道を作るのが楽しいと思っていた時期もありました。
<道を作るのが楽しいと思っていた時期もありました。>
ボクはただのいいメタルスライムだと思っていたのに、まさか美少女を傷つけてしまうような存在とは知らなかった。
美少女は宝だよ。傷つけたりしちゃダメなんだよ。
なんかすっごい落ち込んだ。
もう山奥にこもって仙人みたいに暮らすしかない。
どっちが山奥かわからないけど、ズリズリと少しずつ、美少女が去った方向と反対へ進んだ。
せつない。
ちょっとずつ進む。
小石サイズとはいえ、ただ進むだけで植物にぶつかって吸収されていって、ほんの少しずつ大きくなっていく。
ボクが進む分だけ、ボクの後ろに道ができた。
なんかちょっと楽しくなってきた。
ボクの前に道はない、ボクの後に道ができる!
そんな名言もあったよね。なんか前向きでいいね。
落ち込んだ気持ちもすっかり晴れて、ただひたすら進んだ。
暗くなるまで進みつづけて、たぶん六メートルちょいぐらい進んだ。
うん、遅すぎるね!
また明日も頑張ろう。ボクは寝た。オヤスミ!
翌朝。
またボクは進んだ。道の続きを作るのだ。
なんか目的が変わっている気がするけど、気にしない。
昔、小さい頃に、木の棒で地面に線路を書いていた時のような楽しさだ。
やっぱり生後3日だし、ボクは子供で、遊べば楽しいんだろう。
もっと早く進めれば言うことないんだけど。
前世の記憶はわりと断片的になってきた。
思い出してもロクなことじゃないから、覚えてる必要がなかったのかも。
現代知識が役立つ日は来るのかな。
メタルスライムの記憶力ってどんなもんだろ?
もともとバカだったし、よくわからない。
太陽が真上に来る頃まで進み続け、ボクはさらに三メートルほど進んだ。
どんだけ遅いの?
ボクの体は少し大きくなったけど、依然として小石サイズだ。
よく磨かれた金属の輝き。以前より少し青っぽい銀色になってる。
ボク、大きくなったらヘアライン加工の体になるんだ。
あまりピカピカしてるのは趣味じゃないし。
自分の体を確認していると、昨日の美少女が男の子を連れてやってきた。
なんだろう?
「お兄ちゃん、これだよー!」
「ホントだ、なんかピカピカしてるな。」
美少女はボクを指さしている。
お兄ちゃんは目をきらきらさせて、ボクを見ている。
さすがに美少女の兄だけあって、かっこいい。そして美少女の妹がいるんだね。
ちょっと妬ましいとか思ってないよ。どうせボクはスライムだし。思ってないから!
「見るだけだよ、お兄ちゃん!私が見つけたんだから、私の!」
ふっ、ボクのことを諦めてなかったんだね。でもごめん。キミとは一緒にいられないんだ。
ボクはそっと逃げようとしたけど、お兄ちゃんとやらが素速くボクを掴んだ。
ボクの体の中にお兄ちゃんの指がぶにゅりと入り込む。
そして、ボクは地面に落下した。
お兄ちゃんの右手は無くなってました。すみません。
そんなつもりじゃなかったんです。ほんとすみません。
泣きながら帰る兄妹たちの背中に向かって、ひたすら謝り続けた。
どうしたらよかったのかな。
誰かボクのせいじゃないよって言ってください。
つらい。