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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第55章 ラクシア攻略戦

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第1034話 化物達の戦い

 デンゼル艦隊による攻撃を無視しながら己を食い止めたランクS冒険者の集団との戦いを繰り広げていたカイトとユリィは、両者共に全員が<<原初の魂(オリジン)>>を使用した事で出来た僅かな間を得ていた。それを、レヴィもその周囲の補佐官達も当然観察していた。


「なぜ、彼はデンゼル艦隊からの攻撃を一切無視しているのですか?」

「ふん・・・これが最善だからだ」


 補佐官の問いかけにレヴィは悪辣さを滲ませて答える。これが、最善。と言われても誰にも理解が出来なかった。というのも、カイトの技量であればさっさと叩き潰してしまえば良い様に思われたからだ。


「・・・わからんか。これは私怨だからだ」

「はぁ・・・いえ、たしかにデンゼル・レゼルヴァ伯と彼の間にある因縁は存じ上げていますがそれがなぜ、この行動に?」

「これが、一番デンゼルに効果的だからだ」

「はぁ・・・」


 レヴィの言葉に補佐官達は首を傾げる。言わんとする事はわかる。わかるが、なぜ効果的なのかわからない。それに、レヴィは僅かに微笑んだ。


「貴様らは良い一生を送ったらしいな。復讐とは無縁のな」

「はぁ・・・まぁ、確かにその一面で言われれば、それはそうですが・・・」


 レヴィの言葉に補佐官の中でもレヴィの側付きとして配属されていた者が頷いた。この場のオペレーターや補佐官達は全員復讐とは無縁、もしくは復讐があったとしても即座に成し遂げられる程度の目にしか遭っていない。それは純然たる事実だ。


「・・・復讐鬼にとって一番効果的なのは、仇敵から無視される事だ。仇敵から歯牙にも掛けない相手と見られるのは何より辛い・・・戦士が命を賭けた戦場で敵に見過ごされるのと同等には、な」

「それは・・・そこまでなのですか?」

「ああ、そこまでだという話だ」


 レヴィは伝聞として、補佐官の言葉に頷いた。戦士が己の命を賭けた戦場で敵に見過ごされる屈辱は戦士の屈辱の中でも最大。戦士が命懸けの戦いに賭けるのは、己の命。己の命を賭けた戦いを無視されたのだ。それがどれほどの屈辱なのかは、戦士ではない常人には理解できない程だろう。

 それは軍人達ならどこかで理解している内容だった。それに匹敵すると言われては、少なくとも辛いという部分については納得せざるを得ない。


「だからこそ、奴は徹底的に無視するのだ。確実に己の手で縊り殺す為に、な。それは一切の助命の余地を残さぬ為でもある・・・飛空艇を撃破すれば生き延びる可能性が出る。であればこそだ」

「なっ・・・」


 ぞくり、とレヴィの言葉に補佐官達もオペレーター達も絶句する。激怒した復讐鬼がこの次に何を考えるのか、なぞ誰にだってわかる。そこまで考えた上での、カイトの戦術だった。

 これが、カイトという男の真髄だった。激怒しながらも、心のどこかが冷静かつ冷徹に考えている。決して頭に完全に血を上らせない。故に感情に流された致命的な失敗は滅多に起こさないのである。


「・・・バカな奴め。せいぜい、手のひらの上で踊らされておけ」


 レヴィは苛烈な攻撃を加えるデンゼル艦隊を見てほくそ笑む。彼らの内、何人がカイトの手に感づいているかはわからない。わからないが、デンゼルは止められないだろう。そうして、戦いは次の段階へと進む事になるのだった。




 レヴィの解説の通りデンゼル艦隊の攻撃を一切無視したカイトは再度、敵冒険者集団へと攻撃を仕掛ける。が、今度は敵もディガンマを除けば<<原初の魂(オリジン)>>を発動しているのだ。真っ向から向かい合った。


「ガンマ! てめぇは例の一撃で確実に仕留めろ!」

「わかってる! だが、あれ結構時間必要だ!」

「その時間はこっちで稼いでやる!」


 <<原初の魂(オリジン)>>の力で一足先に突撃した冒険者に対して、ディガンマはまだその場で留まっていた。流石に自己強化型の<<原初の魂(オリジン)>>を持つ冒険者が前線に出ている以上、如何に同じランクS冒険者だろうとよほど性能が高いか加護を全力で併用でもしない限りは基本スペックでは足手まといになる。出しゃばらないのは基本だった。


