棒人間と夜のお仕事
<棒人間と夜のお仕事>
かなり強制的にリリカの家に住まわせてもらう事になったような気がするんだけど、リリカの保護者の方にご挨拶をしないといけない。人間として。
ちゃんと挨拶できる大人でありたい。人間として。
「お父さんはいなくて、お母さんは、夜にお仕事行くから、買い物から帰ってきたら、また出掛けちゃうんだ。」
「へえー。大変だねえ。」
聞きました奥さん!? 夜のお仕事だって!
リリカのお母さんは、きっと美人なんだろう。ボクにもお仕事してもらえないかな?
やはり人間として興味があるのは当然だよね。にんげんだもの。
色々と話をしてるうちに、リリカのお母さんが帰ってきた。
「リリカー、ただいまー。」
「あ、お母さん、おかえりー!ちょっと見てもらいたいものがあるの!」
リリカのお母さんは、やっぱり美人だった。リリカと面影が似てる。
なんとなくキャリアウーマンっぽい、クールな美人な感じだった。
「これ見て!ボーニンゲンのゲンさんっていうの!かわいいでしょ!」
「あー、かわいいねえ。コレどーしたの?」
コレ呼ばわりされても、ボクはメゲないぞ (震え声
お母さん!かわいいが棒読みだよ!
「拾ったんだよー。もう家族なんだぁ。」
「えええ、拾ったの?元の持ち主がいるんじゃないの?」
「あ、あのー。ボクは棒人間だけど人間で、今日生まれたばかりで。」
たまらずボクが声をかけると、リリカのお母さんがボクを見て目を点にしていた。
クール系美人が台無しだけど、やっぱり美人は美人だ。
美人に見つめられながら話すのは緊張する。
「えっと、生まれたてなんで何もわからないんですが、たまたま娘さんに出会いまして、あの、ここに連れてきてもらったんです。すみません。生まれてきてごめんなさい。無理なら出ていきます。」
「ダメ!もう家族だからね!」
「え、喋るの?動くの?どうなってるの?リリカ、散歩とかちゃんとできるの?お母さんやらないわよ?」
なんかカオスになった。
「ええと、他の人の持ち物じゃなければ家にいて構わないから。」
「ありがとー!お母さん!大好き!」
「あの、ありがとうございます。」
とりあえず、リリカが泣いたので、ボクはここに住めることになった。
たぶんあの涙は嘘だ。そしてお母さんも嘘と見抜きながら、わりとどうでもよくて面倒臭いから許可した。
ボクはそれを生暖かく見てた。どんな茶番だ。
「あ、お母さんはもう仕事に行く時間だわ。ゲンさんは主に何を食べるの?」
「ええと、今日のところはお構いなく?」
「リリカ、生き物はオモチャじゃないんだから、ちゃんと責任もって世話しなきゃダメよ。」
「はーい。」
果たしてボクは何かを食べられるんだろうか。
ボクの顔には目とか口とか何もない。のっぺらぼうだ。もちろん、耳もないし髪の毛もない。
でも、人間なんだからね!ちょっと棒が余計についてるだけなんだから!
「じゃあ、私はそこの通りの診療所で夜間救急医してるから、何かあったら来てね。」
「お母さん、いってらっしゃーい!」
「いってらっしゃーせー!」
あー、夜のお仕事って、そういうこと。
どおりですごく賢くて真面目そうなお母さんだと思った。
それにちっとも貧しそうじゃないんだよね。ファンシーグッズだらけになるぐらいだし。
お母さんが仕事に出かけた直後、リリカは少し寂しそうだった。
やっぱりちょっとさびしいんだ。ファンシーグッズだらけになるぐらいに。
趣味を疑っちゃうような微妙なファンシーグッズだけどね。心の隙間に埋まるんだね。
ボクもその心の隙間を埋める係なんだろうか。
リリカが夕飯を食べている横で、ボクは何かを食べられるのか実験してみることにした。
結果だけ言うと、水だけ飲めた。
口とか無いのにどうなってるんだろう。口ないのに喋れてるし。
そもそも棒人間が生きてるってのがおかしいから今さらですよねー。
リリカは一緒に夕飯を食べたかったらしく、ちょっと不満そうだった。
孤食、ぼっちメシの辛さはよくわかるけどさ、無理なんだもん。
水は飲めるけど、他の液体はなぜか飲めない。入れられない。
棒人間って不思議な構造だよねー。
その後、風呂に入りたいって言ったら、リリカが桶にお湯はって机に置いてくれた。
すっごい久々のお風呂だけど、嬉しいんだけど、なんとなく、目玉の親父になった気分を味わった。
やめて!ボクの入浴シーンをじろじろ見ないで!
頭部に手ぬぐいを乗せてニヤニヤしないで!
美少女のヒモは疲れるぜ。
違うの!ペットじゃないの!ヒモなんだから!




