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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第53章 ラエリア内紛・序編

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第994話 会議

 ティナが飛空艇を降りた後にマクスウェルを後にしたギルド<<粋の花園(すいのはなぞの)>>が保有する飛空艇『桜花の楼閣(おうかのろうかく)』。そのギルドマスター室にて、カイトはカリンと共にギルドマスターとしての打ち合わせを開始していた。


「さて・・・じゃあ、繋ぐか」

「ああ」


 カリンの言葉にカイトは頷いてバリーへと通信を繋いでもらう。そうして、すぐにバリーが応答した。


『バリー・シュラウドだ。カリン殿で間違いないか?』

「ああ、あたしだ・・・そっちの飛空艇はウチのに同期させてるか?」

『ああ。そちらの情報に合わせて、こちらも自動操縦で移動する様に設定している所だ。もう少し待ってくれ』


 バリーは飛空艇の自動操縦の設定をしながら、カリンの問いかけに答えた。飛空艇の自動操縦には対象の飛空艇と同じ航路を取れる様にする機能が備わっており、今回は途中まではカイト達と同行する事になるのでそれを使用して移動する事になるそうだ。

 途中からは彼は小型艇で見つかりにくい事を利用して、帝都へ先行する事になっていた。こちらの情報をシャリクに伝えるらしい。


「良し・・・じゃあ、とりあえず終わったら打ち合わせをやろうか。終わったら声を掛けてくれ」

『すまない』


 バリーは謝罪すると、設定に集中する為に一度通信を切断する。そうして、2分程で今度は彼から通信が入った。


『バリーだ。すまない、待たせてしまった』

「いや、良いよ・・・で、終わったんだね?」

『ああ、終わった。途中までは同行させてもらう』

「良し・・・じゃあ、航路の打ち合わせと行こうか」


カリンはそう言うと、カイト達の持つ海域図ではなく彼女らが独自に創り上げた世界地図をモニターに表示する。世界を股にかけるギルドの多くはこの様な独自の世界地図を持っている事は多かった。

 と言っても大本は各国が発行している地図である為、バリーも普通に理解出来る。あれをつなぎ合わせて、更に彼女らが持つ情報を組み合わせた物、と考えれば良い。


「さて・・・ってわけで一応聞いておくけど、制空権の確保はどの程度進んでるんだ?」

『俺の居た時の段階では、北部の制空権は完全に確保、西部は南端の幾つかの地域で未完了だが、中央部から北部にかけてはほぼ確保したと言って良い。東部については半分よし少し下、という所か。まぁ、敵もあまり本腰を入れていない事から、大凡半分程度と見て良いだろう。敵の中心地たる南部の制空権の確保はほぼ出来ていない。帝都の位置する中心部は各部の状況の縮図だと考えてくれ』

「そうか・・・ってことは、やっぱ南部ルートは不可能と見て良いか」

『そうだな。南部の海岸線はほぼほぼ奴らの手中にあると見て大丈夫だ』

「ってことは、北部から迂回する事にしたのは正解か・・・」


 カリンは魔力で矢印を作って、地図上の自分たちの進路を記載する。大凡は大洋の僅かに北側を通って、ユニオン本部付近を通る予定だ。そこならバルフレア達が居る為、比較的安心かつ安全な航路となる。バルフレア達は組織としては中立を貫いているが、個人としてはかなりシャリク寄りの立場だからだ。

 更には万が一なんらかの要因でこちらに攻撃が仕掛けられる事があったとしても、カイトもカリンも知り合いなので助けた、という言い訳が通用する。最適な航路と言えるだろう。


