美少女とはフラグが立つものだと思っていた時期もありました。
<美少女とはフラグが立つものだと思っていた時期もありました。>
翌朝。
寝ていたボクが目を覚ますと、大きいアリが並んでいた。
そしてボクを踏んづけて越えようとして、ボクの体に沈んで消えていく。
唖然としているボクの体を、列をなす大きなアリたちが次々と足をかけ、沈み込み、消えた。
ボクの体はアリのぶんだけ大きくなっていく。
周囲には何匹か、体が半分欠けたようになってるアリが転がっていた。
寝ぼけた頭で、アリを吸収している自分に気づき、ハッと状況を把握した。
アリの通り道になる場所で寝てしまったんだろう。
アリは食べ物のある所までフェロモンを出して道しるべを残す。
そのフェロモンをたどって歩くのだけど、ボクはその道の途中に寝てしまったんだろう。
ボクの体をアリが踏んづけて、最初は片足だけとかで済んでたんだろう。
少しずつボクが大きくなって、アリの体半分とかになって、さらにボクが大きくなって。
ボクはメタルスライムだから硬いんだと思ってたけど、どうもゲル状みたいな感じみたいだ。
それで、アリはボクに突っ込んで吸収されていってる。
……虫を吸収とか、きもちわるい!
できるだけ急いで、でものろのろと移動してアリの列から離れた。
アリはボクを無視して、フェロモンの道を辿って歩いていった。
吐くための器官なんてついてないけど、気分は吐きそうだった。最悪!
ボクの大きさは、小石ほどになっていた。何匹吸収したの?
はあー、さいあくさいあくさいあくさいあく……。
楽に大きくなれたのはいいんだけど、気分は最低最悪だよ。
ボクは沈んだ気持ちで立ち尽くした。
いや、足がないから座ってるのと変わらないけど。
小石ほどの大きさになっても、まだまだ世界は巨大だ。
どのくらいの大きさが丁度いいんだろう。
進むのもめちゃくちゃノロい。どうやったら素早くなれるの?
修行が必要なのかもしれない。
こういうのはだいたい修行だ。修行とか練習でなんとかなる。
なるべく最速を意識して、昨日と同じく雑草に向かって這いずりまわった。
足みたいなの出せないかな?と思ってみたけど、形は変わらなかった。
流れるように?転がるように?と思ったけど、這いずることしかできなかった。
太陽が真上に来る頃には、飽きた。
体は小石サイズからさほど変わってない。
動くのが遅いからだ。飽きた。
また気が向いたら頑張ろう。気が向いたらね。飽きたし。
あー暇だなー。
ここから移動するのにどれだけかかるだろう。
数ヶ月はかかりそうな気がする。だって超遅いんだよ?
そんなボクの前に、美少女が現れた。
きた!美少女!
サラッサラのきれいな栗色の髪の毛で、二重まぶたで目が大きくて、マツゲとか長くて、唇がさくらんぼのようで、まぁ、なんて表現したらいいのかわかんないけど、とにかくかわいい。
誰が見ても美少女と言うんじゃないかと思う。
……年はたぶん小学生ぐらい。
うーん、ロリ属性はないけど、美少女ならいい。
キミが大きくなるまでには触手とか出せるように頑張るよ。本気で頑張る。
どうしたらいい?
わるいスライムじゃないよって言いたいけど、声が出せない。
地面に文章を書くにも遅すぎる。というか書けない。
この世界の文字を知らないのもあるけど、指もないし手足もない。無理だ。
「あ、ぴかぴかの石!」
美少女のほうが気付いて近づいてきてくれた。
これじっとしてたら、美少女のほうが勝手に持ち帰ってくれるかも。
ラッキー!
美少女が手を伸ばし、指先が触れると。
「痛っ!」
美少女のひとさし指の先っぽが、三分の一ほど無くなった。
……え?
ボク、わるいスライムじゃ、ないよ……。
心のなかでつぶやいたけど、泣きながら指を抑えて帰る美少女には届かなかった。
ボクの体はまた少し大きくなった。
でも、気分は最悪だよ……。
これから、どうしたらいいの?