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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第53章 ラエリア内紛・序編

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第989話 己の意思で

 学園での会議を終えてマクスウェルの冒険部ギルドホームに帰還したカイトは、とりあえず執務室に戻っていた。ソラや瑞樹、由利ら残留組とお互いの情報を交換する必要があるからだ。


「というわけだ」

「ってことは、今のところは却下の見通しが強いってわけか」

「ああ・・・ちょっと失敗したかな」

「お前でも失敗する事あるんだな」


 カイトの少し照れくさそうな顔を見て、ソラが少し安堵した様に笑う。カイトの失敗が見れて少し嬉しそうだった。


「あら・・・それだとまた私はお留守番ね」

「そうだな・・・神楽坂三姉妹は今回はおやすみかな」


 弥生の言葉にカイトが笑う。留守中に弥生と皐月の二人に援護をお願いしていたので、丁度一緒に話を聞いていたのであった。と、そんなカイトの視線を受けて、皐月が手を挙げた。


「あら、これでも男なんだけど」

「逆にオレならお前を狙うわ。超レア物。男でも良いやって男が何人居たよ。何人の男がお前のケツ狙ってたと思ってやがる」

「ひっ」

「今更そんな演技すな!」


 お尻を守る様に動いた皐月に対して、カイトがハリセンでツッコミを入れる。彼女はこの程度の冗談で怯える様な存在ではない。


「あらあら」


 弥生が楽しげに笑う。と、そんな笑い話をいつまでもやっていられるわけがないし、そもそもこれは脱線しただけだ。なのでアルが口を挟んだ。


「はいはい、二人もそこまでにしとこうよ。弥生も笑ってないで止めてよ・・・で、カイト。もし行く事になっても僕らも留守番かな?」

「そうだな。流石にエンテシア皇国の公爵軍に属している軍人が冒険者としてでも関わるべきじゃあないだろう。いくらなんでも国際問題になる。リィル、フィーネらと合わせて今回は待機が命令だ」

「うん、わかった。じゃあとりあえず、こっちは任せてよ」

「ああ、頼んだ。おそらく行く場合は男子勢の主力を引き連れていく事になる。軍所属の奴にはフォローを頼みたい」


 アルの言葉にカイトはその力を最大限借り受ける事にする。行くにしても、相手は飛空艇を何隻も所有する軍隊が相手だ。生半可な力量では砲撃の餌食になるだけだ。最低でもランクCの上位。望めるのであれば、ランクB。それが、最低条件だった。


「ソラ、瑞樹。お前らも頃合いを見て今日は上がれ。桜達にはもう一通りの確認が終わり次第上がるように言ってある。椿、シロエと共に他の奴にもそう命じておいてくれ」

「っと、そうだよな。わかった、そうする」

「そうですわね」

「かしこまりました」


 ソラと瑞樹は己の確認している書類に一区切りを付けた所で休む事にする。そうして、更に椿を送り出したカイトは深く椅子に腰掛けた。少し休んでから、己も自室に戻って休むつもりだった。


「まさか、数ヶ月の訓練がここで活かせる事になるとはな・・・」


 流石にカイトもこうなる事を予想していたわけではないが、数ヶ月の間の訓練は今からしてみれば非常に良いタイミングだった。これが良いか悪いかは、カイトにもわからない。わからないが、良いタイミングである事だけは事実だ。


「大大老と元老院を道化野郎が逃した事を考えれば・・・今のタイミングで動く様に何らかの罠を仕組んでいたか。注意はすべきだな・・・」


 カイトは目を閉じて、レヴィから聞いていた情報を考える。敵の目的が何かは、カイトにはわからない。が、少なくとも彼らが動くとすれば準備に一区切りが付けられたタイミングか、こちらに動いて欲しいタイミングだろう。


