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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第54章 パルデシア砦攻略戦

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第1023話 パルデシア砦攻略戦 ――禁じ手――

 時はかなり、遡る。それは大陸間会議が始まる少し前、まだカイト達がレインガルドへと入るよりも前の事だ。そんな慌ただしいある日の事、実は密かに地球からの来訪者があった。と言っても当たり前の話だが、これは真っ当な者達ではない。出来るだけの技量があり、そして出来るだけの力を持つ者達だ。

 所謂、英雄と呼ばれる者達だ。名前は誰もが何処かで聞いた事のあるだろう名だ。例えば、アーサー王伝説に記されるアルトリウス・ペンドラゴン。例えば、インド神話のマハーバーラタに記されるアルジュナ。そんな地球ならば――地域性こそあれど――誰もが知るだろう英雄達だ。

 そんな中に、どういう因果か瞬の精神面と槍のお師匠様が混じっていた。その名は、赤枝 風李(あかえだ ふうり)。本当の名を、クー・フーリン。日本に滞在している間、金稼ぎの目的で行っていた陸上のコーチングをしている時に、瞬は彼に出会ったのだ。

 クー・フーリンはケルト神話に名立たる大英雄の名だ。その出身地であるアイルランドでは対立する政治主義の陣営が両方その名を象徴として用いるほどの大英雄で、銅像もあるほどの人物だった。


「というわけで、これが<<雷>>と<<炎>>のルーンだ」


 そんなクー・フーリンが瞬へと教えたのは、彼が彼の師でありカイトの師でもある女傑にして有数の魔術師であるスカサハより教えられたルーン文字を使った魔術だった。


「これが・・・」


 瞬はクー・フーリンが浮かべたたった二文字のルーンを真剣な瞳で記憶する。片方は、雷の迸る<<雷>>のルーン。もう片方は、炎が燃え盛る<<炎>>のルーン。この二文字だ。


「これを、身体に貼っつけてみろ。ルーン文字は文字。書き記す事で効果を発揮する・・・ここだけの話、弟子だから話す事だぞ?」


 クー・フーリンは少しだけ男の子が内緒話をするような顔で瞬を招き寄せる。それは彼が師にも秘密――と言ってもバレてはいるが――にしている事だ。


「俺の伝説は・・・カイトが居るから多分、読んだだろうな、お前」

「はい。何度も。カイトからもコーチの事は聞きました」

「ははは・・・なら、俺が本気になると身体が筋骨隆々になる、って話は知ってるな?」

「はい・・・ですが、そんな事可能なんですか? コーチは神の子だったはずで、そんな事が出来るとは思わないんですが・・・」


 クー・フーリンの問いかけに頷いた瞬は、しかし細マッチョのクー・フーリンを見て首を傾げる。クー・フーリンは一度戦場に立つや全身の筋肉が盛り上がり、悪鬼羅刹の如く戦ったという。

 だが、この見た目を見てそんな筋肉が唐突に盛り上がるなどと言う非常識的な事が本当に出来るかどうか不思議だったのだ。それに、クー・フーリンが笑って首を振った。


「ははは。無理だ、無理。いくら神の子と言われようと人体の不思議をぶった切ってんなこたぁ出来ね」

「あはは・・・ですよね」

「とは言え、お前もさっき見ただろ? 俺の身体が膨張した様になって、物凄い熱くなるのは」

「はい」


 瞬とクー・フーリンは先程、一試合戦っていた。それはクー・フーリンと瞬が望んだ事で、その際に自分の弟子である事をありありと理解したクー・フーリンが少しだけ、己の全力の一端を見せてやったのである。というわけで、実は今は風呂に入っていた。理由は汗を掻いて汗臭い、とカイトと何より師のスカサハから怒られた為だ。


「それは簡単に言うと、だな。身体に<<炎のルーン>>を幾つも刻み込んでやった・・・つっても入れ墨やタトゥーじゃなくて、魔術的に貼っ付けてやる感じだ。それでやったのが、あれだ。まぁ、本来は身体強化の魔術を個別に貼っ付ける訓練でやってたんだが・・・その際に偶然、炎を刻み込むと一気に力が増す事に気づいてな。師匠に言わせれば小器用な奴、って話なんだろうが・・・」

「炎を刻み込む・・・」


 瞬はふと、リィルやバーンタインが使う<<炎武(えんぶ)>>が思い浮かんだ。原理的には似た物と考えて良い、というのはかなり後年のティナの解析結果だ。外部から、内部の活力を活性化させてやっていたのである。


