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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第54章 パルデシア砦攻略戦

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第1016話 パルデシア砦攻略戦 ――直前――

 地球とエネフィアでは実は、守りやすい土地というのは違う。例えば地球で言う守りやすい土地というのは、川辺に面していたり環境として過酷な場所にあるか、山の合間にあったりしてどうしても大軍を配置出来ない立地にあるかのどちらかだ。と、そんな話を最後の休息を終えた飛空艇の中で思い出していた瞬が、カイトへと問いかけた。


「カイト。『パルデシア砦』とはどういう所なんだ?」

「ん? ああ、『パルデシア砦』か・・・平野部にある強固な砦だな」

「平野部?」

「あ、先輩。地球基準で考えてたんっしょ」


 首を傾げた瞬に対して、ソラが笑う。ここは実は一度ソラが同じミスをした事があったのだ。それで堪えきれず口を挟んだ、という事だろう。


「ん? どういうことだ?」

「エネフィアで言う守りやすい土地、ってのは単に過酷な環境、ってだけじゃないんっすよ。例えばマクスウェルや神殿都市、皇都エンテシアなんかも、かなり強固な土地らしいっすね」

「ふむ・・・」


 ソラの言葉を瞬は一瞬カイト達の事かと思ったが、話の流れからここで言う以上は違うだろう、と判断する。そうして少しマクスウェルと神殿都市、皇都の共通点を考えてみると、答えは自ずと理解出来た。


「地脈と龍脈の集積地、ということか?」

「うっす。そういうことっす」

「流石に一度犯したミスはやらんか・・・ああ、そういうことだ。先輩も流石に街の結界は地脈をエネルギー源にしている事は知っているな?」

「ああ・・・ああ、つまりは流入量が多いほど、強固な結界を展開出来るわけか」


 瞬はカイトの言葉を受けて、彼が何を言いたいかを理解する。そしてそれが正解だった。


「そうだ。地球で言う所の守りやすく攻めにくい土地・・・例えば川辺に面していたり山の合間にある砦なんかを想像すると、わかりやすい。地球でこれを攻め落とすとすると、どうなる?」

「かなり攻めにくいな。川辺には兵士は大量の配置出来ないし、船を出した所でまともに戦えるとも限らない。山の合間なぞ片側だけしか戦えない。相当厄介な戦いになるはずだ」

「その通り。効率よく攻めるなら、水攻めなんかで大規模な工事が必要となってくる」


 カイトは瞬の答えに満足気に頷いた。だから、瞬もその想像をしていたのだ。『パルデシア砦』とはそのどれかに当てはまる土地なのだろう、と。


「が、オレ達はそれで止められるか?」

「まぁ、無理だな」


 カイトの問いかけに瞬が僅かに苦笑混じりに笑う。あえて言う必要も無いが、ウルカで鍛えられた今の彼は平然と水の上を走れる。一時間程度なら余裕だ。過酷な足場は意味を持たない。そして短時間であれば、大抵の兵士が一緒だ。水辺なぞ平野も一緒だった。


「で、山の合間なんぞ横の山を崩してください、と言わんばかりだろ? 横の山ドカンと一発やられて砦が押しつぶされるのが関の山だ。逆に山の合間に砦を作るのは自殺行為とされている。崖の上等も一緒だな。崖、ドカンとやられて崩れたら終わりだし」


 カイトは笑いながら改めて無理と断言する。地球とエネフィアでは戦略が大きく異る。それはひとえに、結界の有無と英雄の存在が大きかった。


「だから砦を作るのは平野でも山地でもどこでも良いが、そのかわりに地脈の集積地を選ぶのさ。そうすれば、城壁の魔導砲はより強力な物を使えるし、結界はより強力な物を展開出来る・・・そして?」

