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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第55章 ラクシア攻略戦

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第1047話 内紛の終結

 元老院を追撃していたソラ達の大捕り物が終わった頃。カイトはというと、手早く気絶している兵士達を拘束して結局無駄足に終わる事となったバリー率いる軍の特殊部隊と合流していた頃だった。


「シャマナ様。私はお兄君配下の・・・うん?」


 バリーはカイトと合流して早々シャマナへと挨拶を行ったのだが、何ら反応を示さないその様子を見て困惑していた。そうして、彼は先んじて彼女を保護していたカイトへと問いかける。


「シャマナ様に何があられたのだ?」

「わからん・・・が、推測は出来ている」

「どういうことだ?」

「投薬や非魔術の洗脳で意思を完全に奪っているのだと思われる。シャリク陛下を通して軍医にも遠隔で簡易の診断をしてもらったから、おそらく確かだと思われる。本気でこのドタマを踏み潰したかったがな」


 カイトは忌々しげに大大老達の首を睨みつける。こんな幼気な少女にどういう頭をしていればそんな非道な事が出来るのか、と本気で怒っている様子だった。口調もそれ故なのだろう。


「ちっ・・・こんな事ならわざわざ義理立てするより細切れにしてやりゃ良かった」

「抑えたまえ。君のしたことは正しい事だった。これが、最善だ」


 苛立ちを露わにするカイトに対して、バリーが年長者の務めとして慰めを掛ける。彼自身としても腹に据えかねる物はあったが、カイトがここまで怒りを露わにしてくれている事で彼自身の怒りは僅かに抑えられていたのだ。そうして、その宥めを受けてカイトも僅かに落ち着きを取り戻す。


「あ、いえ・・・すいません。では、シャマナ様の身に関してはそちらにおまかせします」

「ああ。君の・・・いや、君たちの活躍はおそらく勇者カイトに並んでラエリアの歴史に名が刻まれる事になるだろう。武運を祈る。勝ちが決まった以上、生きて帰れよ」

「はい」


 カイトはバリーの激励とねぎらいを背に、元老院達が教えてくれた隠し通路へと歩いていく。そちらにはホタルがすでに待機しており、いつでも行ける用意を整えてくれていた。


「マスター。いつでも進撃可能です」

「そうか。ホタル、お前はソラ達の支援に向かってくれ。こちらはもうシャマナ様の護衛も必要無い。オレひとりで十分だ」

「了解」


 カイトはホタルへとソラ達への援護を命ずる。守る者もなく、ただ敵を追撃するだけの状況だ。ならば彼一人の方が身軽で良かったし、万が一ソラ達が取り逃がしていた場合にはそちらの追撃も必要だ。正しい判断だろう。と、そんな所に通信が入ってきた。


『カイト、俺だ』

「ソラか。現状は?」

『こっち、ミッションコンプリート。全員無事だ』

「本当か!」


 カイトの顔に驚きと喜びが浮かぶ。これは朗報だった。ソラの声には固さは無かったし、カイトからみてもこれが真実だと理解出来た。と、そうしてカイトは更に突っ込んだ所を聞く。


「殺害か? 捕縛か?」

『捕縛。ホントにギリギリの所で捕縛に成功した』

「よくやった! 大手柄だ! お前にまかせてよかった!」


 カイトは最上の結果に終わらせた事を手放しで賞賛する。これはカイトだけではなくシャリクからしても諸手を挙げて称賛出来る事だった。と、そんな滅多にない絶賛にソラが思わず照れつつも、再び話を続けた。


