調査開始
ラオス視点
短編調査を行う世界の再編です。
ピーヒョロロー
木漏れ日の隙間から澄んだ高い声が響く。
ラオスは、パチリと目を開ける。
「村の方向は、あっちか」
ポケットから取り出した乾パンを、湯で流し込む。
昨日作った湯はもう冷めていた。
それが終わると身体をほぐすのを兼ねて、昨夜の痕跡を足で消す。
視線の先には、薄く煙が立ち上っていた。
そこから先の森を抜けた、少し開けた場所に、その村はあった。
少し無理をさせた馬をねぎらいながら、ラオスは降り立つ。
ラオスの想定とは、真逆ののどかな風が頬を通り過ぎる。
「今のところ、問題はなさそうだが…ん?」
何やらよくわからない格好の塊達。
「なあなあ、これ、馬って言うんだろ?俺知ってる」
「うちにも居るよー」
「馬鹿、あれはロバっていうんだぞ」
とりあえず、その塊を壊してはいけないことだけは理解出来たので、やや興奮気味の馬をなだめる。
「私は、王国騎士団長の、ラオス=シェルガードともうす。村長殿に取り次ぎを願いたい」
ざわつく塊。
「こ、こうか?」
「ほら、よく見て、こうよ」
王国式の騎士礼を真似し始める塊。
「違う、ここはこうして、あ、君は背筋を伸ばして」
バラバラなりにまとまりつつある塊達。
今だ!
ラオスは咳払いをして、皆の注目を集める。
「ところで、だ…?」
目の前には、整然と並んだ草の隊列のみ。
さわさわと、草が順にお辞儀を返している。
…錯覚か?いや、
「俺、みんなに自慢して来る!」
「いや、私の方がカッコいいから、私が行く!」
遠ざかるその声に被せて、
「おーい、お前ら。昼飯出来たぞ」
村人がこちらに近づくのが見えた。
先程と同様に、名乗りをあげようとするラオス。
「あー。すまん、1人追加できるかー」
目の前にいたはずの塊も消えた。
ラオスが、村に入るべきか戸惑っていると。
「おーい」
先ほど消えた塊と同じ声。
振り向くと、人懐っこい顔をした村人が手を上げている。
「鍋の時間に、間に合って良かったなあ」
ぽんぽんとラオスの肩を叩きながら、ホカホカと湯気を立てた器を差し出される。
「……」
断る理由を探す前に、手が伸びる。
湯気の揺れに吸い寄せられるように、一口。
「……」
味は、わかる。素朴な味だ。
美味い、という判断より先に、ゴクリと、喉が動く。
流れるように、村人は、ラオスを村の中央に連れて行った。
カチャカチャと食器が立てる音と、
「野菜ばっかり入れるなー」
という声。
ラオスの手には空になった器。
「村長殿は?もしくは責任者を」
ラオスの問いかけに、お代わりいる?と器にそそぐやや高齢の女性。
「おにいさん、しっかり食べなきゃねえ。ちゃんと鍛えているんだろう?」
今度は、別の高齢の女性が果物を差し出す。
「いや、私は任務で…」
ラオスが断ろうとすると、さらに別の男の人から。
「任務ですか、ありがとうございます。助かるよ」
パンを渡された。
異常か、否か。
これは報告書にあげるべき案件か。
無意識にパンを齧る。
「材料は、一般的な小麦と思われるが…」
無意識に、口の中にある物の分析を始めたところで。
突然、村の外に繋いだはずの馬の嘶きと、リアカーを引くゴロゴロという音に合わせて、ズシャーっという土を削る音。
「じいちゃん、だからちゃんと座ってないと危ないだろって」
「昼飯に間に合わんかったら、お前のせいじゃからな」
ワイワイと言いながら、ご老体と食べ物を奪い合う男。
…何してんだ、お前は
探していたはずのものに対して、何の感情かわからないツッコミだけだった。
調査が必要だ。
だが、何を…?




