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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第54章 パルデシア砦攻略戦

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第1028話 大休止

 パルデシア砦攻略戦。後世にてそう名付けられる事になる要塞攻略戦は砦攻めであるにも関わらず、たったの一日で終了することとなる。しかもレヴィによる強引な攻略法によって当初の予定と異なって砦そのものへのダメージはかなり限られていた上、戦闘時間が短縮された事により様々な良い影響が生まれていた。


「被害状況を報せ」

「はい。被害状況は想定の5割に抑えられています。こちら陣営は超弩級戦艦の損耗率が特に低く、敵艦を一隻鹵獲出来たのも幸いでした」

「敵の遠距離攻撃をこちらの冒険者が相殺してくれたことが一番の要因かと」

「そうか・・・やはり奴らが戦った事が助かったか」


 オペレーター達の報告を聞いて、レヴィが深く椅子に腰掛ける。こちらの被害を一番抑えられる要因となったのは、やはりカイト達超級と言われる奴らの存在だった。

 特にカイト、フロド・ソレイユ兄妹の存在が大きい。彼ら三人が単独で敵のランクS冒険者の中でも遠距離からこちらの戦艦を落としてくる奴らを食い止めてくれたお陰で、冒険者による艦隊への直接打撃を防げた事が何よりもの要因だった。至近距離からはカイトが、遠距離からは兄妹が対応したお陰で、敵はどの距離からも攻撃が難しかったのだ。そして、それだけではない。電撃戦を決められた事も大きかった。


「はい、それに戦闘そのものが予想に反して一日で終了した事も大きいです。まぁ、それ故、敵艦艇の被害もそれ相応に抑えられる事になってしまいましたが・・・」

「士気が下がるより随分マシだ。勝てると思って戦はするものだ。特に今回、我々は戦略面で負けている。勢いに乗らねばならない」

「・・・そういう意味で言えば、この一戦は非常に意義のある勝利だったかと」

「そうだな・・・」


 レヴィはため息と共に、大雑把な見積もりとして上がっている敵の被害報告を閲覧する。


「ふむ・・・超弩級戦艦の轟沈8隻、砦内部へ中破、その後『ラクシア』へ撤退したのが2隻・・・一隻は大破、航行不能により砦内部にて放置か・・・最後で砦上部に展開した6隻の内4隻はほぼ無傷か。殿を務めた2隻も小破、ほぼ無傷に等しいという所・・・」


 レヴィは頭を抱えたくなる気持ちを抑える。特に超弩級戦艦6隻がほぼ無傷で撤退した、というのは有難くない。欲を言えば大破、出来れば中破。撤退にしてもそれが望ましい所だ。


「敵の超弩級戦艦の残数は・・・情報が正しければ20隻。こちらの轟沈した数と差し引きして、わずかに向こうが有利か・・・」


 南部軍側の保有する超弩級戦艦の数は元々多かった。大大老達が何処かに秘匿していたらしい戦力までかき集められてしまった為、総数では北部軍が動員出来る数を上回っていたのである。

 とは言え、この戦いの初手とユリィらの活躍によって総計6隻を轟沈させられたのは良かった。そこらを差し引きした結果、その面での差は無くなったのである。

 が、差は無くなっただけだ。つまり、戦力的には五分と五分。この点では、レヴィの想定を外れていた。彼女の想定ではこちらが僅かに上回れるつもりだったのであった。


「ふむ・・・面倒な話になってきたな・・・」


 兵力的には、五分と五分。が、敵にはこちらの数を倍近く上回るランクS冒険者が控えている。ここも侮れない。戦力的には、相手がまだ上だ。勝つためには、戦術が必要となる。そうして少し考えるか、と目を閉じようとした時、伝令が入った。


「預言者様、シャリク陛下がお呼びです。『パルデシア砦』内部にて我が軍に合流した密偵が例の情報を持ち帰った、との事です」

「ああ、あれか・・・そう言えば、瞬のお手柄だったな。当人は勲章物だとわかってはいないだろうがな。わかった。手はずを整え次第すぐに向かうと伝えてくれ」

「かしこまりました」


 伝令を受け取ったオペレーターはレヴィの言葉に頷いて、それを旗艦へと伝達する。レヴィは引き継ぎを終えれば向かうつもりだ。そうして、彼女は次の戦いの為に動き出すのだった。