「5秒! 5秒稼げ! 後はこっちでやる! その間、こっちは双銃で援護する!」


 ディガンマは先んじた味方に対して、必要な時間を告げる。それが彼の持つ最大の一撃を準備するのに最低限必要な時間らしい。たった5秒。常人からすれば僅かな時間に思えるが、これは達人と呼ばれる彼らからすればかなり無茶な時間だった。


「まさか、自己強化型が二人同時に顕現するとはな」

「仕方がない。今回ばかりは、生きて帰れるかどうかが微妙な領域だ・・・足止めは俺に任せろ。そちらは確実に動けなくするチャンスを作ってくれ」

「わかった」


 自己強化型の<<原初の魂(オリジン)>>を持つ二人は己の能力に言及する事はなく、役割を決める。足止めを願い出たのは、先程カイトに土手っ腹に風穴を空けられたはずの冒険者だ。両者が己の能力を言及しなかったのは、せめてもの抵抗で暗黙の了解だった。

 そうして、二人は同時に地面を蹴った。とは言え、ここからは同時ではない。先に仕掛けたのは、カイトが風穴を空けていない方の冒険者だ。


「はぁ!」


 カイトはそんな冒険者と真正面から切り結ぶ。と、次の瞬間、カイトの身の動きだけが停止させられた。


「・・・なるほど」


 カイトは何が起きたか理解して、次の敵の手を理解する。敵は確かに、人は停止させられないのだろう。だが決して、衣服を停止させられないとは言っていない。そうして、目の前の男がにやりと笑った。


「食らえ!」


 男が笑うと同時に、その背後からカイトが風穴を空けた冒険者が跳び上がって襲いかかる。が、それに対して再びユリィが妨害に出た。


「無駄です」


 両者の間に巨大な氷塊が現れる。それは冒険者の行く手を阻害すると同時に、カイトと切り結んだ冒険者のこれ以上の行動を防ぐ為でもあった。が、それが見越せぬ敵でもなかった。その次の瞬間、跳び上がった冒険者の姿が消えた。


「貰った!」


 消えた冒険者が顕れたのは、カイトの真後ろだ。先程の転移術に似た力を使う冒険者の支援で勢いや力、体勢等をそのままにカイトを中心に対照となる様に転移してもらったのである。が、それを理解できないカイトではなかった。


「我がこの程度で無力化出来たと思うたか」

「っぅ!?」


 ぎろり、と背後を見たカイトの目がかっと見開かれて彼の総身から強大な威圧感が放出される。それはまさしく豪風となり背後から襲いかかった冒険者へと襲いかかり、その身を固めて吹き飛ばした。


「ちぃぃぃぃ!」


 背後から襲いかかった冒険者はその身に感じた得も言われぬ寒気を拭い去りながら、刃を地面に突き立てて減速する。その一方、連携が失敗した事を見たカイトの眼の前の冒険者が即座にその場を離脱する。一人で勝てる相手ではない事は理解しているらしい。


「ちぃ!」

「ふんっ!」


 カイトは気合一発、それだけで拘束を完全に振り解く。そうして、まさに魔王としか言い得ぬ威風を纏い、その場に再び佇む様に立つ。その横にユリィが降り立って跪いた。


「申し訳ありません、魔王さま。お手を煩わせました」

「構わん。手が足りぬ、本気になれぬのはわかった話だ。気に病むな」

「ありがとうございます。それと、お願いが」

「許可する。もう少し本気を出して構わん。が、まだ遊べ。上の男にはまだ足りぬ」

「御意」


 跪いたユリィはカイトの許しを得て、再び立ち上がる。そして即座に手を変える事にする。そうして生み出されたのは、二つの氷塊だ。敵が近接二人だというのなら、こちらも手を二つに増やすだけだった。


「・・・うわー・・・二つとか聞いてないな」


 次の行動の為に間合いを測っていたディガンマ達は、そんなユリィを見て顔を顰める。これでデンゼル艦隊の攻撃を全部無視――デンゼル艦隊だけで他はユリィが全て対処している――しているのだ。

