第1002話 数秒の手掛り
カイト達がかつての少年兵達の遺品となる彼らが使っていた各種の武具を回収していた頃。ホタルはカイトの指示に従って各部屋を調査していた。というわけで、カイト達の居る部屋にたどり着くのはさほど時間は必要がなかった。
「マスター。中間報告を行います」
「っと、ホタルか・・・ああ、お前らは作業を続けてくれ」
カイトは武具をとりあえず埃を拭って専用の保存容器――そこら辺にあった――に収める作業をしていたが、それを中断してホタルに向き直る。
「頼む」
「了解・・・現在破壊の痕跡が著しい巨大な空間二つと医療施設と思しき空間の調査を終了。が、何らかの違和感は見付けられず」
「ふむ・・・東側のエリアは何もない、か・・・」
『実験室と医務室は共に万が一の暴走の際には破壊される可能性は高い。そちらに設置する可能性は無かったか』
「だろうな・・・医務室はあり得るかも、と思ったんだが・・・」
レヴィの推測を聞きながら、カイトは頭を掻いた。どうやら、ここまでは外れらしい。
「ふむ・・・地下一階から繋がっている可能性もあるか。上階から調べた方が良かったか・・・?」
『いや、その場合でもどこかで観測結果が出るはずだ。上はここで出なかった場合で良いだろう』
「・・・そうだな。ホタル、このまま続行だ」
「了解・・・ではこの部屋から再開します」
「ああ」
ホタルの言葉を受けてカイトは再び遺品の回収作業に戻り、ホタルは調査を続行する事にする。と、そんな所だ。ホタルの持つ検査機が赤い光を放った。
「ん?」
「マスター。この先、未知の空間を観測。音響測定をした所、空洞を確認。形状から見て階段と思われます」
「ここかよ・・・」
まさかの隠し扉があった部屋に居た事にカイトはため息を吐いた。ここに隠し扉があることはカイトも知らなかったし、ここの少年兵達の誰も知らないだろう。
とは言え、ここなら確かにわからないでもない。ここに研究者達が入る事は稀だし、カイト達はそもそも自由に入れなかった。倉庫というのは、確かに隠し扉を作るにはうってつけの場所だろう。
「ホタル。まずはここの部屋の整理を手伝ってくれ。その後、開封作業に入ろう。幸い部屋そのものは生きていた様子だから、風化はしていない。埃を払って武具保存用の容器に収納してくれ。容器は部屋に転がってる・・・相当慌てて逃げた様子だからな」
「了解」
ホタルはカイトの指示に従って、カイトがしていた様に埃を拭って武器を保存用の専用容器に入れていく。元々ここは武器庫だ。なので持ち運ぶ為の容器は大量に保管されていた。
そうして、更にホタルを加えて一同は量産品以外と思しき物を全て丁寧に回収していく。と、大凡片付けた所で、カイトはある物に気付いて目を見開いた。
「・・・お前・・・予備あったのか」
「どったの?」
「これだよ、これ・・・」
「あ・・・」
カイトが指差した先にあった数振りの大剣を見て、ユリィも目を見開いた。それはかつて椿に与えた大剣の元となる試作品と同じ様に思える武器だった。そして同時に、カイトを脱走計画に無理やり引き込んだ少年の使っていた武器でもあった。
「・・・でもこれ、多分・・・ちょこっと改良されてるね」
「そりゃ、あれが試作品だったからな・・・っ。やっぱキツイな、ちょっと」
カイトは武器の横に置かれた解説の為の取扱説明書の様な資料を手にとって、一番改良が施されていそうな試作品を手にとって力を込めてみる。すると、途端に己と相反する力の奔流に顔を顰める事となった。と、どうやらその力の奔流は別の少年にも、影響したらしい。唐突に悲鳴が上がった。
「うぉ!? なんかゾクって来たぁ!?」
「ちょ!? 怖いこと言うなよ!? ここ、ガチで出そうなんだぞ!?」
悲鳴を上げたのはソラで、それに驚いたのは翔だ。ソラは龍族の血を引いているわけで、となれば必然、この武器の持つ『竜殺し』の力の影響を受けてしまうのであった。それをカイトも思い出して、慌てて力の流入を止めた。
「あ、そか。悪い、お前も龍の血引いてるんだったよな」
「びっくりしたー・・・いきなり何があったかと思ったわ・・・」
「いや、何が起きたんだ?」
「あはは・・・悪い悪い。これ、ちょっと曰く付きの物でな。竜を殺す謂わば『竜殺し』の類の品なんだが・・・ちょっと試しに力を流し込んだらどうやらソラが反応したらしいな。悪い」
翔と同じくびっくりした様子の瞬に問われて、カイトが少し照れながら謝罪する。つい懐かしくて使ってしまったが、よくよく考えれば迂闊だった。と、そうして『竜殺し』である事を教えられたからか、三人共興味を持ったらしい。