「身体能力の強化は複雑になってるから、お前でも無理だろうな。事実、カイトもまだ無理だしな」

「それは・・・そんな難しい事をやっているんですか?」

「それが、ウチのやり方だからな。師匠なんぞこれを全身でやるって化物だ。ありゃ、キングオブモンスター。地獄耳のクソババ」


 クー・フーリンが師であるスカサハの悪口を言った瞬間。彼の股間の数センチ先に槍が突き刺さる。少しでも動いていれば、今頃彼の股間にぶら下がっている物は串焼きのソーセージよろしく串刺しになっていただろう。


「・・・えーっと、ああ、ルーン文字だったな」


 どうやらクー・フーリンは悪口を含めて無かった事にしたらしい。瞬にも目で何も無かったよな、と無言で告げていた。そして何も無かった事にされると同時に、槍も無かった事になった。


「体全身にこのルーンを貼っ付けてるんだよ。この程度なら、お前でも少し修行すりゃ出来る・・・簡単な一文字だからな。それにお前、魔術苦手だろ」

「わかるんですか?」

「俺も、結構苦手だからな。わざわざ考えるよりぶん殴った方がはえぇ」


 驚いた様子の瞬に対して、クー・フーリンが笑いながら告げる。瞬が苦手というのは事実だ。一応、最下級の魔術ならば全属性使える。が、中級になると得意とする炎と雷の二属性以外は無理で、それも中級でも下位と呼ばれる領域が精一杯だ。楓達が学ぶような上級の魔術になるともはやちんぷんかんぷんだった。

 まぁ、これは冒険部どころか冒険者全員が言える事だ。各々が適正のある物を伸ばしている為、己の領分に関しては抜群の知識と才能を持ち合わせるが、それ以外となるとてんで持ち合わせ無い。カイトの様に万遍なく習得している、という方が稀なのである。


「ま、そんな俺が出来る程度の基礎の基礎の二文字だ。とりあえず、後は練習してその二文字を身体に刻んでみろ」

「刻む・・・どこが良いでしょうか」

「腕だな。足と同時に刻むのだけは、やめておけ。特にお前の場合はまだまだ初心者のペーペー。身体が出来ていないからな。痛い目を見るぞ」


 クー・フーリンは瞬に対して、そう忠告する。そして瞬は素直に、その言葉に従ってクー・フーリンの帰還後もその訓練を続けて、出来上がったのが<<雷炎武・参式(らいえんぶ・さんしき)>>だ。

 それから、更にしばらく。そこらの背景をぼかしつつ、ルーン文字という文字を刻んで<<雷炎武(らいえんぶ)>>強化している事を、ウルカにて師事したシフへと語った。


「なるほどねぇ・・・手に特殊な文字刻んで、か。そりゃ、道理だな」

「そうなのか?」

「ああ。刻印魔術ってのがあるだろう? それの即興とか亜種と考えりゃ良い。道理に適ってるな、お前のお師匠様の考え方は」


 シフがクー・フーリンの考え方を賞賛する。それが出来る技量が必要になるという前提があるので、それも含めての賞賛だった。なお、ルーン文字については皇国にはそういうのがあるのか、と思うだけだったので疑問は無かったようだ。


「んー・・・でもそいつの言い方なら、足も刻んだ方が力は上がるんだろう? そしておそらく俺の見立てでも、足にも刻んだ方が・・・いや、それどころか両手両足に両方を一文字ずつ刻んだ方が圧倒的に性能が上がるだろう」

「ああ、コーチもそう仰っていた」

「それ、使いこなせた方が良いな・・・良し。一度やってみろ。お試しだから、両半身に半分で良い。身体を慣らす為にも、使ってみない事には駄目だ」

「わかった」


 シフの指示を受けて、瞬は一度両手両足にルーン文字を刻んでやってみる事にする。ルーン文字をウルカで使えるのは瞬ただ一人だ。シフも瞬も興味があった事は、否めないだろう。が、それが間違いだった事は、この後すぐに知る事になる。


「まずは・・・両手足に刻んで・・・」


 瞬は<<雷炎武・参式(らいえんぶ・さんしき)>>の要領で、足にも二文字のルーンを刻んでみる。まだこの時点では<<雷炎武(らいえんぶ)>>は起動していない。何が起こるかわからないからだ。

