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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第53章 ラエリア内紛・序編

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第1005話 怨霊達との戦い

 『迷いの森』の奥へ足を踏み入れて森が人を惑わせる理由を突き止めたカイト達は、決意を新たに進んでいた。が、やはり奥に入る毎に足を止める事が多くなっていた。


「待って・・・」


 一同の先導を務めていたフロドが足を止めて、耳を澄ませる。流れる風の音と肌で感じる風の流れに集中しているのである。


「・・・こっち」


 しばらく耳を澄ませて神経を研ぎすませたフロドはそう言うと、まっすぐではなく僅かに右に逸れて歩き始める。どうやら真っすぐ一直線に進んでいたつもりだったのだが、僅かにずれていたのだろう。と、そうして再度歩き始めて、ソラがため息を吐いた。


「なんだろ・・・気持ち悪くなるとかは無いんだけど、嫌な気分になるな」

「ここら一帯にはもう、害意しか無いからな・・・完全に汚染されちまってる」


 カイトは闇夜とほぼ変わらない森の中を見ながら、悼ましげにため息を吐いた。明かりはほとんど届かず、居るだけで気が滅入る。森の奥はそんな空間だった。

 それに加えて、この粘着く様な嫌な気配だ。長居したくはなかった。ソレイユがかつて泣きたくなったのも無理はない。大人の男とて、一人なら泣きたくなる様な雰囲気だった。


「何人が犠牲になったんだろ・・・」

「わっかんね・・・オレ達が来た時点で実験はかなり進んでたはずだ・・・それを考えれば、数十とかじゃあないんだろうな・・・」


 ユリィのつぶやきにカイトが首を振った。いくら彼でも当時の現状やその後すぐに国が滅んだ事を考えれば、全てを知る事なぞ出来ようはずもなかった。何人が犠牲になったのか、なぞわからなかった。


「・・・でもこの調子なら・・・」

「多分、そろそろだな。全員、武器は手に取れる様に注意だけはしておけ」

「出るのか、そろそろ」

「ああ、多分な」


 瞬の言葉にカイトは頷いた。おそらく死にきれない奴らがリビングデッドの様に現れるだろう、という事は全員に伝えておいた。全員覚悟は出来ていたのである。そうして、更に1時間程歩いた時、かちゃり、という金属の鎧が擦れて鳴る様な音が鳴り響いた。


「・・・出たか」


 カイトが呟いた。彼の目の前には、骨の半ば見えたゾンビの様な存在が立っていた。それは鎧を着ていて、それが動いた際に音が鳴ったのだ。そして、それは一体だけではなかった。


「うぅううう・・・」

「あぁあああ・・・」

「っ・・・」


 翔が思わず、顔を背けた。見るに堪えない。蛆は居なかったが腐敗して骨が覗いていた。そして目には生気が無く、口から出るのは獣の鳴き声にも近いうめき声だけだ。


「全員、構えろ。せめて一時期的なものだろうと、一時だけでも眠らせてやろう」


 カイトは言うやいなや、刀の鯉口を切る。ここに居るのは、この更に奥にいる怨霊達が操る操り人形の様な物だ。ゾンビに見える存在はその怨霊達が生前を思い出して創り上げたから、だろう。魔力の塊。単なるそのはずだ。が、誰しもの顔は歪んでいた。


「行くぞ」

「「「おう」」」


 全員、小さく頷いて武器を手に取った。こんなもので何か変えられるわけでもないが、それでも、僅かに力を削ぐ結果にはなる。そうして、全員が一斉に戦闘に入る。


「・・・はっ」


 迷いなく、カイトは刃を振るう。が、そうして一打目で一気に顔を顰める事になった。


「っ!」

「カイト、こいつら!」

「強い!?」


 ユリィの言葉にカイトが困惑する。ランクで表せばB程度の魔物と大差がない。予想以上の強さだった。が、そうして思い出した。彼らが殺されたのは、300年も昔の大戦期だ。今よりも遥かに強いのである。


