第十七話 開かれる暗黒の門!魔法の力よ世界を救え!
(話を忘れてしまった人に)前回までのあらすじ
小林とその仲間たちは反乱軍と結託した山賊に捕らえられてしまった。一方、小林達と別行動をとっていた南米人三人と黒人一人はエルフタウンの村長に娘ドナの救出を依頼される。しかしドナは暗黒世界の誕生を目論むダークネス教団のスパイで、陰謀によって小林達を魔王ルシファー降臨の為の生贄にしようとしていた。そう、山賊達の正体はダークネス教団だったのだ。ダークネス教団の生贄の儀式によって小林の仲間たちは次々と磔にされた状態で銃殺刑に処せられて行く。残りが小林一人になった時、小林の比類なき生存の渇望が魔法のステッキを通じて地獄の扉を開いてしまったのだった。
今、とある山中に突如として扉が出現した。地獄と繋がった鉄製の重々しい城門の様に巨大な扉である。先程この扉が少しだけ開いたかと思うと干からびた腕が数本飛び出し、ドナを八つ裂きにしながら地獄に引きずり混んでしまったのだ。その後扉は沈黙したままだった。
扉のすぐ横、血塗られた崖の上で小林は魔法のステッキを右手に握っていた。そのステッキはステッキというにはあまりにもおぞましかった。それは骨だった。骨からとめどなく溢れ出すのは赤色の気体と黒色の汚泥である。
「本能でわかるわ。これを私の心臓に突き刺せば良いのね。」
そう呟くと小林は自らの心臓に骨を突き立てた。するとどうであろうか、骨は一人でに動きだし、小林の体内へと沈んでいくではないか。
「ぐあはははは。これで私は肉体という魂の檻を超越して神と言う名の究極の存在へと進化するのよ。」
「奴を射殺しろ!」
ドランコ軍曹が命令するよりも早く、兵士達は恐怖のあまり発砲していた。
「うぎゃあああ」
小林は蜂の巣になって死んだ。
「やったか!?」
「いや無駄だな。あの娘は地獄の扉を開いた。つまり新たな魔法少女が誕生するという事だ。」
そう答えたのはエルフタウンの村長だった。何時の間にやらドランコ軍曹の隣りに老人が一人佇んでいたのである。
「貴様は村長!!なぜこんな所にいるのだ。」
ドランコ軍曹は村長に銃を向けた。
「見届けるためじゃよ。見るが良い。貴様らの望んだこの世の終わりを。選ばれし者は死んだ程度では不滅なのだ。」
その時であった。肉塊となった筈の小林が光を放ち始めたのだ。その光はまるで暗雲から日光が射し込んだかのような美しい輝きだった。その光はやがて人の形に変形しだした。
『私は神となった。』
小林の第一声はそれであった。
「馬鹿な…ルシファー降臨はどうなったのだ!!ルシファーによる暗黒世界はどうなったのだ!!」
『神となった今なら全て理解できる。これが魔法少女の力。選ばれし者、つまり私のみが地獄の力を得る事によって神と等しい存在へと羽化したのだ。つまり貴様ら凡夫は選ばれなかったのだ。よってこれより世界を滅ぼす。』
「黙れ!!我ら暗黒教団は偉大なるルシファー様の民だぞ!!」
ドランコ軍曹は光となった小林に銃を向けた。しかし、次の瞬間、気づいたら部下を射殺していた。これが神の力だというのか。
「諦めなされ。殺人は業じゃ。」
村長は優しげにドランコに言った。
「黙れじじい。殺すぞ。」
しかし村長は聖母のような笑顔だった。
「愚かなるドランコ軍曹よ。貴様が今見ているこの老人もまた神に匹敵する存在である事にまだ気づかぬか。」
「なにっ!?まさか、貴方様は…!!」
その時だった。村長の肉体が輝きだしたのである。その光はまるで裏切りの堕天使が羽をもがれた末に地獄へと墜落した時に最後の力を振り絞って輝いたかのような美しい輝きだった。その光はやがて仏の姿に変形しだした。
『私は如来だ。』
『えっ!?』
驚いたのは小林である。仏とは詰まるところ世の中を救済する存在。つまりこれから世界が救済されるのだ。神となった小林といえども世界が救済されてしまえば世界を破壊する事など不可能だった。
『ちょっと待って。世界救ったら私何もできひんやん。』
『小林よ。その時は貴方も救われるのです。何も心配はありません。』
『ああ、そうか。ならいいや。』
御仏の前では全ての煩悩は無意味であった。細かい事はノーサンキューである。
こうして世界は仏の光に包まれて救済された----かのように見えた。
しかし、実は人類はすべからく古代ドラゴン民族の末裔だったのだ。救済の光に包まれた人間は悩みとか憎しみから開放されるが、その効果が逆に遺伝子に眠るドラゴンの本能を呼び覚まし、人類はドラゴンとなった。
はたしてドラゴンとなった世界に希望はあるのか。