「撤退の準備が整ったからか、それとも罠を仕掛ける準備が出来たからか・・・オレだ」

『ありゃ、総大将。何か用かい?』


 通信機を起動したカイトに応じたのは、オーアだ。どうやら通信機の側に彼女が居たのだろう。とりあえず誰でも良かったが、彼女なら指揮も可能なのでちょうどよかった。


「ああ・・・ちょいと気になる事があってな。万が一に備えておいてくれ」

『万が一って何さ?』

「知らん。が、道化野郎が動く可能性があるってだけだ」

『ふーん・・・どこで?』

「アニエス。神聖帝国だ」

『ああ、例の件か。預言者から介入してた、って言われたんだっけ?』

「ああ・・・で、シャリク帝からこっちに動いて欲しいって依頼があってな」

『ふむ・・・わざわざ総大将って事は確かに、裏で動いている可能性はあるね。わかった。万が一の場合には数機魔導機で行ける用意はしとくよ』

「頼んだ」


 カイトの言いたい事を理解したオーアは即座に行動に入ってくれたようだ。言うだけ言うと通信を切った。これで、とりあえず動ける用意は整えられる。


「杞憂であれば良いが・・・後は、明日次第、か」


 カイトは今打てる手を打ち終えると、そのまま少し休む事にする。考えねばならない事は山ほどあり、そしてなさねばならない責務は山ほどある。各所との手続きも重要だ。そしてここからは、一気に忙しくなるだろう。今のうちに、休める時に休むべきだった。と、そうしてカイトが休憩に入ろうとした所で、連絡が入った。


「ああ、オレだ」

『カイト』

「アウラか。どした?」

『・・・シャーナ陛下が呼んでる』


 アウラは僅かに伝えるか悩んだ後、カイトへと用件を告げる。その僅かな間に、カイトは何らかの隠された事がある事を読み取った。


「・・・やはり、彼女は動くか・・・いや、動かねばならないのか。シュラウド少佐に何も言わなかったのは、シャリク殿の温情と言うべきか」


 カイトは再び椅子へと深く腰掛けて、眉間を押さえる。シャーナが何を覚悟して、そして何を決めたかは手に取るようにわかる。それしかないのだ、彼女がハンナを救う為には。彼女とて、可能性が低い事はわかっている。が、それでも誰よりも彼女は可能性に縋りたいだろう。ならば、それしかない。


「わかった。二時間後に向かうと言っておいてくれ」

『良いの?』

「王が助力を願い出る・・・その意味を悟れぬ程でもなし。その王の決意と覚悟を単なる哀れみで無為にする事が許されるか?」

『・・・ん』


 カイトの言葉にアウラが応ずる。それで、十分だった。それを最後に、通信が切れた。準備に取り掛かったのだ。それを受けて、カイトはようやく執務室を後にする。向かう先は己の部屋だ。何故か。それが、約束だからだ。

 そうして約束を果たす作業に2時間を費やした後、カイトは自分の家に新しく設置された離れへと向かう。そこは、シャーナ達の暮らす家だ。規模としては3階建ての少し大規模な邸宅だ。様式はラエリアの物を使い、素材もシャリクが送ってきた物を使っている。そして整えられている調度品も良い物ばかりだ。

 亡命しようと、誇り高き王。それが現れていた。と、その彼女の離宮の前にたどり着くと、ストラが姿を現した。その手には親指程の小瓶が三つ有った。


「閣下・・・不要かと思いますが、こちらを」

「ああ・・・まぁ、使わないと思うけどな。慣れてるよ」


 カイトは小さく笑う。これはいわゆる媚薬の類だ。使うつもりはない。が、ストラの言う通り万が一の為だろう。


「はい・・・それとシャーナ陛下とその側仕え二人を除いて、他の従者は今宵は本邸の方に泊まらせました。全員、理解してはおいででしたが・・・お二人は譲らず」

「二人、か・・・」


 カイトは二人の該当者を即座に理解する。なぜ譲らなかったのかも、だ。そうして、そんなカイトにストラが問いかけた。


「憐れまれておいでですか?」

「ははっ・・・まさか。哀れみを投げかければそれこそ不敬だ。彼女は王として、力ある者に助力を願い出る為に我が身を犠牲にする。それを拒むならば、それは助力そのものを拒まねばならない。が、助力をするのなら、受けねばならない。彼女の王としての面子の為に。そしてシャリク殿の面子もある・・・二者択一しかありえん」