 馬鹿げているとしか言いようがなかった。とは言え、嘆いている時間は無い。覚悟を決めて再び地面を蹴るのに時間はそう必要無かった。


「・・・」


 カイトは突撃してくる二人の冒険者達の内、先程胴体をぶっ刺さなかった方についてを考える。こちらがこの敵の中で唯一、詳細な力がわからない。ディガンマもわからない事はわからないが、攻撃系である事はわかっている。そして当人が時間が必要である事も明言した。であれば、超高火力の一撃必殺型である事は想像に難くはない。これならバレていても問題はない。超高火力の一撃はすなわち、攻撃力が高いだけだからだ。警戒はさせるだろうが、それだけだ。

 それに対してこの一人だけは、本当に情報が皆無だ。あえて使っていなかった所を見ると自己強化型の特殊な能力が付与されている<<原初の魂(オリジン)>>だろうとは思うが、それ故に想像が出来ない。故にカイトと言えどもあと一歩踏み込む事が出来なかった。


「魔王さま」

「構わん。必要な事である故、我がやろう」

「おぉおおおお!」


 再び、件の冒険者が一足先に攻撃を仕掛ける。それをユリィの援護の申し出を断ったカイトは高速化した思考の中で一度しっかりと観察してみる事にした。


(武装・・・両手剣。防具・・・軽鎧。身体スペックの上昇率・・・3倍程度と推測。平均値より僅かに低い。その分特殊能力に能力を割り振っていると見るべきか)


 カイトは敵の状態をしっかりと見極める。<<原初の魂(オリジン)>>による身体能力の向上はその時の状況や出力をどこまで出したいか、前世の力量等に左右されてしまうが平均的には5倍程度というのが自己強化型の基準点だ。これ以上になるとバランスが崩れてコストパフォーマンスが悪化してしまう。

 とは言え、それが上限ではない。これは前世が猛者である瞬がわかりやすい。<<鬼島津(おにしまづ)>>の身体能力の向上は<<雷炎武・禁(らいえんぶ・きん)>>を上回っていた。

 あれでコストパフォーマンスを考えた場合の最終的な決着点は大凡、平常時の10倍という所だろう。これは平均値よりも非常に高い上昇率だ。

 が、これは全ての力を己の強化に割り振った場合での出力だ。そして必要が無い程の性能でもある。それ故に瞬やカイトは特殊能力を付与しなくても良いだけだ。普通は、特殊能力を付与する。


(・・・周囲に特筆すべき敵の特殊能力の兆候は見受けられず)


 カイトは更に観察を続ける。別にこの程度の敵ならば<<滅魔の王(ラスティリア)>>は負けない。この程度の相手なぞ鎧袖一触で切り飛ばしてきた。

 この程度の上昇率では鳶が鷹になった程度にしか思えない。せめてジェット機程度になってくれねば、脅かす事は無理だ。が、何をしてくるかわからない以上、油断は出来ない。


(特殊能力は自己に影響させる物と推測・・・目算3倍で試行)


 カイトは敵の特殊能力がどういう性質の物かを見極める為、確実に敵が避けきれない速度で斬撃を放つ事にする。それは敵の速度の3倍という超速であり、しかし目視が不可能ではない速度の迎撃だった。


「っ!?」


 あまりの速度に敵が思わず空中で目を見開いたのを、カイトは見る。当たり前だろう。自分より遥かに後出しにも関わらず、自分より遥かに速い攻撃だ。威力こそ込められていないものの、回避も防御も不可能に思えた。

 力を込めていないのは、敢えての事だ。この特殊能力が身の守りを強化する為のものか、それとも傷を癒やしたりする回復を兼ね備えた力か。はたまた、敵から受けたダメージを呪い返しの様にやり返すカウンターか。カイトはそこらを見極めるつもりだった。下手にカウンターだったりしてまかり間違って一撃で殺せなかった場合が厄介だと判断したのである。


「ちぃ!」


 不可避。空中の冒険者はそれを理解して、更には転移を行える冒険者の支援も間に合わない事を悟る。完全に後出しでの超速でのカウンターだ。幾らなんでも間に合うはずがなかった。が、それに彼は強引に攻撃を停止させた上で一気に加速して、着地して回避を成功させる。


(・・・なるほど)


