第1040話 ラクシア攻略作戦 ――二日目――
本日20時より断章・14の投稿を開始します。そちらもよろしくお願いします。
ラクシア攻略作戦の一日目が明けて、翌日朝。カイト達は戦いに備えて動いていく飛空艇艦隊の一隻の中で最後のミッションブリーフィングを受けていた。
「以上が、君たちの行動する内容になる。基本的には先行しているシュラウド少佐との活動になる。地下通路の中には彼らが仕掛けた偽装工作がある。それを上手く活用してくれ」
軍の指揮官の一人がカイト達へと作戦内容を通達する。昨日のあの後、被害状況等を鑑みた詳細な作戦が構築されており、その作戦内容の説明は必要だろう。
「作戦の第一次目標は敵最重要施設である結界の展開設備。これを破壊してくれ」
指揮官はカイト達に『ラクシア』の都市の地図を見せて、その中の軍施設で最も重要な結界の展開を司る施設を提示する。ここを叩ければ、『ラクシア』を守る結界は無力化できる。後は一気に攻め込めるのだ。
「第二次目標は都市外壁に設置されている各種の魔導砲。だが、君たちはこの攻略作戦には参加しなくて良い。これについてはカリン・アルカナム率いる冒険者の部隊が排除してくれる事になっている」
指揮官は一応の作戦目標を説明する。そういうわけで、カリンとカイト達はこの第一目標を排除した時点で別行動になる予定だ。これはカイト達もカリン達も同意した上での話だ。
カイトとしても都市部への奇襲である為高位の冒険者との戦闘はあまり考えられず、カリン達が離れても大丈夫だろう、という判断を下していた。そういうわけなので、カリン達への依頼については一部変更になった。
「さて・・・で、第一目標を破壊した後、シュラウド少佐率いる軍特殊部隊と君たちについては『ラクシア』の中央にあるラクシア城の攻略についてもらう事になる」
指揮官は次いで、カイト達の攻略目標であるラクシア城の映像を提示する。まぁ、不思議な話ではないと思うが、ラエリアにだって幾つもお城は存在していた。貴族がたくさん居るのだから自然だろう。そしてそれを、南部軍は本拠地として使っていたのである。
「こちらでの作戦目標の中での最重要任務は、先王シャーナ陛下とシャリク陛下の妹君であるシャマナ様の保護だ。傷一つなく、是が非でもお助けしてくれ。これは君たちのギルドマスターが先王の騎士として戦った事を鑑みての配置だ。シャリク陛下の信と先王陛下のお顔に泥を塗る事が無い様に頼む」
指揮官は最後に、傀儡として担ぎ上げられているシャマナという少女の保護を厳命する。ここらは流石にシャリクの甘さ云々ではなく、外聞としての問題だ。
流石に傀儡とされている自分の妹を見捨てました、では幾らなんでもシャリクの外聞に差し障る。頑張ったけど殺されました、はともかく救助は北部軍にとって最重要課題だった。そうして、次の作戦目標に指揮官が言及した。
「その次の作戦目標は大大老及び元老院の捕縛。これについては逃げられない事を最重要に捉え、万が一の場合には殺害を許可する。これ以上戦火が広がる事をシャリク陛下のお望みではない。逃げられそうだと判断した場合、そちらの判断で殺して構わん。ここで、千年に及ぶ腐敗を全てを終わらせるのだ」
指揮官は今まで以上に語気を強める。ここで、全てを終わらせる。その意思が滲んでいた。
「以上が、君たちの今日の作戦における任務となる。質問は?」
「作戦開始時刻は12時という事でしたが、それまでは? 全体の戦闘開始が本日9時より開始という事でしたが」
指揮官の問いかけにカイトが問いかける。一応彼はレヴィより聞いて知っているが、改めて全員に通達させる為にも、という事だ。
「ああ。これについては君たちには旗艦の上より2時間程敵の陣営に対して遠距離より砲撃に参加してもらう事にしている。その為に必要な魔銃はこちらで貸し与えよう。君たちは旗艦甲板より敵の最前列及び敵艦へ向けて砲撃を行い、その姿が健在である事を敵に見せてくれ」
「それでは一度撤退して現れない事に疑問をもたれませんか?」
