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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第53章 ラエリア内紛・序編

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第1006話 死せる者達の願い

 ラエリア南部の都市『パルテール』へ向かう為、更に南にある『迷いの森』へと入ったカイト達。森の奥にたどり着いた所で出会った死者達の怨念が創り上げたゾンビ達との交戦中に、カイト達は10名程度の少年少女達による兵団に出会った。と、そうしてカイト達は気付けばかなり夜も遅かった事もあり、今日はその場で休息を取る事となった。


「・・・これで、結界は大丈夫だな」

「へー・・・随分と慣れたなー」

「だーらオレはあの後も一年以上旅したんだってば・・・」

「おーう、カイト! でかくなったよな、やっぱお前!」


 中学生ぐらいの少年の言葉に、カイトがため息混じりに肩を落とした。と、そうして一段落させた所で、また別の少年にカイトが肩を組まれた。が、その少年は即座に顔を顰める。


「・・・やっぱ縮め」

「おい! なんか文句あんのか!?」

「てめぇ、俺よりデカイとかカイトのくせに生意気だぞ!」

「そりゃ大人にもなりゃ生えるもん生えるしでかくなるわ!」


 カイトと別の少年が怒鳴り合う。が、それはカイトはどこか、懐かしげな感があった。と、そんな話をしながら、一同が囲っている少し大きめの焚き火の前にカイトはたどり着く。


「姐・・・じゃなくてメイルさん。結界の展開、終わりましたよ」

「ん、よろしい。あ、次そっちやっといて」

「はいはい」


 カイトはメイルと言うらしい一番年上の女性の言葉を受けて、葉野菜を刻んでいく。その手つきは相変わらず慣れたものだ。そうしてメイルは更にその横のユリィに問いかける。


「ユリィー、そっちのお鍋どうー」

「もうちょい塩加減欲しいから振っちゃうねー」

「そう、じゃあそっち任せるねー」


 メイルという女性はユリィの言葉にそちらを向くこともなく返事をする。その間ソラ達は説明をすっ飛ばして先に休憩の準備に入ってしまった上にカイトと謎の集団が作業を手伝ってくれた――と言うより大半彼らがやった――為、大半が困惑しっぱなしだった。しかも料理は男連中が見るに堪えない、と完全におすわり――実際にこう言われた――を命じられてしまっていた。

 なお、フロドとソレイユは集団の中でも年少組と思われる集団によって遊ばれていた。どうやら、年長組が料理等を行い、年少組が年下の面倒を見るのが彼らのスタンスなのだろう。念のために言っておくが、フロドもソレイユも料理は普通に出来る。