「しまった! 気をつけろ! こいつら、一体一体が物凄く強いぞ!」

「もう理解してる! 『リミットブレイク・コンマワンセカンド』!」


 ソラは一撃目で相手の戦力を悟ると、即座にブーストして強引に押し切る事を選択する。今までは哀れみや憐憫等の感情を感じていたが、一転戦闘が始まってしまえばそんな事を感じる事も出来ない程の相手だと思い知らされたのである。そうして、力押しで鍔迫り合いに押し切ったソラは相手にたたらを踏ませると、回し蹴りを放った。


「っ!」


 回し蹴りを放ったソラの顔が驚きで見開かれる。なんとたたらを踏まされた状態から一瞬で立て直って即座に盾で防御してきたのである。しかも、器用に腕を振るって遠心力でソラの攻撃の勢いを相殺していた。

 身体性能では同格に近い相手だが、身体の使い方は相手の方が上だった。明らかに、実戦慣れしている様子だ。それも対人戦で、である。これが、戦争を生きた者と平時を生きる者の差だった。


「ちぃ! これ、明らかに子供の腕前じゃねぇぞ!?」

「っ! そうか! 元々大人の実験されてたからか!」


 ソラの言葉にカイトが違和感の根源を理解する。元々、大人で実験して無理だったから子供を使い始めたのだ。最初は負傷兵を使っていた事は想像に難くない。そしてその数は、大人の方が多かっただろう事は予想出来た。少年兵達が相手なのではなく過去の本物の軍人達が相手。そう考えるべきだろう。


「はぁ!」


 ソラは子供を相手にするのではなく、大人の兵士を相手にする心積もりで戦う事にする。とは言え、良い事もある。相手がゾンビの様な相手である上に遠くからの遠隔操作なので本調子ではないらしく、生前よりもワンランクからツーランク程度性能が落ちている様子だった。


「良し・・・これなら、なんとかなる・・・おぉおおお!」


 ソラは何度かの立ち回りの間に手応えを感じると、今度はブースト無しで鍔迫り合いに持ち込んで押し切って、そしてそのままタックルする様にして木に相手を叩きつけた。


「先輩!」

「ああ!」


 ソラが木に敵を叩き付けると、そこに瞬が割り込んで槍を突き立てる。そうして、炎で完全に吹き飛ばした。調整はしているので、木が燃えるという事もなくただ敵だけを完全に消滅させた。


「良し」

「なんとか、行けそうっすね」

「ああ・・・翔、お前は他の奴の牽制! ソラが抑えろ! 俺がとどめを刺す! 一体一体仕留めるぞ!」

「うっす!」

「はい!」


 瞬の指示を受けて、ソラと翔が即座に彼のフォローに入る。この組み合わせが今回のベストだろう。一方、木更津はカイトと共に赤羽根、フロド・ソレイユの兄妹を互いに支援しあっていた。

 こちらはやろうとすれば武器の練度と一撃の重さがあり敵を武器ごと切り裂ける。一撃で押し切れる。とは言え、ちまちまとやっていれば囲まれる可能性も高い。なので弓兵達に近づかない様に囮となり、弓兵達が確実に討伐していくスタイルにしたらしい。

 300年前の兵士達は個々の練度は高いものの資材不足等で武器の性能がかなり悪い。木更津も多少の修練の差ならば武具の性能の差で押し切れたのである。


「悪いな。後できちんと、弔ってやるから」


 カイトは武器の性能の差で敵の片手剣を軽々と切り裂くと、そのまま一気に敵を両断する。敵はそのまま塵になって消えていった。そして同様に木更津もまた、居合斬りで敵を武器ごと切り裂いていた。


「・・・こんななまくらで、貴方達は戦わされていたのか・・・」


 木更津は悲しげに目を伏せた。相手は剣技に自信があるらしく、その初撃は思わず彼が目を見開いた程だった。素直に、今の相手は体術なら負けていると思えた相手だった。が、一合本気で打ち合うだけで武器の方が耐えられなかったのだ。

 本来なら、勝てないかもしれない相手だった。勝てても手痛い手傷を負わされただろう相手だ。同じ剣士として、これほど悲しい結末と理由はなかった。と、そんな剣士としては仕方がない悔しさを滲ませた木更津に対して、赤羽根が声を荒げた。