「それについては、考えている。君たちに偽装した者達が君たちの使っていた武器を使い、敵陣へと砲撃を続行する。流石に遠距離で砲撃の飛び交う中で偽物と判断する事は難しいだろうという判断だ」
カイトの更なる問いかけに指揮官は明言する。これが、こちらの作戦概要だった。
「・・・他にはないな。では、君たちも準備に取り掛かってくれ」
その後も幾つかの質問を得てそれに答えた指揮官は、質問が出なくなった事でブリーフィングを終了させる。そうして、遂に『ラクシア』攻略戦の二日目が開始される事になるのだった。
早朝のブリーフィングから二時間。カイト達は旗艦の甲板の上に登っていた。そこにはカイト達の他にもこの作戦で敵を釣り上げる為の陽動になる冒険者や軍人達が魔銃を手渡されていた。
なお、カリン達は自分の飛空艇があるのでそちらから援護射撃を加える予定になっている。こちらは魔銃は必要ないし、一箇所に全員が集まっていても逆に怪しまれかねない。なのでバラける事になっていた。そんな旗艦の上で魔銃を受け取る列に並んでいたソラが少しぼやいた。
「魔銃か・・・やっぱこっちにもあるんだな」
「そりゃな。何も皇国だけってわけじゃないが・・・やっぱり数は無い。高級品だからな。基本は弓とか魔術だ」
「そんなもんか・・・ども」
「ああ、オレは大丈夫だ。自前がある・・・まぁ、オレ達は適当に撃っていれば良い。他は本職さん達に任せりゃ良いさ」
どこかやりにくそうにライフル型の魔銃を手に取ったソラに対して、『試作縮退砲』を手にしたカイトが気休め程度の言葉を掛ける。まだ、戦いは始まっていない。どちらも陣形を構築している所だった。
「こちらは、車懸りの陣。相手はやはり単横陣か」
カイトは敵の動きを見つつ、どういう陣形かを理解する。そうして、彼は耳に手を当てた。
「レヴィ。やっぱ、敵は想定通りに動いたぞ」
『らしいな・・・当たり前だがな』
2日も、常道を外れた攻撃で痛い目を見てきたのだ。流石に三日目はそれに対応した陣形を構築してくるはずだと予想していたが、やはり案の定その通りだった。
「最前線には・・・居るな。敵、ランクS冒険者達を確認。全員、だ。しかもドンピシャだ」
『良し。想定通りだ』
カイトからの報告にレヴィがほくそ笑む。実のところ、最前線にランクS冒険者を配置してもらう事こそが彼女の望みだった。敵は完全にこちらの手のひらの上で踊っていたのだ。伊達に預言者と言われる程の人物ではなかった。
「で、陣形の構築状況は?」
『後数分、という所だ。聞こえているだろうが、今シャリクが演説を行っている』
「それが終わり次第、砲撃開始か」
『ああ』
カイトはレヴィの言葉を受けて甲板に急遽設置された狙撃用の設備の上に腰掛ける。ここから、彼は敵陣を狙い撃つつもりだ。と、そんな彼にフロドが問いかけた。
「兄ぃー。狙撃、合わせとく?」
「んー・・・いや、とりあえず手当たり次第で良いだろ。こっち一発一発に時間掛かるし」
「わかった。じゃあ、ソレイユー。そっち、近づく小型艇への牽制よろしくね」
「はーい」
カイトの返答を受けたフロドとソレイユは甲板の更に上の部分で立ち上がる。彼らは弓兵。立ったままでないと狙撃はやりにくい。そうして、そんなこんなを話しているうちに数分はあっという間に経過して、ついに、シャリクが号令を下した。
『では、総員! 戦闘開始!』
「「「おぉおおお!」」」
カイトの周囲で鬨の声が上がり、無数の魔弾が発射される。それに合わせるかの様に、敵からも無数の魔弾が発射される。が、それに対してカイトはホタルと共にマイペースだ。
「おーし・・・ホタル、照準をリンクさせろ。右翼上空の超弩級戦艦を一隻落とす。まずは、オレが今回の作戦にきちんと参加している事を敵に見せる必要がある。こっちはその前の結界艦を破壊するから、お前が戦艦を撃墜しろ」
「了解」
カイトは横に控えるホタルへと命ずると、照準を合わせる。照準の正確さであれば、ホタルの方が遥かに上だ。彼女に任せるのが、正解だろう。カイトは別に戦功なぞ求めてはいないのだ。落とせればそれで良い。
「・・・」