 カイトは笑ってストラの言葉に首を振る。憐れむ事だけは、してはならない。王は国の全てを背負う。その全てを背負った者だったシャーナを憐れめば、それはラエリアを憐れむと同義だ。上から憐れむ事が許されて良い事ではないし、カイトは許さない。故に、ストラは跪いて謝罪した。


「愚問でした」

「いや・・・少し、密偵は引かせてやれ。代わりに結界を展開しろ・・・どうせ、お前らがやらなくてもおせっかいな覗き魔は居るんだからな。覗きなぞそいつらにやらせておけ」

「閣下のご命令なれば」


 カイトの命を受けて、ストラが頭を下げて闇に消える。そうして、彼と共に幾つかの気配が消えた。離宮を密かに警護していた密偵達が消えたのだ。

 これで、この周辺にはカイトと中の三人――と皇国側の確認の要員――しか居ないことになる。と、すぐに結界が展開された。これで急場の護衛は大丈夫だろう。大精霊の力を借り受けているカイトも居る事を考えれば、寝込みを襲われる事は無いはずだ。


「・・・ふぅ・・・まさか、この顔で入る事になるとはな」


 カイトは本来の姿に戻ると、一度だけ苦笑する。すでにシャーナは己の正体を把握している。勿論、皇国もそれを知っている。だからこそ、彼女は王として願い出る事にしたのだ。それをしなければならない相手だからこそ、だ。

 そうして、カイトが離宮の扉を開いた。その先にいたのは、彼の予想通りメイド服姿のシェリアとシェルクの二人だった。


「「こちらへ」」


 二人が同時に頭を下げてカイトを迎え入れる。それに、カイトは従って歩いて行く。向かう先は、シャーナの寝室だ。そこには当たり前だが、シャーナが居た。服装は彼女が女王だった時代の衣服。王都ラエリア脱出の折以来、一度も着ていない物だ。それにカイトが問いかける事は、ただひとつだ。


「・・・良いんですね?」

「はい・・・マクダウェル公。これが、シャーナ・メイデア・ザビーネ・ラエリア最後の務めになりましょう」


 シャーナはカイトの事をカイトではなく、勇者カイトとして呼ぶ。全部を覚悟の上。ハンナが生きていないだろうことも、全て承知の上だ。

 その上で、カイトに出来る限りの事を、ラエリアへの助力を含めてしてもらう為に下した結論だった。だが、それでも。聞いておかねばならなかった。騙すわけには、いかないからだ。


「ハンナ殿はおそらく、生きてはいないでしょう。遺体が見付かるかもわかりません・・・報告書にも、連れ去られたと記されてあります。そして、その連れ去られた後に目撃された場所の名も」

「レゼルヴァ伯爵邸・・・彼の趣味の事は承知しております。そして大大老達の指揮下にいる彼がどう出るだろうか、という事も」

「それでも、ですか?」

「それでも、です」


 カイトの問いかけに、シャーナははっきりと頷いた。そうして、彼女は一つの手紙を取り出した。


「兄上から私への親書です」

「拝読させて頂きます」


 差し出された手紙をカイトは読む。そこにはシャリクの字で短く、異国の地で身体を崩さぬ様に、という内容が書かれていた。

 表向き彼はシャーナの自由を、そしてこの決断を認めたのだろう。だが、違う。それは己の利益の為に、だ。これは彼女の為ではない。これは暗に、どこか良家へと嫁いでくれる様に頼んでいたのだ。それを、彼女は受けたのだ。そしてその彼女が見繕った相手がカイトだった、というわけだ。正しい判断だろう。


「兄君は私の事をご承知ですか?」

「いえ・・・おそらく兄は皇国貴族に伝手を見付けると考えているだけなのでしょう。マクダウェル家は私に同情的で、同時に伝手を持ち合わせておいでです。その伝手を使う事を、考えたのでしょう」


 カイトの問いかけにシャーナは首を振る。結局、最後までシャリクはカイトが勇者カイトであるという答えを出せなかった。出せなかったが、皇国にこの案件に介入してもらう事そのものは良しとした。

 どうにせよ、シャリクとしても早い内にケリは付けたいはずだ。いや、付けねばならなくなった。皇国による内政干渉は嫌だろうが、それ以前の問題としてこれ以上時間を掛ける事が出来なくなったのだ。