「それが・・・『竜殺し』?」
「その試作品の一つ、だろうな。この研究所ってかこの研究所が属していた国は龍族と何らかの所以で戦っててな。それで龍を殺す力を作ろうとしていた時代に出来上がった物の一つ、だろう。ここの少年兵達と同じだ・・・ソラ、お前はわかるだろうが、迂闊に触るなよ。ミントと同じように反作用で痛い目にあうぞ」
「だな・・・じゃあ、そこら一帯は任せていいか?」
「ああ・・・この一角はなるべく注意して触る様にした方が良さそうだな。全員、この一角に近づく際はなるべく魔力を抑えて近づく事。ついでだしここらの武器は貰っちまおう。特攻持ってる武器、なかなか手に入らないしな」
ソラが少しだけ距離を取ったのを受けて、カイトが改めて注意をしておく。本来ならここの武器は単なる試作品や量産品という事でそのままにしておくつもりだったのだが、どうせこの研究所は遠からず完全に破壊されるし、こういった特定の相手に有効な装備は使い手を選ぶがハマれば強い。それに大半がワンオフなので手に入りにくくもある。
なら破壊されてみすみす失うよりも、ここでカイト達が貰っておいた方が遥かに得だ。これは盗掘だが、研究所が破壊されれば誰もここに何があったかはわからなくなる。そもそもここに入っている事そのものが、本来は犯罪だ。なのでもう一緒と判断したようだ。多少図々しくないと冒険者なぞやってられないのであった。
「良し・・・結構良い武器あったな」
「なにか・・・ミイラ取りがミイラになった気分だな」
「盗掘者に盗まれない様にしてちゃっかりもらうもん貰ってますからね」
一通り貴重と思える武器を回収した後、瞬と翔が笑い合う。武器にせよ防具にせよ、人論にもとる研究結果に対応する為にかなりの高性能な装備が整えられていた。捨てるのは確かに惜しい品物ばかりといえば、ばかりだった。と、その一方でカイトはホタルへと隠し通路へ続く場所を聞いていた。
「良し・・・じゃあ、ホタル、場所を教えてくれ」
「了解・・・こちらの壁です」
ホタルはカイトの指示を受けると、隠し扉があると思われる壁の前に手を当てる。そうして、カイトも試しに壁を叩いてみた。
「ふむ・・・確かに僅かに魔力の波動に歪みがあるな・・・」
「肯定します」
カイトの感じた感覚をホタルも認める。かつてのカイトとユリィでは気付けなかった程の僅かな歪みだが、たしかに何かがあると思われる歪みがそこにはあった。
「ユリィ、ホタル。行けるな?」
「肯定します」
「何時でもオッケー」
カイトの問いかけを受けた二人が準備が整っている事を告げる。そうしてそれを受けて、カイトがホタルに背を向けた。
「失礼します」
「ああ・・・っと、あ、体温あるんだ」
「元々本機には性欲処理の機能も備わっておりましたので」
「あー・・・確かに鉱物っぽいと興ざめ・・・って、そりゃ良いか」
己の背に乗っかったホタルの柔らかかつ温かみを背中に感じて、カイトはその理由に納得する。が、今はそれはどうでも良いので次の行動に備えるだけだ。と、そうも言っていられないのがソラ達だ。いきなりの奇妙な行動に瞬が問いかけた。
「・・・なぜいきなりおんぶしだしたんだ?」
「? ああ、これか。オレの方が速いからな。此処から先、何秒の余裕があるかわからん。オレがホタルを背負って突っ走って行ける所まで行って、ホタルには記録にスペック全振りしてもらった方が良い。で、万が一やばいってなった場合はホタルが上に魔術ぶっ放して脱出路確保して、オレ達は一気に地上に脱出、って腹だ」
「というわけで、ちょっとごめんね。<<妖精の繭>>」
「「「もごっ!?」」」
ユリィが謝罪すると同時に、彼女の手から魔糸が放たれて三人の身体を完全に包み込む。彼らの防御よりもユリィの魔糸での繭の方が圧倒的に強固だ。そして何より、反応速度も比にならない。万が一が起こる場合を考えれば、彼女に全てを預けるのが正解だろう。
そうして、用意を完全に整えたカイトはユリィと頷き合う。そして、その次の瞬間。脚力に強化を最大に集中させたカイトが隠し扉と思しき壁を強引に蹴破った。
「っ!」
それと、同時だ。超高濃度の魔力が地下階に蓄積していくのを、カイトもユリィもホタルも一瞬で感じ取った。が、カイトは迷わず、それに向けて階段を駆け下りる。
<<縮地>>は使っていないが、それよりも遥かに速い速度だった。そうして、途中壁を蹴って加速しながら僅かコンマ数秒にも満たない時間でカイトは一気に最下層にまで駆け下りる。
