第1042話 侵攻 ――地下水脈――
昨夜から断章・14を更新中です。そちらもよろしくお願いします。
情報にない超巨大魔導砲の砲撃を受けたシャリク率いる北部軍。彼らは想定外の一撃を受けるも、咄嗟に危険を察知したカイトの機転を受けて被害は最小限に抑えられた。が、戦況を一変しかねない兵器が唐突に現れたのだ。司令部は大騒ぎだった。
「というわけで、攻略は可能だ。問題はない。が、被害はそれ相応に重くなる。そこは覚悟しておいてもらおうか」
『ふむ・・・』
レヴィよりの作戦の修正の提言を受けたシャリクが苦い顔で僅かに考える。が、それも僅かな間だけだ。時間はない。なので即座に決断を下した。
『わかった。それで行こう。これ以上肝の冷える思いはしたくはないし、兵の指揮にも関わる』
「ああ・・・では、一斉攻撃への準備を行わせる」
『頼んだ』
レヴィはシャリクの許可を受けて、各所への連絡を開始する。今までの作戦ならばカイト達の為に陽動となるべく動いていたのだが、現状でその動きを見せていればこちらが陽動だと気付かれかねない。であれば、それを避ける為にもこちらに焦りを見せねばならないのだ。
「揚陸部隊は全部隊発進用意。更に続けて後方に待機している予備部隊についても逐次投入可能な様に用意させろ」
「「「了解」」」
レヴィの指示を受けたオペレーター達が一斉に行動に入る。ここからは、地上部隊も一斉に行動開始だ。
「合わせて結界艦と最前線で交戦中の船を除く飛空艇は制空権の確保の為に一時的に後退。前線の部隊は単横陣へと切り替え。前線の全艦艇は出力の大部分を防御に回す様に通達。我々は一時敵の有効射程圏外に出ると同時に、障壁に回す出力の大部分を砲撃に回せ。地上部隊の支援を行う」
「「「了解」」」
レヴィの指示を受けて、飛空艇の内半数程が一度距離を取る。北部軍の布陣は立体的な車懸りの陣だ。そして車懸りの陣とは簡単に言ってしまえばヒット・アンド・アウェイの繰り返し。前線の部隊が戦闘して消耗次第、後ろの部隊と交代するのである。
というわけで、交代の為に控えていた艦隊を僅かに後退させて魔導砲に出力を回して、地上部隊の突撃の為の支援を行うということだった。そうして、即座に陣形の組み換えが行われて、準備が整っていく。
「地上部隊の準備、完了!」
「後方の予備部隊、後5分で準備完了との連絡! 後備えの艦隊はすでに準備完了です!」
「支援艦隊、準備完了です! 何時でもいけます!」
レヴィへと準備の出来上がった艦隊の報告が上がってくる。それに対して、逐一彼女も指示を下していく。そうして、しばらく後。ついにすべての用意が整った。
「良し・・・シャリク。聞こえているな?」
『ああ。聞こえている』
「準備は整った。何時でも作戦開始可能だ」
『わかった。全軍、突撃!』
シャリクはレヴィの言葉を受けて、全軍へと突撃命令を出す。そうして全艦艇から一気に砲撃が敵の最前線へと加えられ、地上部隊が一気に侵攻を開始する。それを横目に、レヴィは特殊部隊へと指示を送った。
「総員、行動を開始せよ。道中は強襲で一気に突破。そこからは速度を優先に考えろ」
レヴィの指示が各所に待機していた冒険者や軍の腕利き達へと飛んでいく。そしてそれはカイト達にも飛んでいた。
「良し。全員、一気に行くぞ!」
「道中立ちふさがる奴は全員ぶちのめせ! こっからはバレようが関係ない! ただ、前だけを見て行くよ!」
カイトの号令に合わせて、カリンが声を荒げる。ここからが、彼らの腕の見せ所だ。一気に攻め上る必要があった。そしてカイト達には更に良い事がある。というわけで、カイトが楽しげな笑みを浮かべてホタルへと問いかけた。
「ホタル、準備は?」
「肯定です」
ホタルはがしゃん、という音と共に右腕に取り付けた兵装の調子を確かめる。それは、きゅいーん、という音を立てて回転していた。まぁ、早い話がドリルである。それも彼女の胴体ほどもある超巨大なドリルだった。
「うーん、ギャップ萌え。流石ティナ」
「それは肯定しかねます」
「うん、その無愛想さも尚良・・・じゃあ、総員、突入! 行くぞ! 突撃ぃいいいい!」
カイトが鬨の声を上げて一気に地下水路への入り口へと突入する。ここからは、後ろを振り返らない一方方向だけの突撃だ。
「敵襲ー! こっちからも来るぞー!」
「急げ! 各所から敵が攻めて来ているぞ!」
地下水路へ入ると同時に、敵の声が反響して彼らの所にまで響いてきた。そしてそれと共に、無数の足音も響いていた。そうして、それを聞きながらカイトが指揮を開始した。
「総員、ホタルを中心として方陣を展開! ホタル! 変な話だが護衛は任せろ! お前はオレ達の道を作れ!」
「了解」
「ソラ、お前は左右からの攻撃に対して<<操作盾>>で対応! 先輩はオレと共に最前線! 討ち漏らした奴は他の面子で対応しろ!」