『お、おう・・・で、今動かなくなったエレベータ近くの部屋に突っ込んで見張ってる。回収たのめっか?』

「ああ。軍にまわしてもらう・・・何人捕縛に成功した?」

『え? あ、えーっと・・・5人だな』


 ソラは一度部屋の中を見回して、人数を明言する。それに、カイトは目を見開いた。


「5人・・・バリー少佐! 元老院で生きているのは何名でしたか!?」

「5人だ! 名簿は必要か!?」

「いえ!・・・ソラ、ガチの大手柄だ! 元老院、それで全部だ! 絶対に逃がすな!」

『え、マジ?』


 ソラはカイトからの言葉に、まさかこれが全員とは思っていないらしく目を見開いて驚いていた。本当に大手柄だった。


「司令部! こちら冒険部ギルドマスター・カイト! 応答を願う!」

『こちら司令部。どうぞ』

「元老院全員の捕縛に成功! 繰り返す! 元老院全員の捕縛に成功! 映像を送る! こちらもすぐにそちらに向かうが、そちらからも謁見の間の階層にある西部エレベータ脇の部屋へと増援を送ってくれ! 捕縛に成功した面子は4人と少数! 逃げられる可能性がまだある!」

『っ!』


 カイトからの大大老征伐に続く更なる報告に、司令部は今度こそ大いに沸き立った。


『了解! すぐに増援を送る! 君も今すぐそちらへ向かい、絶対に逃がさない様にしてくれ! 大手柄だ!』


 カイトは司令部に響き渡る歓声をBGMにした指示にカイトは即座に踵を返す。こちらに目標は居ないのなら、追撃の必要は無かった。


「バリー少佐。そういうわけですので、私はソラ達の支援に向かいます」

「ああ、そうしてくれ! こちらは大丈夫だ!」


 バリーは笑顔でカイトの申し出を受け入れる。これで、彼らの勝ちが確定した様なものなのだ。憂国の義士達であった周囲の兵士達を含めて、本当に嬉しそうだった。と、そこに窓からカリンが彼女の率いる冒険者と軍の特殊部隊を率いて現れた。


「おーい、カイト。あたしこっちに援護しろって話来たけど手ぇ要るかー」

「おっと! ベストタイミング! カリン、こっちの支援頼めるか!? ソラ達が元老院の捕縛に成功してな! そっちの援護にオレとホタルで向かう!」

「おぉ! あの小僧どもがやりやがったのか! そりゃ、大手柄じゃないか! よっしゃ、行って来い! シャマナ様はあたしが守っとくよ!」


 カイトの言葉にカリンは喜色を上げてカイトを送り出す。そうして、カイトとホタルは即座に謁見の間を出てソラ達の待つエレベータ横の部屋へと進む事にする。と、そこですぐに交戦中の瞬達を発見した。


「っ! 敵襲!? 後ろか!」

「先輩! 無事か!?」

「ああ、カイトか! ソラ達が先に行った! 俺達はここで敵を食い止めててな! 出来れば手を貸してくれ!」


 瞬は敵を吹き飛ばして下の階に落としつつ、カイトへと支援の手を求める。


「ああ! おい、てめぇら! 大大老のクソジジイ共は全員オレの手で殺した! シャマナ様も奪還! 元老院もすでに捕らえられた! それでもやりたいのなら、来るがいい!」


 カイトは大声で全員に聞こえるように事実を羅列する。これには、一切の嘘がない。そしてその言葉に合わせて、ホタルがソラから送られてきた動画とシャリク達に証拠として送信した大大老達の首の映像を空中に映し出した。


「これ、は・・・」

「偽物だと思うのなら、好きにしろ。だがこれ以上戦った所で負けである事ぐらいは、お前らも理解しているはずだ」


 カイトは動揺する敵兵士達に向けて、努めて落ち着いた様子で問いかける。そして、兵士達の誰もが城内に敵の侵入を許した時点で心の何処かで負けを悟っていた。踏ん切りが付かなかっただけだ。

 そうしてそれをきっかけとして、全員が力なく武器を捨てていく。もう心が折れたのなら、拘束は後から来る兵士達に任せれば良いだろう。故にカイトは無視する事にした。


「行くぞ、ソラ達が元老院議員を捕縛している。急がないとな・・・ホタル、軽く捕縛を」

「了解」

「そうか、あいつらがやったのか・・・」


 穴を飛び越えたカイトの言葉に瞬が笑う。それは称賛している様でもあった。そうして、カイトは瞬達と共にソラ達の待つ部屋へと向かう事にするのだった。




 そうして合流したソラ達の所だが、別に何か問題が起きているわけでもなく普通に待機しているだけだっった。道中で交戦がほとんど無かった彼らは目立った手傷を負う事もなく、捕縛用の魔道具で逃げられない様にした元老院を見張っていただけだ。

