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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第55章 ラクシア攻略戦

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第1041話 想定外の一撃

 膠着状態に陥っている北部軍と南部軍の戦闘を勝利へと導く為の特殊作戦を行う事になったカイト達は、軽い昼食を食べながら小型の揚陸艇で北部軍の本陣に移動していた。


「まぁ、軽めだしこんなもんでいっか」


 ソラは軽いシリアルの様な物を口にすると、とりあえずそれで良いか、と納得しておく。なお、味についてはお察しと言うしかない。皇国軍の様に300年前のどこかの皇子が肝いりで改良させたわけでもない。所詮こんなものは軍用の保存食。栄養素のみを考えられた簡易の食事だ。味は本当にお察しだった。


「・・・うん。終わってからしっかり食べよう」

「そうしろ。帰って来る気力になる」

「おう・・・あぁ・・・早く由利とナナミの手料理が食いたい・・・」


 ソラが悲しげに水を飲む。パサパサしていたらしい。なお、カイトは干し肉だけだ。飲み物は一応、回復薬をドリンク代わりに飲んでいた。そんなカイトが、笑いながらソラへ一応の忠告を送っておく。


「お前、それ、死亡フラグ」

「おぉう・・・お前、何とかできね?」

「あはは。それだけ元気ありゃ十分か。まぁ、大丈夫だろ。オレ、死神に好かれすぎて遠ざけるからな」

「おっしゃ!」


 とりあえず、カイトはこの様子ならまだまだ行けると判断する。そもそもソラ達にしてもほとんど慣れない銃撃戦をやったのだ。魔力の消費はそこらがわかっているのでさほど手は出さず、ほとんど無かった。


「さて・・・で、こっからは徒歩だ。密かにかつ、早急に向こうへ移動する必要がある」

「でも全員で行くのか?」

「いや、まさか。だから、チームは別々に分けたわけだ。一部を除き都市部で合流だ」


 ソラの問いかけにカイトはギルド毎に潜入ルートが異なる事を明言する。敵にもしバレてランクSの奴らが来てしまっては最悪だ。なのである程度まではバレない事をメインとした隠密行動を行うつもりだった。

 流石にこればかりは人数が居た方が危険なのだ。ここから少しの間はカリン達とも別行動である。少しの間なのは、地下通路への入り口では合流するからだ。やはり数が居ないと居ないで各個撃破の可能性があるからだ。


「良し・・・じゃあ、全員準備が出来次第行動開始だ」


 カイトが冒険部一同へと号令を掛ける。そうして、冒険部遠征隊は一路地下通路の出入り口の一つとなるエリアへと向かう事になるのだった。




 それから、およそ1時間程。カイト達は見回りの巡視艇の警戒を回避しつつ、自分達の目的地である少し遠くの川を目指して歩いていた。


「こちらギルド・冒険部。ポイント・ベータまで残り500メートル地点を通過」

『了解。そのまま直進せよ』


 カイトはヘッドセットを通して司令部へと報告を入れる。地下通路に入れば結界等の影響で流石に通信は限られてくるが、それまでは定期的に連絡を取り合う事になっていた。

 ここは戦場だ。もしどこかでバレていた事がわかれば、全滅を避ける為にも即座に戻らねばならないのだ。そこまでは、連絡をこまめに取り合う必要があった。


「っと・・・天音。9時の方角から敵の飛空艇だ。おそらく巡視艇」

「了解。全員、屈め」


 赤羽根の言葉にカイトが号令を掛けて、全員が腰を低くして特殊なローブで全身を完全に覆い隠す。このローブは特殊部隊の為に作られた物だ。

 これの動作を簡単に言えば、光を完全に透過してしまう物だと思えば良い。更には内部から漏れる魔力の大部分をカットできる。一見するだけではその場に誰も居ない様に見る様になるのである。が、動けば効果は薄れるので、停止しなければならなかった。

 そしてここは戦場近くだ。人が発する魔力だけでは戦場の魔力の濃度が高すぎて、よほどの使い手でもなければ察知出来ない様になっていた。更にはもちろん、カイト達もなるべく魔力の放射を抑える様に動いている。小型の飛空艇に搭載されているセンサー程度なら誤魔化せた。