「ってことはここからのルートだけど・・・」

「いや、その地域は確か・・・」

『いや、その地域は今は・・・』


 その後、三人――ユリィはまだ隠している為――は自分たちの持ち合わせる情報をすり合わせながら、今後自分達が通る事になるルートの策定を行っていく。


「良し。このルートなら一度北部のどこかの都市で補給出来そうかな。そこで、最終的な打ち合わせを行おう」

『わかった。ではこちらは途中で別れて一度シャリク陛下に会いに向かい、そちらの補給の用意を整えよう。色々と用意が必要である事を考えれば、支度金も必要だろう』

「頼んだよ」

『ああ』


 カリンの言葉を受けたバリーが通信を切断する。この会話はログが取られているので、後で揉める事もない。なお、支度金云々という会話はすでにシャリク達との間で合意を得られているので彼が明言しても問題はない。

 カリン達の参加が唐突で航路の問題等がありどこで受け渡すか、という事が策定出来ておらず、向こうに到着次第すぐに受け渡せる様にしたらしい。


「良し・・・じゃあ、後は」

「移動だけ、か・・・」

「あ、それならそれで墓参りしと・・・けないんだっけ」

「ウチの親父の墓は中津国の本家の墓地に入ってるからね」


 ユリィの言葉にカリンが肩を竦める。先代のギルドマスターはすでに鬼籍に入っており、その墓は中津国にあるそうだ。なので馴染みでも墓参りは出来なかった。


「まぁ、こっちは好きにやらせてもらうさ」

「そうしな。久しぶりにあんたと組んでの仕事だ。そこそこ楽しい物になること、期待しとくよ」

「あいよ」


 カイトはカリンの言葉を背に、ソラ達遠征隊へ予定を伝える為に部屋に戻る事にする。そうして、カイトは一同へとその予定を伝えて、飛空艇の中で調整を行う事になるのだった。




 それから、数日後。カイト達の乗る『桜花の楼閣(おうかのろうかく)』はアニエス大陸北部第二の都市にやってきていた。

 ここは早々に民衆達がシャリクへの支持を表明していた都市で、シャリク達がこちらへ支援もし易い場所らしい。先行したバリーからここを中継地点としてシャリクらと話し合う為の場所に選んだのであった。


「ギルド<<粋の花園(すいのはなぞの)>>カリン殿、及びギルド<<冒険部>>カイト殿がお見えになられました」


 カイトとカリンを案内した軍の事務官の一人が元領主の邸宅にて、街の治世を執り行う軍高官達へと報告する。


「そうか・・・わかった。通してくれ」

「はっ」


 この街の最高責任者となる軍の高官が事務官へと案内を命ずる。そうして、すぐにカイトとカリンは部屋へと通された。

 なお、カイトはいつも通りの白のロングコートだが、カリンは流石に何時もの荒々しい装束ではなくきちんとした着物だ。魔眼封じの眼帯はそのままだが、そこは彼女に依頼しているのに知らない方が可怪しいので誰も咎めなかった。


「よく来てくれた。私はシャリク陛下よりこの街の治安維持を命ぜられているジャイロだ」


 ジャイロと名乗った男はカイトとカリンを迎え入れると、手を差し出した。それにカイトとカリンは応じて、勧められる席に腰掛けた。胸に取り付けられた階級章から察するに大佐らしい。


「まずはカイト・天音殿。先王陛下の件では世話になった。私も王都攻略部隊に属していて、ハンナ殿のことは残念に思う。そしてこの依頼を受けてくれた事は、私個人としても喜ばしい事だと思う」

