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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第53章 ラエリア内紛・序編

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第986話 難しい決断

 ソラのランクB昇格の祝宴の最中に訪れた神聖帝国ラエリアの軍人であるバリー・シュラウド少佐。彼は、カイトへとかつての空軍元帥であり、現帝王であるシャリクより依頼を持ってきたという。そんな彼は、カイトの疑問を受けてその依頼内容を語り始めた。


「シャリク陛下からの依頼は、内紛終結への助力だ」

「っ・・・」


 カイトの顔が歪む。こういう依頼は何時かは来るとは思っていたが、奇しくも下でカリンが述べたタイミングで来るとは思ってもみなかったようだ。とは言え、覚悟をしていた事ではある。

 が、それとは別にして、何らかの意図がある事は気づけた。確かに実力者が欲しいのは欲しいだろう。だが、わざわざ大陸を渡った程であれば、それだれとは考えられない。


「なぜ、我々に?」

「まず第一に、君たちはどこかの国家に属しているわけではないからだ。下手に何処かの国に肩入れした冒険者を入れてしまうと、その口利きを受けざるを得ない状況を生んでしまいかねない」

「一応、我々はエンテシア皇国の保護下にありますが・・・」

「それでも、他よりはマシだろうという判断だ」


 カイトの言葉にバリーが上層部の意向を告げる。確かに皇国の意向は受けるが、そもそもそれは神聖帝国側からしてみればシャーナを保護してもらった時点で覚悟していた事だろう。

 それを考えれば、敢えて影響を受けざるを得ない国をエンテシア皇国一国に絞ってしまうのは良い判断ではある。避けられないのなら、どこか一つに絞った方がよほどやりやすい。

 そしてその点、現在の皇国は相手としてベストな判断だ。現状の皇国は戦力や影響力の大半を行使出来ないからだ。『死魔将(しましょう)』対策がある為だ。彼らとの戦いを主導するのは皇国だ。故に、あまり強く影響力は行使出来ないのである。更には遠すぎて皇国としてもあまり影響力を出せないという地政学上の理由もある。少なくともヴァルタード帝国や逆側の海を挟んだラグナ連邦よりは遥かにマシだろう。


「ふむ・・・」

「更に、君はかつて先王を保護した際の経緯もある。我が国としては信頼のおける冒険者だ、という判断をしている」

「敵でしたがね」

「あの時は敵を演じるしかなかっただけだろう」

「まぁ、違いありませんね」


 バリーの揶揄にカイトは笑って同意する。これはその通りだ。お互いに不測の事態を幾つか抱えたが、それでもあの時点で敵同士を演じざるを得ないのは理解していた。

 カイトは己の伝手でクーデターの勃発を見通してクーデター派がどう動きたいか大凡は理解していたが、それを表に出す事は出来なかった。それだけの話だ。

 そしてそれはかつての脱出の折のやり取りで神聖帝国の上層部もカイトがそこらの政治的な判断が出来る男だというのを把握している事だろう。信用していても不思議はない。が、やはりそこらを考えたとしても、説得力には欠ける。


「とは言え、やはり弱い。その程度ならユニオンマスターを介せば見繕えるはずだ」

「ははは。君は人が悪いな。その程度が見抜けぬ君とは思えんよ」

「やれやれ・・・貴方も油断ならないな」


 バリーの言葉にカイトが肩を竦める。その通りだったらしい。実のところ、バルフレアは今回の戦いは大々的には関われない。勿論、彼率いるギルドも同じくだ。国家間、もしくは国家内の紛争等には公には関わらない。それが、八大ギルドの鉄則だ。

 関わる場合はギルドではなく、個人として関わるべし。そうしないと国家にも匹敵しうるギルド同士に抗争に発展しかねないし、規模が大きくなればユニオンでの内紛に繋がりかねないからだ。

 例えばバーンタインとてウルカが他国と揉めた際には<<(あかつき)>>としてではなくランクS冒険者バーンタインとして介入する。あくまでも、個人の意思という立場だ。詭弁だがそれが一番だろう。


「残念ながら、我が国のギルドの有名所はユニオンが抑えてしまっている。手が足りない事は事実なのだ」

「貴方の様に軍属にならない限りは、というわけですね」

「そういうことだ。実のところ、俺のギルドは全員揃って陛下の招聘を受けて軍属になった。隊長の俺が大尉、サブマスターが中尉という役職でな」


 バリーが肩を竦める。この話が事実なら、バリーは元々ギルドマスターだったのだろう。ギルドが丸ごと軍属になる事は珍しいが、それだけシャリクの根回しが十分になされていた、という事だろう。とは言え、そうでもしないとギルドが大々的に片方に関われる事はないのもまた、事実である。