 その一方のカイト達はというと、怪我の治療を受けながらシャリクからの指示により軍の行軍を一時停止する事となっていた。


「では、お伝えいたしました」

「わかりました。では、所定の場所をお借りします」

「お願いします。もし他に何かあられましたら、軍の者へ連絡を」

「はい」


 カイトは軍の連絡員からの連絡を受諾する。たった今、これからの予定を告げられたのだ。一応軍事行動なので適時変更はあり得るが、それでも大まかな活動の予定は決まっている。それに基づいた伝達だった。


「なんだって?」

「三日、ここで停止。艦隊の応急処置を施す。四日後の朝に進軍開始、五日目にラクシア攻略戦を開始する、だそうだ」


 左手を包帯で巻いたソラの問いかけを受けたカイトが全員へ情報を伝達する。これで、明日からはしばらく体力と気力の回復に努める事が出来る。

 三日も必要なのはいくら魔術を使っても補給や飛空艇の応急処置、冒険者達の怪我の治療にどうしてもそれだけは必要だからだ。これは敵軍も一緒だ。


「とりあえず全員生還おめでとう、という所か・・・ソラ、左腕は?」

「医者はラクシア攻略戦には間に合わせる、だってよ」


 ソラは固定された左腕を振りながら苦笑気味に笑う。まぁ、ランクBの冒険者だ。戦力的には劣勢な北部軍からしてみれば、どれだけ手をつくしてでも復帰してもらいたいだろう。


「そうか・・・一応、砦の中の一角を冒険者達用に開放してくれている。寝る時とかはそっちを使ってくれって」

「砦の中?」

「ああ。元々砦には宿舎とかはあるからな。そこを使ってくれって」


 カイトは一同に明言して、彼らに与えられたエリアを全員に教えておく。というわけで、傷の手当ても終わった事もあっていつまでもけが人でごった返す野戦病院の中に居るわけにも、となり一同は与えられたエリアへと向かう事にする。


「はぁ・・・悪いな、元の持ち主さん。何処かで生きている事は、望んでおくよ」


 カイトは昨夜まで誰かが寝ていただろう二段ベッドの縁に腰掛ける。そうして思うのは、たった一つだ。


「ラクシア攻略戦・・・おそらく、今以上の激戦になるだろうな・・・」


 カイトは窓からはるか南の空を見上げる。外は夜の帳が下りており、死した者達の姿を隠していた。そうして僅かに瞳に宿る怨嗟の炎を鎮める。

 わかっていたが、この戦場には貴族達はほとんど参戦していた形跡はなかった。ここは前哨戦に近い。貴族達が来る道理はない。必然としてデンゼルも参戦していなかったことになる。

 まだ今は、この怨嗟の炎は宥めておかねばならなかった。そして鎮めたのなら、次はやるべきことをやらねばならなかった。


「一条先輩、ちょっと外出てきます」

「ん? どうした?」

「ちょっと、ですよ。なんなら来ますか? あまり良い物ではないですけどね」

「ふむ・・・まぁ、単独行動はするべきではないか。わかった。綾人、ソラ、悪いが少し任せる」


 カイトの言葉を受けた瞬は二段ベッドの上から飛び降りて、同時に綾崎へと後を頼んでおく。別に何か急場で起きる見込みは無いので、本当に誰か伝令が来た場合に備えただけだ。


「で、なぜ外に?」

「死者、何とかしてやらないと駄目でしょ・・・ああ、もう来ていたか」


 カイトと瞬が外に出ると、そこにはユリィとフードを目深に被ったレヴィの姿があった。


「お前は・・・」

「貴様らが預言者と呼ぶ者だ。前に会ったのを覚えていないか?」

「ああ、あの時の・・・失礼しました」


 レヴィの問いかけに瞬はそう言えばユニオンからの尋問を受けた時に奇妙な人が居るな、と思った事を思い出す。ここら幸い瞬であったが故に良かった。彼以外は桜を除けば彼女を見たことはないからだ。