「そしてそこを攻め落とすには、英雄達の力が必須・・・だろ?」

「その通り」


 カイトはソラの答えに満足気に頷いた。ここらは、彼らが教えた事だ。忘れていたら鉄拳制裁だろう。そうして、カイトは更に解説を続けた。


「地球ではかつて攻城戦は相手の兵力の三倍の兵力が必要と言われていた。が、エネフィアでは強固な城塞を打ち破る事は単純な兵力であれば万倍あろうと不可能、と断ぜられていた。それはなぜか。ソラ」

「障壁の修復力を上回れないから、だろ?」

「その通り。だから、障壁を打ち破れる攻撃力を持つ者・・・いわゆる英雄が必要となる。英雄達は単体で城塞の障壁を打ち破れる。彼らが障壁を打ち破り、兵士達がその護衛をしつつ彼らの壊した結界を通って城塞を制圧する。それが、エネフィアでの基本的な攻城戦だ」


 ソラの返答に続けて、カイトが更に解説を行う。これが、答えだった。


「まぁ、こう言っちゃあなんだが、その役目を行う最たる存在は冒険者だ。特にランクB以上の冒険者で攻撃力特化型の冒険者にはその大役を依頼される事が多い」

「俺もか?」

「ああ、先輩やオレは特に、だな。オレ達の今回の作戦目標は、まず第一段階では要塞に取り付いて障壁の破壊。その後可能ならば要塞内部に侵入して、その内部を制圧する事だ。突入後の作戦目標は第一目標は魔導炉の制圧。第二に敵総司令官の排除。可能ならば捕縛」

「魔導炉の方が上?」

「基地ごと自爆しようとした事があったんだ。それを危惧しているんだろうね」


 首を傾げた瞬に対して、横で話を聞いていた藤堂――残留組としてカリンらと一緒に前哨戦は見ていた――が補足を入れる。そして、その通りだった。


「今朝まで居た基地の事か?」

「そうだね。見ていたんだが、預言者という方が予め危惧していて、特殊工作部隊を潜入させていたから阻止出来たそうだよ」

「今回は、そんな事は出来なかったからな。現地で対処、というわけだ。ミスれば中に居る奴全員でお陀仏確定だから、絶対にそれだけは阻止だ」

「なるほど・・・」


 藤堂に続けたカイトの言葉を聞いて、瞬はなるほど、と心に刻み込んでおく。ここら敵も味方を巻き添えにして自爆をしないと考えないのは、彼の良さだろう。敵はそう言う相手なのだ。ただあるがまま、事実だけを見ていた。と、そんな話をしていると、飛空艇がゆっくりと速度を落としていく。


「・・・近いな」

「と言うか、見えてるよ」


 カイトの肩の上のユリィが窓の外の南の空を指し示す。そこには、無数の飛空艇が浮かんでいた。


「・・・200メートル超級の総勢15隻の超弩級戦艦に大小様々な飛空艇総計500隻って所か・・・ちっ。相当有能な軍師だな」

「そうなのか?」

「ええ・・・東部を早々に放棄して南部に戦力を完全に集中した。この点一つだけで、相手は相当な手練れだと言えます。地理的に、『ラクシア』へ行くにはここを迂回する事は出来ませんからね」


 綾崎の問いかけにカイトは頷いた。そこには嘘ではなく、苦渋が滲んでいた。が、綾崎にはよくわからなかったようだ。


「数の上ではこちらが上なのだろう?」

「ええ、この一戦に限った上で言えば、ですけどね。何より相手はこちらに時間がない事を理解している。だから、相手は籠城を選んだんですよ」

「時間が無い? 相手ではなく、こちらにか?」

「ええ。こちらに、です。時間は相手にしか有利に働かない」


 理解が出来ない様子の綾崎に対して、カイトは再度断言する。確かに、このままやればシャリク達が圧倒的に有利な気がする。が、それはあくまでもラエリア一国だけを見た場合に限る。ラエリアは一国だが、一国だけで成立しているのではないのだ。


