棒人間と美少女のペット
<棒人間と美少女のペット>
ある日、ボクは死んだ。
死ぬ間際に、今度こそは最強チートの人間で転生したいって願った。
そして、ボクはいま、ここにいる。
ボクは最初はチビで弱い人間だった。その次はメタルスライム、災害、星、勇者、王様、光の戦士、終末の預言者などに転生した。
すいません。後半はただの妄想です。暇だったんです。
ボクの前世は最悪で、極小メタルスライムだと思っていたら、最終的には一つの星だった。意味がわからないと思うけど、ボクにもよくわからない。
百五十八億年ぐらいで太陽に飲まれて消えた、金属が黄金色に輝くゲル状の星。
太陽こわい。超弩級の質量とエネルギーを持つボクがあっという間に蒸発した。こわすぎる。
でも、少しホッとした。いつまで生き続けるのかと思ってたからね!
さて。今回も残念ながら屋外スタートみたい。
貴族のお屋敷のベッドからスタートが良かったけど、そんな何もかもが思い通りなんてもう思ってないよ!
それにさ、ほら!青い空。白い雲。自然がいっぱいで素晴らしい!
しかしなんで屋外なの?ボクは捨て子なの?
……もしかして、ボクはまた人間になれなかったの?
ボクは自分の体をそっと見てみた。棒だった。棒人間だった。
マルが一つに、棒が五本で形成された、二頭身の棒人間だった。
人間……?
うーん、ギリギリ人間?
アウトくせぇーッ!
なんで棒人間なんだよ!どーして普通に動物界・脊椎動物門・哺乳綱・霊長目・ヒト上科・ヒト科・ヒト属ヒトにしてくれないのおおお!
そこら辺にありふれてるホモサピエンス型にしてよおおおおおおお!
珍生物にしなくていいからあああああああああ!!
ハアハア。
まぁ、前の時よりはマシかな? 一応ヒトの形をしてるような気がする。
そっと歩いてみた。ちゃんと歩ける。感動した。
普通に歩いてる人にはわからないと思うけど、歩けるのって実は幸せなことなんだよ?
ボクはそんな、当たり前の幸せをいっぱい見つけて、今度は幸せに暮らすんだ。
そうだ、もしかしたらこの世界は棒人間が普通なのかもしれない。
もう八頭身で小顔のイケメンを妬まなくてもいいのかもしれない。
ささやかな希望をもって、ボクは今生をスタートさせようとした。
そんな時、急にボクの体は宙に浮かんだ。
視界がふらふらと揺れる。何事?
もしかして、ボクは空を飛べるの?フライアウェーイ!
「うわー、かっわいい!」
声がして振り向くと、ボクは美少女に首根っこ掴まれてた。
すっごいイイ笑顔の美少女。たぶん中学生ぐらい?
女子の年齢は見た目だけじゃよくわからない。女の年齢は聞いちゃダメっていうし、難しくない?
そんなことより、ボクのささやかな希望は潰えた。
やはり棒人間が普通なんてことはなかった。ありえなかった。
どう見ても世界のスタンダードはホモサピエンスなんだろう。
まあ、ネアンデルターレンシスとかフローレシエンシスでも困るからね。
新しい美少女との出会いがボクの希望だよね。ラッキー☆だよね。
……そう自分に言い聞かせるしかないよね。切ない。
しかしなんだろう。首根っこ掴まれているのがすごく不快。なんか腹の底が重たくなる感じ。
もしかして、棒人間の弱点なんだろうか?首がもげたりするのかな?
ボクはジタバタと暴れてみた。
「おーろーしーてーー!」
マジヤバい!喋れる!嬉しすぎる!
普通に喋れる人にはわからないと思うけど、喋れるのって実は幸せなことなんだよ?
棒人間もそんなに悪くないかも!いいかも!
「あーひゃーひゃー、ひゃっほーい!」
喋れるのが嬉しくて適当に声を出して騒いでいると、すぐ近くに美少女の顔がきた。
近くで見ると、肌はすべすべで二重まぶたで目はきらきらしてた。かわいい。
「喋れるの?動けるの?あなたはいったいだあれ?」
「ボクは、ええっと、棒人間?」
「ボーニンゲンっていうの?あたしはリリカ。よろしくねっ。」
「よ、よろしく?」
美少女の顔が近い。いいにおいがする。
美少女の吐いた息を吸うのはいいんだけど、なんだかすごく離してほしい。
「ここで何してるの?」
「気がついたらここにいたっていうか、えーと、降ろして!離して!」
「あ、ごめんね。」
ボクは地面にそっと降ろされた。
リリカはボクに合わせてしゃがんでくれた。やっぱり近い。
「ありがと、リリカ。ボクのことは棒人間のゲンさんと呼んでくれてもいいよ。」
「ゲンさんかぁ。こういうキャラ初めて見た。かわいいー。どうやって動いてるんだろう?」
どうも、ボクはオモチャだと思われているみたいだ。
オトナのオモチャにならなってあげてもいいけど、お子様にはまだ早いよ?
「ボクこれでも生きてる人間だよ。」
「へぇーそうなんだ。ところで、家はどこなの?」
全然聞いてないというか、信じてもらえなかった。
喋れるのに通じないのは、喋れないより寂しいかも。
「家は、えーと、ボクさっき生まれたばかりで、よくわかんない。」
「そうなんだ!じゃあ、あたしが飼っ……ううん、一緒に暮らそう?」
リリカ……おそろしい子!さりげなくボクをペットにしようとしてる!
美少女のペットとか別に嫌じゃないけど、モンスターとして美少女にテイムされることを夢見た時もあったけど、ボクはいちおう人間なんだ。人間でありたいんだ。
「あのね、ボクは人間だし男だからね?」
「じゃあ家はこっちだから。来て!」
びっくりするほどまったく言葉が通じなかった。
ボクは本当に喋れているのだろうか。よくわからない。
リリカはボクと手を繋ごうとするけど、ボクは逃げてた。
女の子と手を繋いだことなんてないし、ちょっと恥ずかしい。
ボクがいたのはちょっと広い公園みたいな場所だった。
街に入って、商店街を抜けて、リリカの家に辿り着いた。
「お母さん今いないから!」
「う、うん。」
すごい積極的。大丈夫なの?いまどきの子はこんなものなの?
でもね、ボクはお子様には興味ないんだ。あと数年経ったらまたお願いします!
すぐにリリカの部屋に連れ込まれた。
そこには、ちょっと微妙なかわいさのファンシーグッズが溢れていた。
「す、すごくいっぱい集めてるね。」
「うん!ゲンさんとも出会えてよかったよ!」
あ、ボクはこの微妙なファンシーグッズの一部なんだ。
いやいや、ボクは人間、ボクは人間。棒だけど人間。男だから棒の五本ぐらいあってもいいの。
リリカはさりげなくボクを撫でようとしてくる。
ボクはつい避けてしまうので、不満そうだった。
「……まだ警戒されてる、ゆっくり慣さないと。」
ボクは野生動物じゃない!
脊髄反射で避けちゃうだけで、美少女に撫でられるのは嫌いじゃないよ?たぶん。