「いえ・・・私も可能性があるのなら、縋りたい気持ちは一緒です」

「ああ・・・カリン殿も今回の依頼をよく引き受けてくださった。大戦期のエースの貴方が加わってくださったのであれば、我々としても百人力だ」

「ま、金を貰った分の働きはするさ・・・で、いつまでも話し合ってるわけにもいかないだろ?」


 ジャイロの賛辞にカリンは頷くと、彼に先を促す事にする。ここに何もお礼や賛辞を貰いに来たわけではない。盗聴を避けてシャリクと直に話をする為にやってきたのだ。


「わかりました・・・おい」

「はっ! 準備は整っています」

「良し・・・大丈夫だそうだ」

「わかりました・・・準備完了」


 カイトは通信機を使ってユリィへと連絡を入れる。そうして、転移術で彼女とシェリアが現れた。と、姿を見せたユリィを見て、軍の高官達全員が目を見開いた。


「なっ・・・ユリシア・フェリシア!?」

「名乗る必要はなさそうですね」

「はっ・・・」


 軍の高官達は増援として差し向けられたまさかの存在を知り、皇国が本気に近いレベルで対応してくれた事を悟る。


「私は皇国ともマクダウェル家とも系統は異なりますが・・・それ故、此度は私が参りました。他にも公爵家が有数の腕利きが数名、私と共に」

「ありがとうございます。我ら神聖帝国、皇国からのこの借りは何時か必ず返させて頂きましょう」


 ジャイロは驚きながらもユリィに対して感謝を述べる。彼らは腕利きを送ってくれとは頼んだが、まさかユリィが来るとは思ってもみなかったようだ。

 とは言え、これが皇国としては最適といえば最適だった。ユリィはマクダウェル家に所属しているが、実態としては指揮系統には含まれていない。

 彼女はカイトの相棒。謂わばカイトの持つ指揮系統の外なのだ。公爵家の外での独自行動がかなり許される存在なのである。それ故、見付かったとしても多少の言い訳は出来るのである。カイトはそこまで考えていた。


「そして横は・・・」

「シェリアです」

「先王陛下の側仕えでセルヴァ家のご令嬢だったか」

「・・・」


 ジャイロの問いかけにシェリアは何も答えなかった。が、その顔に浮かんだ嫌そうな顔が、言外にそれを真だと告げていた。セルヴァ家の嫡男が戯れに下級貴族の娘に手を出して生まれたのが、彼女だそうだ。そこらから、デンゼルに魅入られたらしい。なので当人としてはセルヴァ一族そのものが嫌いだそうだ。


「・・・すまないな。聞くべきではなかったか。先王陛下は?」

「エンテシアの地にて大切に扱われております」

「そうか・・・ユリシア殿、先王陛下保護の件、誠に感謝致します」

「いえ・・・当家はシャリク陛下より受けた依頼をやらせて頂いたまでのこと。お気になさいませんよう」

「ありがとうございます・・・では、早速陛下にお繋ぎ致します。繋げ」


 ジャイロの指示を受けて、帝都ラエリアへと通信が繋げられる。そうして即座に、モニターの先にシャリクが姿を見せた。


『私だ・・・ユリシア殿!?』

「お久しぶりです、シャリク陛下」

『・・・失礼した。まさか貴殿程の人物がこちらに来られるとは・・・皇国よりの支援の手、感謝致します。この借りは何時か必ず返させて頂くと皇帝陛下へとお伝え下さい』

「わかりました。我々もバレるわけにはいきませんが、出来る範囲で助力させて頂きましょう」

『ありがとうございます』


 シャリクとユリィはしばし、外交的な話し合いを行う。そうしてそれが終わり更にシェリアからシャーナの事を聞き、そこらで不備の無い事を確認した後にカイトとカリンへと話を向けた。


『カリン殿。此度は依頼を受けて頂き感謝する。報酬については最大限叶えられる様にすでに手配している。そちらの『大地の賢人』への謁見の許可を含めて、手配させて頂こう』

「感謝致します、陛下」


 カリンがシャリクへと頭を下げる。流石に彼女も帝王を前に慇懃無礼な態度は取らないので、口調は丁寧だった。そうして、そちらの話し合いが終わった後、シャリクはカイトへと頭を下げた。


『・・・すまん。君には謝罪しか出来ん。本来はこんな事にはならない様にしたかったのだが・・・』

「いえ・・・シャーナ様もひどくお心を痛めておりました。そしてハンナ殿を探して欲しい、と」

『ああ・・・君にはその件での依頼を別口に挟ませて貰いたい。受けてくれるか?』

「はい。あまりおおっぴらには出来ませんが、私はその為にこちらに来たような物です」


 シャリクの依頼にカイトは応ずる。今回のカイトの目的は二つ。一つは、冒険部として紛争への介入と終結。もう一つは、彼個人として南部に運び込まれたというハンナを見つけ出す事だ。


