魔法はキケン?現れた敵と不思議な絵本!
魔法少女キリングフィールド小林
私、小林!夢見る16才。
平凡な暮らしをしていた私はある日、突然ファンシーランドからやって来た妖精さんに出会っちゃったの‼妖精さんはファンシーランドを救って欲しいらしくて…
波打つ太平洋の只中に一隻のクルーザーがあった。クルーザーの中には五人の男女がいた。黒人に少女、そして南米人である。
「さあ早く目覚めるポン。」
妖精に連れられた小林は、気がつけば海にいた。どうやってここに来たのか思い出せない。不思議である。
夢のような体験に少女の心は浮き足立っていた。
「ここはどこなの?ファンシーランド?」
「違うポン。今からファンシーランドに行くんだポン。船で。」
「船で!?」
少女の落胆の叫びに誰も動じない。南米人三人に至っては、疲れているのか体育座りの格好で俯いている。
「ワープルートは危険すぎるポン。船で行くのが一番現実的だポン。」
「あり得ないわ。クルーザーで太平洋を横断するの?遭難しないの?」
「残念ながら君は間違ってはいないポン。」
黒人の言葉に、はたと周囲を見る。見渡す限り青い海が広がり、島どころか生物の姿も見えない。南米人三人に至っては一切動かず、まるで死んでいるかの様だ。
「我々は既に遭難しているんだポン。五日間…いや六日間だったかな?
食糧が尽き、まず南米人たちが…」
「うああぁ~~!!」
「…ポン。起きるポン。そろそろここを発つポン。」
「うあぁ、太平洋の日差しがぁ」
前回の喫茶店での出来事の後、黒人に拉致された小林は気がつけば山中の古小屋にいた。道中目隠しをされていたので、どうやってここに来たのか思い出せない。不思議である。
「ぁおぉう。なんだよ夢か。」
そう、先の船での光景は全て夢だったのだ。夢で良かった。あんな酷い事が現実にある筈がないのだ。小林は思った。
三人の南米人を見てみると死んだような体育座りでは無く、胡座をかいている。そして何やら注射器を自らの腕に刺して恍惚の表情を浮かべているのだ。その姿からはいろんな意味で生き生きとしたものを感じて取れたが、きっとインシュリンか何かを注射してるのだろう。最近は糖尿病患者も多いと聞くし、たぶん日常的な生活風景である。
「ところで、何ここファンシーランド?」
「違うポン。吉野だポン。」
「吉野!?」
ここは吉野の山中なのであった。これには合理的な理由があるらしく、この先にあるワープ施設からファンシーランドに飛んで行くのだそうだ。
「何だかようやくファンシーに近づいて来たわね。」
「さあ早く観寧寺に向かうポン。」
早朝に小屋を発ち、昼ごろには観寧寺にたどり着いた。観寧寺は割合に大きな寺で、宗派は解らないが荘厳な雰囲気をたたえる山寺であるらしい。
「何か全然ファンシーじゃないけど、どうしても寺じゃなきゃダメなの?」
「この寺に仲間達が匿われているんだポン。」
向こうから5人の黒人が全裸で走って来た。
「おお、無事だったようだな兄弟!!」
「お前たちも息災のようだポンな、兄弟達‼」
「うあぁ、妖精さんがいっぱいだねぇ。」
小林がやや引き気味に言うと黒人達は一斉に小林を見た。
「おお、この者が例の。」
「魔法少女になり得る可能性を持つという少女なのか。」
「我々の希望というわけだ。」
「小林です。よろしくお願いします。」
黒人達と会釈を交わすと奥の広間に通された。随分と大きな広間である。一同輪になってその場に座り込んだ。
場の空気がやたらと重々しくなる中、話を切り出したのは黒人達の中でも特に凛々しい顔つきの男だった。しかし、彼の目からはなぜか涙が流れていた。
「まずはファンシーランドの女王様が大ピンチなんだ。」
「女王様!?」
小林はワクワクした。ファンシーに女王は付き物であると常々考えていたからだ。
「我々を庇い、女王様がダークネス軍に囚われてしまったのだよ。だから救い出したい。」
「ええ!!勿論やるわ。私は実は子供の頃から魔法少女に憧れていたのよ。」
実は小林はファンシーとかメルヘンとかそういう世界が大好きなのだ。普段は隠しているが、山の深秘に当てられ、本心が現れたのである。
「ほう、自ら志願するか。中々の勇者だ。」
「勇者じゃなくて魔法少女になりたいのよ。」
すると黒人の一人がゴルフバックを差し出した。
「うむ、ジョークも一流だな。
魔法のアイテムはこの中に入っている。だが今はまだ開けてはいけない。」
「どうして??電池が無いと動かないから?」
小林は面白半分で言った。
「君たちの世界では核ミサイルのスイッチを無闇に触ったりしないだろう?」
「えっ?」
「えっ?」
しばらくの沈黙の後、突然部屋の外でカランカランと木札のぶつかり合う音が鳴り響いた。時代劇とかでよくある鳴子である。
「侵入者だぁ。」
大広間の入口から黒服のおっさん達が10名入ってきた。
「ダークネス軍!!」
ダークネス軍は自動小銃を構えた。
「いきなりだが俺たちはお前たちを尾行していたのだよ。そして字数の都合で貴様ら王国軍には死んでもらうぜぇ。」
黒服の一人が自動小銃をぶっ放そうとしたその時である。黒服達が背後から一斉射撃されたのだ。
黒服達を撃ったのは南米人達三人だった。
「馬鹿め、貴様らは尾行したつもりでおびき出されていただけだったのだよ。」
「流石鈴太郎くん、クールね。」
黒服10人は呆気なく死体となった。
南米人が黒服の死体を漁ると絵本が出てきた。
「やはり持っていたか。こちらの方が経験上ワープゲートや船よりも遥かに安全にファンシーランドに行けるはずだ。
ではこれよりファンシーランドへ向かう。」