第1029話 受け継ぎし力
昨日のいつもの時間に活動報告を投稿しております。断章の投稿時期に関する事等も述べておりますので、興味のある方は一度御覧ください。
パルデシア砦攻略作戦の終了後。死者の慰撫の為に創り出した蒼き龍の力を行使している間に、カイトと瞬はふとしたきっかけから<<原初の魂>>についての会話に移っていた。
「さて<<原初の魂>>の使い方はさっき話した通り己の内側に問いかける事。それに尽きる。基本的に<<原初の魂>>とは過去の己が今の己を認めて力を貸してくれるやり方だ。それ故、ひいては先輩の努力やらを島津豊久が認めてくれたと言える」
「そうか・・・それはなんというか嬉しいな」
瞬はカイトの解説に素直に喜びを浮かべる。なんであれ、そして誰であれ頑張りが認められるのは嬉しい事だった。
「あはは、そうだな。だから、これは然るに先輩その人の力と見做して良い。だから、堂々と手に入れられた事を喜べば良いさ」
「わかった。で、気になったんだが・・・これはどんな力があるんだ?」
「さぁ? 流石にそれはオレもわからん。それはその人次第。と言うか、この姿を見ても分かるだろう?」
瞬の問いかけにカイトは首を振る。それはあまりに当たり前の話だ。カイトに聞いた所で分かりっこない。なにせカイトは瞬でも『島津豊久』でもないからだ。
「まぁ、兎にも角にも。まずは力の性質を知る事と名前考えるのが重要かな」
「名前?」
「口決だよ。口決がなければ使いにくい。逐一発動の為に申し出るのも無駄・・・と言うより、面倒になってくる。勿論、わざわざ口にする必要は無いけどな。思い浮かべる為にも、必要は必要だ」
「面倒になってくる?」
カイトの解説に瞬は首を傾げる。逐一己の前世に願い出るのは変わらない。変わらないのであれば、何が面倒なのかわからないのだ。が、これはある一つの事を考えれば分かることだった。
「一度に目覚める前世は一人だけじゃない事もある。となると咄嗟に誰に申し出るのか、を考えるのにも名前を付けておく方が楽なんだよ。名前に関連付けて力を覚えておく。基本的だが、咄嗟には良いだろう?」
「それは確かにな」
カイトの言葉を聞いて、瞬はそれは確かに道理だろう、と頷いた。逐一誰がどんな力だろうか、と思い出す必要がなくなる。一括管理がし易いのだ。
「となると、力か・・・」
瞬は改めて己の姿を見る。着崩した着物のカイトとは違い己は完全武装の鎧武者だ。
『あ、ちなみに。俺はわからんぞ』
「おい!」
豊久の言葉に瞬が思わずツッコミを入れる。これにカイトもユリィも微笑ましく思うだけだ。過去の己が今の己の性格をしているわけではない。それは目覚めさせた者からすれば、分かりきった事だからだ。
「はぁ・・・わからない場合はどうすれば良いんだ?」
「とりあえず考えろ・・・と言いたい所だが、流石にその姿だ。大方、戦闘向きではあるだろうな」
「それは・・・多分そうだろうな」
「であれば、おそらく自己強化の系統だろうな。<<原初の魂>>で基本的に多いのは自己を強化する物だ・・・ああ、そうだ。そう言えばその系統を話していなかったな」
カイトは瞬への説明を行っている中で<<原初の魂>>に系統がある事を説明していない事を思い出した。そうして、ユリィと共に解説を開始した。
「<<原初の魂>>には魔術と同じく系統があるの。それは大別すると四つになるね」
「一つは、これの属する補助系だな。他人に特殊能力を付与する事に長けている。逆に敵の動きを妨害したり、というのが得意な力もある。この場合は敵に何らかの力を付与している、と見做して良いかもな」
カイトは己の姿を指し示す。カイトはこの力を使ってメルとシアの二人に一度限りとなる身代わりの力を譲渡した。それは補佐系と考えて確かに良いだろう。勿論、長けているというだけなのでそれ以外も可能だし、カイトは更に改良を重ねて攻撃も可能な様にしてみせた。
「そして次。んっ!」
ユリィが少し気合を入れる。すると、彼女の髪色が殆ど白色に近い水色に変わる。それはかつてカイトに仕えた魔族の女性の力だった。
「この私は防御系。超強力な防御能力を持っているよ・・・そしてこの状態になると、私の得意属性がちょっと変更されて氷になるね」
「ほら、先輩も刀を創り出せる様になっただろう? それと同じで、過去世に応じて別の系統の力が覚醒する事がある。そこらは使い慣れていかないとダメだ。だから、当分はその姿にはならない方が良いな。幸い日本の戦国時代だと槍も刀も使うだろうから、槍は使えるだろうけどな。が、唐突に己の領分でない事を思いついたりして混乱して怪我しました、は洒落にならんからな」