「はっ!」
カイトとホタルを出迎えた扉をカイトは再度強引に蹴破る。そして部屋に突入すると同時に、ホタルは全ての検査機を最大性能で展開して、部屋で得られるだけの情報を得るべく録画を開始する。
「あれは・・・っ」
カイトはなるべく部屋全体をホタルが撮影出来る様に注意しながら、部屋の中央に明らかに目立つ様に設置された黒い宝玉を発見する。それはかつて暦が迂闊に触って死にかけた時の物だった。
これで、ここに『死魔将』が居た事は確定だ。あれは彼ら以外には作れないはずだろう。そして、もう一つわかったことがあった。
「何らかの組織がやはりあるか」
「マスター」
「限界か」
ホタルの言葉でカイトが身を屈めると同時に、彼女は天井へ向けて手のひらを向ける。魔力の濃度が明らかに危険領域を突破しており、脱出しなければならないだろうと判断したのだ。
「っ」
「<<メギド>>」
カイトが地面を飛び上がると同時。ホタルの手から白い閃光が迸って、天井を丸ごと吹き飛ばした。そうしてカイトが地下二階の床を通過するとほぼ同時に、ユリィも地面を蹴って三つの繭と共に上へと飛翔を開始する。
「来るか!」
三人とソラ達を包み込んだ繭が研究所の屋上から飛び出ると同時に、研究所の地下で漆黒の閃光が巻き起こって内部が完全に消滅する。と、その次の瞬間だ。その存在のエネルギーを吸収するかの様に黒い宝石がその閃光を吸収して、巨大な魔物の影を映し出した。
「・・・あっらー・・・こりゃデカイな・・・」
少し離れた地点に着地したカイトはホタルを降ろして敵を見上げる。どうやら『死魔将』達はここをあまり見られたくはなかったらしい。確実に研究所が破壊されるだろう100メートル超級の岩石の巨人が生み出されていた。研究所はそいつの足の下にあり、完全に崩落しているだろう。
もしカイト達が研究所を破壊しないでも、こいつが破壊してくれる。『死魔将』が関わったとは誰も思わないだろう。と、そんな考えをしていると、ソラ達が繭から解放された。
「ぷは・・・って、何だこりゃ!?」
ソラが目を見開いて絶叫する。まぁ、彼らからしてみれば唐突に繭に包まれたかと思えば、その数秒後には外に出ていて、目の前には巨大な魔物だ。驚くのも無理はない。
「なんだ、これは?」
「さっぱりだ。あいつら最近、新種の魔物を生み出すのにでも嵌ってんじゃねぇかね」
瞬の問いかけにカイトは肩を竦める。似た魔物なら数種知っているが、身体の要所要所が硬質化している巨人系の魔物は見たことがなかった。どこかのレアな亜種を再現したか、かつての『海の怪物・亜種』の様に改良を加えた新種かのどちらかだろう。
「何? そんなのんびりとしていて良いのか?」
「いや、だってここ・・・普通に射程圏内だぜ?」
瞬の問いかけにカイトは笑う。と、その次の瞬間だ。夜空を切り裂く一条の光が飛来して、100メートル超の巨大な魔物の胴体を通過していった。
「なんだ!?」
どごぉん、という轟音と共に、巨大な魔物の胸に穴が空く。胸には何らかの金属で出来た防具らしき存在があった筈だが、それも無視の問答無用だった。と、それで姿勢を崩した巨大な魔物だが、そこへ今度はまるで流星群の様な光が無数に飛来する。
「「「うわぁ!?」」」
三人が一斉に耳を塞ぎ、身を屈める。そして、次の瞬間。轟音が連続して巨大な魔物の胴体を蜂の巣にして、最後にもう一度巨大な一条の光が飛来して敵の姿を完全に粉々に打ち砕いた。
「ま、<<一条の光>>と<<夜空に輝く流星群>>のコンビにかかりゃ10キロ程度普通に射程圏内だわな。この程度じゃあ証拠隠滅にしかならねぇよ」
カイトは遥か西を見る。そちらから、光は飛来していた。そしてそこに居るのは、あの二人だ。
『兄ぃ、命中したー?』
『にぃ! どうだった!?』
「お見事、余裕で全弾命中だ。とりあえず手に入れたい物は手に入った。帰るよ」
どうやら研究所の破壊と共に、結界も解除されたようだ。そしてあの大きさだ。夜とは言え深夜ではない。多くの者が目撃した事だろう。確実に、街にも警告が向かったはずだ。
『にぃ。急いだ方が良いよー。街から大急ぎで軍の警備隊が様子を確認しに行ったから』
「っと・・・わかった。こっちもバレると拙いからな。密かに帰る」
ソレイユの言葉にカイトは頷くと、即座に隠形を施してソラ達と共に戻る事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1003話『最後の休息』