「っ! 木更津! 呆けている場合か! 後ろだ!」

「っ!」


 木更津が目を見開いて、後ろを振り向いた。敵の数は数十人単位だ。一人倒した所で終了ではない。気を抜いたのは、明らかな悪手だった。


「っ!」

「はっ!」


 拙い、と木更津が何とか身を捩ると同時。ソレイユが矢を放った。目の端で木更津の状況は捉えていたらしい。彼女は木更津の方を向いていなかったのだが、矢がまるで意思を持つ様に軌道を変えて木更津を狙う敵の胴体を貫いた。


「っ!」


 それを見た木更津は魔力を放って強引に体勢を立て直すと、そのまま力技で剣戟を叩き込む。元々敵はソレイユの一撃でバランスを崩していた上に、防具の性能も考えるまでもない粗悪な品だ。相手は防御をする事も出来ず、楽々と防具を切り裂かれて塵になって消え去った。


「ふぅ・・・」

「もう、呆けるなよ!」

「すいません! ソレイユも感謝する!」

「いーよ! でも気を付けてね!」


 木更津の感謝を受けて、ソレイユはそちらを見る事もなく注意を促す。そうして木更津も今度は感傷を抜きにして戦い出す事になるのだが、しばらくして、全員の顔が歪んだ。


「これは・・・」

「なかなか減らないっすね、これ・・・」


 瞬の顔を見て、ソラが苦笑気味に笑いかける。彼の言うとおり、減っている気がしないのだ。とは言え、たしかに減ってはいる。

 いるのだが、一体一体片付けるのに苦労させられてなかなか数を減らせないのである。相手の練度が高い所為でなかなか仕留められないのだ。カイトも周囲を守りながらなので、相手の練度の高さもあって一気には仕留められなかった様子だ。


「行けるか・・・?」

「ちょっと疲れそうっすね」

「そうだな・・・とは言え、負ける相手ではないのが、幸いか」


 幸いといえば幸いなのは、武器の差が大きい事だ。相手は実力に見合わない武器を使っている。そしてこちらの武具は本来は不相応な品だ。その差が、大きかった。焦ったり変な事をしなければ負ける相手ではなかった。

 が、相手の数が数で、練度も練度だ。練度だけで言えばランクはBそこそこ。武器の性能のお陰でランクC程度になってしまっているというだけだ。速攻を掛けられる相手ではなかった。翔や弓兵達に牽制してもらいつつ、なんとかやっていくのが精一杯であった。


「うっす・・・じゃあ、いっちょやったりますか!」

「ああ!」


 ソラと瞬は頷き合うと、再び攻勢に転ずる。と、その瞬間だ。声が響いてきた。その声は魔術を使っているらしく、敵には悟られない様に全員の脳裏に響いていた。


『全員、跳べ!』

「「「っ!」」」


 声に導かれる様に、全員が一斉に飛び上がる。と、それと同時だ。木々の上から、巨大な大鎚を持った少年から青年になる程度の男が入れ替わりに地面へと落着する。彼は地面に落着すると同時に大槌を振り下ろしており、その振動で敵が動きを止める。


「あれは・・・」

「嘘・・・」

「ぼさっとしてねぇでさっさと来い!」

「っ!」


 明らかにカイトとユリィを見て告げられた言葉に、カイトとユリィは疑問も感慨も全て置き去りにして行動に移る。何をすればよいか、ではなく何を相手が望んでいるかなぞわかっていたからだ。そうして、カイトは男の構えた大槌の上に乗った。


「っと、随分とでかくなったもんだ。これなら、遠慮なくやれそうだな」

「どんだけ経ってると思ってんだよ。こちとら今じゃ伝説の勇者様だ」

「知らねぇよ・・・おぉおおおお!」


 着地から打ち上げまでの僅かな間。カイトと男が会話を交わす。そうして、その次の瞬間。雄叫びが響いてカイトが男によって思い切り打ち上げられた。


「空の彼方まで行って来い!」


 音速の壁をぶち破り、カイトが遥か上空へと打ち上げられる。それに、カイトは迷いなく空中で地面を前に向くように、体勢を整える。それと、ほぼ同時。カイトの足元へ魔力の壁が出来て、更に彼へと多重に強化の魔術が幾重にも掛けられる。