「残念ながらバルフレア殿と預言者殿の手腕は確かでな。南部に属する金の亡者共や好き放題したいだけの荒くれ者はともかく、北部のユニオンの指示に従う様な所は集まりが悪い。特に君の様な腕利きを招聘出来るのであれば、他の大陸からだろうと招き入れたいのは事実なのだ」

「ふむ・・・」


 カイトはバリーの言葉の真偽を図るフリをして、内心で臍を噛む。これはユニオンへとサリアからの情報が垂れ込まれた結果だろう。そしてその情報はひいてはカイトが垂れ込んだタレコミが大本だ。その結果、早い段階でバルフレア達が引き締めに入れたが故の結果だ。

 サリア達に恩を売るつもりでやったし、あのおかげでカイトとしてもシャーナの救助に成功したり在庫を売りさばけたりと公私共にかなりの利益を得られたが、その結果がここでは悪く響いていた。全てが良い様に動くわけではないのだから、これも結果と受け入れるしかない。


「なるほど。確かにそうなのでしょうね」

「ああ・・・それで、諸君らからも何人か来てもらいたい、というわけだ。敵は金払いが良くてね。見境なく受け入れている。先にも言ったがユニオンの引き締めは他大陸では比較的ゆるい。となると、我々としては他大陸からも集めざるを得ない。別に君達だけ、というわけではないのだよ」

「一応言っておきますが、依頼に関しては料金を払っていただきますよ?」

「わかっている。それは勿論そうするとシャリク陛下も明言なさっている。もし受けてくれる場合の依頼書にもそこは明記される」


 少し慌てた様子を見せたカイトに対して、バリーが笑いながらそこの念を押す。ここは彼としても冒険者であった以上、重要だと理解出来ていた。取引に嘘は無しだ。それが、取引の絶対条件だ。そうして、彼は上層部より言われていた手札を切る事にした。


「その上での話なのだが。俺は知らないのだが・・・『大地の賢人』という存在を君は知っているかね?」

「っ!」

「やはり、知っているのか。研究を行っているギルドにはやはり知恵では勝てんな」


 目を見開いたカイトの様子を見て、バリーが感心した様に頷いていた。そうして、その意味を知らない彼はそのまま、今回の報酬を告げた。


「それへの謁見を許可する。それが、今回の依頼の副次的な報酬になるという話だ。金銭的な報酬については別途交渉を、と。これについては勝利の暁には相当な額が支払われると断言しておこう。南部の貴族の大半が取り潰しか改易。財産の多くも没収されるだろうし、腐敗した貴族が蓄えていた不正財産の多くを没収出来ている。支払いはしっかりと行われる事になるだろう」

「・・・」


 カイトはバリーの言葉の後ろ半分はほとんど聞いていなかった。そんなものは聞かなくても理解出来ているからだ。ここで重要なのは、その前半分。副次的な報酬の方だ。

 これを切ってくるか、と素直にカイトは苦渋を隠せなかった。そして、理解もする。そこまで彼らは密かに追い詰められていたのだ、と。そして更にもう一つ、バリーがここへ来た理由も把握した。彼らは、動かすつもりなのだ。彼女を、彼らが王と認めた少女を。


「・・・どうした? そんな悩む話なのか?」

「『大地の賢人』・・・ご存じないのでしたね?」

「ああ・・・すまんが、千年王国時代の建国の祖たるシャマナ・シャマナに関連するという程度しか知らない。あくまでも常識の範疇だ」


 非常に悩んだ様子を見せたカイトの問いかけに、バリーは素直に知っている事を答える。それは、ラエリアの民ならば常識的に知っている事だ。それ故に彼も知っていただけだ。だがそれ故、伝説としての話は知っているが詳細は知らなかった。


「そうですか・・・なら、詳しくは語らない方が良いのでしょう。私も勇者カイトの手記に記されている所を知るだけです。それもクズハ様の御厚意により拝謁出来ただけですからね。金銭的な価値があるものではないですし、他の冒険者にはほとんど意味のある事ではないのですが・・・我々には、これ以上無い報酬なのです」

「そうか・・・とは言え、君がその様子なのだ。相当な物なのだろう」


 バリーはカイトが見せた苦悩を見て相当な物なのだろう、という事を理解する。しかし神聖帝国の上層部からしてみれば痛くもないし、と言うところだ。上手い手ではあった。

 そうしてそんなカイトに対して、バリーは指示通りこのタイミングでさらなる手札を切った。彼が取り出したのは、一通の封筒だ。分厚さはさほどではない。厚さと重量から考えて、中身は数枚の紙という所だろう。