 他方元老院議員はというと、捕縛用の魔道具の効果で意識を失っていた。奪還されない限りは次に目覚めた時には、北部軍の飛空艇の中になるだろう。


「ソラ、見事だった」

「おう・・・先輩も無事だったんっすね」

「当たり前だ。この程度でやられるようでは、シフさんやコーチにぶん殴られる・・・っ。やはり染みるな」


 瞬は笑いながら戦いで負った回復薬を傷口にぶっかける。怪我の度合いとしては瞬達足止めを行っていた奴らの方が酷かった。とは言え、彼らも時間稼ぎをメインとしていたお陰でそこまで手酷い手傷は負っていない。

 それになにより、今回は敵を外に釣りだした上での敵陣本陣中枢への潜入任務とあって前二日よりも遥かに危険は小さかったのだ。妥当な結果だろう。というわけで、瞬は笑いながらお互いの労をねぎらう。


「まぁ、今日の決戦が一番楽だった、というのはなんとも言えないな。にしても、ソラ。思ったより早く到着出来たのか? ここまでの道を俺たちも歩いたが、そこそこ敵集団が居そうな物だったんだが・・・」

「あ、そうだ。それっす。それなんっすよ。カイト、ちょっと聞きたい事あんだけど」

「ん? なんだ?」


 ソラの問いかけを受けて、各所の状況を聞いていたカイトがソラの方を向いた。そうして、ソラは疑問だった道中での事を話し始めた。


「・・・って、感じなんだよ。唐突に敵の兵隊さんが逃げ出してさ。いや、まぁ、そのおかげでギリギリ間に合ったわけなんだけどさ」

「・・・ああ、そらそうだろ。お前こそ何言ってんだ?」


 ソラが疑問に思っていたのは、道中での一連の話だ。藤堂達も疑問に思っていたらしく、彼らも一緒になって首を傾げていた。が、これはカイトから言わせれば、逆にソラ達こそ何を言っているんだ、という笑える話だった。


「お前、普通に考えてもみろよ。<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>の修行だぞ? それに参加って普通に考えて大抵の奴からしてみれば背筋凍る様な相手だぞ。腕自慢でもどんだけの奴が切り捨てられてると思ってんだよ」

「へ? どして? 俺、そこまではやってないだろ?」

「そりゃ、詳細知ってるから言える事だろ」


 ソラの疑問にカイトが笑いながら改めて指摘する。ソラはきちんとわかっているからこその疑問なのだ。彼は自分が参加した修行は入門者・若衆向けの簡易版で、決して隊員達が行う修行ではない、と。

 敢えて言えば肩慣らし程度の訓練に付き合っただけ、というのを彼は知っている。が、それは内側に入ったからこそわかっていることなのだ。外からしてみれば違いなんぞ分かるはずもない。


「そりゃ、そうだけどさ。どう見たって気配でわかんだろ」

「まともならな。でもあんだけ中央突破で大立ち回りやっといて、んであまつさえウチの名だして、ってすりゃ当然そいつらはこいつはもしかしたら物凄い腕利きで<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>に関係がある奴かも、って思うだけで戦いたくなくなるっての。まぁ、敢えて言えば先入観だな。本当に何気なしに<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>の名前を出された所為で、ブラフとは思えなかったんだろう。自分達で相手が絶対に勝てない存在だと思ってしまったわけだ」


 カイトはソラの疑問に対して、懇切丁寧に説明する。どうせ迎えの飛空艇が来るまで彼らは暇だ。誰かが元老院議員でも取り返しに来ない限り、時間はたっぷりあった。その説明を聞いて、藤堂も得心がいった様に頷いていた。