「・・・行くぜ」


 カイトは牙をむく。何が起きているのか、なぞ未だにさっぱりだ。さっぱりだが、わかっている事はある。ここが勝負を決めに行くべき時である、という事だ。森の中には無数の矢が降り注いで、敵の身動きを封じていた。これなら、全員に確実に当てられる。


「ユリィ!」

「あいさ! 聖炎点火!」


 カイトの要請を受けたユリィが彼の持つ大剣へと白色の炎を纏わせる。手にした大剣は、ルクスが手にした聖大剣ルクセリオンだ。ここのゾンビ達を吹き飛ばそうと何も変わらないが、相手の力を削ぐ結果である事には変わりがない。そしてこれで少しは削る力が増えれば、とも思う。

 なので徹底的に吹き飛ばしてやるつもりだった。そうして、カイトは虚空に生み出された地面を踏みしめて身を屈めて、地面へと一気に跳び出した。


「此れなるは聖騎士が振るいし聖なる大剣! 禍々しき想念を振り払いし聖なる刃なり! 行くぜ、<<天地鳴動・聖(セント・クエイク)>>!」


 カイトは地面へと大剣を深々と突き刺して、力を流し込む。それはまるで地面に染み渡ってひび割れの様に光を吹き出していき、それに触れたゾンビ達を消し飛ばしていった。


「・・・うん、久々に前口上やってみたけど恥ずい」

「やんなきゃ良いのに」

「うっせい」


 ユリィの茶化す言葉にカイトは照れたようにそっぽを向く。よほど特殊な(スキル)でもない限り、本来は前口上なぞ必要がない。なので言ったのは完全に気分だ。そうして、カイトがほぼ全ての敵を消し飛ばしたのを見て、他の一同が避難していた木々の上から降りてきた。


「凄いな・・・」

「やる暇が無くて出来なかったけどな・・・援護さえ貰えれば、あの通りだ」


 驚いた様子の木更津に対して、カイトは肩を竦める。あの状況でカイトが抜けると戦線が瓦解しかねなかった上に何も知らない者達の前でもあって安易に力を振るえないという事情もある。ちまちまと叩くしか無かった。が、援護さえ入れば別だった。と、そんな二人に対して、瞬が援護をくれた男に頭を下げた。


「ありがとうございました」

「いや・・・構やしねぇよ。にしても、随分とでかくなりやがったなぁ、お前も。ちびはちびのままだけどな」


 男はそう言うなり、カイトの頭を鷲掴みにする。いや、鷲掴みにしているのではなく、あれでも撫でているつもりなのだろう。が、カイトは笑っているだけだ。と、そんな男にユリィが抗議の声を上げた。


「うるさいよ!?」

「知り合い、なのか?」


 明らかに見知った様子の二人に対して、木更津が問いかける。しかし、答えは三人ではなく別の所からやってきた。


「知り合いというより、元仲間、かしらね。元と付けるべきかどうかは疑問だけど・・・」

「ティリス。お前さんが一番疑ってたじゃねぇか」

「そりゃ、こんだけかっこよくなってればしょうがないじゃない?」


 ティリスと呼ばれた魔術師服の女性の後ろから、更に別の槍を持った少女が現れる。そうして、10名強の少年少女達が現れた。年の頃は最高でも高校三年生ぐらい、下は中学生程度だろう。


「・・・200年・・・いいえ、300年ぶりね」

「・・・姐さん」


 最後に一番奥から現れた女性にカイトが感慨深げに話しかければ、そんなカイトの頭はその次の瞬間には吹き飛ばされていた。


「姐さん言うな!」

「いってぇ!? 感傷台無し!?」

「あぁん?」


 吹き飛ばされたカイトが抗議の声を上げる。が、女性はそれに睨みつけるだけだ。かなり口が悪かったし、目つきはもっと悪かった。


「ごめんなさい・・・」


 地面に倒れ込んでいたカイトはそのまま土下座に移る。どうやら精神的にそもそも敗北しているらしい。


「始めっからそうしろっての・・・あら。ご、ごめんね。口が悪くて・・・」

「今更取り繕う事かよ・・・」


 口汚く呆れた女性に対して、その仲間がため息混じりに呟いた。こうして、カイト達は謎の集団との会合を果たす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1006話『死せる者達の願い』

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