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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第54章 パルデシア砦攻略戦

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第1014話 決意と決定

 カイト達が南部の第二の都市『パルテール』を脱出して、およそ6時間。カイト達は超高空へと移動するとバレないように出力を落として移動していた。そのお陰で最後の一度の遭遇の後は敵と遭遇する事もなく、シャリク率いる北部軍の制空権の中にたどり着いていた。


「マスター。ラエリアの北部軍制空権の領域に入りました。高度を落として所定の信号を発信します」

「ああ、そうしてくれ」


 カイトの言葉を受けて、一葉はシャリク達との連絡を取る手はずを整える。と、言っても正確には彼ではなく、北部軍の遊撃部隊だ。

 彼らに護衛と案内をされて、一足先に帝都ラエリアに入っている筈のカリンや藤堂達と合流する事になっていた。そうしてしばらく緩やかな速度で飛空を続けていると、こちらの信号を受け取った飛空艇の艦隊が現れた。当たり前だが、味方である。


「マスター、応答を求めています」

「ああ、わかった・・・こちらシャリク陛下より密命を受けて南部軍の『パルテール』へと向かっていた冒険者のカイト・アマネだ」

『聞いている・・・よく最南端の都市から脱出出来たな』

「・・・追う意味はあまり無かったんだろう」

『・・・その様子では、やはり・・・』


 カイトの落ち込んだ様子から、結末は理解出来たようだ。艦隊の提督らしい男が沈んだ様子を見せた。それに、カイトは小さく頷いた。


「ああ・・・どうやらオレ達がラエリアに到着した時にはすでに、だそうだ・・・」

『そうか・・・手間取らせてしまったな。陛下も貴君の帰りを待っている。通信はこちらで確保している。連絡を取ると良い』

「かたじけない」


 カイトは北部軍の提督へ向けて感謝の意を示す。そうして北部軍の飛空艇を介して、カイトは帝都ラエリアへと連絡を入れる。


『・・・そうか』


 通信が繋がってすぐ。シャリクは全てを理解して、沈痛なため息を吐いた。救助任務を依頼して、そして連絡を取ってきた際にその要救助者の姿がモニターに無いのだ。それだけで答えは分かった。

 それは即ち任務が失敗した、という事に他ならなかった。これは軍事行動。それも帝王から直接の依頼だ。ここで変な冗談を抜かして良い依頼ではなかった。


「我々がラエリアに入る前には、もう・・・牢屋に囚えられていた北部軍のスパイによれば、今より一ヶ月近く前にすでに、と・・・」

『そうか・・・我々の所に情報が届いた時点ではもう、という事だったのか・・・すまないな。手間を取らせた』


 シャリクは悲しげにカイトへと労をねぎらう。そうして、カイトは簡易の報告を開始した。詳細は向こうに到着してからだ。


『そうか。であれば、こちらとも合流出来る可能性はあるな・・・わかった。逃げたという密偵についてはこちらで回収が可能かやってみよう。知っていると思うが、こちらの密偵の数人が街に入り込んでいる。彼らの脱出を含めて、やらせてみよう』

「申し訳ない。こちらもキャパには限界があり、彼らについては見捨てる形となってしまった」

『いや・・・元々囚えられた時点でスパイ達も己の命は無いものとして考えていただろう。上手く逃げおおせたのなら、彼らの命脈がまだ繋がったというだけの事だ。脱走の手助けをしてくれただけでも、十分に助かった。それについては、別途何かこちらから報酬は考えよう』


 カイトの謝罪に対してシャリクは致し方がない事だ、とその判断を認める事にする。これはカイト達も知る由もない事だが、カイトが地下にたどり着いた時点でスパイは牢屋に囚えられていた者達と共に何処かに身を隠していた。なので探しても無駄だっただろう。

 それに実のところ、カイトが瞬から牢屋の囚人と取引をしたと聞いたのは飛空艇に乗ってからの事だ。カイトもその時点まで牢屋に囚えられていた者が居た事は理解していても、その中にスパイが居た事は知らなかった。更には助けようがなかった事もまた、事実だ。彼らは彼らでなんとかしてもらうしかなかった。


「そう仰っていただければ幸いです」

『ああ・・・依頼については、それで達成と見做そう。彼らの下にあっては、何時まで五体満足で安置されていたかわかったものではない。君達が助け出してくれなければ、今の最良の状態で救える事も無かっただろう』

「ありがとうございます・・・こんな形になり、残念です」

『ああ・・・改めて、私は決意を示そう。ラエリアと始祖シャマナ・シャマナの名において必ずや、この戦を沈めてこの大陸に平穏をもたらそう』


 シャリクは落ち込んだ様子のカイトに対して、改めてこの戦いの勝利を宣言する。これは彼自身へ向けての決意でもあった。喪った者はもう戻ってこない。だから、それを受け継がねばならないのだ。そうして、決意を露わにしたシャリクへ向けて、カイトもまた、申し出た。