「んー・・・」


 と、そんなカイトの背を、カイトと知り合いらしい者達が見ていた。


「似てんなー、って思うのはやっぱ変かね」

「そんなもん、ってか色々とあいつも背負ってんだろ」


 どこか感慨深げというかどこか嬉しそうという様な表情で彼らは語り合っていた。と、そんな中の一人が、カイトの背へと問いかけた。


「なー、カイト。他の奴何してる?」

「他ー? 他のやつねー。農業やったり酪農やったりしてんぜ、今も生きてる奴は」

「そう言えば、そっちの子達の同郷の子達、ブレムのお弟子さんになるねー」


 カイトの言葉に続けて、鍋を後は煮込むだけになったユリィが教える。そうして、馴染みの名が出たからか一同が一気に沸き立った。


「ブレム、結局農業始めたのか!」

「あれがお師匠様とか、似合わねー!」

「あれか? また相変わらず何か喋るの忘れて、か!?」

「今度は弟子に突っ込まれてたりしてな!」


 あはははは、と少年達が笑い合う。その顔は誰もが輝いていて、一様に嬉しそうだった。と、そんな彼らに赤羽根が問いかけた。


「あ、あの・・・ブレムさんとはどんなお知り合いなんですか?」

「ん? ああ、俺達はブレムと一緒にあー・・・多分ここから南西の研究所で少年兵やってたんだよ」

「ほら、アイツの角あるだろ? あ、まだある? それとももう治療されたりした?」

「いえ・・・仰っているブレムさんが同じなら、今も角がありますが・・・」


 赤羽根はブレムの古い知り合いということで、何らかの異族だと思ったらしい。見た目以上の年齡と考えて敬語で答えていた。


「そっか・・・結局やっぱ治療出来なかったかー」

「難しかったんだよ、やっぱ・・・一度身体に馴染んじまってるから、コアを取り出すとやばいだろうって医者がな」

「ヤブじゃねーよな、お前の知り合いだと」

「いや、闇の名医かもしれねーぞ」

「お前らな・・・腕利きだよ。今じゃ大陸一の名医だ」


 流言飛語の元少年兵らの言葉にカイトは彼らが取ってきたイノシシを捌きながら答えた。ここら、なにげに実は彼らよりもカイトの方が腕が良いらしく、昔から少女らに混ざって料理をさせられていたらしい。なので今もカイトが混ざってやっている、というわけだ。


「そっかー。じゃあ、しょうがないかー。私も脇腹の鱗取りたいんだけどなー」

「私なんて背中に羽毛よ? そっちなんとかしたいわ」

「てか死んでんのに今更やる意味あんの?」

「気分よ気分。文句ある? 死んでてもやっぱ気になんのよ」


 唐突に少年と少女があっけらかんと語った言葉に、ソラ達がぎょっとなった。死んでいる。そんな軽く出されるとは思ってもいなかったのだ。と、そうして気になると語った少女がソラ達に逆にびっくりしていた。


「びくった・・・何? 私変な事言った?」

「い、いえ・・・確か死んでる、と・・・」

「ああ、死んでるわよ、私達全員・・・あ、ご飯は単なる気分だし食材普通に取ってきたから相殺って事で一つ。人間らしい生活してないと人間っぽくなくなるからね」

「あ、俺そもそも人間じゃないんだけど」

「知らないわよ、んなの」

「そ、そういうことじゃなくて・・・」


 ソラはどうしたものか、と困惑する。どう説明すれば良いかわからなかったらしい。


「・・・ここだから、彼らはこうやって出てこれてるだけだ。基本は奥に眠る死霊達と変わんねぇよ」

「・・・っ」


 カイトから出された言葉に、事情を知る者達は顔を歪める。カイトは平然としていたが、彼の内心は察するに余りある程だった。


「あはは。そんな顔すんな。オレは勇者カイト。伊達に死者達と共に」

「「「ぶふっ!」」」

「ちょ・・・笑かさないで・・・包丁が・・・」

「やっば! 鍋溢れる!?」

「くぉら! 笑うなや! オレだって欲しくて貰った名前じゃねーよ!」


 一気に吹き出して大爆笑した元少年兵達に対して、カイトが怒鳴る。せっかく気負いしない様に慰めようとするとこれだ。落ち込んでいる暇も無かった。


「はぁ・・・こんなもんだろ。やれやれ・・・」


 カイトは料理の仕込みを終えると、水属性の魔術を使って手を洗って焚き火に手をかざした。熱で乾かすつもりらしい。


「ソラ達にゃ、研究所で言ったよな。脱走しようとした日の事」

「・・・ああ」

「その時、兄貴に切られて死んだのがこいつらだよ。何人か違うのも居るけどな」


 カイトが悲しげに彼らについてを答えた。なお、この時点で流石に赤羽根も木更津もカイトが勇者カイトである、と理解していたらしい。

 らしいが、それ故にこの時は何も聞けなかったらしい。ソラ達の歪んだ顔、そして何より、時折カイトの見せる何か苦しげな様子で全てを察するに余りあったそうだ。その夜に眠る前にカイトが口止めを頼んでいた。


「ま、良くある事でその最初で最後の現場があれだった、ってのは素直にワリィと思うわ、俺も」

「ホント、カイト悪運だけは持ち合わせてるわよねー」

「悪運言うな、悪運・・・いや、どう見ても悪運なんだがな・・・」


 カイトがため息混じりに頭を掻いた。彼の辿った道のりを考えれば、どう見ても悪運だろう。


「ほんとに、悪いなぁ、カイト。お前みたいな泣き虫なガキンチョにやらせちまって」

「心残りがあるとすりゃ、それだな・・・」


 元少年兵達の中でも年長組が非常に申し訳なさそうに肩を落とす。どうやら実験された兵士達が暴走する事は頻繁に起こる事らしい。そして彼らは語らなかったが、そういった暴走した少年兵達を始末するのも、彼らの職務だったそうだ。非道も行き着く所まで行き着いていた。