 そうして、瞬は両手足にルーン文字を刻んだ。四肢の全部に貼っ付けるのは初めてだったので、少しだけ時間が掛かっていた。


「良し・・・じゃあ、行くぞ」


 瞬は何が起こるかわからない為、シフから僅かに距離を取って力を溜める。そうして、僅かに腹に力を入れて<<雷炎武(らいえんぶ)>>を起動した。だが、その次の瞬間。瞬は大きく目を見開く事になった。


「ぐっ!?」

「どうした!?」

「ぐぁああああ!」


 <<雷炎武(らいえんぶ)>>を起動した瞬間、猛烈な痛みが瞬の身体全身を覆い尽くす。身体の右半身は雷に打たれたかの様にしびれ、身体の左半身は炎に焼かれたかの様に熱を帯びたのだ。そうして、彼は即座に<<雷炎武(らいえんぶ)>>を停止した。


「はっ・・・はっ・・・」


 瞬は冷や汗を流して、シフへと自分に何が起きたかを説明する。それを聞いて、シフが何が起きたのかを解説してくれた。


「なるほど・・・確かに、身体が耐えられていないんだ。そういうことか・・・想像以上だったな」

「耐えられていない?」

「ああ。同種の力同士で共鳴して、数倍・・・いや、下手をすると平常時の数十倍、数百倍の力が溢れ出ていた。おそらく身体が慣れて全部を極めれば、そいつは参式の十倍以上になるだろうな。が、それ故そんな強大な力にお前の身体がついていけてない。今はまだ数倍って所だろうが・・・それでも、十分に強すぎる。力に身体が耐えきれず、ダメージを食ってるわけだ。当分は使わない方が良いな」


 シフは今の一連の事象から、瞬へと己が見立てた見立てを語る。シフが肌身で感じた圧力だけで、参式の数倍に到達していたらしい。が、それはあまりに強大だ。参式でもかなりの力を発揮するのだ。それの、数倍だ。どれほどかは察するに余りある。瞬の身体が耐えきれない程なのである。


「当分・・・どれぐらいだ?」

「最低十年。出来ればじっくりと鍛えて十五年欲しい。十年は欲を言って、お前の才覚を考えての話だ。並のやつなら、多分その倍を掛けても無理だ」

「ぐっ・・・」


 シフの言葉に瞬が思わず愕然となる。それは実質使えないも同然だった。とは言え、現実として使えない事は理解した。それ故、瞬はこの両手足全てにルーン文字を刻む事を禁じる事にする。

 そしてそれを示す様に、この<<雷炎武・肆式(らいえんぶ・よんしき)>>となる筈だった段階を使わないという決意と欠番の意味を込めて、<<雷炎武・禁(らいえんぶ・きん)>>と名付ける事にするのだった。




 そう決めた筈の瞬はしかし、その数ヶ月後。死神を相手にする為にその<<雷炎武・禁(らいえんぶ・きん)>>を全力で展開していた。それは当然、彼に対する絶大な代償を引き換えにしていた。


「ぐっ・・・うっ・・・」


 身体の負荷を無視した、決死の行動。それは瞬に動かずとも激痛をもたらしていた。故に額から流れるのは単なる汗ではなく、激痛を堪えている事による脂汗だ。

 だがそれを無視してでも、瞬は攻撃し続ける。そして<<雷炎武・参式(らいえんぶ・さんしき)>>の数倍の出力となった瞬の速度と一撃は、性能だけなら死神にも届いていた。


「ぬぅ!?」


 瞬の一撃を大鎌で防いだ死神が大きく地面を滑る。そしてその隙に、瞬は死神の後ろに回り込んで彼の背後から槍を突き刺した。もとより、殺さずになんとかなるとは思っていない。殺すつもりで戦っていた。


「っ! これでも駄目か!」


 瞬が痛みとは別に顔を顰め、目を驚きに見開いた。これだけ全力を超えた全力で攻撃しても、何故かその全てが死神の身体を突き抜ける。まるでカイトの<<御身は闇に溶けよ(漆黒の法衣)>>の様だが、あれはそもそもカイトが神使故に使える物だ。これは似た現象の全く違う物だった。

 が、それ故に瞬には打つ手が無い。禁じ手を使ってなお、死神には届かなかった。これが、現実だ。今の瞬は所詮、スペックだけがランクSに届いただけ。技量も経験も特殊技能も何もかもが圧倒的に劣っている。この不可思議な現象が打ち破れない以上、瞬には勝ち目なぞ見出せない。そんなしかめっ面の瞬へと、死神が大鎌を振り抜いた。


