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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第53章 ラエリア内紛・序編

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第999話 悔恨の証

 今回の潜入任務において道案内役を務めるフロドとソレイユの兄妹と合流したカイト達は、彼らとの打ち合わせを終えると宿屋に戻ってきていた。と言っても戻ったのは別の宿屋だ。ここからは、ヴィクトル商会の管轄外だ。故に面倒にならない為、別の宿屋に泊まる事になっていたのである。 


「さて・・・とりあえず一度こっちはユニオンと北部軍に連絡を取ってくる」

「おう。頼むな。こっちは地図みて確認しとくよ」

「ああ」


 カイトはソラの言葉を背に、フロド、ソレイユのハーフリングの兄妹とユリィを連れて一同から少し離れた所に移動する。


「オレだ」

『ああ、貴様か。合流出来たか?』

「うん、居るよ。ソレイユも一緒」


 通信に応じたのはレヴィだった。聞けば今回の一件には『死魔将(しましょう)』が介入している可能性がある為、北部軍から依頼されて彼女が指揮官となる事になったようだ。

 彼女は正確にはどこのギルドにも所属していない個人の冒険者だ。依頼されて軍師として活動しても可怪しくはない。そうして、カイトはレヴィへと打ち合わせで決まった内容を伝えていく。


「と、いうわけだ。やはり中央ルートを突破する事になる」

『・・・そうか』

「えらく感情が滲んでいる様子だね」

『色々とある。私にも、そいつにも』


 レヴィはフロドの言葉に苦笑を交える。どうやら、何らかの出来事が彼女にもあったのだろう。とは言え、過去に一つや二つ傷を持つのは冒険者なら可怪しくはない事だ。語られないのなら、聞かないのが冒険者のマナー。フロドもソレイユもそれを理解していたので、語られないので聞かない事にした。


「まぁ、マナーだから聞かない事にするけどね」

『そうしろ・・・とは言え、それなら中央ルートでこちらも作戦を立てる。伝達は請け負った』

「ああ、任せた・・・それで」

『やはり気付いたか』


 カイトの申し出を聞く前に、レヴィは半ば笑ってその先を理解したようだ。伊達に預言者と言われているわけではない。


『ああ、私だ』

「やっぱりか」


 カイトの顔に苦笑が浮かぶ。そんな所だろうと思っていた。そういう表情だった。


「どういうこと?」

「西の研究所の調査班に横槍を入れたのが預言者殿だってことだ」

『そうだ・・・色々とあってな。私が横槍を入れさせて貰った』

「ああ、そういうこと」


 レヴィと西にある研究所とは何らかの関係があるというのは先程の一幕で理解出来た。であれば、これで十分だし、これ以上は不要だ。


「・・・せっかくだ。こちらから全部破棄して構わんだろう?」

『好きにしろ。どうせ国の奴らも誰がやったかまでは、気付きはしまい。あれは大戦期の忌むべき遺産だ。人類史に刻まれているのもおぞましい、な』

「あいさー。ユリィ、後で行くぞ」

「おっけー」


 カイトの求めにユリィが応ずる。あそこには、あってはならない資料が大量にある。いくら考古学的な分野だから、と調査研究の資料は見られて気持ち良い物ではなかった。


「あ、じゃあ僕らはこっちに残って一応援護出来る様に整えておくね」

「そうだな、頼む」


 カイトはフロドの提案を受け入れる事にする。彼らの場合この街から研究所はどういう状態でも普通に射程距離内だ。普通にやれる。そうして更に少し打ち合わせを行った後、カイトはユリィを伴って移動する事にした。