「それと・・・これは我々が君を招聘したい理由になる。これを見た時、俺も正直己の目が信じられなかった」

「はぁ・・・封筒の中を確認しても?」

「ああ」


 バリーの言葉を受けて、カイトは受け取った封筒の中身を取り出す。それは案の定、一つの報告書だった。


「調査報告書、ですか?」

「ああ・・・まぁ、とりあえず読んでくれ。俺も非常に困惑している」

「はぁ・・・」


 なぜわざわざ調査報告書を自分に、という疑問を抑えつつ、カイトは渡された調査報告書を読み始める。が、そうしてすぐに、カイトは目を見開いていく事になった。


「そんな・・・あり得ない!」

「そうだ、あり得ない」


 カイトの大声にバリーも同意する。カイトの声はどこか、絶叫にも似ていた。彼をして、幽霊を見たかの様な声だった。しかしこれはカイトでなくても、同意しただろう。


「ハンナさんが生きている・・・?」

「目撃情報があった。写真も、同封しただろう? 偶然スパイがもたらしてくれた中に、それがあった」

「・・・」


 カイトは一気に真剣に思考を巡らせる。まず第一に考えた事は、これがカイトをおびき寄せる為に作られた神聖帝国側の嘘の調査報告書だ。

 が、流石にこれはカイトは即座にありえない、と切って捨てた。そんな事をするほど、シャリクは堕ちていない。彼の沽券に掛けて、クーデターの立役者の死を辱める事はしないだろう。

 国のためと言いつつ、誇りは持ち合わせている男だ。追い詰められたからとて、それを見過ごすとは思えない。せいぜいカイト達に動員をかける程度だろう。

 勿論、敵の罠の可能性もある。だが、その理由は無い。これで呼び寄せられるのはせいぜいカイトだ。彼を呼び寄せたい理由は大大老には無いはずだった。故に、これが事実かどうかはカイトにも判断しかねた。


「・・・もし生きていたとして、いえ、生きているとは私は今も思っていません。が、もし生きていたとして、この報告書が事実であったとして、貴方は彼女が今も生きていると思いますか?」


 カイトはしばらくの黙考の後、バリーへと問いかける。その目は真剣で、冗談を抜きにして答えを聞いていた。それに、バリーも正直な所を答えた。


「・・・生きては、いまいな。彼女が目撃されたのは、南部軍の支配地域。なぜそんな所に彼女が、という疑問はあるが・・・」

「少なくとも、大大老や元老院の生き残りが彼女をまともに扱う事はあり得ない・・・でしょう?」

「ああ・・・八つ当たりの拷問は当たり前で、運良くて即座に殺される所だろう。目も当てられない状況、という可能性が低くはない」


 カイトの言葉にバリーは嘘偽り無く、心の底から同意する。そして素直に己の所感を語った。が、それでも。僅かにさえ生きている可能性が示されてしまった。示されてしまったのだ。

 であれば、此処から先はその可能性に縋り付くか否か、という問題になってしまう。そうして今まで以上に苦悩を見せたカイトに、暫くしてバリーが告げた。


「・・・相当な苦悩は理解している。勿論、そちらが今すぐに答えを出せないだろうという事も、だ。皇国にも相談せねばならないだろう。南部軍への総力戦へはまだしばらくの猶予がある。それに俺はこれから先王陛下へと謁見する事になっている・・・返答を急ぐ必要はない」

「ありがとうございます・・・シャーナ様へも、この事を?」

「ああ・・・生きている可能性があるのに、教えぬわけにはいかないだろう。正直に、全てをお伝えする様に言われている。勿論、最早生きていないかもしれない、という所も正直にお伝えするつもりだ」


 カイトの問いかけに、バリーは辛そうな顔で答える。彼としての答えは、先程も言った通りだ。かなり望みは薄い。それも含めて、伝えに行くのだ。

 そしてこれで、クズハを通してアポイントを取ってきた理由も理解出来た。シャーナに会う為に一度彼女の許可を得ていたのだ。そうして、その謁見の時間が近いという事でバリーが立ち上がった。


「では、しっかりと考えてくれ」

「わかりました・・・流石に事が事ですので、皇国とのやり取りも必要になるでしょう。彼らが我々の身分を担保してくださっていますからね。返答はすぐに、というわけには・・・」

「わかっている。俺は神聖帝国の大使館が用意してくれた宿屋に宿泊している。もし何かあれば、そちらに来てくれ。なるべく応対しよう・・・ではな」


 カイトの見送りと返答を受けて、バリーが冒険部のギルドホームを後にする。そうして、カイトは苦悩を抱えたまま、ギルドホームの執務室へ戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第987話『苦悩』

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