「ヴァルタード帝国は今、ラエリアの保護国の各国に対してあるメッセージを出しているはずです」

「ヴァルタードがラエリアの保護国に?」

「ええ・・・内容は、これ以上ラエリアの内紛を見過ごせない。なので我が国も安全保障の観点から積極的に自衛権を行使する所存である、という所ですかね。この両国は地理的に近い関係にある。保護国同士は完全に隣接しあっている・・・その保護国の治安維持に影響が出るのでラエリアの内紛に介入するぞ、と言っているんです。ついでにラエリアの保護国も幾つか頂いておこう、という算段でしょうね」


 綾崎の疑問にカイトはあくまでも推測や噂という形――他のギルドメンバーも一緒の為――にして、今のこの戦いの裏を語る。


「そんな事が可能なのか?」

「安全保障の観点から、と言っているでしょう? 地球でも普通に通用しますよ。A国とB国は同盟国であり、B国はA国の保護国に近い形である。そのB国と険悪な関係にある近隣のC国で内乱が起きて、治安が一気に悪化した。故にA国は自国及びB国の安全保障の観点からC国の治安維持に乗り出す・・・よほどの言いがかりでない限り、これにどこが文句を言えますか?」

「む・・・」


 綾崎はカイトから問いかけられて、状況に応じてはこれは文句を言えない、と判断する。なにせ自分達に被害が出るかもしれないのだ。文句を言いたいのなら自国の揉め事で迷惑を掛けるな、と言われるだけだろう。そうして、カイトが続けた。


「おそらく、秋の季節に突入した時点でヴァルタードは各国に向けて最後の通告を出したはずです。もうこれ以上は見過ごせないぞ、と。故にシャリク陛下は形振り構わず他の大陸である我々に支援を申し出たわけです。遠交近攻外交という策のようなものでしょうか」

「・・・怖いな、国際政治というのは」

「あははは・・・」


 半ば理解は出来なかった様子だが、綾崎はとりあえずかなり厄介な状態にある事は理解したようだ。が、どうしても解せない事があったらしく、藤堂が更に突っ込んだ。


「でもそれがどうして、南部軍の司令部が有能という発言になるんだ?」

「ああ、それですか・・・そうですね。今の両軍の戦力差を書き出してみましょうか」


 カイトはそう言うと、こちらに伝わっている限りでの情報を紙に書き出してみる。


「北部軍の総戦力。200メートル超級の超弩級戦艦40隻。その他大小様々な飛空艇約1200隻。総計約1300隻」


 カイトはまず、北部軍の総戦力を書き出す。ここらは勿論、秘密にしている戦力があるだろうと考えられるので、あくまでも公式発表や資材の推移を考えた上でカイトが現状から試算した数だ。決して正確な数ではない。


「さて・・・その上で南部軍。これはスパイからの情報なのであくまでも概算です。超弩級戦艦約30隻。大小様々な飛空艇は約800隻。総計約850隻。『パルデシア砦』には総計500隻程度集結している様子ですので、半数より少し上をこちらに差し向けている、と考えて良いでしょう」

「・・・戦力的には圧倒的にこちらが有利ではないか? 大体1.5倍程度はあるだろう?」

「いえ・・・ではこれを前提として、現段階でこちらがこの戦いで運用している戦力を書き出しましょう」


 カイトは藤堂の言葉に首を振ると、改めてこちらの戦力を書き出し始める。今度は、これから数戦に臨む戦力だ。


「超弩級戦艦25隻。大小様々な飛空艇は総計で700隻・・・この一戦に限れば、こちらの方が戦力は上です。先程も綾崎先輩に言いましたが、これはあくまでもこの一戦に限った話です。残る艦艇500隻は南部軍が放棄したエリアも含めたラエリア全土の守りに就いている為、動かせないんです・・・動員できる兵力では相手が上なんです。しかも南部は穀倉地帯だ。食料を握られている」