「ご協力致します」

『ありがとう・・・シェリア、シェルクの二人については、私から伝えておこう。君たちは一刻も早く、こちらへ来てくれ。次の戦いが近い』

「わかりました」


 カイトとシャリクはその応答を最後に、通信を切断する。そうしてカイトは後の事を一葉達にまかせて、少しの間ソラ達と共に休息を取る事にするのだった。




 シャリクと連絡を取り合ってから、更に6時間。カイト達が『パルテール』襲撃を行ってからおよそ半日が経過した頃だ。カイト達は帝都ラエリアの軍が接収した空港の特別区画に飛空艇を着陸させていた。そんなカイト達の出迎えだが、軍の高官達が直々に出迎えてくれた。


「君が、カイト・アマネか?」

「はい」

「今回の作戦はご苦労だった・・・先王の従者の棺については、こちらで専門の物を用意させている。そちらに移し替えたい。頼めるか?」

「はい・・・こちらになります」

「ありがとう・・・丁重に、扱わせて頂こう」

「はい」


 軍の高官の言葉にカイトは頷いて、ハンナの遺体の入った棺を受け渡す。今回彼女が入っている棺はあくまでも一般的な棺だ。が、彼女は曲がりなりにもシャーナの従者。そして一応は殉職という形になる。国として葬る為、しっかりとした棺を用意してくれたらしい。

 現在の状況や出生の秘密等との兼ね合いがあり大々的に取り扱われる事は無いが、扱いは国葬と同等に扱ってくれるらしい。クーデターの殉職者を祀るの記念碑の中にも記名される、との事であった。そうして、ハンナの棺を受け取った軍の高官とはまた別の職員がカイトへと頭を下げた。


「他の犠牲者のご遺体についても、こちらで引き受けます」

「はい・・・こちらを」


 軍の高官に従って付いてきた帝城の職員達の求めを受けて、カイトはレゼルヴァ邸にて回収した少女らの遺体を収めた棺を空港の一角に並べる。そのあまりの多さに、その場の誰もが思わず顔を盛大に顰めた。二桁を優に超えていたのだ。目を背けたくもなった。


「これは・・・なんと酷い。これが全て、いたいけな少女らとは・・・」

「っ・・・ご家族への連絡を含めて、こちらで丁重に扱わせていただきます。ありがとうございました」

「いえ・・・ご冥福をお祈りします」

「はい・・・」


 頭を下げたカイトに職員達が多大な嫌悪感や苦味を抱えた顔で応じて即座に手続きと確認作業に入る。デンゼルは地位と権威を笠に着て見目麗しい少女を手当たり次第に集めていたらしく、家や家族の為、遠方から連れてこられて望まぬままに犠牲になった者は少なくないらしい。そんな少女らについては身元の確認を行わねばならず、即座になんとか出来るわけではなかった。

 後に聞けば埋葬は早くても紛争終結後になるだろう、という事であった。そうして、回収した全ての遺体を受け渡したカイト達へ、また別の職員が案内を申し出た。


「こちらへ。今日はおつかれでしょうから、陛下は報告は明日で良いので休んでくれ、と」

「ありがとうございます・・・薬屋等は何処かにあるでしょうか?」

「理解しております。そちらも含めて、陛下より準備を仰せつかっております」

「ありがとうございます」


 カイトは職員の申し出に感謝を述べる。あんな人類の闇の中の一端を覗いたのだ。ソラ達も精神的にかなり参っており、薬物による治療を行おうと思ったのであった。元々覚悟はしていた。なので致命的なダメージは受けていないが、それでも休めるのならしっかりと休むべきだった。

 そうして、カイト達はそのまま案内を受けて、シャリクが用意してくれた帝城の一室にてしっかりと休む事にするのだった。




 明けて、翌日。カイトは朝一番で帝城の職員に事情を話して、シェリアとシェルクの所へと訪れていた。というのも、一つの報告が彼の所に入ったからだ。


「・・・ありがとうございました」


 面会して早々、シェリアが頭を下げてカイトへと感謝を述べる。シェルクもそうだったが、シェリアも目は赤くなっており、夜通し泣いていた事が察せられた。無理もないだろう。彼女らはずっと一緒だったのだ。カイトよりも遥かに、ハンナと親しかった。