「・・・行ったな」


 カイトは遠ざかっていく飛空艇を見て、再び腰を上げる。敵が気づいた様子はなく、今のところは順調に進んでいた。


「良し。行くぞ」


 カイトは再度歩き始める。カイト達が目指しているのは、地下水路の出口の一つだ。他にも獣人達の鼻を避ける為に下水道から侵入する者も居るし、水中から潜入する為に上水道の取水口から入る者も居る。そこらはまちまちだ。そんなカイトが唐突に、足を止める。


「・・・ん?」

「どうした?」

「いや・・・何か音が・・・聞こえる・・・?」


 自分の後ろを歩く瞬の問いかけにカイトは耳を澄ませる。それは戦場においても平然としていられる彼だからこそ持ち合わせる鋭敏な感覚が捉えた僅かな違和感だった。


「なんだ・・・?」


 カイトが見るのは、『ラクシア』だ。音はそこから聞こえていた。


「司令部。音が聞こえるんだが、何が起きている?」

『わかりません。報告は他にも上がっています。現在、状況を確認中です』


 カイトの問いかけに司令部のオペレーターはかなり焦った様子で答えた。どうやら、こちらにはわからない事らしい。それに、カイトは戦士としての勘が危険を告げていた。


「・・・何か、ヤバイな・・・司令部。注意した方が良い」

『了解です・・・あれは・・・』


 どうやら、司令部が何かを視界に捉えたらしい。そしてそれを、カイトも見た。それはカイト達の位置からでも目視可能な程に巨大な魔導砲だった。かつての大戦を生き延びたカイトも見たことがない程の巨大な魔導砲だった。それが、ラクシア城の地下から出てきたのである。

 全長はおよそ200メートル。口径はおよそ5メートルと言うところだろう。口径だけを見れば、カイトの保有するエネフィア最大の戦艦である『クイーン・エメリア』の倍を遥かに上回る。あちらはティナの作った魔術を発射するので純粋な威力比較は不可能だろうが、それでも決して油断できる火力ではないだろう。


「なんだ、ありゃ・・・? あんなでかい魔導砲があるなんて聞いてないぞ・・・?」


 嫌な予感をカイトは総身にひしひしと感じ、超巨大な魔導砲を見てここが戦場である事を思い出していた。すべてが、手のひらの上で進むわけがないのだ。そして呆けていたカイトは、しかし即座に正気に戻った。


「一葉! 即座にシャリク陛下の前方にグラビティフィールド展開用意! 重力場の方角は逆転! あれは絶対にヤバイ!」

『っ、了解!』


 カイトの指示を受けて、呆けていた一葉も正気に戻る。流石にあれは想定外にも程があった。ここまで巨大な魔導砲があるとは思いもよらなかったのだ。仕方がない。


『二葉、敵弾に対して支援を! シャリク陛下の乗艦の前方に出ますよ!』

『りょーかい!』

『三葉は私と共に即座に重力の偏向フィールドの展開! あれの艦隊への直撃は是が非でも防ぎます!』


 一葉は二葉と三葉を従えて、艦隊の旗艦の前に躍り出る。何が何でも、この飛空艇だけは落とされるわけにはいかないのだ。確実に守り抜く為には、この位置に布陣するのが最適だった。そしてそれに対して、カイトの指示はまだ続いていた。


「ユリィ! 『BC』弾は持ってるな!」

『うん! わかってる!』

「頼む!」


 どうやら、考えている事は一緒だったらしい。あの魔導砲が何かはわからない。わからないが、連続で発射出来ないとは限らない。もし二撃目が来たのなら、それに対する対抗策を講じておくべきだった。


「急ぐぞ!」

「あ、お、おう!」


 カイトは指示を終えると、呆けていたソラ達に号令を掛けて正気に戻す。あんなものが出てきたのだ。急がねばならないだろう。と、彼らが走り出したと同時。敵の超巨大魔導砲が火を吹いた。


「っ!」


 流石にカイトもその瞬間には、強烈な光でそちらを見た。それは超巨大な光条だ。規模だけで言えば、己の光条より遥かに大きいだろう。いや、こんなものと比べられる彼が可怪しいのであるがそれでも比べられるぐらいではあった。


「一葉!」


 カイトが声を上げると同時。光条の軌道上に、漆黒の巨大な穴ができる。どうやら、一葉達の展開が間一髪で間に合ったらしい。が、それでも完璧にはいかなかった。光条の大半は上へ逸れていたが、一部は周囲に散っていた。


「ちぃ! 僅かにブレたか! 司令部、被害はどうなっている!」

『あ、えあ・・・あ、はい! 被害確認を急ぎます!』


 司令部はあの光景を目の当たりにしていたのだ。オペレーターが思わず我を忘れてしまったのは無理もない。そうして、カイトの言葉に正気に戻ったオペレーター達は大慌てで被害状況の確認を行っていく。