「年長組がホントはケリつける問題なんだけどな・・・まさか俺達が軒並み負けるたぁなぁ・・・」

「ソーラの奴、馬鹿みたいに暴れちゃったからねー。皆、ウチの馬鹿がホントごめん」

「いやぁ、メイルの姉さんが謝る事じゃ無いだろ」

「そうそう。悪いのは研究所の屑共だから」


 メイルの謝罪に少年兵達が慰めを送る。ここら、彼らには家族という意識が強いからなのだろう。殺されたというのに恨み言一つ言うことなく、逆に彼女を慰める言葉を送っていた。

 ちなみに、ウチの馬鹿というわけなのだが、メイルとソーラ――カイトの言う兄貴――は三つ子の姉弟だそうだ。最後の一人はその直前の戦いで怪我を負って研究所にいて、その後カイトが救い出している。今はマクスウェルで公爵家従者勢の一人として、当時の仲間達のサポートをしながら暮らしていた。


「あ、そだ。カイト、ありがとね。一応死んだ後に色々見たんだけど、カイトが止めたんでしょ? あのバカ」

「っ・・・」


 カイトの顔が一気に歪んでいく。今までずっと不安だったし、辛かったのだ。それを思い出したのであった。そんなカイトの顔を見て、年長組の一人が茶化す様に告げた。


「あー・・・やっぱ大きくなっても泣き虫は泣き虫だな、お前」

「うるさいっ」


 カイトは周囲を見て、どこにも逃げ場が無い事を見て下を向いて顔を隠す。その姿に、少年兵達はカイトが根っこは変わっていない事を理解した。そしてだからこそ、カイトに彼らは願い出た。


「カイト」

「んだよ」


 メイルの言葉につーん、と口を尖らせる。不満らしい。そうして、どうやら料理の仕込みを終えたカイトの前にメイルが屈んでカイトと向かい合わせに座った。


「・・・辛い事を頼むけど、またあのバカを止めて欲しいの」

「・・・どういう・・・ことだ?」


 カイトが固まる。あのバカ、というのは一人しか居ない。ソーラの事だ。彼らがこうやって限定的とは言え生き返っている以上、たしかに彼も同じように生き返っていても不思議はない。

 不思議はないが、それならなぜここに居ないのか、と疑問になるだろう。いや、カイトは始めからずっと疑問だった。そうして、その答えが語られる。


「・・・この森の奥深く。そこの怨霊達の塊にアイツは囚えられている・・・コアに過剰な魔力を注ぎ込まれて、あの頃以上にあいつは竜化が進行している。もう意識も無い・・・だから、私達はずっと貴方を待っていたわ。今の貴方なら、アイツを止めて今度こそ、私達をきちんとあの世へ逝かせてくれると思うから」

「っ・・・ああ、わかったよ」


 カイトの顔は一瞬歪むも、しかし彼は迷う事なく申し出に頷いた。そんなもの、迷う事なぞ出来ようはずがない。彼が、己を助けてくれたのだ。その彼が今もまだ彷徨わされているという。見捨てる事は出来るはずがなかった。


「大人になったな、お前」

「だからホントに大人だよ、オレは・・・」


 決意と共にメイルの頼みを受けたカイトの頭を年長組の撫ぜるが、そんなカイトは呆れるしかなかった。彼らはあの時で止まったのに対して、カイトはあれからずっと歩き続けて様々な出会いと別れを経験したのだ。大人にもなろう。


「なーんか、ちょっとうらやましいなー」

「そりゃ、嬉しいな。オレはあんたらが死んだ事を悔やむ様に、って思って胸張って生きてきたからな」


 元は同じぐらいの年頃だった少年の言葉に、カイトが笑いながら胸を張る。それで、良いのだ。


「化けて出てやろうか」

「除霊して一発お陀仏にしてやらぁ」

「ぐっ・・・変に多才な奴ってのは知ってたけどまさかそれまで覚えるとは・・・」

「へっへっへ」


 カイトが楽しげな笑みを浮かべる。彼らのお陰で、今の己があるのだ。ならば、それを誇らねばならない。だから、彼らの前では涙を見せずに楽しげに笑うのであった。勿論、照れ隠しもあるだろうが、それはそれだ。

 そうして、そんなカイトはソラ達を混じえつつ、その頃のカイトの話やそれ以後のカイトの話等を語り合って、今日は全員で揃って眠りに就く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1007話『誇りと共に』

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