「ウチは小僧どもの支援で後方を守るよ! 後ろから追撃してくる奴らはあたしらで食い止める!」
カイトとカリンは矢継ぎ早に自分達の率いるギルドへと指示を与える。ここからは、全速力で『ラクシア』地下へと目指さねばならないのだ。止まっている暇は無い。
「バリー少佐! 作戦開始です! こちらはすでに突入! そちらも戦闘をしつつ所定のポイントまで移動を!」
『了解だ! 行くぞ! こちらも行動開始だ! 予定とは違うが、一気に攻め込むぞ! 途中で適時爆薬で混乱させる! 巻き込まれてくれるなよ!』
カイト達からの連絡を受けて、バリー達も一気に行動を開始する。当初の予定とは違うのは仕方がない事だ。ここは、戦場だ。予想外の事は起こり得る。そうして連絡を取っている内に、カイト達は曲がり角へと差し掛かる。が、彼らは一切勢いを緩めない。
「ホタル! お前のドリルで壁を貫いてやれ!」
「了解」
カイトの言葉を受けて、ホタルが前へとドリルを突き出した。そして魔力を漲らせて背後の飛翔機に火を灯して一気に加速して、壁を簡単にぶち破った。
「何!? 女の子!?」
「敵か!?」
壁の先。まさか横から敵が現れるとは思っていなかったらしい南部軍の兵士達が目を見開いていた。そこに、ホタルを追い抜いたカイトが躍り出る。
「おっきゃくさーん! その子にはおさわり禁止でっす! ということで、どけや!」
「はぁあああ!」
カイトと共に瞬が一気に敵集団へと切り込む。今の彼らには逐一殺す余裕もない。勿論、手加減している余裕もない。なので地下水路を崩壊させない程度の大火力で相手を吹き飛ばして行く。
逐一トドメはさせないので、背後から追撃してくる相手はカリン達任せだ。経験の足りない冒険部は前だけを見ていれば良いのである。
「全員、速度を緩めるな! 合流ポイントまでは一気に駆け抜ける!」
カイトは一撃で敵を吹き飛ばすと、己も足を緩める事無く指示を飛ばす。ここから、目的の合流地点までの距離は直線距離にしておよそ三キロ。全力で走れるのならものの数分の距離だが、流石に障害物や分厚さの関係で突破出来ない壁、敵の存在等を考えればそうも言ってはいられない。合流地点まででもおよそ20分は必要となる見込みだった。
「全員、一気に行くぞ! 敵は無視して構わん! 油断するなよ!」
「「「おう!」」」
カイトの言葉に冒険部一同が声を上げる。そうして、カイト達は一気に侵攻を開始するのだった。
さて、そんな侵攻からおよそ10分程。あと少しで合流ポイントという所だ。そこで、少々の手違いが起きる事となる。
「よっしゃ! って、なんだこりゃ?」
今回もホタルのドリルで壁をぶち破って強引に直進していたカイトであったが、目の前の光景に思わず目を丸くする。そしてそれは横の瞬も同じだった。彼らは下の方まで続くかなり広い空洞に出たのである。
「地下空洞・・・いや、地底湖という所か?」
「肯定します。直径はおよそ300メートル。かなり広い地底湖と思われます」
「そうか・・・ホタル。とりあえず照明弾を頼む。これは暗すぎる」
「了解」
カイトの指示を受けたホタルが魔術で創り上げた照明弾を発射する。それで、カイト達の目に地底湖の全容が浮かび上がった。
「こりゃ・・・昔の都市部か?」
「不明。情報に記載なし。地図にはここは何も無い事になっているはずです」
「ということは・・・まさかのこんな時に限って大発見?」
「肯定します」
カイトの言葉にホタルが頷く。今回、少々敵に包囲されかかり予定外に壁をぶち抜いて直進する事にしたのだが、その結果、どうやら未発見の前史文明の遺跡を見付けてしまったらしい。
幸運なのか不幸なのかよくわからない事になっていた。なお、背後については魔術で何も起きていない様に修繕しているので、追撃の心配は無い。
「・・・バリー少佐。こちらカイトです」
『どうした? こちらはもう少しで合流ポイントに到着するが・・・そちらは確か半ば包囲されていたのだったな? 支援が必要か? 爆薬なら、まだあるが・・・』
「いえ・・・別の意味での支援は欲しいですが、支援の必要はありません。追手は振り払いました」
『それは見事だ。ではどうした?』
「それが・・・その、未発見の遺跡を発見してしまいまして」
『・・・何? ここらに遺跡は無かったはずだが?』
「いえ、だから未発見の、です」
カイトは半笑いで現状を明言する。流石にこれは彼としても予想外にも程があった。まだ、超巨大魔導砲の方が想定できる。だが流石にこれは無理だろう。
『・・・流石に冗談をこんな時には言わないか。いや、待て。まさかそれなら』
「ええ。ここは結界の外。外との連絡が一時的に取れるかと。それに未知の遺跡だ。安易には進めないでしょう。外との連絡を取り合いつつ、状況の確認を行ってみます。ですので僅かに合流は遅れる事になるかと」
