナ様を今後はよろしくお願いいたします。それと、決してご無理をさせないように。元々シャーナ様はお体があまり丈夫ではないのです。だと言うのに貴方といえば初夜だというのにご無理をさせて・・・いえ、シャーナ様も非常に幸せそうでしたので文句を言うわけではないのですが、そもそも貴方はシェリアとシェルクも一緒になぞ・・・』


 相も変わらずの手厳しいお小言だ。せっかく道化ではなく英雄として立ったというのに、彼女の応対は全く変わらない。そう、死者達は変わらないのだ。そうしてそんな彼女の声に思わずくすりと笑ったカイトに対して、本当に安堵した様子で彼女が告げた。


『どうか、よしなに。あの方こそが私の生きた証。あの子の生き方は私以上に常に運命に翻弄されておりました。私はこれ以上は関われませんが貴方さまがお呼びになられれば、馳せ参ずる次第にございます。どうかその力でシャーナ様を幸せにしてあげてください・・・それと、もう一度言います。見てますからね?』


 女性の気配が最後にくすり、と笑う。最後の最後は、冗談なのだろう。死者となった以上、彼女はカイトと常に共にあるに等しいのだ。それに、カイトが答えた。


「イエス・マム。オレはオレの正体が何であろうと、彼女にとっての道化であり騎士である事には変わらない。ならばこれからはオレが彼女の笑顔を作り、彼女の身を守っていこう。だから・・・そこで安心してろ。オレの名は、カイト。伝説の勇者だ。女王様の守りに関しちゃ、天下一品だぜ? ま、お勤めなので子供も作りますよ?」


 最後にいつものように道化っぽく笑ったカイトの返答に、心の底から満足気に彼女が笑う。そうして、気配が消え去った。敢えて言えば成仏した、という所だろう。


「さぁて、行こうか! 英雄の凱旋だ!」


 カイトは今度こそ、堂々と笑顔で扉を開ける。これからは、英雄達の凱旋パレードだ。涙は似合わないし、落ち込んでもいられない。そうして、カイトはパレードの集合場所へと向かう事にするのだった。




 その凱旋パレードだが、これは敢えて言う必要がないかもしれないが大半の者は馬車に乗って上に立って威風堂々とするだけだ。とは言えもちろんこれが全てではない。例えばカイトの様に乗馬や騎竜が出来るのであれば、その上にまたがる事になる。


「・・・な、なぁ、カイト・・・これ、手とか振った方が良いのか?」


 パレードの中でもかなりの前列の馬車の上に座らされて緊張でガチガチになったソラが、出発間際にカイトへと問いかける。その一方のカイトは、竜に乗れるので小型の地竜に跨っていた。その横を歩く事になっているのは、同じく地竜に乗ったカリンだ。その彼女がソラの質問に首を傾げる。


「あん? 手を振るってなんでさ」

「え? 振らない・・・んっすか? 普通」

「カイト、あんた振ってたっけ?」

「いや、オレはウィルの奴に凱旋の時は振るな、と言われてたから振ってない。ティナにもやめろ、って言われたし」


 カリンの問いかけにカイトが首を振る。そうして、彼は自分の考え――と言うよりティナの考え――を語る。


「出征のパレードの時は民に夢を見せる為に余裕と慈悲を持って笑顔と共に民草を慰撫せよ。凱旋のパレードの時は英雄として勇ましい顔で竜に跨り、英雄はここに健在であるという事を示せ・・・らしい」

「逆じゃないのか?」

「オレも、そう思った。けど実際、オレの時はそれの方がウケが良かったんだよ」


 カイトは少し困り顔でソラの問いかけに答える。彼としても、当初は民草に己の無事を知らせる方が良いのではないか、と思っていた。が、現実としてティナ達の指示に従った方が遥かにウケが良かったのだ。とは言え、少し理解は出来る。


「まぁ、でも・・・なんとなく分かるかな」

「ん?」

「やっぱさ。これは戦争なんだよ・・・人が死んだ以上、そして殺された者が居る以上、楽しげにしてちゃダメなんだ」

「あ・・・」


 カイトの指摘にソラがはっとなる。彼も、この戦いで何人もの命を奪った。そうするしか彼が生き延びられなかったのだから仕方がないし、内戦を終結させる為には誰かがやらねばならない事だった。が、それでも奪われた命があるのだ。笑顔を振りまくというのは、たしかに可怪しいだろう。

 もちろん、今更命を奪った所でソラとて後悔はしない。ソラとて数ヶ月の間に依頼で他領土に行った時には盗賊と鉾を交え、その命を奪っている。おそらく冒険部の大半のギルドメンバーがその手を血で汚していると断言してよい。が、それとこれとは別なのだ。


「そっか・・・そうだよな。サンキュ」

「そうか。なら、結構だ」


 カイトはいつの間にか緊張も一緒に吹き飛んでいたソラの勇ましい横顔にこれなら大丈夫か、と頷いた。そうしてカイトが再び前を向くと同時に、カリンが口を開いた。


「にしても、あんたと並んで行進っていつ以来だ?」

「初じゃね? オレ大抵ウチのバカどもの先頭に立ってたから。で、バカ共の先頭はつまり、パレードの先頭。横には大抵ルクスとかでお前は居なかった気がする」

「あー・・・そういや、そうか」


 カリンは今のカイトが冒険部のギルドマスターとして立っていた事を思い出す。二人が並んでいるのもきちんとした理由があっての事だ。カリンはあの戦いにおいて、南部軍の切り札である超巨大魔導砲を破壊した。しかもそれだけではなく、放たれた第二射については完全に彼女一人で迎撃したのだ。

 あれがもし放たれていれば、その時点で北部軍は確実に壊滅していた。あれの軌道上にはシャリクの乗る旗艦が存在しており、中央とその周辺が消し飛んでいたのは想像に難くない。

 他にも二つの戦いでたった一人で敵の何人もの切り札(ランクS)を抑えもした。もう一人の内戦終結の立役者と言っても過言ではなかった。

 それ故カリンがカイトと並んで行進し、彼女の後ろには<<粋の花園(すいのはなぞの)>>の女戦士達が馬車――彼女らは竜を操れるがソラ達に合わせた為――に乗っていた。


「さて、じゃあ行くか」

「なーんかあんたと並んでるとろくな予感しないんだよねー。まーたなんか魔物とか出ないよな」

「うっせい」


 カリンの軽口にカイトも軽口を返す。この二人は凱旋パレードにも慣れている。それどころか常連にも等しい。緊張なぞほぼ皆無に等しかった。そうして、そんないつも通りの二人と緊張するソラ達が参加した凱旋パレードが始まるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1049話『戦後処理の始まり』

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