嘘吐きピエロ
おはようございます。
地震は大丈夫でしたか?
僕は、何とか生きています。
今回の短編は、短い恋を題材にしました。拙い文章ですが、どうぞ最後までお付き合い下さい。
「大丈夫、大丈夫」
彼は、そう言って私に笑いかける。
否、常に笑い続けている。笑顔の仮面の下にある本当の顔は分からなかった。
だから、本当に大丈夫なのかは分からない。
でも、私は少し心が軽くなった気がした。彼の言葉には優しさが篭っている。人を安心させてくれるような、皆が笑顔になれるような。
だからこそ、私は心が痛む。そんな彼が滑稽に見えてしまう。泣いてもいいんだよ? 喚いてもいいんだよ? 悲しくなったら、そうやって堪えなくてもいいんだよ?
思えば、彼は初めて出会った時から笑っていた――。
...大丈夫...
「どうしたの?」
私が木陰で泣いていると、不意に後ろから声がかかる。一瞬、あの男かと思った私はビクッと震えて、後ろを振り返った。
しかし、そこにいたのはあの男では無く笑顔のピエロだった。
私は、驚いて涙を流すのを止める。すると、ピエロは私が泣いていた事が分かったのか何処から取り出したのか赤い大きなボールを転がしてくる。
そして、それに颯爽と飛び乗ると片足でバランスを取って――――派手に転んだ。
「あっ……」
思わず、声が出てしまう。しかし、ピエロはまるで何事も無かったかのように起き上がるとまた私に声をかけてくる。
「大丈夫?」
優しくて、心地の良い声。
「くすっ……。貴方こそ大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
私とピエロは向き直ると、大声で笑いあった――。
...大丈夫...
私が、彼と親しくなるのにそう時間はかからなかった。彼は、小さなサーカスのピエロをやっていると言っていた。そして、私はそのサーカスのチケットを渡された。
勿論、私はすぐにその会場へと向かった。チケットを受付の人に渡し、会場へと入る。自分で小さな サーカスと言っていたが、それは嘘だった。会場はかなり広く、煌びやかな装飾を施されている場内にはたくさんの観客が入っていた。
私は、一番前の席に座る。彼が一番見える席に。
いよいよ、場内の光が暗くなっていき、ステージがライトアップされていく。開始の合図がなると、 サーカスの団員達が拍手に包まれて一斉に出てくる。私は三十人ばかりいるピエロ達の中から彼を見つけ出そうと、思わず身を乗り出す。
――いた。
彼は、一番左の端に立っていた。相変わらず、笑顔の仮面を付けている。
そして、ピエロ達が散らばっていき、いよいよ演技が始まっていく。
司会のピエロのアナウンスに続いて、どんどんピエロ達が技を見せていく。空中ブランコや、火の輪くぐり。中には、思わずひやひやしてしまうようなものもあった。
そして、いよいよ最後の演技になるのか会場内のボルテージは最高潮に達した。
『では、いよいよ最後の演技です! 空中に配置されている一本の綱の上を命綱無しで一輪車で渡って行く、その名も《天空綱渡り》!!』
パッと綱の配置されている場所に立っているピエロがライトアップされる。
彼だった。笑顔の仮面で隠された彼。
彼は予備動作無しで一輪車に飛び乗り綱を渡って行く。
「きゃっ」
一瞬、綱が大きくバウンドして彼がバランスを崩す。でも、彼はそれに動じずに落ち着いてバランスを取り戻し、順調に進んでいく。
でも、そこまでだった。
ブチンという音と共に彼の身体が宙に舞う。私は、目を疑った。ゆっくりと彼が地面に落ちていく。彼は取れてしまった仮面に手を伸ばしていく。でも、それは空気を掴むだけで。
嫌な音が会場に鳴り響いた。
「いやあああああああ!?」
誰が言い出したのか、そんな絶叫に会場が木霊するように、あちこちで悲鳴が上がってくる。
私はステージに飛び出した。彼は、蹲ったままだ。
「大丈夫、大丈夫」
私が彼にかけよると、彼は笑顔でそう呟いた。
思わず、涙が溢れ出る。
彼は、何で私が無くのか分からないという風に困った顔を見せる。
「何で……そんな事いうの? そんなに血だらけなのに。そんなに痛そうなのに……。もう、嘘を吐かなくてもいいんだよ? 泣いていいんだよ? 喚いていいんだよ? 恥ずかしい事じゃないんだよ――」
最後まで言えなかった。嗚咽が込み上げて来て。私の頬に涙が伝っていく。
「う……ぁ……。うわあああああぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
彼は、一瞬笑った。でも、すぐにくしゃくしゃにして大声で泣き出した。初めて見た彼の素顔。誰よりも輝いていて、誰よりも優しかった。
私は子供の様に泣きじゃくる彼に抱きついて、そっと囁いた。
「大丈夫、大丈夫。私も一緒に泣いてあげる――」
...大丈夫...
あれから一年経った。私は、彼と始めて出会ったあの木陰に立っている。
木陰には一つの一輪車が花を添えて置いてあった。
|〝Man by love. It sleeps here...〟《愛する彼。ここに眠る》
どうでしたでしょうか?
実は、この作品はとある曲に影響を受けて書いてみたものです。知っている方がもしいましたら、それを聞きながら読んでみたりするといいかもしれません。
文章下手ですけどね...