「すまない、こんな事になってしまって・・・」

「いえ・・・我々こそ、無駄な依頼をしてしまい申し訳ありませんでした」


 シェリアはカイトへと頭を下げて謝罪する。それに、カイトも首を振った。


「いや・・・これはオレが望んだ事でもある。君たちのお陰で、オレも踏ん切りが付けられた。オレこそ感謝する」


 カイトは頭を下げる。カイトとて、心情としては即座にラエリアに取って返したかった。が、立場と託された物がそれを許さなかったのだ。そうして、本題に入る事にした。


「・・・ハンナさんの棺の用意が出来たらしい。行こう」

「っ・・・はい。シェルク」

「・・・うん」


 シェリアに促されて、シェルクがこくん、と頷いた。


「案内を」


 カイトが帝城の職員に申し出る。そうして三人は少し歩いて、殉職者の遺体が納められていた部屋へと歩いていく。すでに納められた遺体の大半は遺族が引き取っていて存在していなかった。なので広い空間の中には、ハンナやその他犠牲となった少女らの遺体だけが、納められていた。


「こちらです」


 三人を案内した職員が、棺の顔の部分を開いた。それを見て、シェリアとシェルクが崩れ落ちる。望みが無いのはわかっていた。覚悟も決めていた。だというのに事実として提示されて、溢れるものを抑える事が出来なかった。


「・・・眠ってるみたい・・・なのに・・・死んでるんですね・・・」


 しばらくの後、シェルクが口を開いた。誰から見ても、ハンナは死んでいる様には見えない。顔色はよく、血が通っているかの様な肌ツヤだ。今にも起き出してきそう、という賛辞が最適だ。

 これは、デンゼルの行っていた人形製作のおかげだ。人体を特殊な調合を施した高濃度の魔力濃度の水に浸して、身体をほぼほぼ魔素(マナ)へと置換する。

 そうすることで人体は腐敗する事もなく、まるで生きているかの様な状態で保存できる様になるのである。保存状態さえしっかりとしていれば、半永久的に保存が可能となるのであった。敢えてわかりやすく言えば、擬似的に肉体を精神生命体の肉体としている様な物、と考えてば良いだろう。


「胸糞悪い話だが・・・歪んだ愛ゆえの、だろうな」

「愛・・・これが・・・?」

「くそったれな愛だがな」


 カイトとシェリアは言葉の中に僅かな怒気を滲ませる。確かに、これなら生きているかの如く保存できる。が、これには幾つかのデメリットがある。

 その中で最も困難な一つは人体を魔素(マナ)へ置換するには、かなりの期間その溶液の中に漬け込まねばならないのだ。しかもその間、薬液の配分が少しでも狂えば一気に崩壊する危険が出てきてしまう。

 そして人体を構成していた元来の元素は無くなったわけではない。適時、溶液を入れ替えてやらねばならないのだ。誰かがつきっきりで推移を見守らねばならないのである。

 その期間、およそ一ヶ月。少しでも手元が狂えば、今までの苦労が水の泡になる繊細な作業だ。これを為し得るには、ある種の愛が無ければやっていられない。

 しかもこれは対象が死んでいては駄目だ。死後硬直等で生きている様には見えないのだ。瞬の救ったメイドやあの屋敷の従者達が怯えるのも無理はない。生きながらにして、己が『人形』へと作り変わる苦しみを味わいながら死ぬのだ。外道の所業としか言いようがなかった。


「・・・これで、二人の目的だったハンナさんは連れ帰れる・・・二人はどうする? おそらく、頼めば船を出してくれるはずだ」


 しばらくの後、カイトはシェリアとシェルクの二人に問いかける。今回、二人が来た理由はハンナを連れ帰る為だ。それはもう、果たされた。それに、シェリアが問いかけた。


「貴方は?」

「オレはけじめをつけさせてくる・・・奴だけじゃない。第二第三の奴を産まない様に、紛争を終わらせてくる」


 カイトが決定を語る。決意ではない。これは決定だ。これ以上、下衆共をのさばらせるつもりは一切なかった。特にこのままデンゼルを生かしておいては、犠牲になった少女らが浮かばれない。そうして、それを聞いてシェリアとシェルクがうなずき合い、シェルクが口を開いた。


「・・・なら・・・お待ちしております。ハンナさんと共に。共に、シャーナ様の下へ」

「そうか・・・わかった。ハンナさんの側に居てやってくれ」

「「ご武運を」」


 シェリアとシェルクが同時に頭を下げる。彼女らにデンゼルを倒せるだけの力は無い。戦場へ行って生き残れるだけの力もない。彼女らに出来るのは、カイトが倒してくれる事を祈るだけだ。そうして、カイトはハンナを二人にあずけて、再び戦場へと舞い戻っていく事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1015話『パルデシア砦攻略戦』

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