『わかった。こちらで合流ポイントの確保を行っておく。が、急げよ。状況から言っていつまでもここに潜めるとは限らん』
「了解」
流石にカイトも未知の状況を相手に急げというわけにも行かず、慎重に行くしかなくなった。とは言え、ここは地下通路の外だ。故に地下通路の張り巡らされた結界からは外れており、外との通信が可能かもしれなかった。
というわけでカイト達は地底湖に沈んだかつての都市の残骸を足場に移動しながら、外との連絡を試みる事にする。そしてどうやら、運良く繋がってくれたらしい。
『・・・貴様は・・・相も変わらず何が起きるかわからん奴だ』
「いや、ホントにな。これ、マジで何起きてんだろ」
『はぁ・・・主力中の主力が未知の遺跡を発見して足止めだと? 貴様らに歴史的な発見をさせるためにそこからの侵攻を命令したのではないぞ』
「わーってるよ。でもしちまったもんはしょうがないでしょ」
カイトは外のレヴィと若干苦笑混じりに笑い合う。どうやら調べてみたのだが、本当にここは未発見の遺跡だったらしい。しかも規模から言って、歴史的な大発見と言える規模だ。
カイト達は別の意味で歴史に名を残す事になったのである。というわけで、戦闘中にも関わらず報告を受けたシャリクさえ困惑していた。
『そ、そうだな。い、いや見事だ。無事で何よりだし、空洞があるという事はぶち抜く手間が省けたという事だ。良いことだったと思おう。もちろん、発見者の名前は君たちにしておこう。うむ、そうしよう。遺跡はなるべく破壊しない方向で頼む。それと、軍用の位置を報せるマーカーを天井部にタイマーをマックスで設置してくれ』
シャリクはなぜこんな状況でこんな事をしているのだろう、と思いながらカイト達へと指示を与える。この遺跡が失われるのは国としての大損害だ。こんな状況であるが故に、せめて場所だけはわかる様にしておくつもりだった。
というわけで、カイトはフックショット――なるべく魔力を使わない為――を使って天井へ浮かんでいってそこに軍用のマーカーを設置する。と言ってもこれが起動するのは今から24時間程度後だ。流石に戦闘中にこんなものを起動すれば敵に自分達はここにいますよ、と明言しているようなものだろう。
「良し・・・全く。なんでこんなことに」
カイトは大空洞の天井にマーカーを設置すると、一人半笑いでため息を吐いた。あれがあの時の最善だったが、ここで僅かな足止めを食らったのは痛かった。そうして、カイトは下に降りようと下を見て、顔を真っ青に染める事になった。
「あ・・・あぁあああああ! カリン! やっべぇぞ、ここ!」
「どして!?」
「下! 下! 水ん中!」
カイトはフックショットを外すと同時に、落下しながら身振り手振りで周囲を指し示す。そこには、ちょっと大きめの黒い影が浮かんでいた。と、その次の瞬間。地底湖から、複数体の『海の悪魔』が音を上げて顔を出した。
「あ・・・あぁあああ!? なんだこりゃぁ!」
「そりゃそうだわ! ここ、普通に結界の外だもんな!」
「あぁあああああ! わっすれてたぁああああ!」
周囲を半包囲状態にされたカリンがカイトに続けて絶叫する。いくら彼女でもこれは予想していなかったらしい。地下の遺跡と安心していた所為で少し体力を回復させよう、と全員気を緩めてしまったのが悪かった。ここまで接近されるまで、気付けなかったのだ。
敵がうろつく地下通路から離れた事でうっかり勘違いしてしまったが、結界が無い空洞という事は魔物が出ても可怪しくはないのである。これは凡ミスだが、今回ばかりは仕方がないだろう。幾らなんでも現状は奇妙奇天烈な状況で想定外にも程があったからだ。全員、完全に失念していたのである。
「ホタル! お前は今すぐ地下通路へ向かう穴を掘れ! つーか、こんなの全部相手にしてらんねぇぞ!」
「肯定します。そして了解です。瞬様、援護を」
「わかった!」
ホタルはカイトの言葉に同意するなり飛翔機に火を入れて一気に地底湖の壁にまで移動すると、そこの岩壁に向けてドリルを突き立てて再び穴を掘り始める。それに<<雷炎武>>を起動させた瞬が即座に横に移動した。
「カイト! あたしとあんたで足止めするよ! こんなのに後ろから迫られちゃやってらんないよ!」
「わーった! ソラ! オレ達が足止めする間、お前が指揮しろ! こっちも頃合いを見て後から追いかける!」
「おう、ってうわぁ! やっべぇ! 全員、にっげろぉおおお!」
ソラはカイトの言葉と同時に飛来した『海の悪魔』の手の一本を慌てて回避しながら、全員に向けて指示を出す。そうして、全員は『海の悪魔』から追い立てられる様に一気に地底湖を脱出する事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1043話『侵攻』