「じゃあ、とりあえず行ってくる」

『ああ。完全に抹消しておけ。あれはこの世に残されて良い資料ではない』

「わかっている」

『ああ・・・ああ、そうだ。万が一に備えて向こうでは結界を展開しておけ。誰かに見られて国に報告が入っても面倒だし、盗掘者が居た場合は貴様らで処理しておけ』

「わかった。念のため、ウチのに出る事は伝えておく。緊急はそちらに連絡を入れてくれ」


 カイトは万が一の場合の対処を聞きながら、こちら側の対処を伝えておく。通信機はカイトとソラ、そして瞬の三名が持ち合っている。どんな場合でも最低ツーマンセルで行動する事にしていたので、三つで大丈夫だという判断だった。それにあまり持ち合わせても盗聴される危険性がある。


「さて・・・じゃあ、用意してくるか」


 カイトは通信を終えると、用意を整えて夜に紛れてかつての惨劇の跡を完全に始末する事にする。そうして、一度他の面子に野暮用で外に出る事を伝えると、夜闇に紛れて街の外に出た。


「・・・懐かしいな、ここら辺も」

「うん・・・」


 街の外に出たカイトとユリィは歩き出す前に夜空を眺める。そこには満天の星空が浮かんでいた。と、外に出た事で密かに隠れていたホタルが姿を現した。


「ここら辺をご存知なのですか?」

「ああ・・・オレが一番初めに別大陸に足を伸ばした時、偶然に流れ着いたのがここだった」

「ここから西にある海岸に、流れ着いたんだよね」

「まっさかもう一回嵐に巻き込まれるとは思ってなかったからなー」


 カイトとユリィは笑い合う。船が沈没した後、カイトとユリィはディーネの力を借り受けて海の上を普通に進んでいた。進んでいたのだが、途中でまた嵐に巻き込まれて海に飲まれてしまったのである。

 とは言えこの時はディーネの助力によって溺死する事もなく、普通に海流にのって運ばれてここの西側にある海岸線にたどり着いたのであった。


「その時、偶然海に居た少年兵達に拾われたのさ・・・そいつらが所属していたのが、ここから西にある研究所だ。後から知った事だけどな」


 カイトはどこか懐かしさを滲ませながら夜空を見る。そこで助けられたカイトは少年兵達の中に居た衛生兵の治療を受けて、そこで別れてその国で募集されていた傭兵の募集に参加して、この西の研究所の配属になったのであった。


「その研究所で行われていた事の詳細は、オレも知らん。当時は13の小僧だ。知り得ても理解は出来なかっただろうしな」

「戦争終了後も破壊しようかどうか悩んだんだけどねー」

「あはは。当時のオレはどこに行っても常に人が近くにいた。破壊は難しかった。ウィルからも止められたしな」


 カイトとユリィはこういうことがあった、というのを話し合いながら、10キロ程先にある研究所跡を目指して、移動していく。そうしてのんびりと一時間程歩いた頃。彼らの目の前にはボロボロになった建物の残骸が現れた。


「・・・懐かしいな、ここも」

「懐かしい、って思いたくないけどねー」

「そりゃそうだ・・・さっさと終わらせる事にするか」

「だね」

「ホタル、結界を頼む。誰か近づきそうになったら、排除も頼んだ」

「了解」


 カイトはホタルに周囲の警戒を任せると、己はユリィと共に懐かしい研究所の扉を潜った。


「表向きは普通の研究所・・・だったな」

「うん・・・」


 二人の顔に悲しさが浮かぶ。ここで行われていたのは、少年少女達を使った人体実験。更に昔には大人も使われていたそうだが、研究結果によって子供の方が良いとされた結果らしい。そうして、二人は手分けして研究資料を破棄していく事にするのだった。




 一方、その頃。カイト達を送り出したレヴィはというとラエリアの上層部とのやり取りを終えて再び戦略を練っていた。


「ふむ・・・目的地は南部の『パルテール』・・・おそらく持ち込んだのが奴らだとしてこちらが中央ルートを通ると考えるのは妥当な判断だろう・・・であれば、敵はどう出る?」