 カイトは今の一連の動きをしっかりと見ていた。そしてそうである以上、答えを見抜いていた。


「自己強化型の瞬間強化か。目測で最大10倍近くに加速していたと見える」

「ちっ・・・」


 カイトが呟いた言葉を聞いて、回避を成功させた冒険者の顔が歪んだ。原理は語られていないので不明だが、起きた事は非常に単純明快だ。彼の動作全てが超加速したのである。

 とは言え、それは動きが加速しただけだ。攻撃力が上昇した様子は無かった。敢えて攻撃力には割かず、速度に極振りしたのだろう。器用貧乏になるより、遥かに正しい判断と言える。

 が、同時にそれだけではなかった。彼の落下スピードも加速していた。そこから、カイトはこの相手の<<原初の魂(オリジン)>>の本質を見抜いた。


「・・・己に掛けられる時間の高速化を兼ね備えた瞬間強化。思考速度の高速化、動作の高速化、重力等の影響の加速なども可能か。時間の加速は任意、だろうな」

「・・・貴様・・・」


 自分の秘策を完璧に言い当てられて、冒険者の顔がカイトを射殺さんばかりに歪む。どうやら、正解だったらしい。そしてそれがわかれば、別に気にする必要もない相手だった。怖いのは呪い返しに近いカウンター攻撃。加速程度で恐れるわけがなかった。

 敵の速度が瞬間的に10倍に上昇するのであれば、それを頭に含めて戦うだけだ。それにこれが出力全てが10倍ならまだしも、速度だけが上昇した所でどうにかなる自分でもない。


「・・・ユリシア。貴様で十分どうにかなろう。あれは、軽い。取るに足らん」

「御意」

「っ・・・それはこれを見てから言いやがれ!」


 自分の秘策をこの程度と言われ激昂した冒険者が、一気に超速で加速する。どうやら怒った事でディガンマの事も無視して本気で殺しにかかる事にしたようだ。

 流石にこれは熟練だろうと激怒する事だったらしい。まぁ、カイトもわかってやっている。敵の足並みを乱させる為だ。そうして起きたのは、瞬間的な加速の繰り返しによる斬撃の包囲網だった。


「「「はぁああああ!」」」


 急加速と急停止の繰り返しによる残像で無数に分裂した様に見える冒険者が四方八方で雄叫びを上げる。彼は停止の度に斬撃を置いては超加速で消えて、カイト達に向けて次の斬撃を放つ動作を繰り返していた。どうやら、流石に本体から離れた斬撃そのものが高速化する事はないらしい。

 らしいが、だからこそのこの攻撃だ。彼の移動速度の方が速いのであれば、敵に着弾するまでの間に次の斬撃を放つ事が出来るのだ。そしてそれを繰り返せば、あっという間に斬撃の包囲網が出来上がるのである。


「・・・無意味な」


 それら斬撃を、ユリィが二つの氷塊で振り払う。速度が速かろうと彼女に応対出来ぬ速度ではない。が、それそのものが囮も兼ね備えていた事に彼女は気付いていた。


「魔王さま。敵が来ます。不甲斐ないですが、今の私では」

「承知した」


 斬撃をユリィに一任していたカイトは、敵の支援の手については自らで振り払う事にする。そうして飛来してきたのはディガンマの魔弾だ。それを、カイトは全て両手剣サイズにした大剣で切り払っていく。


「それを、待っていたぞ!」

「何!?」


 カイトの切り払いの行動を見ていた土手っ腹に風穴を空けた冒険者が行った行動に、カイトが思わず驚愕を浮かべる。彼は自ら、カイトの刃に突っ込んできたのだ。そうして、彼は再び自分の土手っ腹にカイトの大剣を突っ込んだ。


「何を!」

「今だ、やれ!」


 何を考えているのだ。そう問いかけようとしたカイトを無視して、大剣の突き刺さった冒険者が大声を上げる。それはカイトへではなく、遥か後方で双剣を柄の部分で連結させ双刃にしてクルクルと回転させていたディガンマへ向けた言葉だった。


「死ぬなよ! <<回天轟天弾(サイクロン・マグナム)>>!」


 ディガンマの言葉に、カイトの目の前で大剣を腹にぶっ刺した男が血を吐きながら獰猛に牙を剥いた。そして、その次の瞬間。たった5秒の間に数千回の回転を加えられ、強烈な力を蓄えられて恒星の様に光り輝くディガンマの剣がアンダースローの要領で串刺しにされた味方をも巻き込む勢いで、カイトへ向けて投じられるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1035話『化物達の戦い』

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