「それで、なぜここに?」

「死者の魂を慰めに行くだけだ・・・誰かが、やってやらねばならない。このままでは抱えきれぬ想いを抱いたまま、この場にとどまり良くない念を生み出す事になる。シャリクからの許可は得ておいた。しっかりと頼むと言っていた」

「付いて来てよかったのか、そんなのに」


 レヴィから言われた内容に、瞬が驚いてカイトへと問いかける。が、これにカイトは笑った。


「ああ、構わないさ。別に見られて困るもんじゃあないしな」


 カイトは改めて明言する。死者の慰撫というが、カイトからすれば単なる義務や責務に近い。別に好き好んでやっているわけではない。

 そうして、カイト達は広大な敷地に打ち捨てられ、夜通し回収される遺体が並ぶ戦場跡へと戻ってくる。そこで現場を管理していた軍の指揮官にシャリクの勅令である事を伝えて、作業場の一角を空けてもらう。


「良し。しっかり周囲を封鎖出来たよ」

「・・・さて・・・やるか」

「ああ」


 一角を見えない様に覆われた後。ユリィが確認したのを受けてカイトとレヴィが頷き合い、力を溜め始める。それは何処か神々しささえ伴い、見る者全て――と言っても慣れているユリィを除けば瞬しか居ないが――を圧倒していた。


「っ・・・」


 そして圧倒されたのは、瞬も変わらない。そうして、彼は二人の間に浮かび上がる蒼き龍を見た。


「これ、は・・・」

「あの世とこの世の境界線を守る龍・・・最後の古龍(エルダー・ドラゴン)だよ。と言っても単なる本人の幻影だけどね」

「これが?」


 瞬はユリィの言葉を聞きながら実体を持たない蒼き龍を見る。その姿は、偉大かつ誰よりも威厳のある巨龍。もしこれが実体を持っていれば、この大きさでさえおそらくどの古龍(エルダー・ドラゴン)達よりも明らかに威厳を持ち合わせていた。が、それは何処か人間味がなかった。

 例えるのなら、肉の器。魂の無い人形。威厳と確たる意思を持ち合わせているにも関わらず、人間味が感じられなかった。そうして、蒼き龍が吼える。しかし、誰にも声は聞こえない。が、聞こえていた者は一人だけ居た。


『うるさい! 何があった、いきなり・・・』

「うわぁ!?」


 瞬が脳裏に響いた声にびっくり仰天と目を見開く。それに今度はユリィが驚いた。


「へ!? 何何!?」

「い、いや・・・すまない。え、えーっと・・・豊久さん、だったか?」

『豊久で構わん。なんだ、いきなり・・・うるさくてかなわん』

「うるさい?」


 瞬は内部から響く豊久の声に首を傾げる。何か声が聞こえたという事はない。が、彼は死者。死者故に聞こえる声があった。と、それを思い出して、カイトがようやく状況を飲み込んだ。


「あ・・・そうか。それで、織田の総大将なのか・・・完全にスルーしてたが、そう言えば可怪しいよな。先輩、前世の誰かが目覚めているな? 歴史としては戦国時代も末期。オレを織田の総大将と言う事から、オレの関係者ではない」

「ああ。島津豊久と言うらしい」

「鬼島津の一人、若武者豊久か・・・」


 カイトは龍の背をとん、と叩いて送り出す。後は彼に任せれば、どうにかなるらしい。というよりもカイトの権能ではない。大精霊達の権能でもない。

 それを考えればカイトがやることといえば彼を呼び出すだけ、故に瞬に見られても困る事はない、という事だったのだろう。というわけで、カイトは龍が作業を終えるまでの時間を使って、前世の説明を行う事にした。