「・・・ヴァルタード帝国のフィリオ様が動かれるまで、もう時間は無い。彼らは遠からず動くのでしょう。おそらく、通告がなされたはずです。それ故に、此度の話だと」

「でしょう・・・私も、そう考えております」

「兄には時間が無い・・・勿論、私にも。このシャーナとて一時は王として立った。民の幸福の為、身を捧げる覚悟は出来ています」


 シャーナが実情と覚悟を語った。この内紛状態を維持すればヴァルタード帝国が出て来る。両国は地理的に近いのだ。治安維持の名目で動き出して可怪しくはない。

 そして、こんな大国の中枢に食い込めるという絶好の好機に帝王フィリオが座視するとは思えない。まだ致命的な段階ではないので動けないだけだ。が、最後通告を出来る程に状況は整ったという事なのだろう。

 だから、シャリクはシャーナに己の身体で皇国の有力貴族と縁を結んでもらう事で援軍を送ってもらい、多少強引にでも大大老と元老院の残党を討伐して終結宣言を出すつもりなのである。その意向を彼女も汲んだのだ。


「兄君をお恨みになられませぬよう」

「いえ・・・逆に有り難い捉えております。少なくとも、御身に輿入れさせて頂けたのですから」


 シャーナが苦笑気味に笑う。変な話だが、これはこれで彼女からすればかなりベターな結論ではあった。誰か見ず知らずの相手よりも、彼女からしてみればカイトの方が遥かに良い。それは事実だった。そんな彼女に、カイトはこれ以上の問いかけは無意味と理解した。


「・・・皇帝陛下には、御身が安心して暮らせる様に私から奏上致しましょう。皇国より、私がお相手を務めるよう許可をいただきました」

「ありがとうございます・・・そして、今後ともよろしくお願いします。不束者ですが、よしなに」


 シャーナが頭を下げる。これで、彼女は正真正銘何時の日かラエリアへ帰るという手を失う。ここでカイトに身を捧げるということは、彼の子を産むという事と同義だからだ。

 そして皇国としてもラエリアの血筋が手に入るのは何より有り難い。皇国としてのベストは皇族だが、流石に皇族は今回は動かせない。

 密かに、である以上エンテシア皇国の皇族というビッグネームは動かせないのだ。となると、残るはシャーナの格を考えれば5公爵か2大公のどちらかしかない。こちらも大きいが、皇族よりはるかにマシだった。


「・・・はい。今後とも、よろしくお願いします」

「では・・・参りましょう」


 カイトの了承にシャーナが先を促す。これから交わろうというのだ。カイトは兎も角、シャーナがここで出来るわけではない。


(・・・なんとか、オレが相手になれたのは良かったのだろう・・・子供には、少し不憫をさせてしまうかもしれないが・・・)


 カイトはそう思う。今回、カイトが彼女の身請けが出来たのは幸運な要因が非常に大きかった。カイトへの輿入れが現状ではベストと判断されたからだ。

 もし未来に何かが起きて皇国が介入したいとなった時、カイトとシャーナの子やその血統が総司令官となるだろう。それはラエリアの民にも非常に受けが良いだろう。歴史を変えた王と、伝説の勇者にしてそれを救った男の子だ。民の受けなぞ考える必要さえない。

 何より皇国としてはそれが一番の判断材料となった。他国が他国に介入するのであれば、一番必要なのはその国の民の理解だ。一歩間違えれば大国同士の大戦争だ。何よりもそれが重要視されることだった。


「では・・・陛下の伽のお相手を務めさせていただきます」

「はい」


 迷いなく、淀み無く。カイトの言葉にシャーナが応ずる。緊張はあった。が、覚悟がそれを上回っていた。のだが、やはり彼女も少女だった。それ故、彼女はベッドに着いて衣服よりも前に王としての仮面を脱いで、真っ赤になりながらカイトへと申し出た。


「・・・あの、優しくしてください・・・」

「はい」


 カイトは勇者カイトではなく、シャーナ女王の騎士であった者として微笑んで頷いた。そうして、その夜。カイトはシャーナの離宮にて過ごす事になり、その時よりそこが彼女の終の棲家となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第990話『夜明けと共に』

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