『ありがとう。こちらの依頼に関しては表向きは、私の個人的な依頼になる。国としての依頼ではない為、そこの所は理解して貰いたい』

「理解しております」


 シャリクの言葉にカイトは頷いた。流石にハンナは要人とは言い難い。表向き彼女は単なる先王の乳母だ。が、シャリクの来歴を考えれば決して無視して良い人物でもない。国民の心象を害する。

 故に彼の個人としての依頼となったのである。勿論、裏には国としての依頼というのが両者合意の上での話だ。なので表向きは、なのである。


『ああ・・・バリーからの報告書は読んだか?』

「はい・・・デンゼル・レゼルヴァ伯爵の本邸、南部地方第二の都市『パルテール』ですね」

『ああ・・・花の都とも讃えられる南部有数の都市だ』


 シャリクはカイトへと、ハンナが運び込まれたとされる土地について告げる。南部第二の都市というが経済的にはまた別の都市があり、この場合は有名度で第二の都市という所だろう。

 シャリクが花の都と讃えた様に、観光地として有名らしい。警察の高官にも近いゼルヴァ家が治めている土地の一つだそうで、それ故治安は良いそうだ。そこの一つに、レゼルヴァ家の本邸があるらしい。デンゼルという男はそこから、東部の任地へと出向いているようだ。


『君はエンテシア皇国の人間だ・・・一応、地図を出しておこう。君が今居る北部の『レートス』は以前君が滞在した王都・・・現帝都ラエリアの北部100キロの地点にある。その更に北に行った所には私がかつて本拠地としていたヴェルフ基地があり、そこから西へ行けば君の所属する冒険者ユニオン協会の本部がある』


 シャリクは神聖帝国全土の地図を映し出すと、北部全体の概要と帝都からの大凡の位置情報を告げる。ここは元々更に北部に至る為の流通の要所の様な所だそうだ。話し合うにしてもこれからの用意を整えるにしても、最適な場所だった。


『それで、南部第二の都市『パルテール』は我が帝国最南部に位置している。更に南部のラダリア共和国との境目に近い街だ』


 シャリクは続けて、大陸の中央南部を中心とした部分を拡大する。エンテシア皇国やヴァルタード帝国がそうである様に、一国が大陸全土を支配しているわけではない。

 幾つかの大国と言える国があり、保護国に近い国がいくつもある。そう言う形だ。その中の一つが、南部に隣接するラダリア共和国というらしい。元々千年王国の保護下にあった国だ。そんな地図をカイトは見ながら、手を考える。


「南部に森、ですか・・・」

『南部には国と国を跨って幾つかの森が存在している』

「ふむ・・・」


 カイトの目に入ったのは、『パルテール』南部に広がる幾つかの森林地帯だ。カイトの記憶が確かなら、三つともかなりの難所だろう。


「ラダリア、か。300年前の戦いで少し北に領土を伸ばしたんだったか・・・ベストは中央ルートですね」

『・・・まさかラダリアから突破するつもりなのか?』

「一番、最善ですからね」


 シャリクの問いかけにカイトは頷いた。今カイトの頭にあるのは、一度海に出て南部を大きく迂回して南のラダリアへ入り、そこから森を越えてラエリアへ密かに潜入、その後南部の『パルテール』へと潜入するルートだ。目立たなくて一番良いルートと言える。


『ふむ・・・出来れば最善だが・・・どのようにして入るか、が問題だな・・・』


 シャリクはカイトの提案に僅かに悩む素振りを見せる。当たり前だが他国だ。迂闊な事は出来ない。更に相手は今、このままラエリアの保護国のまま居るかどうか迷っている所らしく安易に手出しは出来ないそうだ。

 しかもここへのコネは大大老が多い。真正面から行った所で情報は掴まれると見て良いだろう。そうして、カイトとシャリクは南部の街『パルテール』への潜入方法を考え始める事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第995話『来訪者・三度』

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