「なるほど・・・では、私達を相手に武蔵先生の弟子というのは・・・」

「ああ、そっちは多分オレの方だと思いますよ」

「どういうことだ?」


 カイトの否定に藤堂が首を傾げる。これはまぁ、ソラとは違い彼がわからないでも仕方がないと思っていた。


「ウチの流派って滅多に外に出ないんですが、外に出てる奴らももちろん居ます。それ、誰か知ってますよね?」

「ああ。皆伝を持つ方々と、武者修行の人達と」

「ええ、そうです。後者は兎も角、免許皆伝を手に、かつて武蔵先生が仰っていた外道の技を振るったバカ共を追いかけてる奴ら。実は大半はそいつの面倒を見てた兄弟子とか同期とかですけどね。ウチで例えるなら、もし万が一の場合にはまずオレか先生がけじめ付けに行く事になる、って感じです」


 カイトは藤堂の答えを認めた上で、少しだけ補足を行っておく。ここら武蔵が剣道部一同に語ったかはわからないが、語っていなければ語っても良かった。


「そうなのか・・・それはなおさら、外道に堕ちれないな」

「あっははは。そうですね。で、本題ですが、そういうことなんです」

「・・・いや、どういうことなんだ?」

「わかりませんか? オレに対して可怪しいと思った、という事はつまりオレは別格とわかっていての発言です。そして、ソラの発した<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>の単語。その両者を結ぶと、一つの仮定が浮かび上がるんです」


 藤堂の問いかけに対して、カイトが笑いながらタネを明かすことにする。


「オレはつまり、皆伝持ちだと判断されていたんですよ。で、先輩達の調練の為にこの内紛に参加していた、ってのが彼らの頭の中で出来上がっていたストーリーでしょう。もしあの場でそのまま戦ってて皆伝持ちが合流したら、と考えると簡単でしょう?」

「・・・なるほど。生きて帰れるとは、思わないな。私でも一目散に逃げる」


 藤堂はようやく得心がいったと頷いた。彼自身、免許皆伝を持つ夏月の腕前を見せてもらった事はある。今の自分では喩え100人束になった所で絶対に勝てないと思っていた。そしてその腕前は、大陸間会議に参加した事のある者なら何処かで理解しているだろう事だ。

 だから、敵も一目散に逃げたのだ。このままもしソラ達と戦っていてカイトがやって来たら、と考えると背筋が凍るどころの話ではない。どう頑張っても生きて帰れる筋道が立てられない。蜘蛛の子を散らすように逃げるのも当然だった。


「そういうことです。ただでさえさっさと倒せなさそうな<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>で修行しただろう重装備の戦士に武蔵先生の弟子二人、更には謎の軽装備の男・・・これでその更にバックに免許皆伝を持つ剣士と来る。まともな思考でいられるのなら、絶対に逃げます。まぁ、それが間違いだったんでしょうけどね」


 カイトは最後にそう笑う。結局は全て思い込みだ。が、この思い込みを如何にうまく利用するかが、戦いのやり方なのである。

 と、まるでその会話の終了を待っていたかの様に、部屋へと北部軍に所属する軍の兵士達が現れた。そうして、その部隊を率いているらしい一人の女性軍人がカイトの前に進み出た。


「ギルド・冒険部のギルドマスター・カイト・天音殿ですね?」

「ええ」

「シャリク陛下の近衛兵団に所属するフォルマ中尉です。元老院議員の護送の命を総司令部より命ぜられてきました」

「そうですか・・・彼らは、そこに」

「・・・ありがとうございます。これで、この内紛は終了します。護送のお手伝いをお願いできますか?」

「承りました。全員、移動するぞ」


 カイトはフォルマと名乗った女性中尉の依頼を受けて、元老院議員の護送を手伝う事にする。そうして、カイト達は軍と共に捕らえた元老院議員達を北部軍の総司令部の所にまで連れて行く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。これでラエリア編は残す所エピローグのみです。

 次回予告:第1048話『凱旋』

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