やっぱり行かざるを得ない
ラオス視点
調査を行う世界より 再編
報告書は、報告書からみる世界を参照
温度差注意です。
複数の馬の嘶く声。ガチャガチャと鎧の軋む音。慌ただしく行き来する足音。
馬上にいるラオスは、目は忙しなく、口は短く的確に。
でも、時折胸元にある、手帳の重さに心を引きずられながら準備を進めていく。
「コーディ」
小さく呼ぶ弟の名は、誰の耳にも拾われることない。
「団長、準備できました」
部下の声に辺りを一通り目視で確認する。
「出立だ」
青く澄み切る空の元、ラオスの顔には、もうなんの感情も窺い知れなかった。
一行が石畳の道を過ぎ、やがて馬車もカラカラから、ゴトンゴトンという音に変わり始めた頃。
「団長、あの森の向こうが辺境の村になります。現地の調査官がこの辺で、あーいたいた」
視線の先には、汗で頭がべっとりとしており、一張羅だっただろう服をかろうじて前で止めているやや小太りの調査官だった。
「遠いところ、あ、ありがとうございます。あ、あの、書類に不備でも?」
緊張のためか顔は真っ青だ。
「書類は問題ない。ただ、村との報告に齟齬がないか確認させて貰いたい」
転がるようにして、駆けていく調査官。
部下達に一旦休憩を取るように命じるラオス。
転びかけながらも、持って来た調査の書類に書かれた一行の文字。
村の外からきた人間が住んでいる。
腕に力が入りかけ、目を瞑り呼吸を整える。
「何か、問題でもありましたでしょうか?」
ラオスの様子に不安そうに聞く調査官。
「いや、念のため、専門家の目で確認する必要がある、と判断しただけだ。ここからは、今の状況から見る限り、少人数の方が村の方にも負担が少なかろう。他のものはこの街に待機。俺だけがあの村へ行く」
再び馬上の人になるラオス。
ヒヒーン。
殆どのものが反応する間もなく、矢継ぎ早に指示を出すラオス。
調査官の妻がお茶の用意が、言う頃にはすでにラオスの姿は無かった。
そして、夜のとばりが降りる頃。
ラオスは、パチパチと弾ける火の前に座っていた。
やがて、シューシューと音を立ててお湯が沸く音がする。
その中に、懐から取り出した干し肉を浸す。
しばらくすると、おもむろに引き抜いた干し肉を齧る。
馬の上では、歯の立たなかったそれも、今ではしっかり口の中でほぐれていく。
「少し、寒い…か」
足元に置いた集めた枝を、一本火に投げ入れる。
一本、また、一本。首をかしげ、また…一本。
やがて、それすらも無くなり、ラオスは空を見上げる。
「明日は、晴れだな」
ラオスの視線の先には、迷いのない輪郭をもった月が見返していた。