「ぬぅん!」

「っ!」


 超高速化した認識で、瞬は敵の攻撃を認識する。そして今の彼の速度であれば、何とか対応出来た。そうして身を屈めて飛び跳ねる様にして距離を取った直後、彼の背後に死神が如何な方法かで現れる。


「そこだ!」

「む!?」


 即座に対応してきた瞬に、死神が思わず驚きを浮かべる。圧倒的に優勢なのは死神だが、それでも攻めきれてていないのも事実だった。倒せなくとも、時間稼ぎが可能なだけの力は得れていたようだ。

 なお、なぜ瞬が背後の死神に気づけたのかというと、これは原理的にはソラの分身体と一緒だ。彼の身体からは微弱だが電磁波が放出されており、それが瞬の力の増大によって偶然にもセンサーの役割を果たしていたのである。

 流石にこれには原理がわからない死神は警戒するしかなく、瞬には幸運な事に全力を出せる状況ではなかった。瞬が自分の予想を大幅に上回った相手だったが故に、何らかの力がこの死地にあって覚醒しているのでは、と危惧してしまったのだ。


「見事・・・決死の覚悟での一撃。しかと受けた・・・」


 真正面から自らの胸を貫いた槍を手に、死神が瞬へと賞賛を送る。受けた、という彼だが一切の痛痒はもたらしている様子は無かった。これだけやってなお、届かなかった。

 それが、ランクSという化物達の領域だった。そうして槍を引っ掴んだ彼はそのまま左手で強く握ると、右手に持っていた大鎌の柄を地面に突き刺し、そのまま一気に右手を振り抜いた。


「ぐっ!」


 振り抜かれた右手を、瞬は必死に耐える。ここで一歩でも後ろに下がれば、それだけ仲間へと死神の魔の手が近づくのだ。引くわけには、いかなかった。が、そうして殴られて見えた藤堂達の場所に、瞬は思わず呆然となった。


「な・・・に・・・?」


 かなり前に逃げたと思ったはずの藤堂達はまだ、300メートルほど先に居た。体感で5分以上も戦い続けていたと思っていた瞬だが、それは高速化した意識と激闘、<<雷炎武・禁(らいえんぶ・きん)>>によって急速に蓄積した疲労、ここを死地と定めた事による極度の緊張等による錯覚だった。実際にはたった数十秒、せいぜい一分程度の戦いだったのである。


「っ!」


 とは言え、だからなんなのだ。ソラは我が身を犠牲にして、自分の生命を救ってくれた。その生命の借りを返さねばならない時なのだ。再び瞬が腹に気合を入れようとして、しかし呆気なく限界が来た。


「あ・・・?」


 意図せず瞬の身体から力が抜ける。平常時の数十倍の出力を出せる<<雷炎武・禁(らいえんぶ・きん)>>だが、それは即ち平常時の数百倍にも近い消費を強いるという事だ。燃費もそれ相応に桁違いに悪化しているのである。

 しかも悪い事にまだ使えない禁じ手と考えていた所為で身体が慣れていなかった事も、大きかった。本来はもっと高燃費かつ高性能のはずだったのだ。練習も無しで使ってしまったのが、運の尽きだった。

 とは言え、もし練習していてもこの結末は変わらない。数秒先延ばしになるだけだ。ランクBの若者がランクSの猛者に刃を届かせるという事は、それだけ莫大な代償を払っての事だったのである。

 これでまだ命や才能を対価にしていない分、瞬の戦士としての適性、<<雷炎武(らいえんぶ)>>という術技の将来性は死神達ランクSの化物達をして絶賛と言うしかなかった。


「・・・見事なり。胸を張れ、若き戦士よ。そしてこの死神の賞賛を冥土の土産として、冥府へと至るが良い」


 自分が膝を屈した事に困惑する瞬に対して、死神が厳かに告げる。それに、瞬はもはや満足しか無かった。ここまでやれるだけやって、その果てなのだ。悔いはなかった。そうして、死神がゆっくりと大鎌を構えるのを、瞬は見た。


(・・・すまん、皆・・・すまん、リィル・・・)

『ははは! 良か良か! あっぱれ日本男児の有様よ!』


 最後に瞬が思ったのは、大切な仲間達と愛する女性の事だ。が、そんな瞬の脳裏に、男の笑い声が響き渡る。それは魂の内側から響いてきた。そうして死神が大鎌を厳かに構えるとほぼ同時に、瞬の意識はその声に導かれて、魂の奥底へと引っ張られる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1024話『パルデシア砦攻略戦』

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