「それは・・・確かにな。刀にどうしても意識が行っている様子だ」
瞬は己が今戦おうとして、脳裏に刀が自然と選択肢に入っている事に気付く。というよりも、自然と刀に手が伸びると言えば良いだろう。外そうとしても、無いと落ち着かない。そんな感じだった。とは言え、やはり瞬その人の戦闘スタイルとしては槍一筋だ。刀を使う戦闘は違和感が拭えない。
使いたくないという事ではないのだが、何故か自分ではない自分が考えている様で違和感があるそうだ。そこらを慣らしていく必要があるだろう。そして刀も使える様に修練も必要だ。
「ああ。オレもこのスタイルの場合は基本的に火器大好きで使いたがるし、ついでにいうと戦略面での思考も強化される・・・まぁ、そこらは<<原初の魂>>全てに言える事だ。追々、慣れていくしかない」
「わかった・・・すまない。腰を折ったな」
「いや、その為の説明だ。それでいいさ・・・さて、じゃあその上で次。これは丁度良いからオレがやるか」
カイトはそう言うと、立ち上がって今度は織田信長からまた別の姿に変わる。それは漆黒の刺々しい重厚な鎧を身にまとった姿だった。背には巨大な大剣。その姿はあまりに禍々しい。が、それにユリィがうやうやしく跪いた。
「魔王様・・・なんてね」
「これはまた別の姿・・・と言っても地球の者ではないな。まぁ、そこは置いておこうか。今更だしな」
カイトはそう言うと座ろうとして鎧が邪魔で座れない事に気付く。というわけで、大剣を地面にぶっさしてその上に片足を抱きかかえる様に座る事にする。それがまた、似合っている。敢えて言えば、どこかの魔王が戦いの後に一休みしている姿。そんな禍々しくも神々しい印象を受けた。
「これは先輩と同じ自己強化。それも攻撃能力超特化だな。それ以外にも何らかの特殊能力を付与した特殊強化型というのも居る」
「その為に、私が居るんだけどね。攻撃力特化のカイトに、防御特化の私。それで一つの組み合わせなわけ」
「そこに遊撃にヴィヴィが居て、魔術でモルが・・・って、それはどうでも良いな」
ユリィの補足説明にカイトが笑って更に補足しようとして、笑って首を振る。と、そこで気になる事があった。
「ん? 知り合いなのか?」
「ああ。まぁ、詳しい議論は省くが、オレとユリィはこの時も一緒だった。正確には、オレ達という話だが・・・と、それは置いておいて。基本的にこういう風に自分を強化するのが、自己強化。大陸間会議の時に見たバーンタイン・バーンシュタットも多分これだな」
「あ・・・そう言えばそんな風にバーンタインさんも言っていたな」
瞬はバーンタインとの会話でそういうことを言っていた事を思い出す。自分は燃えるような一生を送った男で、それになぞらえて己を強化しているのだ、と。
「そうか・・・まぁ、その様子ならピュリさんとオーグダインの二人の力も見ていたな?」
「ああ。オーグダインさんの物は近くで見せてもらった」
「あの二人の物が、攻撃系。どういう因果を辿ったかは知らんけどな」
カイトは攻撃系を使うわけにはいかない事もあり、瞬が見ていただろう人物の名前を挙げる。そして案の定見ていた為、これで良しとしておく。
「これら攻撃系・防御系・補助系・自己強化系。これが<<原初の魂>>の四系統だ。どれも一筋縄では行かん力だな」
カイトは黒々とした鎧姿のまま、大剣を叩く。どうやら、これも一筋縄では行かないのだろう。
「それ故、ランクSの冒険者を相手にした場合に一番気をつけるべき事は<<原初の魂>>の開放が行われた後。馬鹿げた戦闘力かつ摩訶不思議な力を持つ相手にどうやって立ち回るか、が肝要になる」
「ということは・・・俺のこれにも他の力が目覚めている可能性はあるのか?」
「そうなるな・・・と、言いたい所だが、額の右側、触ってみ?」
「ん?」
カイトの指摘を受けて、瞬は改めて己の額に手を当ててみる。するとそこには、硬いものが生えていた。
「なんだ、これは!? 抜けないぞ!? 角か!?」
瞬は手に取ったそれを引っ張ってみて抜けない事に気付いた。それはまるで、鬼の角。長さはそこまででもないが、非常に禍々しい印象があった。ちなみに、瞬からは見えないが色は赤色で血が凝固した様な形だ。
「<<鬼島津>>・・・鬼の血を引く鬼武者の一族。それが、島津家の真実だ」
