かみさまはいるって思っていた時期もありました。
<かみさまはいるって思っていた時期もありました。>
かみさまは、ささやかなボクの願いを叶えてくれたみたいだ。
警戒してたけど、二日間オッサンたちが来なかったのだ!
大人だと他に仕事もあるだろうしね。
三日目に、また夕方に来たけど、またすぐ薄暗くなって帰っていった。
そして今日が生後一週間目の誕生日だ。
今日が最期の日かもしれない。いや、明日かもしれない。
こんなに周囲はほのぼの平和なのに、なんで戦場みたいな気分で生きなきゃいけないの?
……ボクは 悟りを開いた!
人はいつか死ぬ!毎日を精一杯、楽しく生きるしかない!
頑張ろう!楽しもう!
いや、人じゃないけどね?
六日間で、ボクは極小サイズから握りこぶしより大きいサイズまで成長した。
目標の漬物石サイズまであと少し。
サイズが大きくなると、吸収できる面が増えるから効率が良くなってきて嬉しい。
ボクが作る道もどんどん広くなってる。
道の続く先を見ると、根本に穴を開けられて枯れてる木が何本か。
これは、バレるのは時間の問題だよね。はぁ。
今いる木から這い出て、先に進もうとすると、ボクが入ってた木が倒れた。
穴が大きくなりすぎたみたい。そのうち巨木じゃないと隠れられなくなりそう。
とりあえず、ぶっ倒れた木を吸収しながら進む。
木の内部を根本から上まで吸収しながら進んでいれば、今日は生き延びられるかも。
今日を必死に生き延びるとかサバイバルだよねー。
サバイバルしてたら、こんなボクでも渋くてカッコイイ男になるかもしれない。
漢っていう字が似合うぐらいに。
バカだから無理だって?ハハハ、ぬかしよる。
木の内部を進み終わると、ボクの体は立派な漬物石サイズになっていた。
進むのも速くなった。
以前が秒速一ミリメートルだとしたら、今は三ミリメートルだ。
うん。遅いね!
でもね、前は一分で六センチしか進めなかったとして、今は十八センチ進めるわけ。
すごい進歩だと思わない?思うでしょ?思えよ!
まぁ、定規とかないから、どれだけの速度で進んでるかはハッキリわからないんだけどね。
定規で測れる程度しか進めてないってのは確かなんだよね。悲しい。
ひとまずの目標、漬物石サイズは達成したし、もういつ死んでもいいかな。
いや、死にたくないし!生き延びたいし!
死ぬ前に、あの兄妹に謝りたいな。
よし、発声練習でもしよう。ボクはどこに口があるの?
なんとなく周囲が把握できてるから目はきっとあるよね。
顔はあるのかな?あったら恐怖の人面スライムだよ。イケ面スライムだったら笑われちゃうよ。
ボクはそっと、色んな部分を開けてみようと思ったけど、開かなかった。
むにゅっとすこし身じろぎしてる程度しか動かないの。
なんて不便なの、この体は!
これじゃ、くぱぁも触手も夢のまた夢だね。
いやいや、ボクはわるいスライムじゃないから、美少女にお願いされなきゃ何もしないよ?
ホントだって、信じて!トラスト・ミー!
そんな言葉も誰にも伝えられないの。
これじゃ、愛だって語れないよね。美少女に愛を語りたい。
どっか適当に振動させたら音出るんじゃね?
ぷるぷる、ぷるぷる。
揺れた。
振動?ナニソレ。そんなコトできませんよ。当たり前でしょう。
揺れるのは大きいおっぱいだけでいいよ!
いえ、スライムだって揺れたいの。ぷるぷるしてこそスライムなの。
ぷるぷるしながら、たぶん口があるだろう部分に力を込めてみた。
外が見えるから、きっとボクにはキュートでつぶらなひとみがついてると思うの。
だから、その目のやや下に鼻とか口とかあるはず!と思って。
まあ呼吸してるかどうかも定かじゃないんだけどね。
「ピキー!」
甲高い音が出た。声って言うよりか笛っぽい。
頑張ったけど、「ピキー」以外の音は出なかった。
まあいいか、何も出ないよりマシだよね。
モールス信号でも覚えておけばよかった?いやいや、この世界で通じるとは限らないから。
「ピッ、ピキーッ、ピキッ」
なんとなく口笛でメロディを奏でてる雰囲気で、ボクは進んだ。
もちろん作曲とかしたことないから、他の人が聞いたらピーピーうるさいだけだと思う。
周囲に誰もいないからできることだよ。
聞かれたら恥ずかしいし、見つかるし、埋められちゃうよ?
しかし、音楽は心のオアシスだね。殺伐とした戦場に天使が舞い降りた!
だいたいこの世界は娯楽が少なすぎるよ。唯一の楽しみが道作り。
しかしその道は地獄への一本道にしかならないというね、なんなのこの世界。
いやいや、楽しもうよ。せっかく口笛?で歌えるようになったんだ。
音は外れてるけど、好きだった歌を吹き鳴らそう。
明るくなったらもう吹けないし、うかつに進めなくなる。
月に照らされて、ボクの体は光ってきれい。
まさにボクは青く光る地上の月だね。はい自画自賛。たまにはいいでしょ?
ダメなの?もぉー。イケズぅー。