「あ・・・」


 カイトから指摘されて、藤堂もようやく気付いた。カイト達には、この後も『ラクシア』攻略作戦が控えている。ここで減る兵力も考えれば、圧倒的に不利なのだ。


「だから、シャリク陛下は苦肉の策として御自ら出征されたわけです。兵たちの士気を可能な限り高める為に。時間を掛けられれば、それこそ冬まで長引かせれば飛空艇を増産して戦力差を覆した上で戦いに挑めたわけですが・・・ヴァルタードの横槍の所為でこれ以上は時間が掛けられなくなってしまった。本当にここが正念場になるわけです」

「そうか。相手は自分達の所に兵力を集結させただけで、こちらの兵力を大幅に減らす事が出来たのか・・・」

「そういうことです。だから、相手は見事なんです。何も直接撃破するだけが戦争じゃあない。戦う前こそが重要なんです」


 驚いた様に目を見開いて見えた相手の戦略に、藤堂が瞠目する。見事、の一言しか言えない。かと言ってこちらはそれがわかっていても、シャリクには戦力を減らしてでも民を守るしかないのだ。それがわかった上での戦略だった。


「勝ち目はあるのか?」

「ありますよ、勿論」


 僅かな不安を覗かせた藤堂の問いかけに、カイトは笑って断言する。だからこそ、軍師(レヴィ)が居るのだ。


「戦略で相手はこちらを上回り、こちらは窮地に陥っている。そしてそれは他国の思惑が絡んでいる為、どうしても覆せなかった。なら後は、戦術でこちらはその戦略を上回ってしまえば良い。この一戦次第では自分達が苦しい事がわかっているからこそ、相手はここまでの戦略を組み上げた。ならばその戦略で導かれるはずの結果を戦術で覆してやれば、相手の戦略も覆せる。ここからの戦いに限ってみれば、重要なのは戦略よりも戦術です。この戦いで相手が想定した以上の結果を出せば良い」


 カイトは笑いながら要は勝てば良いのだ、と断言する。こちらは兵力を減らされない様にしつつ、砦を攻め落とすというかなりの難行をさせられる。その難行を成し遂げるには、優れた戦術が必要だ。

 そうして、『桜桃の楼閣(おうとうのろうかく)』に乗船していた軍の連絡員――女――がカイト達の所へとやってきた。


「カイト・アマネ殿。用意が整いました。旗艦へとお移り下さい」

「了解した。作戦開始時刻は12時で相違ないか?」

「相違ありません。では、案内致します」

「お願いする・・・じゃあ、全員。もう少しすれば始まるから、最後のチェックだけはしっかり」

「「「おう」」」


 カイトは軍の連絡員の案内に従って、部屋を後にする。まだ、攻撃は始まっていない。どちらも準備を整えている所だ。が、すでに両者共に魔導砲の射程圏内に相手を捉えており、何時始まっても可怪しくはなかった。それ故カイトもまた、準備を始める時間だった。そうして、部屋を出た所で相棒と話し合う。


「ユリィ・・・オレ居なくて大丈夫か?」

「逆でしょ。私居なくて大丈夫?」

「・・・行くか」

「うん。頑張ってね」

「そっちもな」


 カイトはユリィと最後の挨拶を交わす。ユリィは最後尾での支援なので危険性は薄いが、カイトは最前線へと突っ込むのだ。何が起きても不思議はないと思っている。それこそ、死んだとて不思議はない、とさえも。

 故に昨日の夜は目一杯愛してもらったし、今もまた二人は一度だけ口づけを交わす。カイトはこの甘い蜜を再び吸うと心に決める為、ユリィはカイトが必ず帰って来ると信じる為だ。


「・・・大丈夫。行けるよ、今のカイトなら」

「ああ、相棒殿。じゃあ、行ってくる・・・300年ぶりの戦場だ。上手くオレを使えよ、レヴィ」


 カイトはユリィの言葉を背に、白のロングコートを翻す。そうして、彼は戦いを始める為、シャリクやレヴィの乗船する艦隊の旗艦へと移動する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1017話『パルデシア砦攻略戦』

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