カイトはしばらくの間、狙撃に最適なタイミングを見計らう。幾ら縮退砲と言えど魔弾やら魔術やらが飛び交う所を飛べば完全に直進するわけではない。タイミングを見計らい、完全に轟沈が可能な時を探らねばならなかった。
「マスター」
「おう」
カイトは砲撃の隙間と隙間を見計らって、『試作縮退砲』の引き金を引く。威力は抑えておいた。周囲で結界を展開している飛空艇を破壊するのに全力は不要だ。そうして、漆黒の光条が敵陣を切り裂いていく。
「良し! ホタル!」
「了解」
カイトの攻撃は超弩級戦艦の前で結界を展開する飛空艇へと直撃して、結界を完全に消滅させる。そうして出来た僅かな隙間へ向けて、ホタルが第二射を発射した。
「ビンゴ」
ホタルの放った第二射は針の穴を射抜く様な正確さで、カイトの切り開いた隙間を通り抜けた。それは超弩級戦艦を一撃で貫くと、真っ二つにして轟沈させる。
「良し。後は、しばらくここで狙撃を行いつつ、時間を潰す。なるべくこちら陣営の防御を重点に置く。近づいてくる敵を撃破するぞ」
「了解」
カイトの言葉にホタルが応ずる。この『試作縮退砲』の難点は試作品故に連射が出来ない事だ。故に一射一射確実に仕留めなければならない。そうして二人で協力しつつ、こちら陣営に突撃してくる敵艦を狙撃していく事にするのだった。
そんな戦闘の開始から、およそ2時間。正午ごろの事だ。カイト達冒険部一同は受領した魔銃を軍へと返却すると、一度集合して戦況の推移を聞いていた。
『現在は完全に膠着状態にあると言っても過言ではない状況だ』
結論から言えば、そういうことらしい。そうして、そんな戦況に一切苦味を見せないレヴィが続けた。
『まぁ、これは予想されていた事だ。こちらはジリジリと詰め寄り、相手はそれをじわじわと切り崩す。これがお互いの戦略だ。こちらを削りきれば相手の勝ち、こちらが敵を突破出来れば、こちらの勝ち。これはそういう戦いだ』
「その為のガトリング砲か」
『そういうことだ。あれの猛攻撃は流石に厳しい』
カイトの言葉にレヴィが目下の課題を明言する。やはり一番驚異的なのは昨日の終盤に北部軍を追い返したガトリング砲だ。威力そのものは戦艦の砲撃と大差ないが、何より数がえげつない。
生半可な飛空艇では数秒も居れば障壁を削りきられてしまうし、地上軍ではあんな連射を食らえば即座に壊滅的な被害を受ける。故に、ファランクスの様に盾を構えてじっくりと前に進むしかなかった。
そしてそれ故、敵もその砲撃の範囲内からは出ずこちらが接近するのを待ち構えていた。敢えて戦力を減らす必要はない。敵が近づくのを待つのが上策だった。
どちらも少しずつしか作戦目標を達成出来ない状況にあるのである。とは言え、それははじめから理解出来ていた事だ。だから、レヴィも策を打った。
『さて・・・それで貴様らは一度補給の為に艦内に戻ってもらったわけであるが、これについては敵も不思議に思う事はないと明言して良い。当たり前だが貴様らとて人。補給もせず戦えるわけがないからな』
レヴィは当たり前の事を当たり前として明言する。ここらは当然だろう。腕利きのカリンやフロドとソレイユ達にしても敵にしても補給の為に引くし、それ故にカイト達が引いた所で不思議はない。
特に今回はかなりの長丁場である事をお互いが予想している。ならば、どこかで休憩を挟ませるのはお互いに普通の事だった。それを利用して、カイト達は密かに行動を開始するのである。
『それで貴様らは午後より出撃する地上部隊に紛れて、地上へと降下。これについては敵とて想定はしているはずだ。一気に攻撃が増すだろう事は想像に難くない。注意しておけ』
「了解。以降は?」
『それ以降に変わりはない。貴様らは負傷兵に紛れて北部軍の地上本陣へと移動する。その後は、特殊装備を受領して敵陣を迂回しつつ早急に所定のポイントへと移動だ。慎重に慎重を重ね、バレない様に移動しろ』
「了解」
カイトはレヴィの指示に頷いて、それで簡易のブリーフィングが終了する。そうして、カイト達は敵陣への強襲作戦を行う為の用意を開始するのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1041話『想定外の一撃』