「そうだな。せっかくだから前世の力について解説しておくか・・・まぁ、織田の総大将と言ったぐらいだ。オレの前世については、理解出来るな?」

「織田の総大将・・・織田信長か?」

「そうだ」


 カイトはそう言うと、己の前世である織田信長を目覚めさせる。すると、彼の姿が唐突に着崩した着物へと変わった。


「これが、オレの前世となる織田信長を目覚めさせた姿だな。本来は意識を引っ張られる事はないが、さっきの戦いではどうやら意識も入れ替えたらしいな」

「ああ・・・俺では勝てないだろうから、と言われて入れ替わってもらった」

「正解だな。あのままやっても勝てる道理はなかった。さすが歴戦の猛者という所か」


 着物姿のままのカイトは豊久の判断を正解と認める。カイトの見立てでもあのまま戦って死神グリムとの戦いは勝ち目がなかった。例えスペックが追いついたとしても経験値があまりにも違いすぎる。それがひと目で理解出来ていた。そしてそれは、瞬からも理解出来ていた。


「何か少し悲しくはあるが・・・それが道理か」

「そりゃそうだろ。相手は歴戦の古強者。それに届かせられただけ、十分良かったのさ」

「そう思おう」


 カイトのアドバイスを瞬も受け入れる。負けた事は素直に悔しいし、無念ではある。が、かつてソラにアドバイスした様に道理である事もわかっていた。


「さて・・・その上で、<<原初の魂(オリジン)>>の話に移るか。と言っても目を覚ました以上、何か難しい話じゃない。ただ単に力を貸してくれ、と願い出るだけだ。基本的にオレの前世の場合は楽しければ、やりたい様にやるのならそれで良いや、って感じでオールフリーで貸してくれるが、そっちはその人に聞いてくれ。流石にオレはわからん。まぁ、やり方としては己の内側に意識を集中して、と言う感じか。追々、慣れていけば戦闘中に一気に発動する事も出来る・・・が、やはり誰もそんな事はやらないな。大抵は一度距離を取って準備して、と言う感じだ」

「そうなのか・・・」


 瞬はそう言うと、己の内側に沈み込む。この動作が必要な時点で例え距離をとってもまだまだ使いこなす事は不可能だが、それでも出来る様になった事は大きかった。


『聞こえているか?』

『・・・なんだ?』

『今、表に出て力を貸してくれる事は出来ないか?』

『ふむん・・・織田ん総大将の前か。まぁ、良か』


 豊久はそう言うと、瞬へと力を貸し与える。彼としてはこれからも状況に応じて力を貸す事は吝かではない。なら、ここで解説を受けておく事はひいては彼にとっても利益となるのであった。実のところ彼とて出来ると本能的に理解していたのでやってみただけで、詳しいやり方はわかっていなかった。


「っ・・・これは・・・」


 瞬は改めて、変貌を遂げた己の姿を確認する。血のように赤い真紅の武者鎧を身に纏い、腰には刀があった。と、そうして己の力が少し変貌を遂げていた事を理解する。


「ん・・・?」

「どうした?」

「いや・・・なんとなく、なんだが・・・っ」


 瞬は何時も槍を創り出す要領で手に力を込める。すると、何時もの要領で刀が生まれていた。刀が作り出せそうだ、と思ったようだ。更には豊久の経験があるからか、直感にはなるが刀で戦う方法も分かるようになっていた。


「やっぱりか・・・ふっ! はっ!」

「ほう・・・刀か。前世でよほどの修羅場を経験した・・・よな、島津豊久だと。関ヶ原に唐入りに、だからなぁ。とは言え、流石に技量から種子島は無理だった、というわけか」

「だと思う」


 カイトの推測を瞬も認める。ここらは直感でなんとなく、という所だそうだ。豊久の方もしっかりと己の力を理解しているわけではないらしい。


「さて・・・じゃあ、奇しくもお互い同じ姿になった事だし、ちょいとそこらのお話も含めて<<原初の魂(オリジン)>>の話に移る事にしようか」


 カイトは改めて椅子を生み出して、そのままそこに腰掛ける。そうして更に瞬の分の椅子も創り出して、<<原初の魂(オリジン)>>についての話に入る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。ようやくここから本格的にオリジンを使った戦いが出始めます。

 次回予告:第1029話『受け継ぎし力』

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