『おお、そう言えば言っておらんか。本気になれば角は生える事はないが、それ故、島津の武者は頑強かつ力が強い』
「そうなのか・・・ということは、これはその顕れか?」
『知らん。そこの織田ん総大将に聞け』
豊久は説明をカイトへと丸投げする。それを受けて、瞬がカイトへと思った疑問を問いかける。
「これは島津の力というわけなのか?」
「んー・・・というよりも、先輩の場合は自分の身体と島津の魂が共鳴した結果、と考えて良さそうだな」
「どういうことだ?」
「先輩の血には鬼の血・・・酒呑童子の血統が流れている。それは鬼の血としては温羅に次ぐ血統だ」
「温羅?」
「温羅・・・桃太郎に語られる鬼ヶ島の鬼のモチーフになった日本最古の鬼、いや、鬼神だな。知名度としては酒呑童子に劣るが、戦闘能力としては勝らずとも劣らずと言えるだろうな。いや、酒呑童子は死んでるからわからんけどな」
カイトは笑いながら、己が例に上げた鬼の名前を解説する。ここらは、日本の異族社会を治める彼の領分だった。
「酒呑童子にも匹敵するのか・・・」
「伝説の鬼神だからな。戦闘狂の酒呑童子とどっこいどっこいの戦闘力だろうさ・・・その酒呑童子の血を引いているんだ。相当強い血を引いていると見て良い。そこと共鳴した結果、因子が一気に覚醒して角が生えた、と言う所だろう」
「なるほどな・・・何か違和感が拭えんが・・・気にしたら負けなのだろうな」
「それはそうだろうな。まぁ、そこは諦めておけ」
瞬は角については素直に諦める。そもそも彼が鬼の血を引いている事は常々公言している。そして島津家が鬼の血を引いている事もカイトから聞いて知っている。であれば、別に気にする必要もなかった。
「ということは・・・今のところ分かりそうなのは鬼の力とこの刀か」
「そうだな。とりあえずわかっているのは鬼の力だろう・・・多分、そっちがかなり強い。素の力がかなり格上げされているはずだ。とことん超火力特化の攻撃型自己強化系という所かな。その方向で伸ばすのが一番良いだろう」
「ふむ・・・」
瞬は己の姿を見ながら、手を握りしめてみる。感じる反動には変化はないが、どことなく力が増している感覚はあった。感覚的ではあったが、これが鬼の力というわけなのだろう。
なお、この時瞬は気付かなかったが今の彼の身体は副次的な効果として身体の治癒能力の活性化とずば抜けた頑強さを得ていた。それ故、死神との戦いにおいて腹に斬撃を受けても打撃を受けた様な痣だけで済んだというわけであった。と、そんな瞬は改めて口を開いた。
「まぁ、名前ならもう決まっている」
「そうなのか?」
「<<鬼島津>>・・・そのままだが、わかりやすいだろう?」
「なるほど。そりゃそうだ。鬼島津の一人の前世を持つが故に、か。それで良いんじゃないか?」
カイトは瞬のネーミングを認める。鬼島津といえばただ島津義久を指し示すが、そう呼ばれる事になった朝鮮出兵には島津豊久も出兵している。そして実は地球の裏社会では、鬼島津と言えば島津一族を指す言葉となっていた。彼らが鬼の血を引く一族だからだ。その名にあやかって名付けたとしても不思議はないだろう。そして今の彼の事を考えれば、良いネーミングだった。
「良し・・・じゃあ、当分はこれを使いこなす訓練をしてみる」
「そうしろ・・・とは言え、戦後にしとけよ。流石に今やったら死ぬぞ」
「そうしよう」
カイトのアドバイスに瞬は頷いた。流石にこれを一日二日で使いこなせるとは彼も思っていない。そもそもこうやって戦わないからここまで長々と使えるのであって、<<原初の魂>>とは<<雷炎武>>をも遥かに上回る魔力を消費するのだ。そしてあの巨大なバックアップがあればこそ出来た事だ。本来なら、使えて数分だろう。と、そんな話をしている間に蒼き龍が帰って来た。
「っと、帰って来たな」
「終わったか・・・では、私は作業が終わった事を伝えてこよう。ここはそのままにしておいてくれ、だそうだ。兵たちの弔問に使いたいそうだ。ついでに、良い作戦も思いついたのでな。それを軍本部と協議してこよう」
「そうか。なら、後は任せる」
カイトはレヴィに後を任せると、その場を後にする事にする。ここに己が居るのはあまりよろしくないだろうという判断だ。そうして、カイトと瞬は連れ立って、再び部屋へと戻る事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。次回から新章、そしてラエリア編第二部最終章です。
次回予告:第1030話『再侵攻』