『ひ、被害状況の概算出ました! 艦隊中央に展開した結界艦は3割が被弾! 2割が轟沈しました! が、マクダウェル公爵家よりの増援により後方の艦隊への被害は無し!』

「そうか・・・ふぅ・・・」


 カイトは最悪の最悪だけは避けられた事に安堵する。流石にこれは気が気でない状況だった。


「レヴィ。どうする? 一気に行くか?」

『いや、焦るな。これは少々予想外ではあったが、まだ作戦の修正は可能な範囲だ』


 僅かに焦りを見せたカイトに対して、レヴィの言葉はいつも通りだ。そこには焦りもなく、この程度はどうということもないという風でさえあった。それに、カイトも落ち着きを取り戻す。


「りょーかい」

『だが流石にあの魔導砲に第二射を撃たれるわけにはいかん。第一作戦目標は変更。城壁に設置されたガトリング砲ではなく、ラエリア城に設置された巨大魔導砲の破壊を最優先目標として設定。カリン、聞こえたな?』

『ああ、聞こえてるし見えてたよ。ありゃヤバイね』


 通信機の先でカリンがレヴィの指示に暗に同意する。あれは、彼女から見てもヤバかった。もう一発撃たせるべきではないだろう。


「連射は不可能と見るか?」

『というよりも、無理だろう。あの砲撃が行われる30分程前より、ガトリングが停止していた事がわかっている。あれはおそらくラクシア全体の魔力を吸い上げていたはずだ』


 カイトはそう言えば、と先ほどの一幕を思い出す。確かに、ガトリング砲の嵐の様な砲撃は止まっていた。結界は停止していなかった様子なので、それ以外をすべて砲撃に回したのだろう。それならば、アレだけの超高火力にも納得ができる。


「それで、こちらはどうする?」

『これよりこちらは一気に戦線を押し上げる。冒険者の部隊も残留する兵士達も全部で総攻撃を仕掛けるつもりだ。ガトリングも使わねばならなくしてやる』


 カイトの問いかけに対して、レヴィはこちらの対処を告げる。確かに、これは北部軍の考え方としてはおかしな考えではないだろう。誰がどう見てもあの第二射は撃たせるべきではない事は明白だ。なら、少しでもチャージを遅らせられる様にするだけだった。


「こちらは?」

『そのまま進め。が、潜入のタイミングはこちらから指示する。こちらの大侵攻に合わせて突入してもらう事にする。その代わり、隠密行動から強襲へと変更。時間を優先して一気に攻め上れ』

「了解。そこまでは、バレない様に待機しておく」

『ああ、そうしてくれ』


 レヴィはその言葉を最後に、慌ただしく通信を遮断する。他にも幾つものギルドや冒険者達が動いているのだ。その一つ一つに別個の任務や突入方法を指示しなければならないのである。


「行くぞ。作戦についてはさっき聞いていた通りだ。焦るな、しかし、急げ。油断はしない」


 カイトは再び号令を下すと、歩き始める。ここからは時間優先だが、それでも同時に決してミスするわけにはいかないのだ。そうして、ものの数分で目的地である地下水脈入り口にまでたどり着いた。


「よう。そっちも着いたね」


 到着したカイト達に対して、先行していたカリンが手を挙げる。ここからは、一緒に行動だ。と言っても合流したのはカリン達だけだ。主力となるカリンとカイトが最悪は強襲する事になるので、戦力をバラけさせない為に一緒にしたのである。そうしてカイトは合流するなり警戒を彼女らに任せると、内部に先行して潜入しているバリーへと連絡を入れた。


「バリー少佐。お久しぶりです、カイトです」

『ああ、少年。君か。君がこの作戦の突入部隊に居るとは・・・いや、今はそれはどうでも良い。先程の揺れは何だ? こちらは潜入中で情報が入ってこなくて困っている』

「ええ、それで少々の作戦に変更が出ました。預言者殿より伝言と新たな任務内容を受諾していますので、そちらへ送信します」

『わかった。受信している間に情報を教えてくれ』

「はい」


 カイトはバリーの求めを受けて、ここ数十分で起きていた事を簡単に語り始める。そうして、カイトはバリーへの説明を行いながら僅かな間、そこでレヴィからの合図を待つ事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1042話『侵攻』

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