 考えるのは、『死魔将(しましょう)』がどう動くか、という所だ。考えられるのは、カイト達が南部で戦闘を行った隙に何処かから何かを運び出すというやり方だ。手品師がよくやるやり方だ。

 そして『道化の死魔将(どうけのしましょう)』が好むやり方でもあった。やはり彼も人である以上、好む戦術という物がある。時折その定石を外してくるから厄介な相手だが、基本的なベースはそれで良かった。


「ふむ・・・北部軍の管轄は私の手が回っている・・・であれば、ここらから何かを運び出そうとすれば即座に伝わるな。やはり、北部軍の管轄ではないと見て良いか」


 レヴィは消去法で北部軍の管轄下には無い場所が目的と推測する。それぐらいは自分達だって注意している。そして更に、消去出来る場所があった。


「次に奴らが囮を置いた『パルテール』の周辺も却下・・・そして今後こちらが向かう事になるだろう『パルデシア砦』も却下出来る・・・」


 レヴィは続けて、カイト達が入った『パルテール』、次の作戦での攻略目標であり、カイト達が冒険部として攻略の依頼を受けている『パルデシア砦』の二つを除外する。両者ともにカイトの手が入る場所だ。ここに置いた所で即座にバレると考えて良い。

 確かに後者は戦場になる見込みが高い故に物資の出入りは激しいが、それ故にレヴィも密偵を放って監視している。なぜこんなものを持ち出したのだ、というのではない限り、見付けられると見て良い。


「では、どこだ・・・? 他は・・・南部軍が臨時首都と定めた第二首都『ラクシア』は・・・ふむ・・・東部もあり得るな・・・いや、南部よりも東部の方が監視は薄いな・・・現状を考えればこちらが目的の可能性もあり得るか・・・ふむ・・・」


 レヴィはしばらくの間、幾つもの可能性を考える。一応、メインは南部だと思っている。思っているが、東部の南部軍の管轄下のどこかに特殊な物資があり、それを回収したい、と考えている可能性はあり得る。

 昔と違って今の敵には領土はない。そう言う特殊な素材を回収出来る伝手もない。何らかの特殊な素材がある場合、何らかの策を利用して密かに入手するしかないのだ。何かをしている事が確定である以上、それ狙いも十分にあり得る。


「ラエリアにある固有の素材は・・・」


 レヴィは頭の中にラエリアで産出される素材のリストを展開する。と、そうして少し考えて様々な可能性をリストアップした所で、彼女の机の前にコーヒーが差し出された。


「お疲れ様です、預言者様」

「ああ、すまない」

「いえ・・・大丈夫ですか?」

「ああ・・・ふぅ」


 レヴィは苦いコーヒーを口にして、思考が煮詰まってきた事もあって一度休息を入れる事にする。そうして思うのは、カイトの事だ。


「ふむ・・・やはり研究所は破壊したいと考えるか・・・当たり前か。あそこでは地獄が繰り広げられたのだからな・・・」


 レヴィはそう言うと、コーヒーカップをソーサーに置く。と、そうして考えを口にしてみて、何か違和感を感じる事に気付いた。


「・・・む?」


 ふと、気になった。カイトはかつて、あの研究所に入ったという。それはたった数週間の事で彼は怪我の治療等がありその時点で何かされたという事は無かったのだが、それでもそこに入っていたのは事実だ。


「あの国の裏には奴らが居た事は確実・・・そして奴らは・・・であれば、あの施設にカイトが入れられたのは奴らの意思か・・・?」


 レヴィは300年前から考えてみて、それが妥当と結論を下す。今は滅びた国の裏には、『死魔将(しましょう)』達が介在していた。これは道化師が側近に化けての事だったが、それでも意思決定において重要なポジションにいた事は事実だった。

 となると、カイトの事を元々知っていた彼らの事だ。あの研究所に入れられたのは、彼らの意図があると考えるのが妥当だろう。当時のカイト達は大方単に若かったから、としか考えていなかったが、もしここに『死魔将(しましょう)』達の意思が介在していた場合、それは何らかの意図があってのことだと推測される。であれば、また別の見方も出来た。


「であれば・・・何が目的だ? 300年前にここに送り込んだとして・・・いや、まさか・・・あの時点であの研究所は破壊されるのが目的だった? いや、それはな・・・まさか、破壊されていた施設はブラフ・・・なのか? っ! そうか! やられた! 今の事を見越していたのなら、それも手の一つか!」


 レヴィが目を見開いた。どうやら敵の手を読めたらしい。そうして彼女は大急ぎで通信機を起動する。


「カイト、聞こえるか! カイト!」


 レヴィが通信機へと語りかける。だが、応答は一切無かった。それに、レヴィは顔を大いに顰めた。盗聴を防止する結界は展開しているが、通信を途絶する結界は展開していない。連絡は取れる様にしておかねば、万が一の際にカイトが手を出せなくなるからだ。


「っ! やはりか!」


 であれば、答えは一つ。敵がこちらの結界に細工出来る様にしていたのだ。そうして、レヴィは急いでソラ達への通信回線を開いた。


「聞こえるか!」

『へ? あ、え? 誰?』

『あ、ああ・・・』


 どうやらソラと瞬は同時に通信機から響いた声に反応したようだ。困惑する声が響いてきた。


「良し! 居るな! 詳しいことを話している余裕は無い! 今すぐフロド・ソレイユの二人に話をさせろ! 二人は屋上に居るはずだ!」

『あ、えーっと・・・その前にあんた誰?』


 ソラが問いかける。当たり前だが彼はレヴィの事は知らないのだ。知らない相手から唐突に連絡が入ってはいそうですか、と二人に連絡をさせるわけにも行かないだろう。


「っ・・・預言者と呼ばれる貴様らが所属するユニオンの幹部だ」

『っ・・・貴方が。いや、すんません』


 ソラは相手が自分達の所属する組織の幹部だと理解すると、謝罪する。カイトから今回の作戦の総指揮は彼女が行い、そして緊急時には連絡が入るかも、と言われていたのだ。それに、レヴィも一度落ち着いて即座に指示を下した。


「いや、構わん。が、謝罪している暇があったら二人の所に行け。他の奴らは即座に戦闘の用意を整えて出発の準備を整えろ」

『うっす。先輩、そっち準備頼みます。あ、赤羽根先輩と木更津はこっち待機でお願いします。赤羽根先輩は速度ついていけないでしょうし、そうなると近接で誰か支援必要でしょうからね』

『ああ、分かった・・・赤羽根! 木更津! 指示は聞いていたな! 街の近くから援護出来る様に用意を整えていてくれ! それで、何があったんですか? カイトは今、外出中ですが・・・』


 ソラの要請を受けた瞬が大急ぎで用意を整えながら、レヴィへと問いかける。なお、ソラが赤羽根と木更津を抜いた理由が今回のカイトの外出が彼の過去に関する何かだと理解していたからだ。


「ああ・・・もしかしたら敵の策に乗せられた可能性がある。と言っても私とカイトが、なのだが・・・カイトとの連絡が取れなくなった。無事は無事だろうが・・・少し気になる事が出来た。お前らには今すぐ西にある研究所へと向かってもらう」

『危険性は?』

「無いだろう。が、一応フロドとソレイユの二人には援護をさせる」

『りょーかい。何かあった、ってことね。木更津って人と一緒に赤羽根って弓兵さん寄越して。街の上層部と宿屋はこっちで話通させたから、ここから支援出来るよ』


 どうやら、ソラがフロド達の所にたどり着いたようだ。会話を聞いていたらしいフロドがレヴィの要請に応じた。そうして、ソラも即座に用意を整えて、一路一同はフロドとソレイユに援護を任せて駆け足でカイトの後を追う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。ついに次回第1000話です。

 次回予告:第1000話『研究所の謎』

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